2024年7月31日水曜日

100分de名著 キャンベル❝千の顔をもつ英雄❞(4)帰還-社会への還元

風の香画面に友のプロフィール
夢追いかけたあの日あの時夏惜しむ
風死すやほてり治める手立てなし
扇風機どこへ行くにも連れ歩き
熱帯夜エアコン点けて深呼吸

■100分de名著 キャンベル❝千の顔をもつ英雄❞(4)帰還-社会への還元
佐宗邦威 伊集院光 阿部みちこ

生命の根源を看破したり、人間の男女や動物に姿を変えた
神の恩寵を受けたりして英雄が探求をまっとうすると、
今度は自分の人生を一変させる勝利品を携えて
帰還の途につかなければならない。

帰還を邪魔するものと出会う
自分が得た勝利品を世界に恵みとして還元する
笑いを誘う逃走劇

古事記 イザナギ イザナミ
「あなたがすぐにいらっしゃらないので、悲しい思いをしておりました。
 (中略)黄泉の国の神々と相談してまいります。その間、
 けっしてわたくしをご覧にならないよう気をつけてください

「わたくしに恥をかかせましたね」

リップ・ヴァン・ウィンクル
アメリカのオランダ系移民に伝わる伝説中の人物

楽園の1年が地上の何十年にも当たる神話にはよくあるモチーフ
英雄たちが勝利し至福を感じた時 猥雑(わいざつ)な現世に戻ると
そのギャップに苦しむ 

英雄は現世への帰還を迷う

伊集院光
オレがいなくても世の中回る
あくせくしてもしょうがない
体力的に頑張れたとしても限界を超えていることがあることを学んだ

帰還した時に改めて自分の成長に気づく
成長に気づけるから還元できる

成功例
グリム童話「眠りの森の美女」
永遠という名の王子が世界という名の王女にキスすると、
王女は抗うのをやめた。王女は目を開け、目を覚まし、
なつかしそうに王子を見た。二人がそろって階段を下りると、
王が目覚め、王妃も家臣たちも目覚め、
目を大きく見開き、たがいに見つめ合った。中庭の馬たちは
立ち上がって胴ぶるいをし、猟犬たちは飛び上がってしっぽを振った。
屋根にいたハトたちは翼の下から小さな頭を出し、
周りを見回し、野を超えて飛び去った。
壁にとまっていたハエはまた歩き出し、厨房の火は
赤々と燃えあがり、晩餐の調理に取りかかった。
あぶった肉が再びジュージューと音をたて始め、
調理人が皿洗いの少年の横っ面を張り飛ばしたので、
少年は大声で泣きわめき、下働きの女は鶏の毛をむしり終えた。

帰還しない英雄
現代の英雄とは
かつて、意味はすべて集団の内部、巨大で無名のかたちの中にあり、
自己表出する個人の中にはなかった。ところが現代社会では、
意味は集団の内部にはなく、世界にもない。全て個人の中にある。
全員が共有できる大きな物語が亡くなった時代
一人一人が小さな物語を持つ必要性がある

神話の存在が難しい理由
佐宗邦威
時間の移り変わりが早く物語が形成される余裕がない
現代ではSNSで物語というよりは
その場その場での個人の語りがばらまかれる時代
伊集院光
(SNS上では)神話として説得力のある人を蹴落とす作業も行われている
自分はこの物語を生きたいという自分の中のものはより大切になる
佐宗邦威
10年20年というスパンで改めて生きてきた時間を長い時間軸で振り返る
自伝みたいなものを編纂(へんさん)する

ジャーナリスト ビル・モイヤーズに新しい神話は生まれるか?と問われ
ごく近い将来、考えるに足る唯一の神話はこの惑星について語ったものです。
都市ではなく、そこの住む人々でもなく、地球という惑星と
その上のあらゆる人間について語ったもの。
そして、その神話が扱うであろうことは、
あらゆる神話がこれまで扱ってきたものと全く同じです。
個人の成長-依存から脱して、成人になり、成熟の域を
通って出口に達する。そしてこの社会との関わり方、また、
この社会の自然界や宇宙(コスモス)との関わり方。
それをすべての神話は語ってきたし、
この新しい神話もそれを語らなくてはなりません。
しかし、それが語るであろう社会は、この惑星の社会です。
月からこの地球を眺めると、国と国を隔てる境界線など
なにも見えません。実際、それは新しく生まれる神話の
象徴かもしれません。それは私たちが祝福するであろう国。
それこそ私たちが一体になれる人々です。
「神話の力」訳飛田茂雄

地球規模の神話を考える
佐宗邦威
地球全体という目線を持って神話を作ることができれば
人類は新たなフェーズに行ける 
キーワードは「気候変動」のような地球規模で共有するテーマ

人生で2回か3回物語を生きていく時代
旅を繰り返しながら螺旋階段状に繰り返しながら成長していく

キャンベルの言葉
「神話は絵空事じゃない
 その神秘を知りつつ 
 人生を生きることが大切だ」

神話的にものを考えることは、あなたがこの「涙の谷」において
避けられない悲鳴や困苦と、折り合いをつけて生きるのを助けてくれます。
あなたの人生のマイナス面だとかマイナスの時間だと
思われるもののなかに、プラスの価値を認めることを神話から学ぶのです。
大きな問題は、あなたが自分の冒険に心からイエスと言えるかどうかです。
(中略)英雄の冒険に。本当に意味で生きる、という冒険に。
「神話の力」訳 飛田茂雄

2024年7月30日火曜日

兼題「母」&題「おかえり/ただいま」

蒸暑し愛の形の歪みをり
風薫る生きた事実は残りたる
雲の峰人それぞれの感謝あり
(ヴィクトール・フランクル)夏の星鎖断ち切る人となる
(ヴィクトール・フランクル)憎しみの連鎖断ち切る夏の雲

■NHK俳句 兼題「母」
選者 高野ムツオ ゲスト 小坂大魔王 レギュラー 中西アルノ
俳人 山口昭男 俳人 なつはずき 司会 柴田英嗣 
年間テーマ「語ろう!俳句」

叔母二人アッパッパにて現はるる   山口昭男
蛇いちご母をまっすぐ見られぬ日   なつはずき
(「日」というのは俳句ではよろしくない 
 蛇いちご 無垢できれいないちご 「蛇」を逆の意味で使っている
 「蛇いちご」という季語を巧く表現している 蛇いちごの存在感 
 嘘っぽかったり 母に嘘をつくと言った意味が込められている)
涼風や母の頭に虫とまる   小坂大魔王
母の棚には伝家の宝刀離婚届   中西アルノ
添削 鏡台に母の宝刀離婚届 (シチュエーションを作る)
夜の蟬母の眠りへ落ちて来る   高野ムツオ
(夜の蟬の最近どんどん変わっている 昔は泣かなかった
 お母さんが眠って夢をみているときに外界から蝉が落ちてきたという意
 幻想性が入ったイメージを詠んだ)

▪特選三席発表 兼題「母」
一席 母の腰くの字に曲げる銀河かな   渡辺むめい
(年老いたお母さん 一生の時間を感じている 銀河は悠久の時間
 お母さんの生きている命の時間と銀河の豊かな時間が段々溶け合っていく
 お母さんに対する愛情を表現 魅力的でユニークな俳句)
二席 母だけに見える父をり風信子(ひやしんす)   主藤充子
三席 香水をふり百歳を目指す母   荒木信夫

麻服の母のテネシーワルツかな   源早苗
母として腹を蹴らるる熱帯夜   横縞
九十の母の署名や原爆忌   水木合歓
母の手を骨まで握る緑雨かな   葉村直
海賊の裔(えい)といふ母花蜜柑   玉家屋
豆飯の湯気の中から母の貌   田中和行
参照:https://www.nhk.jp/p/ts/6Q6J1ZGX37/blog/bl/pLvva3ZRZL/bp/p5znJEq2D5/

■NHK短歌 題「おかえり/ただいま」
枡野浩一 ゲスト 町屋良平 司会 尾崎世界観
年間テーマ「あなたへの手紙/かなたへの手紙」

ただいまという気持ちだということが花にはバレている気がします
枡野浩一

手紙のように大切にしていることば 
町屋良平さんがお守りにしている短歌
どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車
井上法子「永遠でないほうの火」

▪31音の手紙
入選九首 テーマ「おかえり/ただいま」
この花は例えば遅れて帰宅した君が負けずに返す「おかえり」
二席「ただいま」と言えば「おかえり」と言う人があなたにはいてわたしではない
大津穂波
帰るべき家はあるけど誰もいず帰る先とは人だと思う
守谷直紀
一席 私 近道は坂道きみのただいまにまにあいたくて全身で漕ぐ
荒木文子
「ただいま」も大きな虹を見たことも言わない傘を失くしたことも
北入(きたいり)はるか
こんな日にコンビニで買うプリンパフェ、食べて泣いたらおかえり私
美好ゆか
 「ただいま」の声聞こえずに四年経ち今も「おかえり」言いたがってる
堀口依佐子(いさこ)
ただいまと言っていたのは帰ったらりんごジュースを飲んでいたころ
井田里紗
三席 山積みの本に毎日ただいまと言うおかえりはまだ聞こえない
伊勢谷小枝子(いせやさえこ)

▪改悪添削
山積みの本に毎日ただいまと言うおかえりはまだ聞こえない
添削
山積みの本に毎日ただいまと言うおかえりは聞こえないけど
(時間の流れが「まだ」という言葉で描けているところがいい
 「まだ」でドラマになっている 重層的な所
 自分の短歌の中で「時間の流れはどうなったいるか」
 を意識すると良いと思う)

▪町屋良平さんの短歌「おかえり/ただいま」
淋しさがわからないという淋しさは咲くはずのない花きみを思う
町屋良平
「咲くはずのない花」は最初直接的な言葉は
「自分勝手に」「エゴイスティックに」と書いていた
小説は推敲しても元の形とか気持ちとかは
全くなくなることはあまりないけど 短歌は直していくと
元のものが分からなくなったりなくなったりする

枡野浩一氏
町屋さんの小説の身体的な表現について
「1R1分34秒」町屋良平著 より
プレッシャーをかけつづけた効果か、
相手は全く手がでなくなっている。
それでボクシングの横の円をひろげてみせたあげく、
別の軸にすばやく移行し、斜めの円を作る。
練習していたシュートアッパー。
何度かガードに阻まれたが、外円からのボディが、
利かせていないまでもしっかり打ちつけていた効果で、
相手の体幹が乱れ、ようやく斜めに線を結ぶアッパーが
相手のアゴまで届いた。

主人公が心の中で思っていることが説明じゃない部分で
畳み掛けてくることの力強さをこの小説を読む時に何度も思った

町屋良平氏
ボクサーの体の中にあるイメージとして
リアリティーがあるような形を意識して書いた
外に出せない形の言葉を書く
翻訳されない前の生の形みたいなのを意識して
特に運動する人の内面なので

良い文章とは何か❓
尾崎世界観氏
自分の内側の時間の流れみたいなものが
小説によって分かる時はすごくうれしいし
そういうものがいい文章だなと思いますね

枡野浩平氏
「嘘のないこと」ですね 僕の場合のいい文章は
魂に近いところでも自分にとっての
「嘘の無さ」の検証ができていると
この文章はちゃんと書けている
これは書けていなかったというのが分かる

町屋良平氏
魂パートとそんな魂パートじゃないパートは
どうしてもできてしまう

▪言葉のバトン
バンドやろうか還暦だもの
国兼秀二「短歌研究」編集長

ブラボーが降りそそぐようなステージに
ファブリ イタリアン歌人
あさやかのすっぱい光に目覚めれば水平線はリモーネの色
Iimoneとはレモンのこと
第一歌集「リモーネ、リモーネ」を出版
ブラボーはイタリア語で❝上手 上手❞

2024年7月29日月曜日

こころの時代 ヴィクトール・フランクル(4)人生という「砂時計」

遠慮は無用とはいうものの蝉の声
油蝉風の音さえかき消して
蝉時雨あなたの声も聞き取れず
親のご機嫌取るだけの日々夏休み
あなたとの思い出はなし夏休み

■こころの時代 ヴィクトール・フランクル(4)人生という「砂時計」
日本ロゴセラピスト協会会長 勝田茅生(かやお) 作家 小野正嗣

「ほら、あそこだ」手が伸びて、数百メートル離れた煙突を指さした。
煙突からは数メートルの高さに不気味な炎が吹き出して、
まっ黒な煙となって消えていく。
あそこがどうしたって?
「あそこからお友だちが天に昇っていってるところだ」
「夜と霧」アウシュビッツ第2収容所ビルケナウ

ヴィクトール・フランクル(1905~1997) オーストリアの精神科医

四歳の時であったと思う。ある晩、
眠りに入る直前にはっと飛び起きたことがある。
自分もいつかは死なねばならないと気づいたからである。
「フランクル回想録」

ここに強制収容所で亡くなったために遺骨が
みつかっていない家族の名前もきざまれています。
私もいずれここに入る予定です
死ぬのは怖いですか❓
怖くはありません
本当に怖いのは「生きなかった」ことです
つまり大きな意味で正しいことや大切なことをする機会を
十分に生かさなかったとしたら深い悲しみを感じると思います
しかし自分に対して「多くのことを成し遂げることができた」と
思えるのなら これほど素晴らしいことはありません

砂時計の上の部分には、まだこれからの未来があります。
それは、これから起こることです。
そこには砂時計の狭い部分をすり抜けて
下へ流れ落ちる砂が入っています。
砂時計の下の部分には、すでに起きた過去があります。
それは狭い部分をすでに通過してしまった砂です。
そしてこの狭い部分は現在を示しています。
下に落ちた砂粒はそこで固定されます。
それはあたかも砂時計の下の部分に
凝固剤のようなものが入っているかのようです。
あるいは、保存添加物が入っているかのようだ
と言ったほうがより適切かもしれません。
というのも過去の中では過ぎ去ったものは
本当にすべて「保存される」からです。
これは「大切に取っておかれる」
「長期にわたって貯蔵される」という意味なのです。
「Der Wille zum Sinn」

過ぎ去った時間を元に戻すことはできません。
けれども、その中で起こった出来事は侵されることも
傷つけられることもありません。
悲観的に考える人は、日めくりカレンダーの前に立って、
毎日一枚ずつ切り取られていくカレンダーがどんどん
薄くなっていくのを不安と悲しみの気持ちで
見つめている人と同じです。それに対して、
その人が生きた事実は永遠に守られると考える人は
カレンダーから切り取った紙を今まで切り取った
紙の上にきちんと注意深く載せていくのです。
そしてその紙の裏に日記のようなメモをすれば、
今までこのメモの中に書かれてきたことを、
―人生の中で今まで確実に生かされてきたこと-
に対して誇りと喜びをもって思いを馳せることでしょう。
「医師によるメンタルケア」

その人は収穫が終わりに近づいている畑だけを見ているのです。
それも恐怖の思いで。過去と言う穀物でいっぱいに詰まった
穀物納屋を見ようとはせずに、できるなら時間が静止して、
すべてのものがなくなってしまわないようにと願っているのです。
けれどもこれは刈り取り機を作動させたまま止めたい、
この機械が前進せずにいてほしいと、望むようなものです。
というのも、この刈り取り機が畑の上を移動していくと、
いつも刈り取られた部分がどんどん広がっていく光景しか
見られないからなのです。そして機械の中でどんどん増えていく
穀物の量の方は見ようとしないのです。
「Der Wille zum Sinn」

砂時計の砂が全部下に流れ落ちてしまったら
どうなるのでしょう❓
もし時間がすべて流れ去って
なくなってしまったらどうなるでしょう?
これが死ということなのです。
死の中で全てのものが不動になります。
私たち人間はそこではもう何も動かすことができません。
生きている人間には過去と未来とがあります。
死にゆく人には未来はもうありませんが、
その代わりに過去だけがあります。
亡くなってしまった人には自分が過去としてあるのです。
人間は死ぬことで初めて世界の中に生み出されるのです。
そして自分自身は死ぬその瞬間に初めてでき上がるのです。
「Der Wille zum Sinn」

私たちは一般的に、自分の人生を奪い去る死を
自分の身に起こる最も恐ろしいことだと思い込んでいます。
そして私たちを眠りから覚ましてくれるこの優しい手が、
たとえどんなに優しく触れたとしても私たちは
その優しさを感ずることができないのです。
それどころか、その手が私たちの眠りを
追い払っていると感ずるや否や、これを今自分の見ている
夢を中断する忌まわしい妨害のように思ってしまうのです。
そして、この死がどんなに私たちのためを思ってくれているか、
そのことに思いを馳せることはほとんどできないのです。
「Der Wille zum Sinn」

輝く日々-
それが過ぎ去ったことを泣くのはやめよう 
その代わりかつてそれがあったことを思い出して微笑もう
「Bergerlebnis und Sinnerfahrung」

2024年7月28日日曜日

偉人・敗北からの教訓 前田慶次&ひとりぼっちの孤独を感じた時に読む本

木酢液に願い託さんトマト
無機質な猫に癒さる夏真昼
それぞれの優しさありて梅雨あがる
たらたらと流れる汗よ時間待ち
伝わらぬ心の置き場蒸暑し

■偉人・敗北からの教訓 
第53回「前田慶次・出奔を選んだ天下御免の傾奇者(かぶきもの)」

敗北の伏線~慶次を傾奇者にした挫折と前田家への反抗~
得意な事を発見することは大切
やりたい事と求められている事は別

前田慶次 敗北の瞬間
自分の信念を曲げられない時もある
結局は自分の人生 後悔しないように

生きるだけ生きたらば死ぬるでもあろうかと思う
前田慶次の辿り着いた無の境地

慶次が共感を持たれたのは
「前田慶次道中日記」古典文学に関する造詣の深さ
ユーモアや感受性の強さから

前田慶次の敗北から学ぶ教訓
己の幸せを追求すべし
但し自己評価は控えめにすべし

■理想の本箱 君だけのブックガイド選
「ひとりぼっちの孤独を感じた時に読む本」

▪ひとりたのしむ 著者 熊谷守一
孤独の果てに辿り着いた画家の純潔な画と言葉
獨楽(どくらく)=ひとりたのしむ
孤独だけど自発的 自分らしくいなさい 
自分を優先するということとは自分を大切にすること 
自由になること
「もっと放っといて長生きさせてくれっていうのが、正直な私の気持ちです。」

▪ここに素敵なものがある 
著者 リチャード・ブローティガン 中上哲夫 訳

「ビートジェネレーション」
アメリカの物質文明に反抗し既成概念にとらわれない世代

ささやかに吐き出された孤独の言葉が優しく誰かを包む
ここに素敵なものがある

気づくことは何かを失うことだ
ぼくは考える、恐らく死者を悼むときでさえも、
このことに気づくために失ったものについて。
掘ったばかりの墓穴のように妙に若々しく
一日が独楽のようにくるくると同じ場所を練り歩く、
その影に降る雨と一緒に。
ゆっくりきみをその気にさせよう、まるで夢の中で
ピクニックをしているような気持ちに。蟻なんかいないよ。
雨なんか降らんないさ。ぼくらは十一時のニュースだった、
ぼくらが愛し合っている間、ぼくら以外の世界は
地獄にころげ落ちていたからだ。
恐怖からきみは一人ぼっちになるだろう、
きみはいろんなことをする、
だけどどれもぜんぜんきみらしくない。
出来損ないの天子のようにわが身を守りながら
彼女はふたたび恋に落ちる。破局に終わる定めの恋に。
それがいつも彼女らしいやり方なのだ。うれしいよ、
彼女の恋の相手がぼくでなくて。
ここに素敵なものがある 
きみがほしがるようなものはぼくにはほとんどのこっていない。
それはきみの掌(て)のなかで初めて色づく。
それはきみがふれることで初めて形となる。

