2024年11月19日火曜日

兼題「凩」&テーマ「架空の生き物」

自らを苛めちゃいかん冬苺
つわぶきや冬の陽射しを受けて立つ
依存先増やして立たん冬を生く
雲辺寺足元遥か冬紅葉
勝者たること自ら下りず冬の月

■NHK俳句 兼題「凩(こがらし)」
選者 木暮陶句郎 ゲスト いとうせいこう 司会 柴田英嗣
年間テーマ「季語を器に盛る」
金子兜太さんと稲畑汀子さんの懐かしの俳句バトル映像を特別公開!

いとうせいこう氏はお茶のメーカーが主催している俳句大会の審査員
新聞社主催の俳句賞の審査員を10年ぐらい
何万句も審査している どちらの句会も金子兜太さんから学ばれたとか
俳句の魅力は❓
金子兜太さんの句を例に出すと分かりやすい
「谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな   金子兜太」
削って削って語順を変えて言葉以上の物が詰め込まれるように作るって奇跡
読み手によって広がり方も違う 俳句はさすが世界一短い詩だなと思う
金子兜太さんは起きた時にすぐに起きないで布団の中で「むにゃむにゃ」
それで起きてトイレに座って「むにゃむにゃ」ずっと一句を転がしている
「出来た!」で完全に自分の句になっている
せいこうさんが尊敬する金子兜太さん(前衛派・社会派)と
木暮陶句郎先生の師匠である稲畑汀子さん(伝統派)の
懐かしの俳句バトル映像を特別公開。

稲畑汀子(1931~2022)高浜虚子の孫
季題(季語)を重視した有季定型と
結社「ホトトギス」の理念「花鳥諷詠」を守る伝統派

金子兜太(1919~2018)
季題や季語にのみとらわれない前衛的な姿勢から
人間や風物の表現を重んじた現代俳句の主導者

この二人のやり合いが面白い
「季題が動く」についての論争でした。

■器に季語を盛る
凩という季語は季節の変わり目の風 秋から冬へ 変わり目に吹くのが凩
凩は誰でも経験している 俳句に作りやすい季語
凩には内面的な部分もある 寂しげ 悲しげ 冷たさがある

木がらしや目刺に残る海のいろ   芥川龍之介
(二物配合 季語と事柄を十七音の中でぶつけ新しい世界を生み出す手法
 食卓に目刺がのっている そこに海のいろが残っている
 この目刺も凩を浴びて乾いて目刺になったんだ 
 最後が海のいろという体言で止めている 海のいろが印象深く心に残る
 せいこうさん 芥川がこんないい句を書いていたなんて スゴいいい句です)

行く春や鳥啼き魚の目は泪   松尾芭蕉
(芥川は芭蕉を尊敬していた とても芭蕉を研究していた
 芥川は夏目漱石の弟子 夏目漱石も俳句をやっている
 漱石も凩の句を作っている)

凩や海に夕日を吹き落す   夏目漱石
(「凩や」で切っているけれど一物仕立て
 凩が海に夕日を吹き落すほどの力がある スピードがある
 その句を芥川が知らないはずはない 凩と海という題材が似通っている
 師匠の句をリスペクトしつつ自分なりの新しい世界を作ろうと思った)

■特選六句発表 兼題「凩」
凩一号ラジオからは落語   なかの花梨(かりん)
(二物配合 凩の音から落語の音へ 日常を上手に切り取っている)
ファーストサーブ凩を斬るように   樹海ソース
凩や眉根(まゆね)を寄せて火を貰ふ   長谷川水素
凩の夜君はヘッドファンの中   鈴木研児
免許ない職歴ない凩が痛い   海亀九衛門(きゅうえもん)
(季語を自分の心に近づけた句)
木枯にざわつく今朝のサドルかな   杜(もり)まお実
(「今朝」がいい 昨夜吹いた凩でサドルに砂塵が残っている
 自転車通勤されている方でサドルを拭いて「いざ出発」というとき
 自転車を漕いでいると空の色が違う冬空になっている)

