2024年12月31日火曜日

あの本、読みました?綿矢りさ&朝井リョウ「書き出し」

冬の浜分厚きウツボ天日干し
牟岐漁港ウツボずっしり冬の風
滲みでる老いの品格冬ぬくし
竈(かまど)猫鼠捕まえ得意顔
縁側で瘦せた老描日向ぼこ

■あの本、読みました?綿矢りさ&朝井リョウが語る「書き出し」がスゴイ小説
ゲスト 綿矢りさ 朝井リョウ
名著に名書き出しあり 作品の世界観 作家の思い
書き出しは物語でどんな役割を担っているのか❓

綿矢りさが語る”書き出し”の創作秘話
主人公が話しているのを頭の中でキャッチ
主人公がしゃべってくるんですね
朝井リョウが語る綿矢作品の書き出しの魅力とは❓
私は好きっていうよりは地球が好き
最新作 朝井リョウ著「生殖記」
書き出しの狙いとは?
冒頭でその違和感に気づいてもらいたい

「大切に抱きしめたいお守りの言葉」の一文 松浦弥太郎著/リベラル文庫
話し上手より聞き上手に。素敵な人ほど聞き上手です。
あいてのこころをひらいらり、動かしたり、ほどいたりする人は、
話し上手とは限りません。
心と耳を傾け、相槌をうつだけで、人とつながれるのが聞き上手です。
聞き上手はまた、感動上手です。相手の何でもない言葉から、
きらりとひかるもの、あたたかいものを見つけ出しましょう。
素直な心と謙虚さがあれば誰でも聞き上手になれます。

名著に名書き出しあり
成瀬は天下を取りにいく
「島崎、わたしはこの夏を西部に捧げようと思う」
人間失格
恥の多い生涯を送ってきました。
キッチン
私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。
ノルウェイの森
僕は37歳で、そのときボーイング747のシートに座っていた。
半島を出よ
米軍払い下げの簡易ベッドに寝ていたノブエは、ニワトリの鳴き声で起こされた。

「蹴りたい背中」書き出しの魅力
朝井リョウイチ押しの綿矢作品の書き出し

「蹴りたい背中」の書き出し 綿矢りさ著/河出文庫
さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど
高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、
胸を締め付けるから、
せめて周りには聞こえないように、
私はプリントを指で千切る。
細長く、細長く。
紙を裂く耳障りな音は、
孤独の音を消してくれる。
気怠げに見せてくれたりもするしね。
葉緑体?オオカナダモ?
ハッ。っていうこのスタンス
あなたたちは微生物を見て
はしゃいでいるみたいですけど(苦笑)、
私はちょっと遠慮しておく、
だってもう高校生だし。
ま、あなたたちを横目で見ながら
プリントでも千切ってますよ、気怠く。
っていうこのスタンス。

書き出しのリズム 音楽性を感じている
自身で久々に読んでみて どすが効く 
朝井さんが読んでくれると純な部分が聞けた

書き出しの範囲とは❓

・朝井リョウ氏選定
生のみ生のままで〈上〉の書き出し
綿矢りさ/集英社文庫
青い日差しは肌を灼き、君の瞳も染め上げて、
夜も昼にも滑らかな光沢を放つ。
静かに呼吸するその肌は、息をのむほど美しく、
私は触れることすらできなくて、自らの指をもてあます。

綿矢作品 書き出しの文体
書き出しで表現したいこと

「ひらいて」の書き出し
綿矢りさ著/新潮文庫
彼の瞳。凝縮された悲しみが、目の奥で結晶化されて、
微笑むときでさえ宿っている。本人は気づいていない。
光りの散る笑み、静かに降る雨、庇(ひさし)の薄暗い影。
存在するだけで私の胸を苦しくさせる人間が、この教室にいる。
さりげないしぐさで、まなざしだけで、彼は私を完全に支配する。

詩的な書き出し ピントが狭い
「瞳」に込める意味

「大地のゲーム」の書き出し
綿矢りさ著/新潮文庫
いつか力尽きるから美しい。その美しさからは逃れられない。
この世に死があると知ったのは、家出した兄と一緒に乗った、
夜の電車の中だった。

書き出しの役割
詩的なコトバにする理由
書き出しが浮かぶタイミング

・綿矢りさ女史選定
「夢を与える」の書き出し
綿矢りさ/河出文庫
幹子の一人暮らしの部屋は幹子の放つ緊張と怒りのせいで熱気がこもり
空気がにごっていた。
鑑に顔を近づけ、幹子は小筆を使って唇を紅でぬりつぶす。
シャワーを浴びたての身体はまだ上気していて、
スリップのひもが落ちかけた肩は汗ばんでいる。
鼻の頭に浮いた小さな玉を床に落ちていたバスタオルでぬぐうと、
ファンデーションがはげてしまった部分を化粧用スポンジで
また新たにぬりつぶした。
今日、私は六年間付き合った男に別れ話を持ち出される。

不穏な書き出しが暗示するもの
女性が描くときの母の存在

「オーラの発表会」の書き出し
綿矢りさ/集英社文庫
今この瞬間も知らぬうちに呼吸して瞬きして、
身体じゅうどこも痛くならずに
すわっていられるのは、物凄い奇跡だ。

書き出しのこだわりは❓
主人公が話しかけてくる

「パッキパキ北京」の書き出し
綿矢りさ/集英社
なんかむなしい。ってのを私は経験したことが無くて、
それは私が苦労してないとかじゃなく、
楽しみを見つけるのが上手いからだ。