俳句の影響を受けている
松尾芭蕉と小林一茶がお気に入りだった。
そのような事を知ることで彼の余白の読み方が変わってきた。
素人の仲間の寺山修司氏の葬儀に参加した時のエピソードや
その時に書いた詩のことにも触れている
葬儀の並ぶ人の下にいた蟻に目が言ったとか…。
常に弱きものへ目が奪われていた

▪Sunny 著者 松本大洋
子供たちが孤独や寂しさと折り合いをつける純真さと救いの物語
ペンをとるのに20年かかった
自分の心に折り合いがつけられなかった
年を重ねると郷愁に襲われて俯瞰できなくなる

「時間」というんはホンマ良うできてるてワシは思う…
どんだけ楽しいときも、どんだけ悲しいときも、ずっとそのまま
いうわけにはイカン。これは救いやとワシは思う。
(5巻 第26話より)

開けない孤独はない ということを教えてくれている
一冊目は孤独の良さ 二冊目は孤独の需要 
三冊目は人間は孤独にはなれない ということを教えてくれた

2024年7月27日土曜日

家藤正人の俳句道場&永濱利廣氏&フロムとガンディー

夏の空けだるさ残し吹くケルン
ドラレコの指示に従う夏の道
夏を行くお互い口をへの字とし
夏の買い物意識遠のく駐車場
満たされぬ募る思いよ夏の水

■ギュッと!四国 家藤正人の俳句道場
兼題「夏の海」

▪ギュッと!特選
浮き島を飛び立つこむら夏の海   夏湖乃
選句のポイント 焦点の絞り方

▪放送された俳句
佳作 橋駆ける右も左も夏の海   しまなみ純二
家族連れ砂浜賑わう夏の海   加地清子
秀作 パレオから香るココナツ夏の海   オキザリス
夏の海下手投げで跳ねる石   けーだぶる
秀作 夏海や鳥のとまれる献血車   げばげば
佳作 夏の海俳都に挑む高校生   マレット
「外出中」浮き輪を洗う店の裏   岡田いもとまと
遠ざかるヨットあちこち夏の海   政子(季重なり)
秀作 夏の海あいつミスチル歌うのか   赤尾双葉
1Dのビューティフル連呼夏の海 大友さち
佳作 流されてるのかはしゃいでるのか夏の海   平山仄海
秀作 夏海をソース焼きそば五百食   天雅

▪正人のもったいない
祖父は何も言わず溺れ夏の浜   となりの天然石
推敲 語順
溺れたる夏浜何も言わぬ祖父

次回の兼題は「名月」(秋の季語)

放送されなかった作品:https://www.nhk.jp/p/gyuttoshikoku/ts/7MXVZZ52K3/blog/bl/pKyjJXApJB/bp/p8xJBwm5k0/

■マーケットアナライズ コネクト
永濱利廣氏
「老後資金4,000万円必要」の誤解
~23年度インフレ率+3.5%30年持続が前提~だった

年齢階層加味した不足額
~インフレ2%前提でも1,200万円で足りる~

直近の不足額は減少
~インフレ目標+2%前提で必要額2,033万円~
年金が物価スライドすれば、もっと減るかもしれない

根拠なき不安を用いて煽ることで多くの人が貯蓄に走ることが最も危ない
個人消費が減ることは景気が悪化する いつになっても経済が良くならない
老後資金2,000万円を言い出したのは投資をしましょうということだった
最近は新ニーサも力もあり投資が増えている

前提となる世帯の金融資産
~2,000万円以上保有世帯の支出が前提~
2023年の平均値は2,504万円だが中央値では1,600万円
富裕層が引き上げている 300万円未満の高齢無職世帯が1割いる

今後インフレが定着していくと思うので物価が上がる前に購入する
現預金に関しては投資を前向きに考えたほうが良い
現預金に関しては1,600万円を目安にすると良いのでは❓
運用を考えればもっと少なくてもよい
発想の転換が必要 今がいちばん重要な時期
アメリカの平均的家計は現預金は15%くらい 株を40%くらい持っている
直近の日銀の資金循環統計では家計の現預金が
昨年の9月から前年比マイナスになってきている
現金の一部が投資に流れ始めているのでは❓
50兆円あると言われているタンス預金が減ってきた 

岡崎良介氏
株、債券、投資信託、保険すべていつでも解約できる
これを念頭にお金に働いてもらえばよい

■愛するということ エーリヒ・フロム著
~愛の習練 まとめ~
~愛の技術習得に必要な特質~
客観力、敏感さ、信念、態動性
―技術習得の4条件―
自制心、集中力、忍耐力、関心

参照:https://www.youtube.com/watch?v=9zB5lBm2BQo

マホトマ・ガンディーの言葉が最後に紹介されていましたが
私には大いに違和感を感じました。
フロムとガンディーでは原点が違っているのではないでしょうか❓

2024年7月26日金曜日

ラーメンで一句&「緋鯉」&中宮定子の遺詠

哀惜をバックムーンへ法師蝉
朝蝉やバックムーンへいっせいに
世の中の理解ができぬ油蝉
蝉時雨益々やる気失せにけり
陽を浴びて怒涛の如く蝉大挙

■プレバト纏め 2024年7月25日
ラーメンで一句

特別永世名人締めのお手本 梅沢富美雄
夜の秋や色紙だらけのラーメン屋
(手堅く置きにきた!夜の秋が夏の季語 夏の終わりの頃秋の気配を感じる夜
 だらけにはマイナスのイメージがある 有名人がいっぱい来る
 美味しいラーメン屋さんに違いない 季語が効いてくる 
 暑いから熱いものを食べたい ちょっと涼しくなってラーメンを食べたい
 夜の秋がしみじみ自分の思いを表現してくれる)

俳句史に残る句集作り 永世名人 村上健志
味玉の尻に凹みや夏の夕
(夏の夕が季語 独自の目線が健在 「嬉しいな」と詠嘆
 味玉としか書いていないのにラーメン店の匂い・熱気・ざわめき・人の声
 やの詠嘆の後ろに入っている これが俳句の力 
 季語が何であれ成功するタイプの句 ゆえに季語が難しくなってくる
 暑さが少し和らいだ夏の夕暮れを選択したのは良い 
 醤油の色と夕暮れの空の色がかすかに触れ合う さすが!)
   
1位 蝶花楼桃花(ちょうかろうももか)
前座二年目具のない冷やし中華
(冷やし中華が季語 意味が読んだ瞬間にわかる
 具のない食べ物はいろいろある 季語で具のない状況がわかる
 冷やし中華は素晴らしい 足して17音の破調の調べ
 「悲壮感」「悲哀」一句のイメージが傾く
 その気持ちで作ったのならこのまま あの時代は楽しく学んでいた
 最後に「かな」を入れるとよい 悲壮感がスーっと無くなる
 「かな」をつけてあなたの一句にいたしましょう)
前座二年目具のない冷やし中華かな

2位 ヒデ
空蝉や雷紋消ゆる鉢の底
添削(季語は空蝉 雷紋はどんぶりの周りにある模様
   季語を信じて表現したいことを書いた 屋台のようなラーメン屋さん
   「空蝉」が寂しげな表情「捨てられているもの」かも⇦狙い通り
   描写の精度をもう一押し 映像が精度が高くなる)
空蝉や雷紋あせる鉢の底

3位 アンミカ
盆の月ラーメンの香に父偲ぶ
添削(盆の月が季語 父親の思い出を書く 季語を信じることができたら
   「偲ぶ」いらない 「よ」にあなたの思いが入っていく)
盆の月かのラーメンの香よ父よ

4位 岡田紗佳(さやか)
らあめん屋外の蝉まで舌鼓
添削(幼稚な擬人化 ひらがなで書いた工夫はどうでもいい工夫)
ラーメンに舌鼓

5位 勝俣州和
麵の神汗に塗(まみ)れたかたつむり
添削(汗とかたつむりは季重なり かたつむりはつまらない比喩
   送られて嬉しいものになる)
(ラーメンの神 山岸さんへ)麺の神と呼ばれて汗にまみれけり

次回のお題は「秘密基地」

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「緋鯉」

時々俳句をやっていない人とかから
「この言葉は季語ですか❓」って聞かれる場面ありますよね
例えば「海って夏の季語ですか❓」
「鯉って季語になりますか❓」といった具合に
鯉だけだと季語にはならないんですが この「緋鯉」
あるいは「錦鯉」などのなると季語になってきます
なぜそうなるかというとこの「緋鯉」や「錦鯉」は
夏の鑑賞用の魚ということで夏の季語になっています
感覚としては金魚を愛でるのに近いのかもしれません
この「緋鯉」というのは朱色をしているのが
「緋鯉」だと学術的には分類されるそうです
鮮やかな鯉たちが泳いでいる姿 見ていて飽きないものですね

■光る君へ(28)
野辺までに心ばかりは通へども我が行幸とも知らずやあるらん
中宮定子の一条天皇に宛てた遺詠
夜をこめて鳥のそら寝ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
清少納言歌碑

2024年7月25日木曜日

あの本、読みました?万城目学の本と音楽&水前寺清子の言葉

デバッガー探しています夏の月
(伊藤若冲)升目描き写経と同じ夏深し
(伊藤若冲)夏の暁升埋めて写経とす
夏風邪や止まらぬ咳と鼻水と
夏の風邪涙流して咳き込まん

■あの本、読みました?
万城目学の本と音楽!日比谷音楽祭公開収録&図書館巡り
九段理江 鈴木保奈美

▪本と音楽 万城目学
2024年「八月の御所グラウンド」直木賞受賞 
今まで聞いてきた音楽はJ POP 特にチャゲアス サザン
初めて買ったのは長渕剛「ろくなもんじゃねえ」小6
中一でレベッカ

執筆する時は大体音楽をかけている
「八月の御所グラウンド」執筆中に聞いていた曲は
ポップコーン キリンジ/A.K.A

「元気を出して」竹内まりや はよく聞いていらっしゃるとか…。
執筆が捗る音楽 To All Tha Dreamers SUL’d OUT
カンペ 歌詞は日本語です
ここ数年のテーマソングだとか
映像化したらOPとEDは自分で撮りたい

「鴨川ホルモー」万城目学著/ 角川文庫
さあ丸太町の下宿に帰ろうとしたところで、俺は社務所の前で
一人の男とすれ違った。男と目が合った瞬間、俺は妙な気分になった。
向こうも同じ感覚を味わっているらしく、ひょっとこのような
間抜けな顔をしてこちらを眺めている。
「ああ」二人の口から同時にため息が漏れた。
(中略)
別に俺は、この男のそのままやり過ごしてもよかった。
いや、いつもの俺なら、必ずそうしていたはずだ。
しかし、「おつかれさま」とどちらともなく声をかけ合ったのち、
俺はなぜか男と肩を並べ、歩き始めていた。それどころか、
互いに同じ大学の新入生ということを知り、自己紹介までしてしまった。

この作品につけたい曲は
Maxwell’s Silver Hammer The Beatles
表紙は既にAbbey Roadでした。

「鴨川ホルモー」エンディングのイメージ
青春狂走曲 サニーディ・サービス RHYME

万城目学 作詞家デビュー
「飾りのない歌」作詞 万城目学 作曲 Chage

万城目学とDhage 詩ができるまで
完成したのは…。

筋道すらない 旅を始めたのは いつか歌が僕に教えてくれた
かすかな光に君を見つけたなら それは僕が向かうしるべだから
ふわりかたむいて 指を鳴らし探す地図 もう一度 波を超えよう
迷いもall right
未来に誓った 飾りのない言葉のように 澄んだ強さで
放つよmelody やがて届く この想いを そう

「六月のぶるぶるぎっちょう」万城目学著/文藝春秋
ぶりぶりぎっちょう これは学術語 
これはタイトルに使えると思った

■鶴瓶ちゃんとサワコちゃん~昭和の大先輩とおかしな2人~#19
昭和の大先輩 水前寺清子「ありがとう 水前寺清子」



2024年7月24日水曜日

伊集院静 あの人にあいたい

猛暑日を凌霄花(のうぜんかずら)鮮やかに
マリーゴールドの甘い香り受け取らん
劈(つんざ)ける蝉の雄叫び堂々と
寺で生く鯉と桔梗や涼やかに
熱帯夜思考停止となりにけり

■あの人にあいたい 伊集院静
伊集院さんは昭和25年山口県生まれ。
広告代理店でCMなどを手がけた後、昭和56年「皐月」で作家デビュー。
昭和59年、俳優・夏目雅子さんと結婚するが、翌年白血病で亡くす。
少年時代の経験をもとにした「海峡」や、妻の死後、
立ち直るきっかけとなった作家・色川武大さんとの出会いを描いた
「いねむり先生」など、自伝的な小説を執筆。
「受け月」で直木賞を受賞。
作詞も手がけ、「愚か者」で日本レコード大賞を受賞した。

文章とか言葉を1回洗って出してあげるっていうね
その方が毎日働いて寝る前にね 
小説を読んでみようかっていう人には
ちょっと入りやすいんじゃないかと

ちょっと母屋とは離れたところで
父親が「女の中で育っちゃダメだ」って言うんで
小学校に上げる前にもう別棟で
お小遣いとかもう全然必要ないと
自分で小遣いが欲しければ何かアルバイトをしてという
非常に厳しかったですね

小学生のころ夢中になったのは野球です
感動がありましたね 打球の音だとかね
青空へこう球が飛んで行ってみんなが追いかけて
打った人が走ったりね こんなすてきなものがね
あるんだと思いましたね

立教大学時代の野球部に入部した伊集院さん
あのころはまだ野球肘になったら大体終わりだったんですね
手術ができなかったんです ぼくらの時はまだ
ただもうこれだけ一生懸命やったんでね
私は残りの2年で自分の生きる一つの道をね
探さなきゃいけないって自分で思っていたんで
「もう僕は帰らない」って言って仕送りは全部止められて
でも東京という都会へ来たときに
非常にいろんなことを学びましたからね
もう自分でアルバイトして卒業すればいいと思いましたからね

卒業後、広告代理店に就職するも違和感を感じるように

どうの人とね たくさんで仕事をしていくと どうも僕はいつも
ぶつかってしまうんですよね 僕はまだ若かったんで
人間社会っていうか浮世みたいなものがね 間違いもあって
浮世なんだっていうことが分からなかったんでね

会社を辞めフリーに
1981(昭和56)年「皐月」で作家デビュー
1984(昭和59)年俳優夏目雅子さんと結婚
しかし、翌年白血病で夏目雅子さんが27歳で死去

そばにいて突然だったから それはなかなか大変ですよね
最初はね 家族は皆こう思うんですよ 何であの子だけとか
何で自分だけこんな目に遭わなきゃいけないって 

酒やギャンブルに溺れ、仕事が手につかなくなります
そんな時知り合いの紹介で知り合ったのが作家色川武大(たけひろ)さん
2人で全国各地を回ることになりました

先生(色川さん)が自分という若い名もない人間を
何となく勇気づけてやろうっていうね
人生の経験値が非常に広いっていうことと
それから決めつけないで話を聞いてくださるとかね
そういうのに少しずつ何かかたくなにしているものが
和らいでいったんだと思います

後にこの時の経験をもとに「いねむり先生」執筆
耳の奥で声がした。先生の声だった。
「人は病気や事故で亡くなるんじゃないそうです。
人は寿命で亡くなるそうです」
なら彼女は、それが寿命だったのか…。

彼女の死を自分なりに受け止めた伊集院さんは執筆活動を再開
妻の闘病生活を題材にした「乳房」
少年時代の経験を元にした「海峡」
自伝的な作品を執筆していきます
1992(平成4)年には愛してやまない野球を軸に人生の悲哀を描いた
「受け月」を発表 直木賞を受賞

小説は人の人生を変えることはできないんですよ
悲しみをなくすことはできないの
だけど小説のね 一つの役割で私はね
「小説は人の悲しみに寄り添っていけるはずだ」
っていうのがあるんですよ 小説を読んだことで
「ああここにもこういう悲しい人たちがいるんだ」というね
「だけどこの人たちも再生したんだ」っていうね
そういう力はね 私は小説にはあると信じて書いているんですけどね

「大人の流儀」シリーズも執筆 累計230万部を誇るベストセラーに
大人というのは自分の責任を果せること
同時に自分以外の誰かに何かをしてあげる力を持っていること
そして自分以外の誰かに力を与えるということが実行できること
それが僕は大人だと思いますね

ワープロは使わず原稿は手書き 独特の書き方をしています
1マスに2文字書くんですね 100枚書くとね 原稿用紙っていうのは
肉厚でね 膨らんでくるんです このぐらいの100枚書くと
でもこれだと50枚なんで100枚を見ると
「ああちょっともう働いて疲れたな」と思うんだけど
このぐらいだと50枚だとまだ何とか 
もう少しできるかっていうのがあるんですよ

1992(平成4)年 俳優篠ひろ子さんと結婚
その後、篠さんの故郷仙台に移住 東北大震災に見舞われます
自宅が半壊

1年経っていかこの形だから どうこの街を再生して
いいかっていうことが皆も戸惑っているんだよね
当時の思いを歌に託しています
「哀しみの終わりに」作詞 伊集院静
本当ですね 哀しみが終わって いつか笑える日が来る

まぁ悲しいかな 失敗とか忍耐とか苦節とか
そういうものでしか 人間は成長しないからね
自分から進んで 風の中にとか 水の中にとか 
そういう所へ行ってみようと じゃあ その精神というのは
やっぱり挑んでみようっていうね

作家 伊集院静 1950-2023

2024年7月23日火曜日

藤原公任の歌&理想の本箱&読書対決②&「滝」&「戸板にごろつく豆」

熱き日よ快楽主義に身を投ず
風青し苦なき快楽旨とせん(ハイネ)
走馬灯自己充足と思慮を持ち
他人は他人隠れて生きる夏の月
夏の星エピクトテス(ストア派)とエピクロス

■光る君へ(27)
むらさきの雲とそみゆる藤の花いかなる宿のしるしなるらん
藤原公任

■理想の本箱 君だけのブックガイド選
「自分の見た目が気になる時に読む本」

ルッキズム 容姿や身体的特徴で人を判断する外見主義
▪クリティカル・ワード ファッションスタディーズ
私と社会と衣服の関係 蘆田裕史 藤嶋陽子 宮脇千絵 編

ファッションスタディーズとはファッションを哲学 社会学 文化人類学
メディア論 ジェンダー論などから研究

ファッション 自分らしさ 他者とのやり取り 
駆け引き 交渉 アイデンティティ 
ファッションスタディーズ
身体 ファッション 表情 ふるまい

人を見た目で判断することは❓適切な評価とは何か❓

▪アンソーシャル ディスタンス 著者 金原ひとみ
デバッガーとは不具合らバグを取り除く人

自分の見た目が気になるあまり他者との関係性がうまく構築できない
自分は他者の視線の数だけある

▪ぜんぶ体型のせいにするのをやめてみた 著者 竹井夢子
ダイエットは幸せになるための選択肢の一つ
私が思う美しさとは何か
外見に対する努力とはどんなことか
自分らしさの肯定