特選三席
一席 恋人が元彼になって凩   澪那本気子(みおなまじこ)
(作者のやるせない思いが17音の破調に込められている 全てをリセットする凩
 全部忘れさせてくれる凩 「凩」ではなく太陽の場合もありますよとせいこうさん
 季題が動きましたと陶句郎先生 これは座布団!)
二席 凩やギと鳴る納屋の蝶番(ちょうつがい)   おおうらともこ
(「ギ」という音が秋から冬への切り替えの音
 一瞬 作者は冬が来たとその音を聞いて思う)
三席 凩や地下室にある鉄亜鈴   川井一郎
(静と動の対比が見事 「凩や」で切断の切れ字を使っている)

・柴田の歩み
全国俳句大会を見なおそう

■NHK短歌 テーマ「架空の生き物」
選者 大森静佳 ゲスト 祖父江慎 司会 尾崎世界観
年間テーマ 「“ものがたり”の深みへ」

もともとの「こころ」というタイトル表記がバラバラ
篆(てん)書体の「心」、漱石の創作文字「心」など…。
デザインするとき”数字“で考えていく
”数字”に縛られまいとする言葉の格闘

架空と実存の境目はどこにあるのか 読むうちに曖昧になっていく

・歌に❝物語❞あり
入選九首 テーマ「架空の生き物」
蜃気楼吐き出す貝を思わせる里帰りした姉貴のあくび
前川泰信
三席 ネッシーの煮付けを食べたという祖父の首のたるみの影濃くなりぬ
吉本美加
誰もみな孫を見るように見守って配膳ロボの垂直な背筋
紙村えい
二席 前の世にもわたしを赦した逆鱗が光るよあなたの喉の隆起に
碓井(うすい)やすこ
一席 私 恋人になりきれなかった放課後にユウヒネジリが夕日を捻(ね)じる
有賀未来(みく)
猛暑日にきゅうりの昆布和えを出し一人残らず河童に変える
月出里(すだち)ひな
ハンバーグ好きだったんだケルベロスみたいな上司の尻尾が揺れる
かなもん
君の名を呼ぶとき胸はペガサスの蹄(ひづめ)に強く蹴られて撓(たわ)む
丹羽祥子(にわしょうこ)
ゆるキャラの控室開けお茶出せば中身優しき礼の返さる
多田木(ただき)まさのり

・ものがたりの深みへ
「ムーミン谷の彗星」トーベ・ヤンソン著/下村隆一訳
戦争中の脅威や終末感を象徴している
彗星が接近していろいろな異常気象が起きる
ムーミンたちは竹馬で海底を歩く

見慣れてはだめよムーミン彗星が竹馬の細い影を生むのよ
大森静佳

「ぼくたちが、特別に勇敢ってわけじゃないと思うよ。
 ただ、彗星になれてしまっただけなんだ。」
人間に対して示唆の飛んだムーミンの言葉

小さな生き物たちにとって一番怖いのは強い光
恐怖になじんでいってしまう 見慣れちゃいけません と祖父江慎氏。

わからない世界に対して希望を持ちながら探しに行く
祖父江慎氏にとってトーベ・ヤンソン氏は「黒」の世界
不安というものがベースにありながら
トーベさんにとっては「黒」あるいは「闇」は
隠れることのできる安心な場所 「黒」に生命力を感じる

「闇」の豊かさや二面性が切り捨てられてしまう

静寂が耳や鼻孔にぬるぬると蛇みたいに来る夜の海底
大森静佳

・言葉のバトン
ママのカレーの香りにつられ
富山県立伏木高校 町口晟衣萊(せいら)

母さんがいるからここは故郷で
宮城県 気仙沼高校・文芸部 昆野永遠(部長) 
祈るとき両手の水かき触れ合って信じることは溺れることだ
昆野永遠

私感
言葉のバトンの作者の短歌でこんなに動揺したことはありませんでした。
昆野永遠さんに拍手喝采!凄い!

「新美の巨人たち」に続いての「NHK短歌」へのご出演。
祖父江慎さまにまたまた感銘を受けています。
この番組は永久保存です。
祖父江慎さまをご紹介くださった糸井重里氏に感謝…。
https://www.nhk.jp/p/ts/JM12GR5RLP/episode/te/PMPJWL2NXJ/
https://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/index.html?trgt=20241026

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