2024年7月6日土曜日

俵万智女史の短歌&芭蕉の俳句&私の短歌

言葉の運動神経あまがえる
夏の陽やアガバンサスの風受けて
(アカウミガメ)産卵は三年ぶりの北の脇(無季句)
いつの日か亡父と聞いた蝉時雨
十植えて二つ根付いた夏畑

■平家物語 第3部「乱」
斎藤実盛の兜を前に詠まれた句
むざんやなかぶとのしたのきりぎりす   松尾芭蕉

■俵万智女史が「X」で発表された短歌
新しいメガネかければ語りだす本の背表紙、遠くの葉っぱ
「楽しくじゃなくて正しく弾くんだね」子に見抜かれる私のピアノ
腹を割かれ肋骨あらわなイノシシがぶらさがる朝の楽器のように
シャルドネの味を教えてくれたひと今も私はシャルドネが好き
インスタにあげた光のページェント「オレも近くにいる」ってマジか
ドラマならやや嘘くさき設定に再会しておりクリスマス・イブ
シャルドネの味を教えてくれたひと今も私はシャルドネが好き
「どうだった?私のいない人生は」聞けず飲み干すミントなんちゃら
喧騒は我には遠く来週は来年かとのみ思うクリスマス
年末の銀座を行けばもとはみな赤ちゃんだった人たちの群れ
優しさにひとつ気がつく✕でなく○で必ず終わる日本語
好きすぎてどこが好きかはわからない付箋だらけの歌集のように
朝刊を開けばどれもどれもどれも父の知りえぬニュースと思う
バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ
「楽しくじゃなくて正しく弾くんだね」子に見抜かれる私のピアノ
傘だった言葉を閉じて歩くとき杖ともなりてゆく空の下
巨大なるゼロを抱えてこの夏を白紙のままの答案用紙

▪短歌研究5+6月号
父逝きて初めての雪 思い出し泣きという語の辞書にはあらず
大谷が結婚しても藤井くん負けても真顔のまんまの遺影

▪昭和の日の昭和っぽい短歌
ただ君の部屋に音をたてたくてダイヤル回す木曜の午後
次に会う約束もせず別れ来て「水戸黄門」を最後まで見る
男とはふいに煙草をとりだして火をつけるものこういうときに
待つことの始まり示す色をして今日も直立不動のポスト

▪みどりの日のみどりの歌
葉桜を見に行くならば雨あがり私でなくてはいけない人と
子どもらが十円の夢買いにくる駄菓子屋さんのラムネのみどり
ランドセル投げておまえは走り出す渦巻くような緑のなかへ
さみどりの葉をはがしゆくはつなつのキャベツのしんのしんまでひとり

▪アイドル歌会選
今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海
愛よりもいくぶん確かなものとしてカモメに投げるかっぱえびせん
何層もあなたの愛に包まれてアップルパイのリンゴになろう
愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人

▪いちご摘み
おもちゃ箱ひっくり返すという比喩が比喩でなかった日々のリビング
誰からもメール、LINEの来ぬ午後に語学学習アプリの通知
水切りのように心を伝えたい軽くて平らな言葉を選ぶ
シュッとした下北沢のカレー屋にフジという名のカレーを選ぶ

▪子どもの日に子どもの歌
たんぽぽの綿毛を吹いて見せてやるいつかおまえも飛んでゆくから
連休に来る遊園地 子を持てば典型を生きることの増えゆく
振り向かぬ子を見送れり振り向いたときに振る手を用意しながら
最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て

▪母の日
東京へ発つ朝母は老けて見ゆこれから会わぬ年月のぶん
母の字で書かれた我の名を載せて届いておりぬ宅急便は
「短所」見て長所と思う「長所」見て長所と思う母というもの
息子から連絡はなく母の日は私が母を思う日とする
父に出す食後の白湯をかき混ぜて味見してから持ってゆく母

▪父の日
やさしさをうまく表現できぬこと許されており父の世代は
冷や奴があればよろしい父のためネギをたっぷり刻んで待とう
行くのかと言わずにいなくなるのかと家を出る日に父が呟く
父に出す食後の白湯をかき混ぜて味見してから持ってゆく母

参照:https://digital.asahi.com/articles/ASRCZ5TLDRCXUCVL038.html?ptoken=01HKSWAF6TDK637QF5BXTSGB24

■ここで私の拙句
愛知らず育った母に育てられ愛知らぬまま土に還らん 

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