■夏井いつき俳句チャンネル
【俳句でプレゼン】帰ってきた読書対決②!【後編】

薄暑ジャズベースの影の伸び縮み   朗善
灯しくるをとこありけり冬の園   家藤正人

「デヴィッと・ストーン・マーティンの素晴らしい世界」
村上春樹
「輝ける鼻のどんぐ」エドワード・リア エドワード・ゴーリー

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「滝」

非常に見事な「滝」というのは目の前に立つと
身動きがとれなくなるような迫力があります
それだけ俳人心を惹きつけてやまない「滝」には
たくさんの傍題があります
歳時記に記載されているものだけでも
滝を見るという「滝見」
滝を見る人をもてなすための
「滝見茶屋」なんていう季語もあります
その他「滝しぶき」女の滝と書いて「女滝」
男の滝と書いて「男滝」などなど様々です
その滝も強さや飛沫そういう激しいものだけではなく
「これが滝ですか❓」と思うような弱々しい滝だったら
その弱々しい滝なりの表情を描く様々な例句が
歳時記には載っています
身近な所で滝を見る機会があったら
その土地ならではの「滝」の描写挑んでみたいところですね

■夏井いつき俳句チャンネル
【新シリーズ!】楽しい日本語【戸板にごろつく豆】

といたにごろつく豆
戸板の上でごろごろと転がる豆である

戸板に乗せた豆は転がって思うように扱えないことから
自分の思う通りにならないことの例え

戸板に乗せた豆はちょっと傾けると転がることから
物事が滞らずに進むことの例え

遠足やといたに豆のこどもたち   家藤正人
といたに豆たて板にみづ時鳥(ほととぎす)   夏井いつき
そら豆はといたにごろつかん豆である   朗善
春や夫は戸板にごろつく豆である   夏井いつき
パリー祭戸板に豆にごろつきぬ   家藤正人
緑陰の麻雀といたにごろつく豆   朗善

2024年7月22日月曜日

兼題「涼し」&テーマ「休日」

思い切りさかむけ引いた夏の宵
暑熱の拍手グランドハンドリング
雷鳴や声優のごとアナウンサー
落雷やしなくてもよい経験を
記憶力武器とする人苔の花

■NHK俳句 兼題「涼し」
選者 木暮陶句郎 ゲスト May J. 司会 柴田英嗣
テーマ「季語を器に盛る」

「涼し」五感に訴える季語 耳から風鈴の音を聞けば涼しく感じる
目の前に滝が落ちていれば滝の白さとかマイナスイオンが来て涼しい
感覚に訴える 喧嘩をしてはらわた煮えくり返っていると
どんなに涼しい風が来ても涼しいとは思わない
内面的にも涼しさを感じられるかはその人の心理状態による
そこが「涼し」という季語の深さ

どの子にも涼しく風の吹く日かな   飯田龍太
一番暑い盛夏の中で涼しさを感じる時が気持ちいい
そういう意味が込められている

作品 グランブルー
深海をイメージ 海の奥底に自分たちが行けない深い海がある
その生みの涼しさをイメージした

▪特選六句発表 兼題「涼し」
手相見(てそうみ)の声ひそひそと路地涼し   門脇隆子
(その人の未来が占い師に見えている それを涼しく感じた)

古伊万里のからくさもやふ卓涼し   奥田圭衣(けい)
(「からくさもよう」の筆遣いにも通じる ひらがなのイメージ)

曜変天目(ようへんてんもく)八百年の涼しさよ   太田正樹
(中国では評価されなかったが日本に渡って来て高く評価されて

今、3つだけ残っている 模様は偶然に出たもの 玉虫みたいな
模様が800年前に出た 時空を超えた涼しさ) 

涼しさや帆布のリュック草に置き   北入はるか
(帆布 ヨットの帆に使う布 体験を通して涼しさを醸し出している)

夕涼や改札出れば妻と犬   木暮肇
(「涼し」傍題…朝涼・夕涼・晩涼)

夕涼やベンチに残る木の記憶   伊藤映雪
(様々なことを想像しつつベンチに座る そのこと自体が涼しい
 夕方の涼しさも加味した 「木の記憶」というのがいい)

▪特選三席
一席 離婚して涼夜のコインランドリー   小川野雪兎
   (すべてを洗い流して未来をPositiveに詠んでいる 
    中七・下五がスムーズ 一直線に胸に迫ってくる)

二席 波打際の踵失せゆく涼しさよ   高橋淳子
    (中七にして記情緒を感じた 消えていく透明感が涼しさに…)

三席 涼しさやブラッディマリー舌に沁み   小澤正明
   (ウォッカにトマトジュース(血)を加えて作るカクテル 
    メアリー1世に由来する 即位した際300人を処刑している)

▪俳句やろうぜ 若手俳人探査隊長 黒岩徳将
ユーモアとわかりやすさの俳句 筑波大学3年生
西野結子
雑誌「むじな」東北にゆかりのある平成生まれの俳人たちの同人誌
桑の実があるし食べてもいい大学   西野結子
紙コップまとめて捨てる夏未明   西野結子

黒岩 推しの俳句
ばんと言うてもぴゅうと出る水鉄砲    西野結子
は ハッとする部分 い いいねの部分 く くやしい部分
「ばん」で吃驚。相撲「猫騙し」
水鉄砲の音で遊びを描写。トホホ感 
「ばん」と「ぴゅう」音のギャップで表現
オノマトペ「ばん」「ぴゅう」両方の音でギャップ

▪May.J.の一句
声ひとつあついステージ心(しん)涼し   May.J.
俳句は三段切れを嫌う「上五・中七」か「中七・下五」をつなげる
添削(「八・九」の句またがり トータルは17音 俳句の余韻を残しておく)
あつき胸の奥

▪柴田の歩み
「ふっ」と笑える句 書いてみたい

■NHK短歌 テーマ「休日」
選者 大森静佳 ゲスト 早見沙織 司会 尾崎世界観(金髪になっていた)
テーマ「❝ものがたり❞の深みへ」

異なった曲を奏でるわたしたちの拍が合ふ日を休日と呼ぶ
飯田綾乃

休符
止まった瞬間、音は鳴ってないけど逆にインパクトがある

▪歌に❝ものがたり❞あり
入選九首 テーマ「休日」
寝て起きてまたすぐ眠る日曜はあんまり嘘をつかずに過ぎる
佐藤橙(だいだい)

人生の休日ですねと医者は言うそれなら海に行きたかったな
山本萌(めぐみ)

一席 日曜の夜に風船ふくらます土曜の朝まで浮かぶつもりで
菊池茎

ひかってたみずいろだったカレンダー一枚ぜんぶ休日だった
富尾大地

どこへでも行こうと思えば行けるからどこへも行けない天上きれい
二宮珊瑚

連休を知らぬ私は平日に一番高いクレープ食べる
中里正樹

三席 私 女の声いくつも出して休日のわたしを電化製品が呼ぶ
北清水麻衣子

チンアナゴ見つけてひざまづく君がすこし人間からとほくなる
佐藤研哉

二席 私 休日はだあれも傷付けなくていい裸足で床をやわく踏みつつ
浅香由美子

▪ものがたりの深みへ
「ローマの休日」のアフレコ

普通の女の子バージョン
雨のなかを歩いてみたいの今日だけは微笑みを大笑いに変えて
大森静佳 ⑥⑧⑤⑤⑨
王女バージョン
叶うならきみに隣でえりあしに雨のしずくをまとって歩む
大森静佳

▪言葉のバトン
青々と匂う木々たちリズム風
長沼七海 書店員

バンドやろうか還暦だもの
國兼秀二「短歌研究」編集長
短歌研究は寺山修司らもデビューさせた
「アイドル歌会」も企画
短歌の世界と短歌じゃない世界との
通路を作って出入りを自由にすること
そのガイドをするのが役目だと思っている
売れることだけがすべてじゃなくて
自分のために(短歌を)作ってきた人たちもたくさんいて
短歌の文化はその人たちが担っているところがすごくあるんですね
本当に還暦バンド始めました 楽しいですよ 
含羞(がんしゅう):はじらい もありつつ
「まあいっか」みたいなところを
「還暦だもの」という言葉に込めてみました

2024年7月21日日曜日

100分de名著 キャンベル「千の顔をもつ英雄」(3)

ミニトマト四つ目の花つけにけり
雲の峰アイススラリー吸い込まん
かみ砕くアイスキューブや玉の汗
鳶の一声黙る鴬ひかた
目を閉じる遠のく意識溽暑かな

■100分de名著 キャンベル「千の顔をもつ英雄」(3)
イニシエーション試練をどう乗り越えるか
佐宗邦威(くにたけ) 伊集院光 安部みちこ

結婚はメンターとの出会いなのか 試練なのか

英雄の旅「試練」
①試練の道 ②女神との遭遇 ③誘惑する女
④父親との一体化 ⑤神格化 ⑥究極の恵み

外的な試練と内的な試練がある
外的な試練…敵との戦いなど物理的なもの
内的な試練…葛藤や迷いなど精神的なもの

未来のブッダ ゴーダマ・シッダールタの試練
この恐ろしい神は、象に乗り、一〇〇〇の手に武器を持って現れた。(中略)
カーマ・マーラは攻撃を始めて、ゴーダマの瞑想を止めさせようとした。
つむじ風、岩々、雷と炎、血煙のあがる鋭い刃剣、燃える炭、
熱い灰、煮えたぎる泥、火傷するほど熱い砂、四重の闇―
敵対する神は救世主に襲いかかった。
しかし飛んでくるものはすべて、ゴーダマの一〇の
修業の力によって天の花や薬に姿を変えた。
するとカーマ・マーラは、愛欲、焦慮、渇愛という
三人の娘に官能的な供人をつけて送り込んだ。
しかし「偉大なる者」の心は取り乱すことがなかった。
ついにカーマ・マーラは「菩提の座」に座るのは自分である、
と異議を唱え、怒って鋭い切れ味の円盤を飛ばし、山の岩を
ゴーダマに向かって投げつけろ、と大軍隊に命じた。
しかし未来のブッダは手を動かして指先で大地に触れるだけ。
そうして、自分こそ今いる場所に座るものであることを
示して欲しいと、大地の女神に頼んだ。

英雄を助ける存在
シンクロニシティ
試練 人生のどん底で気づいたこと
伊集院光
イジュウイン・クエストの一試練
自分が頑張っているのに周りは頑張ってくれない
そう思うこと自体が違うと気づいた
試練の時に感じたことを書き出してみる
自分神話が出来上がっていく

安部みちこ
評価されようと思ってやる努力は続かないし実らない

試練を乗り越えて得る成果
「眠りの森の美女」は美女の中の美女の典型で、あらゆる欲望に
応える存在であり、英雄のこの世やあの世での深策が目指す、至福を
授ける目標である。美女は母であり、姉であり、恋人であり、花嫁となる。

英雄は試練を乗り越えることで人間性が大きくなり
異性を理解し受け入れられる 力を持ちようになる

聖なる座薬 伊集院光氏と奥さまが結婚されるきっかけとなった

英雄たちの内的な試練
英雄の旅「試練」
①試練の道 ②女神との遭遇 ③誘惑する女
④父親との一体化 ⑤神格化 ⑥究極の恵み

誘惑する異性に惑わされる
父親との一体化 英雄にとって自身の父親が畏怖の存在
ぶつかり合ったり 時には戦ったり 時には対話して和解したり
父を乗り越えることを経て英雄は個人として自立していく

若者よ、お前の父を探しに行け
英雄が父親に会いに行くという課題は、恐怖に対して心を開き、
この広く無慈悲な宇宙の、気分が悪くなるような狂気の悲劇が、
「存在する者」の威厳の中でどのように完全に認められるのかが
理解できるほどに成長することである。
英雄は、特有の盲点がある命を飛び越し、命の源泉をかいま見て、
しばらく立っている。そして父親の顔を見、理解して、
父と子は一体化するのである。

英雄の試練 父との一体化
伊集院光
父親と対峙していない
佐宗邦威
向き合ってみると 父の呪縛みたいなもので
抑えられていた自分から解放される
イジュウイン・クエストにおける父とは…
最晩年に師匠と対話した 師匠との対話の日々で
自信を持てたり 思い直せたりした 間に合って良かった
芸能界の父とは納めることができた

苦しまなくても生きていける、と言っている神話には、
一度も出会ったことがありませんね。神話は私たちに、
苦しみにどう立ち向かい、どう耐えるか、
また苦しみをどのように考えるかを語ります。
しかし、苦しみがない人生がありうるとか、人生に苦しみは
あるべきでないとか、そんなことは言っていません。
「神話の力」訳飛川茂雄

佐宗邦威
苦しみは人生の大事なファクター
苦しみに対してどう生きていけがいいか神話は教えてくれる
あえて試練を受ける
スウェット・ロッジとは
アメリカ先住民が浄化などを目的に行う伝統的な儀式
人工的に試練を作った経験 初めて他人に甘えた
伊集院光
理由なく嫌いだったことをやってみよう
嫌いなことは見逃していることが多い
小さな修業でも試練を感じてみる

英雄の究極の試練

もし人が真の問題はなんなのかを自覚したら
-自我をなくし、自分より高い目的のために、
あるいは他者のために自分を捧げたならば
そのこと自体が究極の試練だと悟るはずです。
自我や自己保存を第一に考えるのをやめたとき、
私たちは真に英雄的な意識変革を遂げるのです。
「神話の力」飛田茂雄

2024年7月20日土曜日

偉人・敗北からの教訓 第52回「聖徳太子」

梅雨末期存在感を示す蟬
牛蛙おやつ頬張る待ち時間
マーケット冷気を纏い深呼吸
とれとれの保存しきれぬ夏野菜
襲い来る異様な暑さ過疎の街

■偉人・敗北からの教訓 
第52回「聖徳太子・アジアの超大国との外交交渉」

聖徳太子 隋や唐と対等の外交を結ぼうとした人
冠位十二階 憲法十七条 国家の基盤を整えた人物

聖徳太子の栄光と敗北
574年 奈良県明日香村に用明天皇の皇子として誕生
580年(数え年7歳)仏教に関心を持ち読経を日課
曽我氏とともに物部氏と争う丁未(ていび)の乱 
593年(聖徳太子20歳) 推古天皇の摂政となる
冠位十二階 603年(聖徳太子30歳)
憲法十七条604年(聖徳太子31歳)
仏教の普及による国家の安定
寺院の建立 仏教の普及による国家の安定
遣隋使を送り文化や技術を吸収 607年(聖徳太子34歳)
日出つる処の天子 607年(聖徳太子34歳) 日本に勅使と国書
聖徳太子の敗北 隋に見下された日本
成功の裏に隠された敗北
何故聖徳太子は敗北を喫したのか❓
豪族が各地に割拠して国家としては非常に未成熟な状態
620年蘇我馬子とともに「国記」「天皇記」を編纂
622年(聖徳太子49歳)斑鳩宮にて死去

天皇は畿内の豪族たちの盟主的な立場だった
隋が仏教を国教にしたことでアジア全体に広がった
宗教は政治・社会・文化に大きな影響力を持っていた
渡来僧は仏教の知識だけではなく
科学技術・医療・建築・土木あらゆる知識を持っていた

敗北の伏線~聖徳太子の目指したもの~
三宝とは仏・法・僧
「以和為貴」この国には和の心こそが何より必要だ
・仏教を学び広めることで秩序ある国家を創造する
・朝鮮半島での地位を向上させ貢物を得て中央集権体制を築く

聖徳太子 敗北の伏線
・大きな変革には外部から新たな知識や情報を手に入れることが必要
・情報や資源の入手経路を安定的に確保する

理のある国家だと隋に示すための大事業
日出づる処の天子 書を日没する処の天子に致す
なぜ倭の蛮族が天子を名乗っている 世に天子はワシ一人だ
隋から返答の国書
皇帝からの国書 勅使 裴世清(はいせいせい)
隋に完全に見下されていた
裴世清は親善とは異なる使命を受けていた
尚書祠部(しょうしょしぶ) 礼儀を司る役職
小野妹子は国書紛失の罪は許され 後に最高位 大徳を授かっている
この事から国書の紛失はわざとだった
遣隋使は屈辱的な敗北に終わった

聖徳太子 敗北の瞬間
・強大な相手に対して身の丈に合わない関係性は意味をなさない
・本来の目的達成が重要

敗北をももたらしたもの~聖徳太子のレガシー~
日本の政治に根本的な変化を与えた
遣隋使前 夜に「祭事」を行っていたが
遣隋使後 朝に「政」を行うようになった

後に太子信仰と呼ばれるようになった
「和を以て貴しと為す」の解釈
あえて「以て」という言葉が入っている
ここに深い意味があると思う
当時の官僚 大臣(おおおみ)・大連(おおむらじ)・
国造(くにのみやつこ)が自分の利益ばかり追求している
議論や訴訟が物別れに終わりそうになっても
和の精神を貴び歩み寄りを見せてくれ

聖徳太子の敗北から学ぶ教訓
相手の気持ちを洞察するべし

2024年7月19日金曜日

夏の満員電車で一句

紫陽花の出迎え受けん雲辺寺
紫陽花の満開迎えた雲辺寺
梅雨末期連日止まぬ窓の外
梅雨の雷鍛え過ぎたる鈍感力
梅雨の空すぐに伸ばせぬ腰抱え

■プレバト纏め 2024年7月18日
夏の満員電車で一句

特別永世名人締めのお手本   梅沢富美男
帰省子(きせいし)のデッキに立ったまま眠る
(帰省子とは夏休みに故郷に帰る人 夏の季語
 小さな疑問 たまたま見た光景 帰省とはっきり言えるのか❓
 俳句は微妙なところも書き分けられる ニュアンスを入れられる
 いろんなことをやって欲しい)
帰省子デッキに立ちしまま寝る

特待生昇格試験   的場浩司
電車降り夜空に息を吐く溽暑
(溽暑は梅雨の終わりころの夏の季語 得意な方向性が見えてきた
 自分の体験をきっちり言葉にした時は成功 体験は大事にした方がいい
 満員電車とは書いていないがぎゅうぎゅう詰めだったのでは❓と想像させる
 溽暑をもっと生臭いものにする 空は空間が広くなる 息の生臭さが薄まる
 空を消して展開する 体に蓄積していくとおっちゃんに追いつける日が来る)
電車降り夜溽暑息を吐く

1位 金子恵美
ラッシュ降り消(け)残る皺や麻スーツ
(経験を文字にすると共感という評価が生まれてくる
 残っている皺を「や」で詠嘆 最後にタネ明かし
 消え残る字余りを消残る(けのこる)という古語を探し当てた
 現代のリアルな光景に古語消残るがなじんでない 
 特待生になるための添削)
服にラッシュりけり

2位 稲田美紀
止まらない揺れる想いと脇汗が
添削(汗は夏の季語 落の近い所にオチが入っている
   詩の質としては食い足りない 滂沱 汗や水が激しく流れ落ちる様
   乙女チックに着地するので脇汗が嫌な感じにならない 
   汗臭さが和らぐ 乙女の句恋の句にはなった)
脇汗の滂沱想い揺れている

3位 山田邦子
メイク落ち極暑の車窓あんた誰?
添削(この句は俳句というよりネタ あんた誰?が諸悪の根源
   映像を作っていく)
極暑なる車窓メイク落ちし

4位 KEIKO
飛んできた謎の水滴梅雨であれ
添削(意味不明の句 隣の人の傘から水滴? 
   「謎」かっこいいと思った言葉がいちばん罪深い 
   直したところでつまらない)
満員電車水滴は汗か梅雨

5位 薮宏太
幼子を守る隙間に青田風
添削(青田風とは青々した稲を波打たせる風 青田風は空間が必要
   わざわざ隙間に吹かせる この成長を青田風で象徴したかった
   季語を比喩に使うと鮮度が愕然と落ちる)
が潰れそう満員の冷房車

