2024年10月2日水曜日

あの本、読みました?第2弾!名著に名酒あり

秋扇開店前の駐車場
汗だくだくで待つオープンや秋の服
秋彼岸ぽたぽた落ちる汗拭う
品揃え悪しきスーパー秋湿り
You-Tube栗の鬼皮剥けませぬ

■あの本、読みました?
第2弾!名著に名酒あり~加藤シゲアキ&森見登美彦&夏川草介
「なれのはて」加藤シゲアキ著 講談社
「スピノザの診察室」夏川草介著 水鈴社
「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著 角川文庫
作品に登場するお酒に注目して読めば違った面白さが見えてくる

・「スピノザの診察室」登場人物に隠されたお酒との深い関係とは?
夏川草介

指定された店は、軒先に鉄製のランタンを下げた
瀟洒(しょうしゃ)な洋酒店であった。
(中略)
「なるほど」と無難な相づちを打つ葛城の横で、
花垣は赤ワインの注がれたグラスを手に取った。
軽やかにテイスティングして、
ウェイターに向かってうなずいてみせる。
一連の流れるような動作を、
龍之介は緊張で身を固くしたままじっと見つめている。

雄町先生が飲まない理由は❓
お酒のシーンを描く理由

涼しげなカクテルが届いた。「淳ちゃんが飲んでいるズブロッカを、
リンゴジュースで割ったシャルロッカ」そう行ったカレンは、
グラスの横に小皿を一つ並べた。
皿の上には黒光りする直方体が二つ載っている。
「こっちはサービス、この前お客さんがお土産にくれた『夜の梅』」
「とらやじゃないですか」思わず哲郎は声を出していた。
とらやの羊羹は、哲郎が東京にいた頃からの大好物のひとつだ。
言わずと知れた和菓子の名店だが、もともと京都創業の老舗である。
「ウォッカと和菓子って結構マッチするんよ。
淳ちゃんがお友だちを連れてくるなんて珍しいから特別ね」
(中略)
「私は狂気の果てを見て、そこから逃げ出してきた人間です。
それなのに逃げ出した先では、あなたのような医師が、
淡々と死と向き合っている。狂気も死も、人間いう存在が
成立するぎりぎりの外縁に漂う宇宙ですよ。迂闊に近づけば、
戻って来れなくなる。いや、戻って来る意味さえ見失います。
勇気はいくらあっても足りません。」
アルコールの影響もあるだろう。いつになく滔々と語りながらも
秋鹿のビーム砲は、ますます精度を増していく。

医者の苦悩を表現するお酒
シャルロッカを登場させた理由
ポーランドのウォッカをリンゴジュースで割ったカクテル
登場人物の名前はお酒からつけた

・小林順 大曽根幸太 木村衣有子
大曽根幸太
「なれのはて」「夜は短し歩けよ乙女」
担当編集者が語るお酒とその狙いとは?

酒蔵に行く前に、見せたいところがあると京佑は言った。
山道を行くと、どことなく見覚えがあるような気がした。
(中略)
「ただいま」守谷がそう言うと、父はぶっきらぼうに
「手伝え」と手招きをした。父が収穫していた針葉樹には
ブルーベリーよりも小さい青黒い実がいくつもなっていて、
彼はそれをこそぐようにして籠に集めていた。
「これ、なに?」応えようとした父や京佑よりも早く夏米が
「知らないの?」と小馬鹿にする。「ジュニパーベリーだよ」
守谷は「へぇ。ということは、この樹がセイヨウネズか」
と声を漏らし、改めて樹を見る。
「もしかしてこれでジンを?」京佑が嬉しそうに頷く。

クラフトジンを登場させた意味

「ジンはなんでもありだ。せっかく器の広い酒なのに、
こっちで収まりよくしてどうする。全部この地の
ボタニカルで作ったジンを
まずは作って、まずかったらそこから考えればいい」
(中略)
「全部自分でやると、失敗しても誰かのせいにしないでしょう。
それがいいんだよ。
自分で責任をとるというのは、実はすごく楽なことなんだ。」

「謝ることはない」父はそう言って、
自分の猪口にとっくりから日本酒を注いだ。
「誰も知らないところで闘うのは簡単じゃない。
おまえは自ら苦労を貰いにいった」
溢れそうになる酒に父が口をつける。守谷も少し日本酒をもらう。
「親父もそうだろ。この酒蔵、ひとりで建て直したんだ」
そう言うと、父は笑った。
「まあな。だからわかる。自分から苦労したくなる性分も」

実家の日本酒に込められた意味

・小林順
「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著
電気ブラン
東京の神谷バーで明治15年に考案されたカクテル
様々なお酒が使われているが製法は秘伝となっている

