2024年7月18日木曜日

あの本、読みました?夏川草介

夏の雨笑ひ悲しみ日の暮れて
7年で新規パソコン夏の雲
明早しスマホ3年買い替えん
半導体が株価直撃熱き日よ
雲の峰買い替え需要また来たる

■あの本、読みました?
~医師作家が書いた医療小説SP「神さまのカルテ」夏川草介
海堂尊 久坂部羊 知念実希人 夏川草介
本と医者
ドクター作家の《医療小説》はなぜ面白い?
小木田順子 秋谷りんこ

「泣くな研修医」の一文
中山祐次郎著/幻冬舎文庫
「救急隊からの情報ではチャイルドシートに乗っていたそうだ。
あ、この子は五歳な」ガーゼを外すと、お腹から腸が飛び出している。
思わず隆治は外したガーゼでもう一度お腹を押さえてしまった。
「先生!腸が見えてます!」
(中略)
―こんな小さい体なのに…。そう思ったその瞬間、隆治は、
不意に立ちくらみを感じた。「ちょっとすみません」
そう言うと、手術台から離れてガウンを脱ぎ手袋を外した。
視界がぐにゃりと歪む。
(中略)
「まあ手術終ってたからよかったよ、倒れるタイミングが
優秀だね君は」「すみません」倒れる時に頭を打ったのだろうか、
後頭部にズキンと痛みを感じた。
触ると皮下血種(たんこぶ)ができていた。
外科医は手術室で医師やナースが倒れるのに慣れているのか、
それほど心配されていないようだった。
隆治はただ謝るしかなかった。

同僚が研修医時代を思い出して涙!?
リアルな手術を描きすぎて…
編集者は永遠の素人

元看護師・作家の秋谷りんこも参考にした「泣くな研修医」

「泣くな研修医」の一文
中山祐次郎著/幻冬舎文庫
両親に軽く頭を下げると、隆治は部屋を出た。
ナースステーションには岩井がいた。隆治を待っていたようだった。
「悪いんだが、今日は泊ってくれるか」
「はい、泊ります」「すまんな。んで、お看取りの時間は呼んでくれるか。
来れたら来るから」―え、お看取り…?「はい」
「じゃあちょっと外来行くから」「岩井はそう言うと、立ち去った。
(中略)
とりあえずナースステーションの椅子に座ると、
見るともなしに電子カルテにログインした。
イシイの名前をクリックしてカルテを開く。
自分が少し前に書いた文章が表示された。
[ご両親に説明
「昨夜大量に嘔吐し誤嚥性肺炎をきたした。
挿管をしなければ酸素化が保てず死亡する
可能性が高いが、挿管しても数日程度の
予後延長が期待できるだけだとかんがえられる」
それに対してご両親は「わかりました。
挿管はしないで結構です」とお返事。
挿管はしない方針とする]

秋谷りんこが心震えた3行
おおむね説明通りの経過であることにかすかな
満足を覚え、すぐにその満足を打ち消した。
―何を考えているんだ、俺は。

「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと」
中山祐次郎著 幻冬舎新書
中山祐次郎が「泣くな研修医」を書いた理由
病院にファンレターが…

「ナースの卯月に視えるもの」
秋谷りんこ著/文春文庫
大岡さんは、重症低血糖症のあとに意識が戻らず、
長期療養型病棟に転棟してきた。
私はベッドの足側に立って呼吸の確認のために
腹部を照らす。
そのとき、喉まで出かかった悲鳴をなんとか飲み込んだ。
とっさに足を一歩引いてしまう。
そこに見えたのは、ベッドの柵を握っている小さな白い手。
大岡さんの顔を照らさないように気を付けながら、
手の持ち主にそっと光を当てる。
ベッドサイドに、十歳くらいの女の子が立っていた。
(中略)
そこにいるのは、本物の女の子ではなく、
大岡さんの「思い残し」なのだ。私はあるときから、
患者が「思い残していること」が視えるようになった。
(中略)
そして「思い残し」は、どうやら患者が
死を意識したときに現れるらしい。
私が「思い残し」を解消すれば、患者は思い残すことを
一つ減らしてより安らかに闘病できる、と思っている。

看護師から作家に転身した理由
元同僚が口を揃えて…

秋谷りんこが考える医療小説のGenre
1 謎解き・犯人探しにハマる「ミステリー系」
2 思わずイッキ読み「エンタメ系」
3 泣いちゃうこと必須「感動系」

秋谷りんこ一推しの医療系小説
1「チーム・バチスタの栄光」海堂尊著/宝島社
海堂尊が講演で話した医療小説のおもしろさとは❓

2「イン・ザ・プール」奥田英朗著/文春文庫
「ストレス性の体調不良」あっさりと言われた。
「と言うことは、わたしの胸が苦しくなったり下痢が続いたりするのは、
ストレスが原因だと…」「そう」伊良部が口の橋を持ち上げる。
やけに淡白な答え方だった。
(中略)
「つまりストレスなんてのは、人生についてまわるものであって、
元来あるものをなくそうなんてのはむだな努力なの。それより
別のことに目を向けたほうがいいわけ」「と言いますと…」
ほう、何か策でもあるのかと思った。
「たとえば、繁華街でやくざを闇討ちして歩くとかね」
和雄が三たび眉間にしわを寄せた。「これはシビれるよ。
つまらない悩み事なんて確実に吹っとぶ。
なにしろ追われる訳だからね。
命すら危ないときにどうして家や
会社のことなんかにクヨクヨできるのよ」
本気で言っているのだろうか。軽いめまいがする。