次回のお題「ラーメン」

2024年7月18日木曜日

あの本、読みました?夏川草介

夏の雨笑ひ悲しみ日の暮れて
7年で新規パソコン夏の雲
明早しスマホ3年買い替えん
半導体が株価直撃熱き日よ
雲の峰買い替え需要また来たる

■あの本、読みました?
~医師作家が書いた医療小説SP「神さまのカルテ」夏川草介
海堂尊 久坂部羊 知念実希人 夏川草介
本と医者
ドクター作家の《医療小説》はなぜ面白い?
小木田順子 秋谷りんこ

「泣くな研修医」の一文
中山祐次郎著/幻冬舎文庫
「救急隊からの情報ではチャイルドシートに乗っていたそうだ。
あ、この子は五歳な」ガーゼを外すと、お腹から腸が飛び出している。
思わず隆治は外したガーゼでもう一度お腹を押さえてしまった。
「先生!腸が見えてます!」
(中略)
―こんな小さい体なのに…。そう思ったその瞬間、隆治は、
不意に立ちくらみを感じた。「ちょっとすみません」
そう言うと、手術台から離れてガウンを脱ぎ手袋を外した。
視界がぐにゃりと歪む。
(中略)
「まあ手術終ってたからよかったよ、倒れるタイミングが
優秀だね君は」「すみません」倒れる時に頭を打ったのだろうか、
後頭部にズキンと痛みを感じた。
触ると皮下血種(たんこぶ)ができていた。
外科医は手術室で医師やナースが倒れるのに慣れているのか、
それほど心配されていないようだった。
隆治はただ謝るしかなかった。

同僚が研修医時代を思い出して涙!?
リアルな手術を描きすぎて…
編集者は永遠の素人

元看護師・作家の秋谷りんこも参考にした「泣くな研修医」

「泣くな研修医」の一文
中山祐次郎著/幻冬舎文庫
両親に軽く頭を下げると、隆治は部屋を出た。
ナースステーションには岩井がいた。隆治を待っていたようだった。
「悪いんだが、今日は泊ってくれるか」
「はい、泊ります」「すまんな。んで、お看取りの時間は呼んでくれるか。
来れたら来るから」―え、お看取り…?「はい」
「じゃあちょっと外来行くから」「岩井はそう言うと、立ち去った。
(中略)
とりあえずナースステーションの椅子に座ると、
見るともなしに電子カルテにログインした。
イシイの名前をクリックしてカルテを開く。
自分が少し前に書いた文章が表示された。
[ご両親に説明
「昨夜大量に嘔吐し誤嚥性肺炎をきたした。
挿管をしなければ酸素化が保てず死亡する
可能性が高いが、挿管しても数日程度の
予後延長が期待できるだけだとかんがえられる」
それに対してご両親は「わかりました。
挿管はしないで結構です」とお返事。
挿管はしない方針とする]

秋谷りんこが心震えた3行
おおむね説明通りの経過であることにかすかな
満足を覚え、すぐにその満足を打ち消した。
―何を考えているんだ、俺は。

「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと」
中山祐次郎著 幻冬舎新書
中山祐次郎が「泣くな研修医」を書いた理由
病院にファンレターが…

「ナースの卯月に視えるもの」
秋谷りんこ著/文春文庫
大岡さんは、重症低血糖症のあとに意識が戻らず、
長期療養型病棟に転棟してきた。
私はベッドの足側に立って呼吸の確認のために
腹部を照らす。
そのとき、喉まで出かかった悲鳴をなんとか飲み込んだ。
とっさに足を一歩引いてしまう。
そこに見えたのは、ベッドの柵を握っている小さな白い手。
大岡さんの顔を照らさないように気を付けながら、
手の持ち主にそっと光を当てる。
ベッドサイドに、十歳くらいの女の子が立っていた。
(中略)
そこにいるのは、本物の女の子ではなく、
大岡さんの「思い残し」なのだ。私はあるときから、
患者が「思い残していること」が視えるようになった。
(中略)
そして「思い残し」は、どうやら患者が
死を意識したときに現れるらしい。
私が「思い残し」を解消すれば、患者は思い残すことを
一つ減らしてより安らかに闘病できる、と思っている。

看護師から作家に転身した理由
元同僚が口を揃えて…

秋谷りんこが考える医療小説のGenre
1 謎解き・犯人探しにハマる「ミステリー系」
2 思わずイッキ読み「エンタメ系」
3 泣いちゃうこと必須「感動系」

秋谷りんこ一推しの医療系小説
1「チーム・バチスタの栄光」海堂尊著/宝島社
海堂尊が講演で話した医療小説のおもしろさとは❓

2「イン・ザ・プール」奥田英朗著/文春文庫
「ストレス性の体調不良」あっさりと言われた。
「と言うことは、わたしの胸が苦しくなったり下痢が続いたりするのは、
ストレスが原因だと…」「そう」伊良部が口の橋を持ち上げる。
やけに淡白な答え方だった。
(中略)
「つまりストレスなんてのは、人生についてまわるものであって、
元来あるものをなくそうなんてのはむだな努力なの。それより
別のことに目を向けたほうがいいわけ」「と言いますと…」
ほう、何か策でもあるのかと思った。
「たとえば、繁華街でやくざを闇討ちして歩くとかね」
和雄が三たび眉間にしわを寄せた。「これはシビれるよ。
つまらない悩み事なんて確実に吹っとぶ。
なにしろ追われる訳だからね。
命すら危ないときにどうして家や
会社のことなんかにクヨクヨできるのよ」
本気で言っているのだろうか。軽いめまいがする。

小木田順子一推しの医療系小説
「医学生」南木佳士(なぎけいし)/文春文庫
作家・中山祐次郎に影響を与えた「医学生」
「悩め医学生」中山祐次郎/幻冬舎文庫

3「神様のカルテ」夏川草介著小学館文庫
魅力あるキャラクター
「私はドクトルに謝やなければなりません」
ふいに学士殿が口を開いた。
少し血の気の戻った顔色で、表情には静穏がある。
(中略)
「ニーチェの研究も、論文の作成も全て噓なんです」
吐き出された言葉は、痛切なものであった。
(中略)
「…しかし、嘘は嘘です。ドクトルたちを騙していたのです。」
「噓ではない!」
*ドクトル=栗原一止
私は自分で自分の声の大きさに驚いた。
姉君までびっくりして私を見上げる。かまうものか。
「嘘ではないのだ、学士殿。あなたの博識は事実だ。
高卒だろうが大卒だろうが、古今東西の書籍に通じ、
ドイツ哲学に造詣深く、ニーチェを語らせればその弁理と博識は、
他を圧して余りある。そのことは誰よりも私がよく知っている」

「学問を行なうのに必要なのは気概であって学歴ではない。
熱意があって体裁ではない。大学などに行かずとも、
あなたの八畳間はまぎれもなく哲学の間であった。
あの部屋には思索と英知が溢れ、ひらめきと発見があった。
こんなことは今さら言葉にするまでもないことだ。
八年はすごしたその探求の道になにを恥じ入ることがある」

夏川草介
作家になった理由は妻の無茶振り!?
作家だとは知らない患者さんも…
「スピノザの診察室」夏川草介著/水鈴社 
本屋大賞第4位 映画化決定

大学病院の作品はおおむね悪者に描かれている

「スピノザの診察室」の一文 夏川草介著/水鈴社
帰国した花垣は、とくに変わった様子も見せずに、
必要に応じて原田病院にやってくる。
改まって感謝を口にしたり、気を配ったりする様子もない。
それは、哲郎が大学を去ったときに、
哲郎の謝罪や礼を一切受け付けなかった態度と同じだ。
(中略)
互いに必要があれば手を差し伸べ、足を運ぶ。二人にとっては、
ただそれだけのことなのである。
「今度のは、なかなか面白い症例でな」
(中略)
モニター上に、CTとMRIの画像を並べながら、
「まあとりあえず、この前みたいに大学に来てくれって話じゃない。
画像とデータを見て意見を聞ければいいんだ」「そりゃそうですよ。
そう何度も内視鏡室に忍び込んだら、さすがに見つかるでしょう」
(中略)
下町の古びた診察室が、たちまち最先端医療の
カンファレンスルームと化している。
哲郎は、画像を見つめたまま、長五郎餅の箱を開け、
ひとつを手に取った。
「でもまあ、なんとかなると思いますよ」「俺もそう思う」
阿吽の呼吸が、二人の内科医の間に往来した。

大学病院と地域病院との理想の関係を描きたい
主人公・雄町哲郎のモデル!?
最も厳しい編集者は妻

「スピノザの診察室」の一文 夏川草介著/水鈴社
奥の八畳間に置かれた机のそばまで歩み寄ったところで、
南が息を詰め足を止めていた。
黒く固まった血液の塊の上に、仰向けに倒れていたのは、
まさしく辻であった。「お久しぶりですね、雄町先生」
壁際に立っていた背の低い中年の警察官が、
のそりとまるい身体を押し出した。
(中略)
「ちゃんと薬を飲んでいたかどうかも微妙なんじゃないですか❓」
「薬は飲んでくれていたと思いますよ。
ただ、生活保護を拒否していた方でしてね」「生保を拒否?」
(中略)
「財布の中に入っていたんです。
たいした現金も入っていない札入れに。
見逃すところでしたが、裏の走り書きは、
もしかしたら先生宛やないかと思うて…」
(中略)
「おおきに 先生」たった六文字であった。
たった六文字が、震えるような筆致で記されていた。

リアルな現場「感謝」と「憎悪」

夏川草介のあの本、読みました?
「山月記」中島敦著/文春文庫
人生に影響を与えた「山月記」
ここで夏川草介氏による朗読(暗記)を聞かせてくださいました。

「隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)は博学才穎(さいえい)、天宝の末年、
若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こうなんい)に補せられたが、
性、狷介(けんかい)、自みずから恃(たのむ)ところ頗(すこぶる)厚く、
賤吏(せんり)に甘んずるを潔(いさぎよ)しとしなかった。
いくばくもなく官を退いた後は、故山(こざん)、
※(「埒のつくり+虎」)略(かくりゃく)に帰臥(きが)し、
人と交(まじわり)を絶って、ひたすら詩作に耽(ふけ)った。
下吏となって長く膝(ひざ)を俗悪な大官の前に屈するよりは、
詩家としての名を死後百年に遺(のこ)そうとしたのである。
しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐(お)うて苦しくなる。
李徴は漸(ようや)く焦躁(しょうそう)に駆られて来た。

参照:https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/624_14544.html

2024年7月17日水曜日

北里柴三郎 ザ・プロファイラー選

梅雨の雷花芽をつけたミニトマト
弱々しい挿した脇芽やさつき雨
沼酸槐(ぬますぐり) 鳥に横取りされし夏
夏の鳥徒党を組みて沼酸槐(ぬますぐり)
鳶鳴けば鳴りを潜めん夏の鳥

■ザ・プロファイラー選 伝染病に立ち向かえ!北里柴三郎
予防医学の礎を築いた
人に熱と誠があれば何事も達成する
破傷風、ペスト等の未知の病を解明 医学の進歩に貢献
日本人初!ノーベル賞候補に
国民の衛生状態を向上させたい

医者と坊主は一人前の人間がする仕事ではない 「北里柴三郎伝」
1853(嘉永5)年 熊本県に9人兄弟の長男として誕生
「肥後もっこす」そのままだった
日本ではコレラ・赤痢の大流行で死者10万人も出ていた
柴三郎5歳のときに弟と妹を疫病で失う
1871(明治4)年18歳 職業軍人になることを志した
しかし両親は猛反対 医者になるべく医学所への進学を薦めた
オランダ人医師のマンスフェルトとの出会い
柴三郎は語学だけを学び将来は軍人になりたいと話した
「今日一日も無駄にしてはいけない」と助言された
「医学も決して無用な学問ではない」と言われた
マンスフェルトは柴三郎に顕微鏡を見せた
柴三郎は異常な興奮を覚えた
そして「医学もまた学ぶに足りる」と思った
1874(明治7)年21歳 東京医学校に入学
演説会、討論会、ストライキなどの参加し活躍した
1878(明治11)年25歳 「医道論」
自分の目指す医学について記されていた
目指すは治療医学ではなく予防医学だった
人民に健康法を説いて身体の大切さを知らせ
病を未然に防ぐ これが医道の基本
1883(明治16)年30歳 東大医学部を卒業
乕(とら)16歳と結婚 仲睦まじく後に4男3女を儲ける
北里は内務省の衛生局に勤務
月給 地方病院の院長 210円 内務省衛生局 70円
学術を研究し国民の衛生状態を向上させたい(研究所員の証言)
2年後 1885(明治18)年32歳 医学先進国ドイツに留学

第1回ノーベル賞の最終候補になった
1886(明治19)年32歳 ベルリン大学(現フンボルト大学)
率いていたのは細菌学者ローベルト・コッホだった

私はその時ドイツ語のうまい日本人が来たという印象しかなかった
(後年のコッホの証言)
来た里菜珍しい男です 我々ドイツ人にも彼ほどの勉強家は見当たらない
(北里柴三郎伝)
細菌学は最新の学問で1年2年では学びえない事だけはお分かりでしょう
細菌学研究に関しては私に一任していただきたい
(北里柴三郎伝)
研究室にとどまり 破傷風の研究で成果を収める 
純粋培養(特定の菌だけを取り出して培養すること)
北里は諦めなかった 亀の子シャーレを開発
1889(明治22)年36歳 世界で初めて破傷風菌の純粋培養に成功する
菌そのものではなく破傷風菌が出す毒素を入れた 
血清を患者に注射することでたちまち完全が見られた
結果抗体ができそれが免疫となったのである
血清療法を呼ばれた
北里とベーリングの共同論文(1890年)
「動物におけるジフテリア免疫と破傷風免疫の成立について」
しかし第1回ノーベル医学・生理学賞受賞したのは 
エミール・フォン・ベーリングだった
後に彼が語った言葉
私が短期間で研究を完成できたのは北里の感嘆すべき
破傷風の研究結果と彼の協力があったからである

北里は1901年に帰国していてコレラ・赤痢に対する対策に
忙しくしていた ノーベル賞について頓着していなかったのではないか

学び得たすべての術で我が同胞の苦しみを救いたい
(ケンブリッジ大学へ送った手紙)

1892(明治25)年39歳 日本に帰国
内務省では新たな研究所を計画 これに横やりを入れてきたのが文部省
文部省と北里との確執が原因だった
脚気とはびたみんB1の欠乏によって下半身のしびれや心不全を起こす疾患
1885年緒方正規 東京帝国大学教授が脚気の原因は脚気菌と論文で発表
北里は脚気の原因を強く否定したのだった
その説に非があるとすれば たとえ父子兄弟師弟といえども
批判すべきなのが学者の一大義務と考える
(医学雑誌に送った手紙)

研究する場所もなくしてしまった北里に手を差し伸べたのは福澤諭吉翁だった
優れた学者がいるのにそれを無駄にするのは国の恥である
(北里柴三郎伝)
1892(明治25)年39歳 私立伝染病研究所 設立
ジフテリアの治療では成功率90%
若手の指導では「肥後もっこす」を貫いた
所員は敬愛を込めて「ドンネル(雷)」と呼んだ

北里先生のところへ行きますと何だか威圧された
押っかぶせられたようなかんじがいたしました
しかし どういうものか甘えてみたいという気分も致しました
野口英世や志賀潔のような優秀な研究者が育っていった
(部下の証言)

私は大学を出たばかりの若造だったから
先生の研究助手というのが本当であった
然(しか)るに論文を発表するに当り
先生は私一人の名前で書くように言われた
赤痢菌発見のてがらを若僧の助手1人にゆずった先生を
私はまことにありがたきものと思うのである
(人間の記録5 志賀潔 或る細菌学者の回想)

1894(明治27)年41歳 香港でペストが大流行
2名の研究者が感染 一命はとりとめた
ペスト菌を発見 帰国後着手したのはペストの予防対策
血清の開発も進めた 法律の制定にも着手 
1897(明治30)年43歳 伝染病予防法 制定
1899(明治32)年46歳 内務省管轄の国立伝染病研究所になる

学問や知識は人々に普及させなければ
世のためにならない
ことに医事衛生においては学問と生活を
結びつけるのが学者の責務である
(北里柴三郎伝)

ドイツのコッホ研究所 フランスのパスツール研究所 
と共に世界三大研究所と呼ばれた

1914(大正13)年61歳
内務省から文部省に移管されるという通達を受けた
研究機関である伝染病研究所は文部省が監督すべき
東京帝国大学の傘下に入れるというものだった
これは北里にとって受け入れがたいものだった
1914年10月20日
私は昨日きっぱりとこの職を辞した 
しかし諸君らにはまだ開かれた未来がある
一路研究に励み国家のため学問のために
ますます奮励されることを望む

北里先生が去られ我々だけが留まるわけにはいきません
研究員35名も辞表を提出 ほぼ全員が研究所を辞めた
(北里柴三郎伝)

今度自分は伝研を辞め若い者に意思を継がせたいと再三話したが
どうしても行動を共にすると言って聞き入れてくれない
皆の熱意を無視するのも忍びないので
それに伴う資金に貯金の大部分を当てたいが(北里)
どうぞ役立てていただきましょう(乕とら)
(息子の証言)

北里は61歳のとき研究所を退職し資材を投じて研究所を作ることとした
1915(大正15)年62歳
この研究所で取り組んだのはスペイン風邪と結核の対策
スペイン風邪はウイルス性のインフルエンザ

1931年6月13日 北里柴三郎 死去(78歳)
脳溢血で倒れ人生の幕を閉じた

2015(平成27)年 北里研究所 大村智氏受賞
受賞理由:線虫感染症の新しい治療法の発見

2024年7月16日火曜日

100分de名著 キャンベル「千の顔をもつ英雄」(2)

梅雨末期くせ毛益々ゆがみをり
食べ終えて居間から寝言簟(たかむしろ)
滴りの音を求めて山の道
レンジで作る冷索麺(ひやそうめん)や舌鼓
夏の居間枕抱きて高いびき

■100分de名著 キャンベル「千の顔をもつ英雄」(2)
出立-冒険への合図にどう気づくか
ジョーゼフ・キャンベル(1904~87)
旅立ちの時…運命に導かれし夕社は未知なる世界へと踏み出す
佐宗邦威 伊集院光

現実の生活に退屈している主人公に冒険の合図 お告げが突然訪れる
すぐに冒険に出ようという場合もあれば迷う葛藤してしまう時もある
自分のこととして英雄の物語を考える

未来のブッダ ゴータマ・シッダールタの出立
未来のブッダが御者に声をかけた。「ねえ、きみ、この人は何だろう。
髭までほかの人と違うが」そして御者の返事をきくと、こう言った。
「生まれなければよかったのに。
生まれれば、老いは必ず訪れるものなのだから」
心をかき乱された未来のブッダは、すぐに引き返して宮殿に戻った。

冒険への召命

どう見ても偶然としか思えない失敗が予想外の世界を見せ、
その人は正しく理解できない力との関わりに引っ張り込まれる。
フロイトによると、失敗というのは偶然の産物ではない。
それは抑圧された願望と葛藤の結果である。
思いがけなく現れた泉が生み出す、人生の表面に立つさざ波だ。(中略)
失敗は運命の入り口といっていいだろう。

佐宗邦威
企業家が悔しさや屈辱が原体験となって
逆にチャレンジができるという話もある
それが将来のジャンプのきっかけとなっている

伊集院静
失敗が出発の合図 冒険のスタート

日常の中で出発の合図に気づくには❓

佐宗邦威
ネットの時代自分の好きな情報や最適化された情報を見てしまう
日々心地の良い環境で生活しやすい 生活に変化が入りにくい時代
旅の出ること その場に行くことで生まれる偶然に身を委ねる
同じ一週間の旅でも予定を詰め込み過ぎない旅をする