「そもそも電気ブランというのは、大正時代に東京浅草の
老舗酒場で出していた歴史あるカクテルでね、
新京極のあたりにも飲ませる店はある」
「偽電気ブランというのは、電気ブランとは違うのですか」
「電気ブランの製法は門外不出だったが、
京都中央電話局の職員がその味を再現しようと企てた。」
試行錯誤の末、袋小路のどん詰まりで奇蹟のように
発明されたのが、偽電気ブランだ。偶然できたものだから、
味も香りも電気ブランとは全然違うんだよ」
「電気を使って作るのでしょうか」
「そうかもしれんね。電気ブランというぐらいだからねぇ」

森見登美彦が考案した「電気ブラン」

「有頂天家族」森見登美彦著 幻冬舎
京都を舞台に狸の家族が人間や天狗と繰り広げる
奇想天外な青春感動ファンタジー

一杯。一杯。一杯。
(中略)
偽電気ブランドをお腹に入れながら、私は無性に
楽しくてなりませんでした。美味しうございました。
幾らでも飲めるのです。そして、わたしはこの勝負が
永遠に終わらなければ良いのにと願ったのですが、
気づくと目の前の李白さんが動きを止めておられました。
テーブルの上に置かれたコップには、
皺だらけの手のひらがかぶさっていました。
「儂(わし)はもう飲むことができない」李白さんはそう仰いました。

偽電気ブランだから生まれたネ名シーン

Bar MoonWalk
森見登美彦が京都大学在学中に通っていた
「月面歩行」のモデルとなった京都にあるBar

甘くもなく辛くもありません。想像したような、
舌の上に稲妻が走るようなものでもありません。
それはただ芳醇な香りをもった無味の飲み物と言うべきものです。
口に含むたびに花が咲き、それは何ら余計な味を残さずに
お腹の中へ滑ってゆき、小さな温かみに変わります。
それがじつに可愛らしく、まるでお腹の中が花畑に
なっていくようなのです。
飲んでいるうちにお腹の底から幸せになってくるのです。

・木村衣有子
「BOOKSのんべえ お酒で味わう日本文学32選」
木村衣有子著 文藝春秋

「アンソーシャル ディスタンス」金原ひとみ著 新潮文庫
ストロングゼロ
私ちょっとコンビニ寄ってくから。二人にそう言い残して
先に社食を出ると、歩いて三分のコンビニに入り
ストロングのレモンを二本手に取りチョコやグミと共に買う。
コンビニを出ると人通りの少ない路地に入り、電柱に背を
凭(もた)せながらハンカチで覆ったチューハイを一気に飲みした。

「ストロングゼロ文学」とは?
ストロングゼロを使う意味

・青山美智子
お酒の小説を書いた意外なきっかけ

「ほろよい読書おかわり」~きのこルクテル~一文
青山美智子著 双葉文庫
そちらに目をやり、僕はハッとした。
シェーカーを振るいずるさんの姿が、
びっくりするほどなまめかしかったからだ。
細い指先から流れる腕のしなやかさ、半開きの瞳。
束ねた黒髪がつややかに揺れた。すべての所作に無駄がなく、
官能的で美しい。いずるさんは銀色のシェーカーから
三角のグラスに向かって、とろりと白い液体を流し込んだ。
「フローズン・ダイキリです。」
(中略)
「飲んでいけば」フローズン・ダイキリを指さしている。
僕は戸惑った。下戸なんです。とは言いづらい。
「…あ、いえ。ありがとうございます。
でも仕事中は飲むなと編集部から言われていまして」
「なんだ、酒癖でも悪いのか」「そんなところです。好きすぎて」

飲めない人のリアルな気持ちを描いた

「シャーリー・テンプルってどういう意味なんですか」
「幼くしてハリウッド・スターになった名子役の名前よ。
昔アメリカで禁酒法が撤廃されたときに、大人だけじゃなくて
子どもも親と一緒にカクテルを楽しめるようにって
名付けられたんだって」「…いい話だなぁ」
心が弱っていたからか、僕はじーんと胸を打たれて泣きそうに
なってしまった。その頃、カクテルと共に楽しいひとときを
過ごした家族がいるのだ。幼いハリウッド・スターの名前を
冠したこの赤い飲み物で、グラスに合わせて乾杯してであろう
子どもたちの笑顔を思い浮かべ、僕は本当に幸せな気持ちになった。
「いいな。カクテルに込められたストーリーが飲んだ人を
ハッピーにするんですよね。素敵な物語は、人を優しく
酔わせる力があって…。自分の話じゃないのに、
まるで自分のことみたいに」
ほろ酔いしたみたいないい気分で、僕はぼんやりとそう言った。

シャーリー・テンプル感動の由来

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