小木田順子一推しの医療系小説
「医学生」南木佳士(なぎけいし)/文春文庫
作家・中山祐次郎に影響を与えた「医学生」
「悩め医学生」中山祐次郎/幻冬舎文庫

3「神様のカルテ」夏川草介著小学館文庫
魅力あるキャラクター
「私はドクトルに謝やなければなりません」
ふいに学士殿が口を開いた。
少し血の気の戻った顔色で、表情には静穏がある。
(中略)
「ニーチェの研究も、論文の作成も全て噓なんです」
吐き出された言葉は、痛切なものであった。
(中略)
「…しかし、嘘は嘘です。ドクトルたちを騙していたのです。」
「噓ではない!」
*ドクトル=栗原一止
私は自分で自分の声の大きさに驚いた。
姉君までびっくりして私を見上げる。かまうものか。
「嘘ではないのだ、学士殿。あなたの博識は事実だ。
高卒だろうが大卒だろうが、古今東西の書籍に通じ、
ドイツ哲学に造詣深く、ニーチェを語らせればその弁理と博識は、
他を圧して余りある。そのことは誰よりも私がよく知っている」

「学問を行なうのに必要なのは気概であって学歴ではない。
熱意があって体裁ではない。大学などに行かずとも、
あなたの八畳間はまぎれもなく哲学の間であった。
あの部屋には思索と英知が溢れ、ひらめきと発見があった。
こんなことは今さら言葉にするまでもないことだ。
八年はすごしたその探求の道になにを恥じ入ることがある」

夏川草介
作家になった理由は妻の無茶振り!?
作家だとは知らない患者さんも…
「スピノザの診察室」夏川草介著/水鈴社 
本屋大賞第4位 映画化決定

大学病院の作品はおおむね悪者に描かれている

「スピノザの診察室」の一文 夏川草介著/水鈴社
帰国した花垣は、とくに変わった様子も見せずに、
必要に応じて原田病院にやってくる。
改まって感謝を口にしたり、気を配ったりする様子もない。
それは、哲郎が大学を去ったときに、
哲郎の謝罪や礼を一切受け付けなかった態度と同じだ。
(中略)
互いに必要があれば手を差し伸べ、足を運ぶ。二人にとっては、
ただそれだけのことなのである。
「今度のは、なかなか面白い症例でな」
(中略)
モニター上に、CTとMRIの画像を並べながら、
「まあとりあえず、この前みたいに大学に来てくれって話じゃない。
画像とデータを見て意見を聞ければいいんだ」「そりゃそうですよ。
そう何度も内視鏡室に忍び込んだら、さすがに見つかるでしょう」
(中略)
下町の古びた診察室が、たちまち最先端医療の
カンファレンスルームと化している。
哲郎は、画像を見つめたまま、長五郎餅の箱を開け、
ひとつを手に取った。
「でもまあ、なんとかなると思いますよ」「俺もそう思う」
阿吽の呼吸が、二人の内科医の間に往来した。

大学病院と地域病院との理想の関係を描きたい
主人公・雄町哲郎のモデル!?
最も厳しい編集者は妻

「スピノザの診察室」の一文 夏川草介著/水鈴社
奥の八畳間に置かれた机のそばまで歩み寄ったところで、
南が息を詰め足を止めていた。
黒く固まった血液の塊の上に、仰向けに倒れていたのは、
まさしく辻であった。「お久しぶりですね、雄町先生」
壁際に立っていた背の低い中年の警察官が、
のそりとまるい身体を押し出した。
(中略)
「ちゃんと薬を飲んでいたかどうかも微妙なんじゃないですか❓」
「薬は飲んでくれていたと思いますよ。
ただ、生活保護を拒否していた方でしてね」「生保を拒否?」
(中略)
「財布の中に入っていたんです。
たいした現金も入っていない札入れに。
見逃すところでしたが、裏の走り書きは、
もしかしたら先生宛やないかと思うて…」
(中略)
「おおきに 先生」たった六文字であった。
たった六文字が、震えるような筆致で記されていた。

リアルな現場「感謝」と「憎悪」

夏川草介のあの本、読みました?
「山月記」中島敦著/文春文庫
人生に影響を与えた「山月記」
ここで夏川草介氏による朗読(暗記)を聞かせてくださいました。

「隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)は博学才穎(さいえい)、天宝の末年、
若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こうなんい)に補せられたが、
性、狷介(けんかい)、自みずから恃(たのむ)ところ頗(すこぶる)厚く、
賤吏(せんり)に甘んずるを潔(いさぎよ)しとしなかった。
いくばくもなく官を退いた後は、故山(こざん)、
※(「埒のつくり+虎」)略(かくりゃく)に帰臥(きが)し、
人と交(まじわり)を絶って、ひたすら詩作に耽(ふけ)った。
下吏となって長く膝(ひざ)を俗悪な大官の前に屈するよりは、
詩家としての名を死後百年に遺(のこ)そうとしたのである。
しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐(お)うて苦しくなる。
李徴は漸(ようや)く焦躁(しょうそう)に駆られて来た。

参照:https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/624_14544.html

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