神山の満月銀杏黄落期(こうらくき)
過疎に人呼ぶ満月銀杏霜夜
星月夜過疎のシンボル凛と立つ
大山寺弁慶銀杏散るはじむ
伊勢海老にかぶりつく子や冬の浜
■100分de名著 有吉佐和子(3)老いてなお輝きわたる尊厳「恍惚の人」②
介護する昭子 認知症の茂造
ソコロワ山下聖美 伊集院光 阿部みちこ
ワンオペ介護に苦しむ昭子
茂造の認知症も悪化の一途をたどる
明け方近く、昭子は押しつぶされそうな胸苦しさを覚えて眼をさました。
驚いたことに茂造が、掛布団の上から昭子の躰の上に乗って呻いている。
昭子は咄嗟に舅を突き飛ばして起きた。「なんですか、お爺ちゃん」
「ああ、昭子さんが、いない。昭子さんがいない。昭子さんがいないんですよォ」
「お爺ちゃん」大声で呼ぶと、やっと茂造は「昭子に気がついて、その途端に
前身の関節が外れたように、放り出された糸の切れた人形のように、
布団の上にぺたんと伸びてしまった。
これから大変なことになってくる予感があった。
だんだん壊れ方がひどくなって来るような気がする。
「老人ホームに入れちゃえばいいじゃないか」
老人ホームという選択肢
敬老会館の事務員から地域の福祉事務所について情報を得る
「私、この仕事についてそろそろ五年ですけど、お嫁さんからお礼言われたり
物をもらったりしたのは今日が初めてです。びっくりしちゃった。
立花さんは幸せですねえ」
感心なお嫁さんと言われ戸惑う
昭子が動くことによって物語は進む
信利が前向きでない 老人ホームについて聞かれても黙ってしまう
昭子は職場の上司に地域の老人福祉指導主事に相談することを勧められる
―はい、私が老人福祉指導主事です。
昭子は自分が仕事を持っている女だということを強調して訴えたかったが、
思いがけず電話に出た相手が女性だったので却って意を強くしていた。
職業を持っている婦人なら昭子の悩みもよりよく理解してくれるだろう。
「お爺さん、こんにちは」
「下の方はいかがですか」
「鎮静剤で眠るようになってから、ときどきお寝しょをします」
「その程度でしたらねぇ、このお年ならいい方ですよ。
それに環境としてもお幸せですよ、こちらのお爺さんは。
第一に躰が不自由ではないし、経済的にも恵まれていらっしゃるし、
家も子供さんも、孫までおありになるんだから」
こう言われて昭子は慌てた。それは下を見ればキリはないかもしれないけれど、
現実にこの家では茂造がこうなって家中が、特に昭子が大変に困っているのだ。
福祉の人から「お幸せ」と言われ…
当時はなるべく家で介護するという固定観念があった
「有料老人ホーム」利用資格
健康で身の廻りのことができ共同生活にたえられる人
阿部みちこさん曰く
「恍惚の人」は家族全員読んだ方がいいと思います別の部屋で
実はどこのホームも満員ですよ 老人福祉指導主事
老人を抱えたら誰かが犠牲になることはどうも仕方がないですね
高齢者福祉行政がいかに未発達だったか
この著書は高齢者福祉行政の進歩に大きな影響を与えた大ベストセラー
私が社会に問題を提起したのではなく
これで社会に問題を提起すべきだと思った読者が多かった
1973年NHKラジオ「文学と私」出演時の言葉
茂造さんが風呂で溺れて急性肺炎になるが奇跡の生還を果たす
茂造は、病後は昭子の名前も忘れてしまったらしくて、
用があるとモシモシと声をかけるのだが、
それだけ人見知りをしなくなったのかどうか。
エミにはひどくよくなついて、昭子の留守の
月曜と水曜と金曜に、まだ一度も問題が起こったことがない。
エミが買物に出かけるときは、昭子と同じように茂造を連れてでるらしいが、
ついでに散歩をして済美山の方まで行ってきたりするらしい。
偏見を持たない若者夫婦
エミは茂造のおむつも取り替えてくれる
現代のケアの姿勢にも繋がっている
室内で排泄をするという状況に
一方で花や小鳥に心を奪われ無心の笑顔を見せる
「敏(さとし)が生まれたばかりの頃、こんな具合に笑ったわ。
(中略)
子供って天使だと思ったものよ。お爺ちゃんがそれね。
生きながら神になるってこれかしら」
認知症が悪化する一方で…
命 生きるということを俯瞰する視点
有吉佐和子女史は
老いてもなお尊厳を失わない人間の姿に光を当てようとした
「自分もいつかなる」常にこの作品に書きされている
私、「恍惚の人」のなかで「老醜(しゅう)」ということばを一つも使っていない。
だってそうでしょう?私だって高峰さんだって、いずれはああなるんだから、
私、人間を冒涜したくないという配慮はしているつもりなのに、
その精神を読み落されているのは残念だわ。
高峰秀子「いっぴきの虫」より
あのときこそ茂造は死んだかと思って昭子は仰天したのだ。
考えてみると、あれは死そのものに慌てたのではなくて、
昭子は自分の過失を懼(おそ)れたのだった。
年寄りの世話は嫌やだ、と こんな土壇場でそんなことを
考えるのが本当に情けない。
この半年間の昭子の悪戦苦闘が、結果としてまるで
無意味になってしまうではないか。
今までは茂造の存在が迷惑で迷惑でたまらなかったけれど、
よし今日からは茂造を生かせるだけ生かしてやろう。
誰でもない、それは私がやれることだ。
日中は止んでいた雨が、また降り始めていた。
昭子はこの夜の雨音を、しっかりと心の中に聴き入れていた。
人間らしく命に向き合う昭子
自分勝手な思いと気高いものが同居
「生かしてやろう」
命の肯定
どのような命であれ生かすべきものだという倫理観
敏「ママ、もうちょっと生かしといてもよかったね」
10代後半の男子の照れ隠し
読者に委ねられたラストシーン 開かれたラスト
阿部みちこ 委ねられたラストシーンが苦手な方で
結局まとめサイトとかないかなって見ちゃう…
自分の腑に落ちる形を思って人に話す 伊集院光
読者のコミュニケーションが弾むのが有吉佐和子の作品
「ママ、もうちょっと生かしといてもよかったね」
昭子は自分の頭の中がまるで真空のようになっているのを感じた。
昭子は鳥籠をかかえたままぺたんと座り、すると昭子の胸で
ホオジロが羽をばたつかせ、ちょっとうめいた。
その拍子に涙が眼から噴きこぼれたが、自分が泣いていることに
気がついたのはそれから随分後のことだった。
昭子は鳥籠を抱きしめ、いつまでもそうして座っていた。
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