伊集院静
予定をメチャクチャ詰める 必ず失敗する 旅がおもしろくなるのは
予定を分刻みで立て 序盤にダメになる ダメになって仕方なく
行った所で面白いことが起こる ドジを踏む才能に溢れていた
いつもと違うことをやってみる

英雄はなぜ召命を拒否するのか
現実の人生ではよくあることで、神話や有名な話の中でも
珍しいことではないのだが、召命に応えない、という面白くない展開に
出くわすことがある。(略)この拒否とは本質的には、自分の利益になると
思われることを断念したくない、という拒否を意味する、と
世界中の神話や民話ははっきり示している。

佐宗邦威
旅に出ることは地位や安定した生活を捨てることを意味する
安定の方にとどめておく「現状維持バイアス」
直感ではやりたい でも 理性では安定したいと迷った時は
直感を信じて前に一歩出なさい という神話の教訓

「英雄の旅・召命」の経験
伊集院静
高校を辞めて古典落語の世界に入ったことは冒険のスタートだった

キャンベル
召喚を拒否すると、冒険は消極的な形をとることになる。
退屈や激務、または「世間」に囲まれて、当の本人は
重要で肯定的な行動力を失い、救いを求める犠牲者になる。
花開く世界は石だらけの荒野になり、人生も無意味に思えてしまう。

佐宗邦威
「救いを求める犠牲者」直感を拒否すると受け身になる
被害者意識が強くなる 

英雄の旅の最初に出会うのは、これから遭遇する恐ろしい力に
対抗するための魔除けを冒険者に授ける守護者
(たいていは小さく皺だらけのおばあさんかおじいさん)である。
英雄を導き助けるために擬人化された運命とともに、
英雄は冒険に踏み出し、強大な力の領域への入り口で
いよいよ「境界の守護者」に出会う。
管理人の向うにあるのが闇や未知、危険である。
親の監視から離れると子どもに危険が及び、
社会の保護から外れると、部族の成員に危険が
もたらされるのと同じことが起こる。

メンター(助力者)という存在

伊集院静
自分の人生のヨーダ(メンター)はこの人なんじゃないかという
考え方ができると見逃している人や無視していたアドバイスを
聞くことができるんじゃないですか 俺の物語にもメンターが
いる可能性が高い 落語の世界に誘ってくれたのは
師匠の師匠の弟 普通の書店のおじさん 
神話におじいちゃん おばあちゃんが出てきて
若者が育つうえで助言する 本能的に人間はメンターの力を
借りて育っていく生きていく 神話が教えてくれるのは
ちゃんとメンターの存在を感じなさいということ
自分の人生においては主役なんだけど 
他の人の人生に対してはメンターだったりする

英雄が境界を超える時

佐宗邦威
主人公はここで覚悟が決まる 今までの自分が死んで
新しい自分になっていく 

イジュウイン・クエストをどういうイベントを
自分は乗り越えてきたのか

キャンベル
私たちはひとりで冒険に挑む必要がない。
かつて英雄たちがすでに私たちの前を歩いているからである。
迷宮の正体もすっかり知れている。
私たちは英雄が用意してくれた糸の道をたどればいい。

2024年7月15日月曜日

兼題「目高」&テーマ「旅」

Lesson着Lesson後の汗と香
夏の朝鳶の悲鳴の響きをり
喉を締め喘(あえ)ぐ夏鳥群れをなし
送り梅雨(おくりづゆ)人生いつも予定外
開店前ドラレコ止めて拭う汗

■HHK俳句 兼題「目高」
選者 西山睦 ゲスト すずき巴里 司会 柴田英嗣
年間テーマ「やさしい手」

涼しさや子どもの視線に膝をつき   西山睦

▪俳句三選
植物(自然)
腕白を撫でれば素直ゐのこづち   すずき巴里
乗り物(バス)
風薫る町をピンクの園児バス   すずき巴里
子どもたちの俳句
すいちゅうかみずがにおいをかぎました   水井智(とも)菜(6歳)
ゆきあそびつかれてねむるそりのうえ   山来依央(5歳)

▪今週の兼題 兼題「目高」
めだかアリマス刃物トギマス日商い   手塚直人
目高からモールス信号の便り   村越縁(ゆかり)
目高切り返す志望校下げよう   四條たんし
反抗期目高の餌はちゃんとやり   髙山俊郎
ごはんだよ目高の耳に云うてゐる   北清水麻衣子
先生がいちばん陽気目高取り   滝田孝子

▪特選三席の発表
三席 出鱈目な父の鼻歌めだかへ餌(え)   播磨陽子
二席 目高散るときをり空のいろとなり   押見(おしみ)げばげば
一席 アダムとイブ目高一対水甕(かめ)へ   佐藤強

▪俳句やろうぜ
若手俳人探査隊長 黒岩徳将

ユーモアとわかりやすさの俳句
筑波大学3年生
ぱんと言うてもぴゅうと出る水鉄砲   西野結子(22歳)

俳句甲子園 西野さんの好きな句
新涼や嫌いなやつの良いところ   武田鮎奈

▪柴田の歩み
人のまねをしない
「嬉しい」「楽しい」は使わない

■NHK短歌 テーマ「旅」
選者 俵万智 ゲスト 矢部太郎 司会 ヒコロヒー
年間テーマ「光る愛の歌」

ふるさとの母のぬくもり部屋中に母は機織り趣味なんです…よ
矢部太郎

▪入選九首 テーマ「旅」
取りやめた二泊三日のローションがプラスチックの小瓶に揺れる
小野小乃々(おののこのの)
二席 私 引き出しに日本中の耳かきがお国自慢のこそこそ話
澤美奈子
「物産展にもあるけれど」きみの手が運んでくれた白い恋人
吉野夏海
ハセガワの足の長さがバレるので修学旅行は制服でいい
福永昭子
遠足は屋内レクにおぼろ昆布で包むおにぎり
塩本抄(しょう)
私 千葉のをのこが神戸のめのこに声かけし修学旅行のありて我あり
印出(いんで)美由紀
一席 旅先の窓に干柿吊るされて私のいない明日を思う
髙田祥聖(しょうせい)
三席 この国の水の硬さに手を濡らすホテルのシャワーがお湯になるまで
久藤さえ
私 旅でなく旅行と呼べばそのうちにふらっと帰ってきそうな葬儀
仲原佳

▪「光る君へ」で短歌を10倍楽しもう!
かきくもり夕立つ波の荒ければ浮きたる舟ぞしづ心なき
紫式部
万智訳
曇る空、夕立に波荒くなり不安に揺れる船も心も

短歌づくりのポイントは「引き算の美学」
・表現の「引き算」で読者に想像の余地を
説明をたくさんするほど伝わる訳ではない
余白を残して想像の余地も含めて手渡す勇気
短歌はすごく短い詩のかたちなので それが
できるかできないかはすごく大事なこと
足し算でつめ込んでしまいがち安心したくなるが
「引く」という気持ちで作ることが大事

和歌の世界では歌枕が発達した
有名な歌が詠まれたところを歌を通してみんなが想像する
あるいは地名から空想させるものを継ぎ足していく
歌枕はみんなで地名を豊かに歌で育てていく文化

これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関
蟬丸
「逢う」は男女があうことにもつながるので
恋愛の雰囲気もまとうような歌枕になる

心の飛ばし方という点では現代の私たちに
欠けているものを教えてくれる気がする

・「歌枕」のようにイメージから妄想することも
旅の歌を詠む方法の一つ

▪言葉のバトン
野原が花で満ちてくように
コールレイ

青々と匂う木々たちリズム風
長沼七海 書店員

2024年7月14日日曜日

津田梅子 ザ・プロファイラー選

若葉山でがらし冥利後世へ
水床湾水面に浮かぶ梅雨の星
青嶺(せいれい)や怠惰と孤独謳歌せん
ミニトマト未だに花芽つけませぬ
汗みどろ苦土石灰と木酢と

■ザ・プロファイラー選 女性の可能性を切りひらけ!津田梅子
津田梅子 津田塾大学創立者
1864(元治元)年12月31日 津田梅子誕生 梅(むめ)と命名
意志が強く好奇心旺盛だった

6歳の時 岩倉使節団が女子留学生を募集
森有札(後に文部大臣となる)が女子教育の重要を訴えていた
募集内容は14歳までの少女 帰還は10年

津田仙(梅の父)は行かせたいと思った
「姉は家から遠く離れた所に行きたくなかったのです
 私だって両親のもとを離れたくなかったですが
 それでも私はアメリカに行くことを望んだのです」
幼少期の梅子の作文

山川捨松(11歳)上田悌子(14歳)永井繫子(8歳)吉益亮子(14歳)津田梅子(6歳)
日本初の女子留学生としてアメリカへ渡った
皇后の沙汰書が渡されていた
「帰国したあかつきには女性の模範となるよう留学中勉学に励むように」
1871(明治4)年12月23日 岩倉使節団アメリカへ出航
総勢107名の旅
梅子が見たアメリカ社会は❓
女性の社会進出がはじまっていた
セブンシスターズという大学が生まれていた
2人が帰国 残った3名捨松、繁子、梅子は結束を強めた
後に終生の友となった
梅子はランマン夫妻に引き取られた
アメリカ生活9か月で梅子が書きあげた本 A little girl’s stories

日出ずる国から訪れた太陽の光でありわが家を明るくしてくれた
ランマン氏覚書

(日本の)家の人たちは私の性格について何一つ知りませんから
彼らの望むように振る舞うよう努め 新しい生活において
わずかでも役に立ちたいと思います
梅子の旅日記

山川捨松は日本人女性初のアメリカの学士号を取得
一緒に学校を作ると希望に胸を膨らませた梅子
11年間の留学で英語力・教養を身につけた
1882(明治15)年17歳 日本に帰国
感動の再開のはずが、全く意思の疎通が取れなかった
梅子は日本語を忘れていた 

新しい環境になれるのに時間がかかっている
ランマン夫人宛の手紙
移植された木のようで変な感じがします この時17歳

帰国後 苦難の連続 日本語がわからない

「どうか2度と結婚について書かないでください」梅子
帰国後、学校設立の夢を抱き教師として働きたかった

女性の人生には我慢しなければならないことがいろいろとあります
アメリカでも私は男性だったら良かったのにと思いました
日本ではなおさらです!
今結婚すれば留学費用が無駄になる
何よりも必要なのは健全な教育を受けることができる女子のための学校
まだ計画は空想の段階でもし私たちにそのような事ができれば
それは壮大な仕事となるでしょう
ランマン夫人宛の手紙

1883(明治16)年梅子18歳 山川捨松が大山巌結婚

日本は結婚しないと身動きが取れない社会
既婚女性こそが成し遂げられることがある
アリス・ベーコン宛の手紙

捨松は鹿鳴館で外交に尽力した 鹿鳴館の花と呼ばれた

捨松は彼(大山巌)を尊敬し好いています
しかし捨松は教えません
参議(政府首脳)の妻が教えるなんてありえません
私も彼女の助けなしに一人で教えなければならなくなり残念です
父は結婚について何も言わないので
私も年がいっても全く心配していません
私は誰の言いなりにもなりません 私は相変わらず頑固なんです
どうか2度と結婚について書かないでください
自分が結婚したいと思わなければ結婚しません
一生結婚しないとは言いませんが
ランマン夫人宛の手紙

「私のこと覚えておいでかな?」伊藤博文
岩倉使節団以来、12年ぶりの再会だった
伊藤家の英語教師として住み込みで務めることに
ちょうどこの時1885(明治18)年梅子20歳
伊藤は「家族女学校」(現在の学習院女子大学を設立に関わっていた
捨松も顧問として参加していた 伊藤と捨松の推薦で英語教師となる

日本女性の地位は低い 
だが女性たちはその事への問題意識があまりにもなさすぎる
ともかく今の生活を打ち破り新しい境遇にでなければならない
通常の人生を歩むなら十分な教育はすでに受けていると
言えるかもしれませんが私はもっと教育を受けたいのです
自分の仕事に十分に準備をしたいですし 日本には
能力や力量を持った人々が必要なのです
ランマン夫人宛の手紙

梅子2度目の留学 梅子24歳 目的 英語の教授法を学ぶ
華族女学校から2年間の有給研究休暇扱いにしてもらった
2年後留学の1年延長を願い出る 
華族女学校は留学は認められたが給与は出して貰えなくなった
自費での留学を決めた
ブリンマー大学の教育方針は女子にも男子と同じレベルの学問を
この大学ならではの科目を選択「生物学」
持って生まれた天分を伸ばしてみたい
女だからと言って学問をしてはならないということがあるはずがない
一つの細胞に宿る生命は奇跡以上の奇跡
吉川利一「津田梅子」より

明治天皇「御親喩(ごしんゆ)」
女子は将来夫に仕え 家をおさめるのであるから 程度の高い
学問的な訓練に重きをおくべきではない 化学理学などの科目は
華族の女子にふさわしくなく学ぶべきではない

しかし梅子は生物学に寝食を忘れる程に没頭していく

梅子はいかめしい抑圧は置いてきていた
友人たちと自然な自分で自由に明るく行動していた
アナ・ハーツホン覚書

1891(明治24)年26歳
留学の1年を願い出る 卒業を方便に使った
もう一つ目的ができる 奨学金制度の創設
基金を立ち上げ1年間お金を集める その利子で留学生を送り出す

普通の日本女性では容易に得られない
機会があったからこそ充足感に包まれた
そう思うと同じ機会を日本の女性に与え
喜びを分かち合うのが私の義務ではないか
吉川利一「津田梅子」より

梅子は女性教育に関心がある人々への講演会を開催
アメリカ富裕層の婦人たちの心を打った
その結果1年で8,000ドルが集まり
4年に1人日本人女性が留学可能になった

生物学でも実験助手として研究者として才能を発揮した
トマス・モーガン教授との共著「カエルの卵の発生」は
イギリスの学術誌「Quarterly jurnal of Microcopical Sciencel」
に掲載された。
トマス・モーガン教授は1933年 ノーベル生理学・医学賞受賞

彼女はこういう仕事に必要な資質をすべて兼ね備えている
鋭い眼力と想像力 そして科学的な正確さへの感情的なまでの愛を
アナ・ハーツホン覚書

卒業が近づくと梅子をトマス・モーガン教授やアナ・ハーツホン学部長は高評価
大学に残って研究を続けるよう提案

しかし、帰国を決断

学問をする本当の意味を理解していない選択
梅子にとって唯一の近視眼的選択だった
アナ・ハーツホン覚書

梅子は学校創立の夢を諦められなかった
1892(明治25)年アメリカ留学から帰国 27歳

学校創立は使命 女子にも高等教育を

少数ながら目覚めた女性はすでに高等教育を望んでいる
否!新しい日本が教養ある女性を求めている
吉川利一「津田梅子」より

1892(明治25)年9月 27歳 華族女学校に復職
政財界の支援を受けて創立の準備中の学校があった
日本女子大学(家政学に重きをおく)
しかし梅子は自力で資金を調達 アメリカ富裕層の婦人たちが支援
トマスも支援者の一人に

1900(明治33)年7月 35歳 華族女学校を辞職
破格の報酬と名誉を捨てた

私は自由になりました そして 後戻りする船をすべて燃やしました
友人宛の手紙

1900(明治33)年9月 「女子英学塾」を開校
学生は10人梅子が訴えたかったのは官立の女学校の「良妻賢母」
ではなく 女子英学塾は「新たな女性像」だった

英語の専門家になろうと骨折るにつけても完(まっ)たき婦人となるに
必要な他の事象をゆるがせにしてはなりません
完たき婦人即ちall-round womenとなるよう心掛けねばなりません
「武士道」を記した新渡戸稲造による講義もあった

梅子には教育の理想があった
真の教育をするには少人数に限ると思います
吉川利一「津田梅子」より

梅子の教育の理想は 少人数教育 を行なった

しかし理想だけで学校設立後は経営難が続いた
資金繰りに苦しんだ そのため支援を求める手紙を書きつづけた
1か月に300通も出したことも
そんな梅子の心の支えは友人たちだった
アリス・ベーコン アナ・ハーツホン
無報酬で授業を受け持ってくれた
大山捨松は顧問 瓜生繁子は職員として支えてくれた

英語教師を目指せ 経済的な自立 そのため梅子の授業は厳しかった
厳しい授業についていけず辞めていく生徒もいた
厳しい授業についてきてくれる生徒は無上の喜びだった
1903(明治36)年38歳 第1回卒業式
ハイレベルな英語力 2年後には卒業生は英語教員資格試験が免除になった

1913(大正2)年卒業式のレコードより卒業生に対する訓話
少数の人々に限るのでなく家庭という領域さえ超えて
気高い志 ひたむきな熱心さ 広く共感できる力を
多くの人々にささげることができるなら どんなに弱い我々でも
人生を実りあるものにできるでしょう

日本での女子教育 教師になって女性のための学校を作りたい
梅子は拘ったのは教育の信念 all-round women
女子教育の未来を夢見た梅子
脳梗塞に倒れ、何度も入退院を繰り返すも
1929(昭和4)年8月16日 津田梅子死去(64歳)
生涯独身だった

この永遠の世界の中で 私自身や私の仕事は
どんなに小さいものか 自覚しなければならない
一粒の種は砕かれ地に落ち新たな草木が生える 
ということを
津田梅子の日記

1976(昭和51)年まで25人の留学生を送り出した
その中には 同志社女子大学校長 松田道 
恵泉女学園創立者 河合道 の名も…。

2024年7月13日土曜日

芭蕉の句&稚児「ぴえん」&読書対決②&「飯匙倩(ハブ)」&名言

梅雨の蝶行く当てあるや?彷徨わん
梅雨の空でっかい胡瓜まるかじり
もう飽きた纏わりつくよな梅雨じめり
反対のための反対五月闇
無意識こそが動機とならんいなさ

■鈴木大拙のお気に入りの俳句
やがて死ぬ景色は見えず蝉の声   松尾芭蕉

■ワルイコあつまれ(93)稚児俳句
稚児俳句とは季語と稚児(子どもが好んで使う言葉)を入れて詠む
辻内京子 髙柳克弘 松尾葉翔

本日の稚児「ぴえん」(泣きたい気持ちのときに使う)
ただ悲しいだけではなくおどけているようなニュアンスがある
「えーん」とはちょっと違う

走り込み終わらずぴえん青嵐   髙柳克弘
青嵐(夏の季語)青葉がしげるころに吹くやや強い風

昼寝覚(ざめ)家にひとりっきりぴえん   辻内京子
昼寝覚(夏の季語)昼寝から覚めること

ポッケから砂が出る出るぴえん夏   松尾葉翔
リフレイン 言葉やフレーズをくり返すこと 
喪失感が表現できている
添削ポイント 季語になにも情報がない
海の砂シャワーの足元にぴえん   髙柳克弘添削
シャワーが夏の季語 砂がこぼれた後の情景を詠んだ
句またがり 一つの語が句の切めをまたぐこと

夕凪やポッケ零(こぼ)るる砂ぴえん   辻内京子添削
夕凪(夏の季語)夕方の海辺で無風状態になる現象

最後の句なにも出ないぜぼくぴえん   松尾葉翔

■夏井いつき俳句チャンネル
【俳句でプレゼン】帰ってきた読書対決②!

