2024年7月8日月曜日

兼題「蛇」&題「屋上」

繰り返しくせ毛に負ける梅雨の朝
筋力よ柔軟性よ夏を跳べ
黒南風(くろはえ)や汚れ落とさぬ洗濯機
手すりより人の温もり花菖蒲
梅雨の空己を曲げて寄り添わん

■NHK俳句 兼題「蛇」
選者 堀田季何 レギュラー 庄司浩平 司会 柴田英嗣
年間テーマは「俳句の凝りをほぐします」

今週のテーマは「一物仕立て」
俳句は大体 一物仕立てと取り合わせに分かれる
一物仕立て⇨句全体が季語そのものを描写した俳句
取り合わせ⇨異なる要素を組み合わせた俳句

取り合わせ
夕風や牡丹崩るゝ石の上   正岡子規
(同じ情景で両方 五感で感じている)

一物仕立て(季語と描写)
白牡丹といふといえども紅(こう)ほのか   高浜虚子
(牡丹そのものだけを詠んでいる)
白牡丹百花一斉にふるへたり   山口青邨(せいそん)
(百花ある白牡丹が一斉に震えている)

グラデーションの句も存在する
要素が2つあるが絡み合っていて1つの描写になっているものもある
火の奥に牡丹崩るゝ石の上 加藤楸邨(しゅうそん)
取り合わせなら「牡丹」と「火」の奥で2つの要素が感じられる
一物仕立てなら牡丹そのものが焼け落ちている感じ

牡丹百二百三百門一つ   阿波野青畝
「門」と「牡丹」の取り合わせ 

一物仕立てのツボポイント
①アンテナを張る
 俳人には「あいにく」がない
 俳人は何でもオイシイ 世界は素材だらけ 句材だらけ
 場合によってはそこにはすごいワンチャンスが眠っているかも
②俳筋力を鍛える
 俳句を言語化してアウトプットしていく 
 アンテナで気付けば 気付くほど俳筋力を鍛えれば鍛えるほど
 たくさんのワンチャンスに出会える
 俳句の「ワンチャンス」とはアンテナを張り気付きや感動を
 言葉にし続けることで思わぬ言葉に出会えること
③「ああ、そうですか」を恐れない
 「ああ、そうですか」を恐れると一物仕立てはできない
 どんどん作って捨てていけば良い

一物仕立てには大づかみ一物深掘りがある
大づかみ
傷一つ翳(かげ)一つなき初御空(はつみそら)   高浜虚子
桐一葉日当たりながら落ちにけり   高浜虚子

おすすめは一物深掘り
大づかみの「ざっくり」に対して
「一物深星掘り」はディテールにこだわりのある作り
てれ刷(は)いてうなぎの艶やさらに刷く   小澤實
(中七までは普通見たまま 下五で深掘りする
下五に何を入れるかでいろんな情景が描ける
何度も何度も「刷く」ループを作っていく)
バタークリームにつくるプードル鼻は葡萄   町田無鹿
中七より上に季語があってもいいし下五に入れる場合もある
作れば臨場感や映像が見える句にできる

▪特選六句 兼題「蛇」
「脱皮」は夏の季語だが「蛇」は一年中詠まれている
冬は「蛇眠る」秋は「蛇穴に入る」「穴惑い」

蛇と暮らすあいつとてもきれい好き   河上摩子
くつなはの咥(くわ)へたるものぷうと鳴り   松田蕾子
(くちなは=蛇)
 蛇の死の螺旋(らせん)をこころざすかたち   関津祐花(ゆうか)
 その蛇ならむかふのはうへゆきました   幸田梓弓(あずさゆみ)
 一抹の不安や蛇が怖くない   里山子(さとやまこ)
 蛇轢いたよ運転免許取れたよ   ひなた和佳(わか)

▪柴田の歩み
恐れない   柴田英嗣
一皮(む)けて一物仕立てやったるぞ   庄司浩平

■NHK短歌 題「屋上」
選者 川野里子 レギュラー 内藤秀一郎 深尾あむ 司会 ヒコロヒー
年間テーマは「❝私❞に出会おう」今回のテーマは「省略という飛躍」

▪飛躍の扉 省略という飛躍
西アフリカの 海岸の浅瀬に 
吸いつくようにして 育ったタコを 
私は今食べている
アフリカのことは 知らないんだけれど

アフリカに吸ひつきてゐし蛸の足噛みをり つひにアフリカを知らず
川野里子「ウォーターリーリー」
省略は表現のパワーになる

「それは灰」と誰かが言へば骨ひろふ箸の先にて祖母(の遺灰が)くづれたり
梅内(うめない)美華子
「祖母の遺灰がくづれたり」とすれば説明がつくが
歌としての飛躍 衝撃力に欠ける
出来事の本質に近づくことができる

そうですか きれいでしたか わたくしは 小鳥を売って くらしています
東直子「春風さんのリコーダー」
省略されたところに読者が色んなイメージを広げることができる
とても豊かな広がりのある一首になっている

▪入選六首 題「屋上」
 屋上に大の字に寝て君だけのヘリポートでいる好きに生きなよ
つきこ
屋上にゼラニウム咲くそのしたで数千億円が動くTOKYO
だいだい
屋上のつめたい柵を握るとき眠る悍馬(かんば)の手綱を思う
葉村直(悍馬とは暴れ馬のこと)
屋上で唸(うな)る室外機のような不器用すぎる君の全力
太田知那(はるな)
しょうなない幽霊のよう誰(た)そ彼(がれ)の屋上と空のあいだにいつも
寺尾賢人
一席 一点を見上げ待つ医師屋上に赤き命のヘリが近づく
間(あいだ)由美

★きらりポイント

▪秀一郎あむ 飛躍のカギ
閉ざされたままの屋上閉ざされた私の心立ち入り禁止
深尾あむ 
添削(助詞は言葉と言葉 センテンスとセンテンスをつなぐ
   言葉に流れが生まれる 時にはうねりが生まれ
   自分の心を表現しやすくなる)
閉ざされたままの屋上閉ざされ私の心立ち入り禁止

屋上どきどきするよねその頃の自分に言いたいたくさん浸(ひた)りな
内藤秀一郎
(何に浸るかを省略したことによって言葉や思いとしての鮮度が上がった
 ドラマがあります)
省略することで物語の膨らみが生まれる

春風に揺れる橋越え行く人の背中に花の香りが残る
深尾あむ
「背中に」を削除すると「背中に」は映像 「香りが残る」は臭覚
臭覚にフォーカスする効果が生まれる

「揺れる橋」を今日移調するために「越え行く」を削除すると
春風に揺れているあの人の背中に花の香りが残る
削ったところには何気ない(引き算された)言葉を詰め込む
目立たせたい言葉があるときはその周辺を引き算する 省略する

▪言葉のバトン
野原が花で満ちてくように
コールレイ

前期総評 枡野浩一
エグい花粉 ほこり立つ 毒をはぐくむ
ネガティブな表現がされている
さわやかなだけではない

「胸が背中がどこまでも向く」府田確
これ以外の言葉にしたくないくらいの決定的な感じ
いい意味でわがままな感じが魅力的

「空のあなたはどうしてますか」本間大智
立体感が出る 時間の流れを感じる

全体的にトーンが統一されている
もっと裏切ってくれてもいいのではないか❓
破滅と再生があって欲しい

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