書き出しを書いていて楽しかった。

朝井が好きな「パッキパキ北京」書き出しのポイント
このテンションのまま最後まで行く
写真を撮るほど衝撃を受けた「パッキパキ北京」

「パッキパキ北京」の一文 朝井リョウ 撮影
綿矢りさ/集英社
例えばすごく努力して何かの分野で一流で、人気もあって金もある、
性格も良いしモテる男が「いや、僕なんかまだまだ。
僕よりもっとすごいひとなんて、この世にたくさんいますから」と
謙遜じゃなく心から思ってて、日々努力して研鑽してるとしたら、
残念ながらそいつは完敗している。
(中略)
素の自分を、いつまでたっても認めてあげていないからだ。
反対に自他共にどうやっても認めざるを得ないほど社会の底辺に
属してて、毎日イヤなことや辛いことがひっきりなしに起こっても、
そいつがニヤニヤしながら「おれは敵などいない。全知全能の神だ」と
心から言いきれるなら、こいつはもう、完全に勝利している、
一番偉く、一番進化した、一番コスパの良い人類だ。
(中略)
この最強人類を前にしては、例えば銀メダルを獲得したのに
金メダルを獲れなかったからといって悔し泣きしてる人間は、
申し訳ないがコスパ最悪だ。
いくら凄い人間であっても、この人を喜ばすには金メダルを
与えるしかないなんて、本人どころか周りの人間も絶対疲れる。
この競争社会で、マテリアルワールドで、何も手にしていないのに
勝利を手に入れられるスーパー錬金術の使い手を称賛せずにいられる?

「生殖記」推薦コメント
必要とされるだけ幸せだよ…
この言葉に接するたびに感じていた
違和感の招待を、 「生殖記」が暴いてくれた。
綿矢りさ(作家)

「生殖記」が暴く違和感

「生殖記」の書き出し
朝井リョウ著/小学館
尚成はいっつもこうなんです。幼体のころは、ここまでではなかったんです。
そうですね、たとえば沢山の個体で重いものを運ぶっていう場面に
出くわしたとして、そうそう、体育で使うマットを運ぶとかそういう感じのやつ。
そういうときだって、昔は腕にしっかり力を入れていたんですよ。
自分はこの共同体を構成する一員なんだっていう意識のもと、もちろん
そんなことハッキリ言語化したわけではないですけど、無意識的に
そういう気持ちで、腕に力を込めてマットを運んでいました。

今までになかった人間の表現

林P 気になった場面
「生殖記」の一文
朝井リョウ著/小学館
“多様性”ってそれこそ四十億年以上前に生命体が発生したときから
存在する現象なわけで、どの生命体も発生したその瞬間から
多様な種の中の一個体として生きるしかないんですから。
そもそもヒトは”多様性”の歴史に超最近現れた超超超新入りです。
認める認めないの立場を選ぶなんてそもそも不可能で、ただただ
”多様性“の真っ只中にいることしかできません。
というような文章にも、尚成はこの一年間、
買ったり借りたりした本の中では沢山出会いました。

綿矢りさが語る「生殖記」の魅力

「ヴィクトリアン・ホテル」の一文
下村敦史著/実業の日本社文庫
数年ぶりの宿泊だが、何も変わっていない。「ヴィクトリアン・ホテル」は
伝統の佇まいを残しているのだ。それこそ、年月を重ねて魅力が増す
アンティーク家具のように。エントランスラウンジには、
金糸と銀糸で模様を織り出す金華山の赤いソファが並んでいた。
テーブルもヴィクトリアン調で彫刻が美しい猫脚だ。
利用客はみんな、高級そうなスーツを着こなし、優雅な所作でくつろいでいる。

綿矢りさの衝撃を受けた書き出し
「房思琪(ファン・スーチー)の初恋の楽園」
林奕含著/泉京鹿訳/白水社
書き出し
劉怡婷(リュウ・イーティン)は子どもであることの一番の長所を知っている。
それは、誰も自分の話を真剣には聞こうとしない、ということ。
彼女は大口も叩けば、約束も破り嘘だってつく。
真剣に取り合わないのは大人の反射的な自己防衛かもしれない。
子どもというのは時として鋭い本音を口にするものだが、
大人は自分を慰めるように言う。
「子どもにはわからない」ブレーキをかけられた子どもは、
本当のことを口にする子どもから、
本当に言っていいことを選んで言う子供へと進化する。
言葉のデモクラシーにおいて、子どもはようやく大人になる。

朝井リョウの衝撃を受けた書き出し
「パレード」
吉田修一著/幻冬舎文庫
書き出し
つくづく不思議な光景だと思う。ここ四階のベランダからは、
眼下に旧甲州街道を見下ろせるのだが、一日に何千台という車が
通っているにもかかわらず、一台として事故を起こす車がない。
ちょうどベランダの真下に横断歩道があり、信号が赤になれば、
走ってきた車は停止線できちんと停まる。
その後ろから走ってきた車も、前の車との距離を計り、
ぶつからない程度の位置で、そのまた後ろからきたのも、
同じような間隔を空けて停車する。そして信号が青になれば、
先頭の車がゆっくりと走り出し、二台目、三台目が
安全な感覚をとりつつ、引っ張られるようにあとに続く。

朝井リョウが忘れられない書き出し
街を見る目が変わった

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