百枚のレコード眠る闇涼し   朗善
夏の潮紅茶にでかき鼻の邪魔   家藤正人

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「飯匙倩(ハブ)」
「飯匙倩」この漢字3文字で2音の季語 ハブと読みます
飯匙倩と言えば誰もが知っている恐ろしい猛毒を持つ蛇です
沖縄各地に生息していて成長すると2m程にもなるそうです
鼠を食べものとしてそこら辺を這い回っては食べる
鼠を食べるために人家にも侵入してくる
そんな人里の近くに現れる蛇としても恐れられているようです
私沖縄に行ったこともほとんど数える程しかなくまだ生で
「飯匙倩」を見たことはないんですけれども
いったいどれほどの迫力なのか 
見たいような…見たくないような…

■名言
勝海舟 曰く
「人の一生には"焔(ほのお)の時"と"灰の時"があり、
 "灰の時"は何をやってもうまくいかない
 そんな時には何もやらぬのが一番いい
 ところが小心者に限って何かをやらかして失敗する。」

清沢哲夫 曰く
「踏み出せばその一歩が道となる。」

武者小路実篤 曰く
「君は君、我は我也
 されど仲よき。」

2024年7月12日金曜日

2024夏の炎帝戦SP 好きな観光地で一句

蝉生る六波羅蜜(ろくはらみつ)とあるがまま
所有から受託の意識えごの花
パッキンがいつの間にやら夏の朝
馬蹄班(ばていはん)もう消えたのね雲の峰
論語なきチャイナの未来雹の音

■プレバト纏め 2024年7月11日
2024夏の炎帝戦SP
好きな観光地で一句

ファーストステージ

関東甲信越ブロック
1位 横尾渉 雪渓のピザ屋品川ナンバー来
2位 嶋佐和也 峰雲のポッピー通りハイボール
3位 村上健志 三越の獅子は阿の口夏旺(さか)ん
4位 水野真紀 高原に横笛ピュルル夏の空
   添削 高原夏空横笛ピュルル

関西・中四国ブロック
1位 立川志らく 渡月橋の騒(ぞめ)き干からびた蜥蜴(とかげ)
2位 安藤和津 夏を追う叡電(えいでん)の影チャリの影
3位 河野純喜 USJセットファサードの片陰 
4位 藤本敏史 朝九時のビール塩こぶビリケンはん
   添削 ビリケンはんを入れ替える 阪神帽 スポーツ紙 王将碑

九州・沖縄ブロック
1位 千原ジュニア 舳先(へさき)より泡盛の神酒(みき)一礼す
2位 瀧川鯉斗 カタカナの魚ばかりや市(いち)薄暑
3位 かたせ梨乃 始発待つ素足ぶらぶら大三東(おおみさき)
4位 森迫永依 スキットルの固き四角や片陰り
   添削 季語に地域性を入れていたら俄然良くなっていた 
   スキットルの固き四角や花梯梧(はなでいご) 
   テーマに負けた一句

中部ブロック
1位 森口瑤子 黴(かび)臭いホテルだけど海がデカい
   黴は夏の季語
2位 千賀健永 熱田守護の亀の蛭(ひる)剥ぐ炎天下
   添削 熱田守護なる亀の甲羅の剥ぐ
   季重なりを解消する
3位 犬山紙子 胎児寝る風鈴数多(あまた)きゃらきゃらと
   添削 風鈴きゃらきゃら胎児眠らさん
4位 津田寛治 雨後の虹怒髪ゆるんだ東尋坊
   添削 雨後の虹白波ゆる東尋坊
   古語ゆるぶ【緩ぶ・弛ぶ】暑さや寒さなどがやわらぐ

北海道・東北ブロック
1位 蓮見翔 釧路駅知らないコンビニの冷房
2位 梅沢富美男 竜飛より海峡見ゆる翌(あす)は秋
   翌(あす)は秋が季語 夏の終わりのこと
3位 こがけん 船に群れ海猫の腹蒼々と
   海猫 夏の季語
   添削 舷(ふねべり)や腹蒼々海猫(ごめ)の群
4位 ヒデ 荒山の岩間匂ふや稚児車(ちんぐるま)
   添削 青空や岩間匂ふ稚児車
   稚児車(ちんぐるま)夏の季語

2024炎帝戦 決勝戦
千原ジュニア 宮古島ホースに溜まる水は炎(も)ゆ
   炎ゆ【夏の季語】盛夏の燃えるような熱気のこと
横尾渉 能登は虹一棟貸しの露天風呂
森口瑤子 向日葵を抜けると海や走り出す
立川志らく 油照り影が溶け出す中田島
   油照り【夏の季語】薄曇りで風がなく蒸し暑い日のこと
💮蓮見翔 夏焼の納沙布(のさっぷ)FMのノイズ

2024年炎帝戦優勝は蓮見翔!
「FMのノイズ」あると言えばあるフレーズ
短い夜が明けようとしている
納沙布 日本で一番早く日が昇る場所へ行こうとしている
車とは一文字も書いていない 
この書き方でカーラジオのFMに違いない
と、読み手は勝手に想像する 
岬が近づけば近づくほどノイズが激しくなってくる
距離感をノイズで表現
日本で最初に見る夏の朝日を声をあげて眺めるのではないか
季語がしっかり主役に立って地名が季語を支えている
しっかり作りあげた一句
今回惜しかったのは横尾渉の句
能登以外でも成立してしまう句でもあった

2024年7月11日木曜日

論語&木野内栄治氏投資図鑑&別世界を知りたい時に読む本&平家物語 和歌

大賀蓮(おおがはす)古代のロマン届けけり
犬伏へ遥かな時間古代蓮
(大賀蓮)二千年超えピンクの花よ梅雨晴る
梅雨晴や年重ねても誉め言葉
これでもか雨の直撃ミニトマト

■論語
己の欲せざる所は人に施すことなかれ
意味
他人からしてもらいたくないことは、自分も他人にしない。
自分がいやなことは、他人もいやなのだからしないことである。

■マーケットアナライズCONNECT
木野内栄治氏
投資図鑑
半導体相場は次期iPhoneの売れ行き次第!?
投資のタイミングを考える

▪テック3年在庫サイクル改善佳境
次期iPhoneは買い替え需要で好調に
秋iPhone買い替え半導体好調 買い替え需要で好調に
スマホの3年のサイクルでいくと今年の秋が買い替え時
アップル株も3年ごとに上昇している

▪SOX指数は半導体売上次第
3年サイクルは2025年ピーク示唆
3か月前にピークアウトする
パソコンは売れ始めたが…
来年秋PC一服で半導体一服か
パソコンは7年ごとに買い替える

▪「ほぼトラ」でEV様子見。AIも
民主党/共和党の政権相違点
民主党政権 議会を通じたAI規制の法制
民主党政権 EV移行に向けた規制撤廃
選挙に向け10月頃から再騰へ
次期iPhone人気を確認後
アップルは買い替え需要が高まっている

■理想的本箱 君だけのブックガイド「別世界を知りたい時に読む本」
吉岡里帆 幅允孝 太田緑ロランス

▪カスバの男 モロッコ旅日記 著者 大竹伸朗(しんろう)
旅の経験を自身に血肉化する
匂いや音を感じる 通常と違う読書体験

▪おむすびの転がる町 著者 panpanya
だれも見向きもしないような物や事にも
物語が潜んでいる
私にしかわからないような形で
不自然さの目配せがあった

▪あいたくてききたくて旅にでる 著者 小野和子
採訪(さいほう)とは
研究上の資料を採集するために旧家・社寺などをたずねること。
訪う(おとなう)
熱の交換が多くの人を巻き込む
関わる人を別世界に誘った

発句
猿川に落ちる命は惜しくない
あつたらおごを後家にするがやぁ

■平家物語 より
あかずしてわかるる君が名残をばのちのかたみにつつみてぞおく
覚性法親王 『平家物語』 中「経正都落」
こころならず別れゆくそなたとの名残の琵琶を
後々の形見として大切に包んで預かりましょう

くれ竹のかけひの水はなほ住みあかね宮の内かな
平経正 『平家物語』 中「経正都落」
庭先の筧の水の流れは昔とは変わるとしても
それでも今なお住み飽かぬほど美しく澄み渡るこの宮でありましょう

さざなみや志賀の都はあれにしをむかしながらの山ざくらかな
『千載和歌集』巻第一春歌上
志賀の都は荒れてしまいましたが
長等山の山桜だけは昔ながらに美しく咲いていることですよ

2024年7月10日水曜日

偉人・敗北からの教訓 第51回「渋沢栄一」

朝咲きて夜には落つる夏椿
夏蛙あっけらかんと無神経
夕立や良くも悪くも遠慮なく
したたかに慇懃無礼青嵐
有り余る鈍感力や夏の雲

■偉人・敗北からの教訓 第51回「渋沢栄一・挫折だらけの実業界の父」
お札に選ばれた理由には企業家精神を鼓舞するためという意味があった
渋沢栄一の栄光と挫折
日本資本主義の父
1840年 武蔵国血洗島村(埼玉県深谷市)生まれ
染料となる藍玉農家に生まれる
身分制度を支える幕藩体制そのものを崩壊させないと日本は駄目になる
身分制度の理不尽を痛感
日本は外圧(外国からの圧力)を跳ね返せない
1860年(27歳)桜田門外の変 倒幕を志すようになる
計画は未遂に終わり京都に逃れる
横浜の焼き討ちを企てる
1864年(25歳)一橋家に仕える
1866年慶喜が15代将軍に就任
倒幕を企てながら一橋家に仕官
一橋家の家臣から幕臣となる
一橋家の財政と軍事の強化に尽力する
徳川慶喜が意図とは逆に幕臣へ十五代将軍に就任
幕府随行員として欧州に渡る
パリ万博を視察する随行員に選ばれる 
帰国後 明治政府に仕える
商法会所を設立(藩内の商人や豪商たちから
出資を募り藩の資金と合わせ合本組織を作る
資金や知恵を集めて公益事業を展開する会社を経営していく
新政府に出仕大久保利通と大隈重信の積極財政 
渋沢栄一の緊縮財政が亀裂となった
井上薫が辞任 渋沢栄一も追随し大蔵省を辞職明治6年(1873)
「金・人・物・アイデア」4つの要素を循環させ
富を生み出していく仕組みがあることを学んだ 
渋沢栄一が起業または支援した会社・団体 約500社
約500の会社・団体の設立や経営に参画
三井組 小野組 共同出資者として明治6年(1873) 第一国立銀行を設立
1年経たないうちに小野組が破綻
宇和島の伊達家が大口出資者となる
1873年(34歳)抄紙会社(王子製紙の前身)設立
抄紙会社の経営難から巨額の負債を抱えてしまう
政府が方針転換!「国が紙幣を作る」と言い出した
渋沢栄一敗北 政府との契約が反故に

近代化を促進すべく奮闘した渋沢栄一の敗北の原因
敗北の伏線~挫折だらけの青春期~

自分の身の上はあたかも蚕が最初 卵種から孵化して
四度の眠食をかさねそれから繭になって蛾になり
再び卵種になる有り様で二十四、五年間に
ちょうど四回ばかり変化しています
自伝「雨夜譚(あまよがたり)」より

渋沢栄一 敗北の伏線
人生は思い通りにはいかぬもの
時の流れに身を任せることも肝要

渋沢栄一 敗北の瞬間
人生は予期せぬアクシデントの連続
苦い経験を糧として進めば道は開ける
失敗に挫けてはいけません

富をなす根源は何かと言えば仁義道徳
正しい道徳の富でなければ
その富は完全に永続することができぬ

道徳と経済は相反するものではなく
両立すべきものである

昭和6年(1931)11月11日永眠92歳

人を見るに単に成功とか また失敗とかを
標準とするのが 根本的誤りではあるまいか
成敗は身に残る糟粕(そうはく)
「論語と算盤」より

企業は道徳と経済性の両立を図るべし
企業の社会的責任を重視し 金儲けすることは
悪いことではないけれど 交易や利他を重んじていこう
ということを渋沢は主張している

社是や企業理念として「論語と算盤」を
基盤としているケースが多々ある
外国企業とは一線を画した中長期的な経営方針という
渋沢の理念が今日の日本の繁栄を生んだ
日本女子大学の校長に就任したのが91歳

ブルバインドとは二つの矛盾した命令を
他人に与えている状態のこと

渋沢栄一の人生から学ぶべき教訓
思考を停止するべからず

2024年7月9日火曜日

あの本、読みました?R-18文学賞&柴田元幸

約束を守らない人梅雨の空
還付なし政府の苛め?梅雨の雷
梅雨寒し還付に見えた不公平
梅雨冷や家計直撃還付なし
いつも政府に切り捨てられて黴びる(かびる)

■あの本、読みました?
「成瀬は天下を…」を生んだR-18文学賞&翻訳家柴田元幸

女の文学賞 女による女のためのR-18文学賞
窪美澄 西山奈々子 鈴木保奈美 角谷暁子

「ミクマリ」の一文 窪美澄著/新潮文庫
セミダブルのベッドの上に、「なにかのアニメのなんとかという役」の
コスプレをしたあんずが横たわっている。
あんず、というのは仮の名前でおれは本当の名前を知らない。
(中略)
おれが近づくと、あんずは薄く目を開け、ハンガーにかかった
衣装を無言で指さす。おれは制服を床に脱ぎ捨て、するするとした
手触りの布でできた「なにかのアニメのなんとかという役」の
白衣のような衣装を身につける。
(中略)
おれは「なにかのアニメのなんとかという役」になりきって、
「いい子で待ってたんだね」という気持ちの悪いセリフを
口にする。それもあんずとの約束なのだ。

2024年R-18文学賞大賞 広瀬林檎「息子の自立」の一文
息子の性処理を母親がやっているというと、たいていの人間は
嫌悪か困惑の表情を浮かべるか凍りついてしまうものだが、
看護師の同僚や友だちや医師は顔色一つ変えない。
(中略)
曜子元夫は「おれは絶対にそんな気持ち悪いことはしない」と
なぜか自慢げに云ったのだが、そう断言してしまえる夫を、
ずいぶんおめでたいやつであることよなあ、と思ったとき、
曜子は息子と二人で生きる決意をした気がする。

「君の無様はとるにたらない」の選評 神敦子著/新潮社
「友近賞選評」友近
ずっと言えなかった彼女の想いが流れ込んでくるような、
最後の長いセリフを読んでいるとき、自分でも予想外に、
読み進める手が止まり、突然涙が溢れました。
私の中でも急展開で他の作品のインパクトを超えて、
感情を揺さぶられた作品です。

「君の無様はとるにたらない」の一文 神敦子著/新潮社 
配布されたパンフレットの、ヨシコと山田くんの恋愛漫画は
肝心なシーンは花が散らされているだけで、全然わからない。
いやわかっている。ネットにはエロ漫画が氾濫しすぎている。
何か調べるたびに、定食の漬物のようにエロが入りこむ。
でもそこに現実味はない。

「赤い星々は沈まない」の一文 月吹文香著/新潮社
「モテモテなのは良いことやけど、もう夜中に潜り込んだらあかんよ。
あ、もしかして山口さんの所にも行ったんやないでしょうね」
「行ったよ。ちょっとお手を拝借しただけや。借・り・た・だ・け」
キヌ子がクシャッと鼻にしわを寄せた。あきれ果てて大きな
溜息が出る。キヌ子の素行に気づけなかった自分自身にも。
「うちの施設でそういうことは困ります。三ヶ月も経たないで
変わるのはイヤでしょう。キヌ子さん、旦那さんに満足させて
もらってかなったんちゃいますか?」牽制するつもりで
嫌味を込めて言った。キヌ子がきょとんとした顔で私を見る。
「は?おとうちゃんは満足させてくれてたで」
キヌ子としばらく見つめ合った。
「もう長いことしてないでしょ、私たち。でね、嫁がいつも
ジーンズばかりじゃ、裕也だってつまんないでしょ?
だからたまには女らしい下着でもつけてみようって」
(中略)
「だから、どこまで僕に求めるの?君が夜勤の時は、
和樹を保育園に迎えに行って、夕食だって作ってる。
レトルトも使わずにね。同僚との飲みだって断ってさ。
ミサと和樹のことを思えばこそだよ。年二回は旅行だって行くし、
今度は石垣島に行きたいって言うから旅行サイトも
チェックしている。これ以上、何が不満だって言うんだよ」
そう。不満なんだろう。夫には感謝しかない。
いい父親。理解ある夫。でもー。
「抱かれたいと思うことが、欲張りなことなの?」

「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」の一文
リリー・フランキー著/新潮文庫

オカンが死んでしまった後、オトンが息子に言う。
「女には言葉にしてちゃんと言うてやらんといけんぞ」
「1+1が2なんちゅうことを、なんでわざわざ口にせんといかんのか」
「そやけど、ちゃんと口で2になっとるぞっちゅうことを
言うてやらんといけんのやな」「お父さんは、お母さんにも最後まで
それができんかった、、。取り返しがつかんこったい」

シスターフッド
男性優位の社会を変えるため階段や人種性的指向を
超えて女性同士が連帯することを表すもの

「うろんな客」エドワード・ゴーリー著 柴田元幸翻訳/河出書房新社
原題「The Doubtful Guest」
日本題「うろんな客」

風強く客もなきはず冬の夜ベルは鳴れども人影皆無

英語特有の定型性を柴田流で訳すと…
韻を踏むか 七五調で表現するのが定型性としては等しいだろう

「マザー・グースのうた」谷川俊太郎訳 堀内誠一イラスト/草思社
くわのまわりをまわろうよ まわろう 母はさむい しもの朝

ロンドンばしが おっこちる おっこちるったら おっこちる
ロンドンばしが おっこちる きれいなきれいな おひめさま

目指すのは「ミズスマシ」のような翻訳

「ハックルベリー・フィンの冒けん」の一文
マーク・トウェイン著 柴田元幸翻訳/研究者

「トム・ソーヤーの冒けん」てゆう本をよんでない人は 
おれのことを知らないわけだけど、それはべつにかまわない。
あれはマーク・トウェンさんてゆう人がつくった本で、
まあだいたいはホントのことが書いてある。ところどころ
こちょうしたとこもあるけど、だいたいはホントのことが書いてある。

漢字とひらがなをミックスして表現
子どもの頃はマンガ好き
イギリスを放浪
英訳が困る作家・町田康

柴田元幸 オススメの本は?
「文体練習」レーモン・クノー著 朝比奈弘治翻訳/朝日出版社
ある日バスの中で起こった他愛もない出来事
それを99通りものバリエーションで変幻自在に書き分けていく
「地下鉄のザジ」で知られ20世紀フランス文学の革命を牽引した
レーモン・クノーの究極の言葉遊びを朝比奈弘治が見事に翻訳した
ユニークな作品

「文体練習」の一文 レーモン・クノー著 朝比奈弘治翻訳/朝日出版社
S系統のバスのなか、混雑する時間。ソフト帽をかぶった
二十六歳ぐらいの男、帽子にはリボンの代わりに編んだ紐を巻いている。
集合論
昼のバスSにおいて、座っている乗客全員を集合Aとし、
立っている乗客全体を集合Dとする。ある停留所において
待っている人の集合はPである。その中で、このバスに
乗る人の集合をCとすれば、CはPの部分集合であり
古典的
昼は、バス。満員のころはさらなり、やうやう乗り込んでデッキぎは、
人あまたひしめきて、爪先立ちたる客のほそく詰め合ひたる。
反動老人
もちろんバスは混んで居ったし、車掌はいやな奴じゃった。
それもこれも、みんな八時間労働と国有化政策のせいじゃ。
今やフランス人は、組織の能力も、公民精神もなくしてしもうた。

鈴木保奈美女史が番組はじまって以来
初めてサインをもらっておられました。
でもそのお気持ち物凄く解りました。
私も柴田元幸氏の大ファンになってしまいましたもの…。
プロのあるべき姿を見せていただきました。

2024年7月8日月曜日

兼題「蛇」&題「屋上」

繰り返しくせ毛に負ける梅雨の朝
筋力よ柔軟性よ夏を跳べ
黒南風(くろはえ)や汚れ落とさぬ洗濯機
手すりより人の温もり花菖蒲
梅雨の空己を曲げて寄り添わん

■NHK俳句 兼題「蛇」
選者 堀田季何 レギュラー 庄司浩平 司会 柴田英嗣
年間テーマは「俳句の凝りをほぐします」

今週のテーマは「一物仕立て」
俳句は大体 一物仕立てと取り合わせに分かれる
一物仕立て⇨句全体が季語そのものを描写した俳句
取り合わせ⇨異なる要素を組み合わせた俳句

取り合わせ
夕風や牡丹崩るゝ石の上   正岡子規
(同じ情景で両方 五感で感じている)

一物仕立て(季語と描写)
白牡丹といふといえども紅(こう)ほのか   高浜虚子
(牡丹そのものだけを詠んでいる)
白牡丹百花一斉にふるへたり   山口青邨(せいそん)
(百花ある白牡丹が一斉に震えている)

グラデーションの句も存在する
要素が2つあるが絡み合っていて1つの描写になっているものもある
火の奥に牡丹崩るゝ石の上 加藤楸邨(しゅうそん)
取り合わせなら「牡丹」と「火」の奥で2つの要素が感じられる
一物仕立てなら牡丹そのものが焼け落ちている感じ

牡丹百二百三百門一つ   阿波野青畝
「門」と「牡丹」の取り合わせ 

一物仕立てのツボポイント
①アンテナを張る
 俳人には「あいにく」がない
 俳人は何でもオイシイ 世界は素材だらけ 句材だらけ
 場合によってはそこにはすごいワンチャンスが眠っているかも
②俳筋力を鍛える
 俳句を言語化してアウトプットしていく 
 アンテナで気付けば 気付くほど俳筋力を鍛えれば鍛えるほど
 たくさんのワンチャンスに出会える
 俳句の「ワンチャンス」とはアンテナを張り気付きや感動を
 言葉にし続けることで思わぬ言葉に出会えること
③「ああ、そうですか」を恐れない
 「ああ、そうですか」を恐れると一物仕立てはできない
 どんどん作って捨てていけば良い

一物仕立てには大づかみ一物深掘りがある
大づかみ
傷一つ翳(かげ)一つなき初御空(はつみそら)   高浜虚子
桐一葉日当たりながら落ちにけり   高浜虚子

おすすめは一物深掘り
大づかみの「ざっくり」に対して
「一物深星掘り」はディテールにこだわりのある作り
てれ刷(は)いてうなぎの艶やさらに刷く   小澤實
(中七までは普通見たまま 下五で深掘りする
下五に何を入れるかでいろんな情景が描ける
何度も何度も「刷く」ループを作っていく)
バタークリームにつくるプードル鼻は葡萄   町田無鹿
中七より上に季語があってもいいし下五に入れる場合もある
作れば臨場感や映像が見える句にできる

▪特選六句 兼題「蛇」
「脱皮」は夏の季語だが「蛇」は一年中詠まれている
冬は「蛇眠る」秋は「蛇穴に入る」「穴惑い」

蛇と暮らすあいつとてもきれい好き   河上摩子
くつなはの咥(くわ)へたるものぷうと鳴り   松田蕾子
(くちなは=蛇)
 蛇の死の螺旋(らせん)をこころざすかたち   関津祐花(ゆうか)
 その蛇ならむかふのはうへゆきました   幸田梓弓(あずさゆみ)
 一抹の不安や蛇が怖くない   里山子(さとやまこ)
 蛇轢いたよ運転免許取れたよ   ひなた和佳(わか)

▪柴田の歩み
恐れない   柴田英嗣
一皮(む)けて一物仕立てやったるぞ   庄司浩平

■NHK短歌 題「屋上」
選者 川野里子 レギュラー 内藤秀一郎 深尾あむ 司会 ヒコロヒー
年間テーマは「❝私❞に出会おう」今回のテーマは「省略という飛躍」

▪飛躍の扉 省略という飛躍
西アフリカの 海岸の浅瀬に 
吸いつくようにして 育ったタコを 
私は今食べている
アフリカのことは 知らないんだけれど

アフリカに吸ひつきてゐし蛸の足噛みをり つひにアフリカを知らず
川野里子「ウォーターリーリー」
省略は表現のパワーになる

「それは灰」と誰かが言へば骨ひろふ箸の先にて祖母(の遺灰が)くづれたり
梅内(うめない)美華子
「祖母の遺灰がくづれたり」とすれば説明がつくが
歌としての飛躍 衝撃力に欠ける
出来事の本質に近づくことができる

そうですか きれいでしたか わたくしは 小鳥を売って くらしています
東直子「春風さんのリコーダー」
省略されたところに読者が色んなイメージを広げることができる
とても豊かな広がりのある一首になっている

▪入選六首 題「屋上」
 屋上に大の字に寝て君だけのヘリポートでいる好きに生きなよ
つきこ
屋上にゼラニウム咲くそのしたで数千億円が動くTOKYO
だいだい
屋上のつめたい柵を握るとき眠る悍馬(かんば)の手綱を思う
葉村直(悍馬とは暴れ馬のこと)
屋上で唸(うな)る室外機のような不器用すぎる君の全力
太田知那(はるな)
しょうなない幽霊のよう誰(た)そ彼(がれ)の屋上と空のあいだにいつも
寺尾賢人
一席 一点を見上げ待つ医師屋上に赤き命のヘリが近づく
間(あいだ)由美

★きらりポイント

▪秀一郎あむ 飛躍のカギ
閉ざされたままの屋上閉ざされた私の心立ち入り禁止
深尾あむ 
添削(助詞は言葉と言葉 センテンスとセンテンスをつなぐ
   言葉に流れが生まれる 時にはうねりが生まれ
   自分の心を表現しやすくなる)
閉ざされたままの屋上閉ざされ私の心立ち入り禁止

屋上どきどきするよねその頃の自分に言いたいたくさん浸(ひた)りな
内藤秀一郎
(何に浸るかを省略したことによって言葉や思いとしての鮮度が上がった
 ドラマがあります)
省略することで物語の膨らみが生まれる

春風に揺れる橋越え行く人の背中に花の香りが残る
深尾あむ
「背中に」を削除すると「背中に」は映像 「香りが残る」は臭覚
臭覚にフォーカスする効果が生まれる

「揺れる橋」を今日移調するために「越え行く」を削除すると
春風に揺れているあの人の背中に花の香りが残る
削ったところには何気ない(引き算された)言葉を詰め込む
目立たせたい言葉があるときはその周辺を引き算する 省略する

▪言葉のバトン
野原が花で満ちてくように
コールレイ

前期総評 枡野浩一
エグい花粉 ほこり立つ 毒をはぐくむ
ネガティブな表現がされている
さわやかなだけではない

「胸が背中がどこまでも向く」府田確
これ以外の言葉にしたくないくらいの決定的な感じ
いい意味でわがままな感じが魅力的

「空のあなたはどうしてますか」本間大智
立体感が出る 時間の流れを感じる

全体的にトーンが統一されている
もっと裏切ってくれてもいいのではないか❓
破滅と再生があって欲しい

2024年7月7日日曜日

ダンスビュウTV 絶対王者のシークレットテクニック

傷つけて傷つけられて梅雨の月
おばあちゃんの茄子の漬物旨かった
梅雨闇やあの漬物に会いたくて
弱いもの切り捨てられて五月闇
梅雨寒しふるさとの味消えゆかん

■Dance Channel
ダンスビュウTV 絶対王者のシークレットテクニック 
無敵のスウィング 2019年7月21日 開催「サマーキャンプ」より

講師 Arunas Bizokas & Katusha Demidova
通訳 岸本真(ダンススタジオキシモト)

Lecture1 スウィング&スウェイ~NaturalSpinTurn~
ワルツ講習
動作のクオリティを上げるために何が必要か
正しい角度を考える
壁斜めから踊り始める
第1歩目を踏み出していく時 正しく壁斜めに向いていくようにコントロールする
最初の3歩で3/8右回転 1歩目と2歩目の間で1/4回転
足を閉じていく時残りの1/8回転するが私は回転量を少なくしている
女性は「右足を向ける」というアライメントをとる
足を閉じる時残りの1/8回転をしようとするより
男性の動きをフォローしアンダーターンとして考える
残りの1/8回転は第4歩目をStepするときにとる感覚
回転をしすぎるよりセーブすることによって
全体としての動きの流れを組み立てる
壁斜め・中央斜めのフィガーを踊る時も
オーバーターンにならないようにコントロールする
足を閉じた後ピボットの足をどのように出すかが問題
ボディの動きとしてはCBMがあるが私はそこにこだわらない
ピボットで交代するときの角度 腰も足も開いている
女性が足を出す時の角度 
体重がStepした足に乗っていく時に
回転を起こしピボットを行う
回転を起こし始める瞬間は
中間バランスの位置をウエイトが超えてからになる
中間バランスとは両脚にウエイトを感じている状態
中間バランスにウエイトが移り変わるまでは
アンダーターンの状態をキープする
中間バランスを一瞬感じてからターンを行なう
ピボットで後退する時回転を全くしないわけではない
どんなフィガーを踊る時も軸が大切
男性は左足を後退する時軸が僅かに回転を起す
私はCBMPを使わない踊り方をしています
回転の原動力はどこからくるのか
回転はStepする時にウエイトを
感じていく時にボディによって行われる
回転は正しい体重移動・角度によって行われ
けっして遠心力に任せて回る訳ではない
どの瞬間に回転を起すかが重要
男性はピボットする前に右手が少し斜めになる角度を
意識すると回転がスムーズ
女性は単に男性の右側にいるだけでは回転は難しい
前進していく時の動きがスムーズな回転に繋がっていく
Spinturnの2歩目(NaturalSpinTurnの5歩目)は
アンダーターンとして行なう
NaturalSpinTurnを踊り次にどの様に繋げるかが大切
スウィングしていく時左手で次に動いていく方向を準備する

Swayの意識が大切
SpinTurnはSwayを左側へ意識する
問題はどれくらいSwayを使うか
Swayは背筋の真中の辺りから始まり
肋骨の身体全体の傾きとして伝わる
身体の真中の動きが肩に伝わってくる
腰を傾けることはまず考えない
腰を傾けるのではなく安定した状態を保ち続ける
腰の動きは回転に寄与するがSwayは腰から行わない
NaturalTurnの3歩を踊り終える時顔は右に向けるが
だからと言って頭だけを右に傾けるのではない
BodyActionからの繋がりハーモニーによって頭の向きは変えて行く
Swayが下がる方向(傾く方向)に頭の向きが変化するのが普通
首の向きを固め全く変えない踊り方はお勧めしない
Bodyの動きによってSwayをかけると
自然に顔の向きの変化として伝わる
首を固めて踊ることとは異なる

SpinTurnをどのように完了させるか
あるフィガーを踊る時どのように次につなげるかを描いて踊り始める
NaturalSpinTurnは前進が後退に変わる動き
前進する足に完全に体重を乗せてはいけない
ウエイトが次にどのように戻ってくるかを意識する
右足に完全に体重を乗せるのではな
シェイピングによって次に後退に変わる動きを意識する
男性の体重が100%右足に乗ってくると
女性は「次はバックしろ」と受け取る
男性は次の戻していく動作をすると
女性は「NaturalSpinTurnの動き」と分かる

Lecture2 連続Spin
OverTurnの場合は右足を乗り越えていく
よくあるシンコペーションを使ったパターン
二人の間の斜めの角度を意識する
タイミングを途中で変える時もワルツの特性を意識する
1はダウンスウィング2はアップスウィング3でまた下りていく
1はダウン2でアップスウィングをする
「1&23」と踊る時もワルツの波打つような動き
高さの変化を維持する
ダウン&ライズ
二人の間の空間の使い方が重要
ピボットの時首を固定するわけではなく自由さを保つ
身体の動きと首の向きが微妙に変化していく
外回りの時男性の鼻の先が左の方を向いていこうとする

2024年7月6日土曜日

俵万智女史の短歌&芭蕉の俳句&私の短歌

言葉の運動神経あまがえる
夏の陽やアガバンサスの風受けて
(アカウミガメ)産卵は三年ぶりの北の脇(無季句)
いつの日か亡父と聞いた蝉時雨
十植えて二つ根付いた夏畑

■平家物語 第3部「乱」
斎藤実盛の兜を前に詠まれた句
むざんやなかぶとのしたのきりぎりす   松尾芭蕉

■俵万智女史が「X」で発表された短歌
新しいメガネかければ語りだす本の背表紙、遠くの葉っぱ
「楽しくじゃなくて正しく弾くんだね」子に見抜かれる私のピアノ
腹を割かれ肋骨あらわなイノシシがぶらさがる朝の楽器のように
シャルドネの味を教えてくれたひと今も私はシャルドネが好き
インスタにあげた光のページェント「オレも近くにいる」ってマジか
ドラマならやや嘘くさき設定に再会しておりクリスマス・イブ
シャルドネの味を教えてくれたひと今も私はシャルドネが好き
「どうだった?私のいない人生は」聞けず飲み干すミントなんちゃら
喧騒は我には遠く来週は来年かとのみ思うクリスマス
年末の銀座を行けばもとはみな赤ちゃんだった人たちの群れ
優しさにひとつ気がつく✕でなく○で必ず終わる日本語
好きすぎてどこが好きかはわからない付箋だらけの歌集のように
朝刊を開けばどれもどれもどれも父の知りえぬニュースと思う
バンザイの姿勢で眠りいる吾子よ そうだバンザイ生まれてバンザイ
「楽しくじゃなくて正しく弾くんだね」子に見抜かれる私のピアノ
傘だった言葉を閉じて歩くとき杖ともなりてゆく空の下
巨大なるゼロを抱えてこの夏を白紙のままの答案用紙

▪短歌研究5+6月号
父逝きて初めての雪 思い出し泣きという語の辞書にはあらず
大谷が結婚しても藤井くん負けても真顔のまんまの遺影

▪昭和の日の昭和っぽい短歌
ただ君の部屋に音をたてたくてダイヤル回す木曜の午後
次に会う約束もせず別れ来て「水戸黄門」を最後まで見る
男とはふいに煙草をとりだして火をつけるものこういうときに
待つことの始まり示す色をして今日も直立不動のポスト

▪みどりの日のみどりの歌
葉桜を見に行くならば雨あがり私でなくてはいけない人と
子どもらが十円の夢買いにくる駄菓子屋さんのラムネのみどり
ランドセル投げておまえは走り出す渦巻くような緑のなかへ
さみどりの葉をはがしゆくはつなつのキャベツのしんのしんまでひとり

▪アイドル歌会選
今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海
愛よりもいくぶん確かなものとしてカモメに投げるかっぱえびせん
何層もあなたの愛に包まれてアップルパイのリンゴになろう
愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人

▪いちご摘み
おもちゃ箱ひっくり返すという比喩が比喩でなかった日々のリビング
誰からもメール、LINEの来ぬ午後に語学学習アプリの通知
水切りのように心を伝えたい軽くて平らな言葉を選ぶ
シュッとした下北沢のカレー屋にフジという名のカレーを選ぶ

▪子どもの日に子どもの歌
たんぽぽの綿毛を吹いて見せてやるいつかおまえも飛んでゆくから
連休に来る遊園地 子を持てば典型を生きることの増えゆく
振り向かぬ子を見送れり振り向いたときに振る手を用意しながら
最後とは知らぬ最後が過ぎてゆくその連続と思う子育て

▪母の日
東京へ発つ朝母は老けて見ゆこれから会わぬ年月のぶん
母の字で書かれた我の名を載せて届いておりぬ宅急便は
「短所」見て長所と思う「長所」見て長所と思う母というもの
息子から連絡はなく母の日は私が母を思う日とする
父に出す食後の白湯をかき混ぜて味見してから持ってゆく母

▪父の日
やさしさをうまく表現できぬこと許されており父の世代は
冷や奴があればよろしい父のためネギをたっぷり刻んで待とう
行くのかと言わずにいなくなるのかと家を出る日に父が呟く
父に出す食後の白湯をかき混ぜて味見してから持ってゆく母

参照:https://digital.asahi.com/articles/ASRCZ5TLDRCXUCVL038.html?ptoken=01HKSWAF6TDK637QF5BXTSGB24

■ここで私の拙句
愛知らず育った母に育てられ愛知らぬまま土に還らん 

2024年7月5日金曜日

遅刻して走っているシーンで一句&前田吟の言葉

デッサンは言葉なき会話夏草
容赦なき洞察力や星鴉(ほしがらす)
老いも死も変化のひとつ雲の峰
夏の月変化受け入れ生き行かん
夏座敷声高らかに詳(つまび)らか

■プレバト纏め 2024年7月4日
遅刻して走っているシーンで一句
 
特別永世名人の締めのお手本 梅沢富美男
蒸し暑し今を出掛けの尋ね人
添削(分からなさは回避は出来る)
外出の矢先の客や蒸暑し

俳句史に残る句集作り 永世名人 千原ジュニア
埼京線運転再開扇子閉づ
(着地が上手い こういう経験を一句にする時往々にして
 時間軸が長くなってしまう 中八の瞬間だけを切り取る
 「ん」という音が響くように配置されている
 リズムを軽やかにきざめる 配慮することで上手くいく
 扇(あお)いで使ってこその季語 閉じた瞬間をいうことで
 扇子を使っていた時を想像させる いろんな工夫がなされていた)

1位 かたせ梨乃
十度目のタクシーアプリ梅雨の雷
(中七は音数が長く詩になりにくい 難しい材料を上手く使った
 数詞をきちんと書く 俳句のコツ ほんのちょっと具体的に書く
 季語をどう展開するかが最後の関門 
 焦る気持ちを募らせるかのような音の効果)

2位 関水渚
夏の雨電車が遅延したことに
提案(余白が良い 夕虹「夏の季語」夕立の後などにあらわれる虹
   に季語を変えてもよい 夕立が降った後に虹がきれい
   虹に見惚れて電車が遅延したことにしよう 
   理由を変えることもできる
   急いで行きたくもないし土手でたんぽぽを見ながら
   電車が遅延したことにして…
   季語を変えるとまだまだ化ける句です)
夕虹や電車が遅延したことに
たんぽぽや電車が遅延したことに

3位 美山加恋
眠り明け車窓に浮かぶ梅雨雷(らい)か
添削(時間軸が長い 時間軸をギュッとしましょう
   場所ではなく目的を入れる 独自性・真実味・オリジナリティー
   ・リアリティーが入ってあなたらしい句になる)
オーディションへ向かう車窓梅雨

4位 おいでやす小田
飛び起きて走るカバンに日傘かな
添削(時間軸が長すぎる 無理矢理放り込むから 飛び起きてを削除
   どこに向かって走るかを入れると人物が見えてくる
   一目散に駅に走っている 遅れそうに違いない 
   読み手はそこまで読んでくれる)
駅へ走るカバンに日傘入れたまま

5位 竹財輝之助
汗みずく脳裏を過る校門の鬼
添削(「汗みずく」とは汗でびっしょりになること
   校門の鬼という表現は面白い 「脳裏を過る」は要らない
   自分の気持ちの説明の言葉 状況を描写すれば みずくも要らない
   想像してくれる 一句の半分が要らない 
   描写することで汗をどう見せるか 季語で着地す
   汗だらだらに違いない 読者が読み取ってくれる
   メカニズムが分かると希望がないことはない)
校門の鬼へ向かって走る

■鶴瓶ちゃんとサワコちゃん~昭和の大先輩とおかしな2人~#18
昭和の大先輩 前田吟の言葉「芸は人なり」



2024年7月4日木曜日

100分de名著 キャンベル「千の顔をもつ英雄」(1)

三島喜美代女史へ
梅雨の月塵を使って塵作り
梅雨の星塵から塵を作り出す
土から作る割れる新聞夏日
梅雨晴れる紙を土へと置き換えて
情報を焼き物とせり梅雨晴間

■100分de名著 キャンベル「千の顔をもつ英雄」(1)
第1回 神話の基本構造「行きて帰りし物語」
ジョーゼフ・キャンベル(1904~87)
人類共通の「物語の構造」

神話の中の英雄は何者かの召命を受け異世界への冒険の旅へと旅立つ。
異世界で英雄はさまざまな試練に直面しながらも、
それらを乗り越え大いなる秘宝を得る。
最後に英雄は、自らが得たものを携え、
さまざまな障害を振り払いながら、現実世界に帰還。
その世界に豊かな実りや変化をもたらす。
こうしたプロセスが私たちの人生のプロセスと見事に重なり合うという。
第一回は私たちは「神話の知恵」から何を受け取ればよいかを考える。

戦略デザイナー/多摩美術大学特任准教授 佐宗邦威(さそうくにたけ)

2人の子どもと母親が象にのみ込まれた物語
主人公が何者かにのみ込まれる神話はこれだけではありません

アイルランドの英雄フィン・マックールは、ケルト世界では
ピーストとして知られる、形のはっきりしない怪物に
呑み込まれた。ドイツの少女、赤ずきんは、
オオカミに呑みこまれた。ポリネシアで人気のあるマウイは、
曾祖父の母ヒネ-ヌイ-テ-ポに吞み込まれた
ギリシャの神々は、ただ一人ゼウスを除いてすべて、
父であるクロノスに呑み込まれた

英雄神話 物語の共通パターン 
英雄はごく日常の世界から、自然を超越した不思議の領域へ
冒険に出る。そこでは途方もない力に出会い、決定的な
勝利を手にする。そして仲間に恵みをもたらす力を手に、
この不可思議な冒険から戻ってくる。

モノミス=単一神話論(英雄の旅)
出立・旅立ち X 試練 Y 帰還 Z
英雄の物語の基本構造
神話に共通点があるのはなぜ?
キャンベルは心理学者C・G・ユングの影響を受けた
集合的無意識 集団の中にも無意識が存在し
その中に共通の元型・パターンがある
集団の無意識の中になる共通の元型に
神話は影響を受けているのではないか
(神話は)人類がこの世界を生きていくうえで
共通のノウハウとして太古から残ってきた

未来のブッダ
ゴータマ・シッダールタの伝説
試練 愛と死の神 カーマ・マーラの登場
この恐ろしい神は、象に乗り、一○○○の手に武器を持って現れた。
(中略)しかし「偉大なる者」の心は取り乱すことがなかった。
創造神ブラフマーの願い 帰還 世界中の人々に教えを説く

キャンベルが世界のクリエイターに与えた影響
「スター・ウォーズ」(1977)監督ジヨージ・ルーカス
主人公ルーク・スカイウォーカーが銀河系を舞台に
仲間と冒険を繰り広げ成長してゆく物語
「キャンベルは人生における3人のメンター(助言者)の1人」
「『千の顔をもつ英雄』に会わなければ
今も脚本執筆を続けていただろう」
「現代の神話」を作ろうと思っていた

ハリウッドのストーリー・コンサルタント 
クリストファー・ボグラーが7ページの
「千の顔をもつ英雄」実践ガイドにまとめた
ハリウッドにおけるストーリー開発のフォーマットになっている
日本では2002年「神話の法則」として出版された
この影響を受けて「マトリックス」や
「ロード・オブ・ザ・リング」が作られた
世界中の小説・舞台・ゲームの
シナリオなどにも影響を与えている
神話には人間が本能的にワクワクしちゃうものがあるはずだ

「人が根本的な自己存在を探して内面へ向かう旅こそ、
私が四十年前に書いたささやかな本、
『千の顔をもつ英雄』で考察を試みたものです」「神話の力」

ジャーナリスト ビリ・モイヤーズと対談
英雄の旅の構造は原始的な部族社会の思春期儀礼
既に先取りされている

この儀礼を通して、子供は子供らしさを放棄して
大人になることを強制される。いわば、幼な子の
人格と精神において死に、責任あるおとなとして
よみがえるわけです。これはだれもが
経験しなければならない基本的な精神の変身です。
「神話の力」訳 飛田茂雄

子供時代の私たちは、誰かの保護と監督に依存しています。
(中略)だれかに叱られたり 誉められたりしながら、
(中略)おとなしく依存している存在です。
この心理的未成熟の状態を抜け出て、
自己の責任と自信とに支えられた勇気を持つためには、
いったん死んでよみがえることが必要です。
これが普遍的な英雄の旅の基本的なモチーフですー
ひとつの状態を去り、より豊かな、より成熟した状態に
達するために生命の源泉を見つける、というのが。

華々しい英雄じゃなくても自分の内部における
精神的な旅をしなくてはいけないのか

神話のなかには、ヴィジョンの探求と言いますか、
神からの賜物やヴィジョンを求めて旅立つという型のものが
あって、どの民族の神話でも形式は同じです。(中略)
自分の世界を後にして深淵(しんえん)へ下っていく、
あるいは遥かかなたへあるいは天の高みへ昇っていく。
そしてそこで、自分がそれまでいた世界では
意識できなかったものに出会う。
人が根本的な自己存在を探して内面へと向かう旅こそ、
私が四十年前に書いたささやかな本、
『千の顔をもつ英雄』で考察を試みたものです。

キャンベル自身の話が「英雄の旅」に当てはまる
英雄の旅はその人の成長の物語
「千の顔をもつ英雄」のもう一つの読み方
英雄の旅を一人一人の内面が成長していく
旅として読んでいく
自分自身こそが小さな英雄
自分の物語を自分で作っていく生き方を
するためのヒントとして活用する

2024年7月3日水曜日

友だちと絶交した時に読む本&徳川秀忠の敗北&紫式部の和歌&「青野」

ショウビタキ一羽静かに青桐へ
夏の月数の歴史を淡々と
夏の夜をアブサン前に目のすわる
魯山人赤絵の徳利緑雨降る
深みの赤へひいた金泥夏日

■理想的本箱 「友だちと絶交した時に読む本」
吉岡里穂 太田緑ロランス 幅允孝(よしたか)

▪「空気」を読んでも従わない 著者 鴻上尚史(こうかみしょうじ)
日本には「世間」と「社会」が別にある
「社会話」をしよう 
息苦しさを感じたら緩やかな社会に属しませんか
世間と絶交しても社会はあり続ける

▪それから 著者 夏目漱石
人は何を覚悟して絶交するのか❓
三千代さんのいないところで、夫平岡と代助との会話
三人の中で一番腹が座っているのは三千代さん
これは親友、家族との絶交の話

▪おともだち 著者 高野文子
繊細に練り上げられた古典的な友情の物語
春ノ波止場デウマレタ鳥ハ 
会わない選択をするときの絶交とは違う
会えなくなってしまうときの絶交の物語

■偉人・敗北からの教訓 第50回「徳川秀忠・関ケ原遅参と大阪の陣」
秀忠の敗北
大坂冬の陣で大軍を急行させ兵たちを疲弊させてしまった

徳川秀忠 敗北の伏線
兵を置き去りにしてしまった
冷静になれなかった

徳川秀忠 敗北の瞬間
遅刻がトラウマになっていた
同じ過ちを犯してしまった

創業は易く守成は難し

秀忠の教訓から学ぶ教訓
手にした権力に酔うことなくリーダーたるもの徳を積むべし

■光る君へ(26)
紫式部が宣孝(のぶたか)へ詠んだ句
言ひ絶えばさこそは絶えめなにかそのみはらの池をつつみしもせむ
(絶交を宣言したとき)
忘るるはうき世のつねと思ふにも身をやるかたのなきぞわびぬる
(来てくれなくなったとき)

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「青野」

「青野」という季語は「夏野」の傍題になります
夏の青々と茂った草原の野なわけですけれども
「青野」という季語が成立したのは
山口誓子の名句が元であるという説もあります
青野ゆき馬は片眼に人を見る
その句以後「青野」という傍題がたつように
なったと歳時記には解説があります
一般的に五行思想というのでしょうか
夏のイメージカラーとしては朱 赤というものが
いわれておりますが この「青野」の場合は
あくまでも その草をイメージさせる 
その姿からの青と考えたらよさそうですね

2024年7月2日火曜日

新美の巨人たち 萬鉄五郎「裸体美人」

湧き出でる滲むため息梅の雨
梅雨の朝ドラレコ止める駐車場
徹夜明け走る雷うつらうつ
老鶯(らうおう)や昼夜分かたず鳴き止まず
夏の帯締めて背すじの伸ばしけり

■新美の巨人たち【反逆の絵筆!萬鉄五郎「裸体美人」×シシド・カフカ】

アンリ・マティス作「椅子にもたれるオダリスク」
1928年油彩 パリ市立近代美術館
の隣に展示されている萬鉄五郎の「裸体美人」

美術家はまず壷のようなものだと思ってみるとよい。
その壷にアカデミックをだんだんつめ込んで口までになったら
なお山盛りにして棒でうんと押しつけるのだ。
きっと底からはね返してくるだろう。
その力を個性といってもよいのだ。
はね返さないのは無個性の凡くらだ。
(マロニエ 雑感 壷 より)

洋画家 小寺健吉
今考えると誰の作品も記憶にない。只一人 萬君の「草上美人」(原文ママ)
という作品だけが判然と思い浮かべることができる。
といって感心したのではない。余りひどい絵だと思ったからだ。
(雑誌「繪(かい)」1976年より)

東京藝術大学学長 日比野克彦氏
Q.裸体美人について?
黒田教授がいて生徒で萬さんがいて19人中16位?
いま初めて聞きましたけども あっなるほどね腑に落ちるなみたいな
そういう評価だったんだねこの絵は そこまで見えてくるよね
当時の絵として見れば萬さんが描きたかったこととか伝えたかったことは
その当時の一個の基準スタンダードのものとはちょっと違ってたんだろうね
そこがやっぱり個性だし魅力だしアートの一番のみんなと同じものじゃなくて
少しずつ自分なりにズレてくるってところはそれがアートの魅力なので
16位上等だと思います

Q.学校で絵を評価する難しさは?
美術の場合というのは「先生の開発した研究を私も引き継いで
その研究を突き詰めます」っていう伝承の仕方ではない
先生も一作家だし学生といえども自分も一作家だから
その姿は見るけれども同じようになるつもりは毛頭ありません
とはいえ大学とか教育機関は成績をつけるっていうのがあるので
今でも昔と変わらず難しいというか無理な部分はありますよね

萬鉄五郎の言葉
半裸の女が赤い布を巻いて鮮緑の草原に寝ころんでヘイゲイしている図
(中央美術 私の履歴書より)
睥睨 へいげいとは睨むこと

画家は明日を憂いてはいけない。
今日、今、最も忠実でなくてはいけない。
(鉄人独語より)

日比野克彦氏の言葉
これキャンバスに描かれているわけじゃないですか
キャンバスに画材がのっかっている 
赤い絵の具がのっかっている
緑の絵の具がのっかっている 物質的にはそれだけ
それを観て「何か面白いな」って思うのは絵がすごいんじゃなくて
こっちの見る方の想像力があるからこそ
ただキャンバスにのっかってる画材が「うわ!」って思うわけですよ
萬さんの絵を観ていつの時代も驚く人たちがいるっていう
その「大衆がすごいよね」っていう言い方も出来るかなと思います

価値観の逆転

大正8年(1919)34歳 神奈川県茅ケ崎で暮らし始める
南画を始める 柔らかくた、おやかに
そして 1885~1927 41歳

2024年7月1日月曜日

特集 NHK俳句&NHK短歌

病葉(わくらば)にちょこんと鎮座落し鱧
茗荷の子酢味噌とともに頬張らん
これが最後のスポットライト菖蒲
高所得者はバターに変える初夏
すべてから解放される夏の星

■NHK俳句 特集 夏井いつきの発想力を鍛えるドリル2
今回のお題「木漏れ日」
出演者 柴田英嗣 アンジェリーナ1/3 庄司浩平 ペンた丸 

蠅とんでくるや箪笥の角よけて   京極紀陽(きよう)

①季語はあるか
「木漏れ日」は季語ではない
無季の俳句が駄目ではない
季語は生き物なので時代とともに変わる
②兼題の意味を理解しているか
【木漏れ日】木の葉と葉の間からもれる太陽の光のきらめき
木漏れ日は昼の太陽がもたらすもの
③ありがちな比喩が使われていないか
夜の光景に比喩をするのは無理がある
木漏れ日の光の強さを把握する
頭で想像するのではなく自分の目で見ることが大切
④不要な言葉を使っていないか
(書かなくてもわかる言葉 意味が重なる言葉)
季語に入っている映像は記さない
重複する言葉 いらない言葉が入っていないか 客観的な目でチェック!
⑤詩はあるか❓
報告・説明になっていないか 日記のようになっていないかチェック!
⑥読み手に伝わるか❓
独りよがりな表現になっていないか
読者の立場になって客観的に振り返る

投句する前にチェック!

■NHK短歌 
スペシャル 短歌で「光る君へ」を10倍楽しもう!
「光る君へ」に登場する和歌を、歌人・俵万智女史と作家・渡辺祐真(すけざね)氏が解説。

人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな
万智訳
子を思う親の心というものは闇にさまよう迷子のごとし

▪俵さんのおすすめのシーンと和歌
嘆きつつひとり寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る
右大将道綱母
万智
あなたがなかなか来なくていつ来るのかしらと
嘆きながらひとりで寝ている夜が明けるまでの時間が
どれだけ長いかあなたは知っているの
恋愛の嫉妬
すけざね
ドラマのシーンだと歌が全く違った意味を帯びる気がした
兼家はこのあとなくなるので寧子(やすこ)はこれからひとりになる
いよいよ「ひとり寝る夜」が本当にひとりっきりで寝るようになる夜になる
孤独 寂しさがより募ってくる
万智
永遠に来ないあなたを待つ時間に変わっていく
兼家が振り返ったときに「輝かしい日々であった」(と言った)
そんなふうに寧子と心のやりとりができたこと自体が
すばらしかったと振り返っている
2人の関係を象徴的に振り返らせてくれるのが和歌
和歌の喚起力 時間を閉じ込める力
すさまじい力を感じさせる歌でありシーン

▪すけざねさんおすすめシーンと和歌
忘れじの行く末までは難ければ今日をかぎりの命ともなが
儀同三司母
親子そろって思い出の歌を読んで臨終する
昔詠んだときは恋愛の歌 思いを告げてくれたときに
思いは変わらないなんて言うけれど そんなのはいつまで
続くかわからないからああ今日で終わりでいいのに
命がなくなってもいいのに
情熱的な一句
最後に「この歌で貴子と決めた」それくらいの強い思いで
添い遂げたことがこの一首で伝わる
亡くなるまでこの31文字が道隆のなかに
貴子への愛として生きていたことが改めてリフレインされる

万智
みんな女性からもらった歌を口ずさんで死ぬことで
株を上げて消えていく

滝の音は絶えて久しくなりぬれど名こそ流れてなほ聞こえけれ
大納言公任

万智
流麗な言葉の流れが滝の流れを彷彿とさせる
音としてすごく好きな歌
韻のふみ方は現代短歌にも参考になる

すけざね
公任は祖父も父も有力な政治家だったが早めに引退
そのあと彼は政治的にはあまり成功できなかった
しかし今なお文化人としての名前はとどろいている
公任に重ねて読みたくなる歌

万智
私は実体はなくなっているのに名前だけとどろいているのは
いいことなの?と思ってしまう 
すけざね
有名無実みたいな?
万智
百人一首の歌でもまだまだこれからもいろいろ読める

▪道長からまひろに送られてきた和歌
思ふには忍ぶることぞ負けになる色には出でじと思ひしものを
よみ人しらず
死ぬる命生きもやするとこころみに玉の緒ばかりいはなむ
藤原興風
命やは何ぞは露のあだものを逢ふにしかへば惜しからなくに
紀友則

万智
「古今和歌集」の恋の歌からとっている
どんどん恋の思いが進行している
「古今和歌集」の並べ方は恋一恋二あたりは恋はしているけれど
結ばれていない 恋三になると実際に結ばれる
紀友則の歌は恋二の最後の歌 この歌を送ったら
次は結ばれるしかないくらいの瀬戸際な感じ
やるなあ道長
すけざね
ドラマでは道長の和歌に対して まひろは漢詩を送る
道長は最初そのことの意味がわからず 
友人・藤原行成に聞きに行った 
2人のなかで見ているものが違う気がする
まひろは道長に対して国の政治をこうしてほしい
こうあって欲しいと願っている 道長はまひろに対する
思いがあふれてどんどん大きくなっている
それが2人が和歌と漢詩を選んだ意味かも
万智
和歌で返してしまうと思いが
ただ漏れてしまうのではないかという不安
和歌は思いをのせるものだから 漢詩・漢字を
よろいのように自分の心に着せて愛しい思いが
だだ漏れないようにせき止めているのかも

万智
まひととききょう
「枕草子」が生まれることになったやりとり
四季春夏秋冬とサジェスチョンしたときに
見ている人ほとんどが「春はあけぼの」「夏は夜」と思ったはず
古典を習っていて良かったな
すけざね
「たったひとりの悲しき中宮のために『枕草子』は書き始められた」
を受け止められずにはいられない
万智
すごく示唆的
「多くの人に伝わる歌はどうやったら作れますか❓」と聞かれる
最初から多くの人 不特定多数の人を狙って作ってもうまくいかない
歌もたったひとりの人のために作った歌が
結果として多くの人に読まれたり愛されることはある
あのシーンはすべての創作について大切なポイントを教えてくれている

夜をこめて鳥のそら音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ
清少納言
藤原行成と清少納言のやりとり
ある夜に行成と清少納言がしゃべっていて
行成が用事があって早く帰ってしまった
後日 行成が「早く帰ってしまってごめんね」と言ったところ
清少納言が「鳥のそら音でしょ」「うそでしょ」と冗談っぽく責めた
万智
鳥のそら音:古代中国の政治家孟嘗君が
函谷関を鶏の鳴きまねで通り抜けた故事
行成が「函谷関じゃなくて逢坂の関を開けたい」と言う
すけざね
「逢坂の関」があなたへの思いは本物ですよということもふまえている
万智
私の逢坂の関をあなたが超えることは許されません
かっこいいやりとり
すけざね
機転に富んでいる

万智
めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲隠れにし夜半の月かな
紫式部
幼友達と久しぶりに会ったけれど短いやりとりだけで
お別れになってしまった それを雲隠れした月にたとえている
道長との何かでこの歌が使われたらどうしよう

「枕草子」は清少納言 ❝をかし❞の文学
「源氏物語」紫式部 ❝あわれ❞の文学
❝あはれ❞は「ああ」と言う心の奥から
生まれてくるいみじみした感慨を表わす
❝をかし❞は知的に楽しめるウィットに
富んだ楽しさを表わす言葉

契りきなかたみに袖をしぼりつつ末の松山波越さじとは
清原元輔
やすらはで寝なましものをさ夜ふけて傾くまでの月を見しかな
赤染衛門
心にもあらでうき世にながらへば恋しかるべき夜半の月かな
三条院(三条天皇)
有馬山猪名の笹原吹けばいでそよ人を忘れやはする
大弐三位(紫式部の娘)