2024年6月5日水曜日

あの本、読みました?東野圭吾、森博嗣、伊与原新…理系作家の魅力

福永義昭氏へ
暑き日や座り続けた十時間
汗みずくひとつの音に愛込めて
皐月波自信と不安抱きつつ
揺るがない信念持ちて夏の月
星涼し聞かせたかったカンパネラ

■あの本、読みました?
~東野圭吾、森博嗣、伊与原新…理系作家の魅力
鈴木保奈美 角谷暁子

星新一 伊与原新 池澤夏樹 森博嗣 森見登美彦 東野圭吾
共通点は理系作家
AIをはじめテクノロジーの急速な進化
教育現場ではScience(科学)Technology(技術)Engineering(工学・ものづくり)
Arts(芸術・リベラルアーツ)Mathematics(数学)
STEAM 理系人材が注目

医学部を除く大学で理系学部卒業の「理系作家」その魅力に迫る
作家 伊与原新 神戸大学理学部地球科学科出身
本の執筆の裏側を語る
「月って実は一年に三・八センチずつ地球から離れていってるんですよ」
「あれ、これどういうこと?」って言う風に読んでる人が続きを読んでくれる

田内学 東京大学工学部 情報工学出身
秋月透馬 上智大学工学部 東野圭吾氏担当
河北壮平 大阪大学工学部 応用理工学科卒業 理系編集者

▪数学者VS物理学者 知的格闘技の面白さ
容疑者Xの献身 東野圭吾著 文春文庫
草薙の頭の中には、今日の昼間に湯川と交わした会話の内容が蘇っていた。
あの物理学者はもし事件に石神が関わっているなら殺害が
計画的なものだと思えない、という主張を曲げようとしなかった。
「もし彼が関わったのだとしたら、殺人そのものには
手を出せない状況だった。ということしか考えられない。
つまり彼が事態を把握した時点で、すでに殺人は
完了していたわけだ。そこから彼にできたことは何か。
事件の隠ぺいが可能なら、それをしただろう。不可能なら、
捜査陣の追及を逃れるためのあらゆる方策を練る。
花岡靖子たちにも指示を与える。刑事の質問にどのように答え、
どのタイミングでどんな証拠を出すか、などね」
要するに、これまで花岡靖子や美里が草薙たちに行ってきた
供述のすべては、彼女たちの意思によるものではなく、
石神が後ろで糸を引くことによって成されたものだ、
というのが湯川の推理だった。

感情的に破綻しない湯川のはずが…

「入ってもらってくれ」湯川は小声で答えた。
間もなく入ってきたのは三人の男だった。
(中略)
あの日に集まった友永の教え子たちだ。君たち、と友永はつぶやいた。
「僕が呼んだんです」湯川はいった。
「おそらく僕は証言台に立つことになるでしょう。
僕は今の話を法廷でするつもりです。そして、情状酌量を訴えます。
先生が何を願っていようと、
一日でも早く刑務所から出られるように努力します。」
(中略)
友永は右手を目に当てた。身体が揺れている。嗚咽が漏れた。
参ったな、と彼は口元を緩めた。
「この結末は予想外だ。やられた。いやあ、参った。」
(中略)
「君は変わったな。昔は科学にしか興味がなかったはずなのに、
一体いつの間に、人の心がわかるようになった」湯川は微笑した。
「人の心も科学です。途轍もなく奥深い」
友永は教え子をずっとみつめ、」頷いた。
「その通りだな」そして白髪頭を下げた。「ありがとう」

(トリック×ロジック)を人間ドラマを乗数で✖
東野ミステリーの面白さ

理系ミステリーの魅力 知的好奇心を刺激してくれる

▪森博嗣(作家・工学博士)
名古屋大学工学部建築学科出身 工学部の助教授(当時)を務める傍ら
「すべてがFになる」でメフィスト賞を受賞しデビュー。
以後人気作品を続々発表。

すべてがFになる 森博嗣著 講談社文庫

きみのお金は誰のため 田内学著 東洋経済新報社
あれは、昨晩のことだった。ベッドの上で、
優斗は数学者が殺される推理小説を読んでいた。
(別ページ)
店内はそんなに広くないが、大好きな推理小説コーナーは充実している。
逆に言えば、その品揃えが優斗を推理小説にハマらせたとも言える。
棚を指でなぞりながら気になった本を取り出しては、試し読みを繰り返した。

作家・田内学が語る 森博嗣の魅力は?
文体の美しさは理系の論文からきている!?
極限まで無駄がそぎ落とされている

「そもそも、生きていることの方が異常なのです」四季は微笑んだ。
「死んでいることが本来で、生きているというのは、そうですね…、
機械が故障しているような状態。生命なんてバグですものね」
「バグ?コンピューターのバグですか?」
犀川は一瞬にして彼女の思想を理解した。
(中略)
「そう、たとえばね、先生。眠りたいって思うでしょう?
眠ることの心地良さって不思議です。なぜ、私たちの意識は、
意識を失うことを望むのでしょう?意識がなくなることが、
正常だからではないですか?眠っているのを
起こさせるのって不快ではありませんか?
覚醒は本能的に不快なものです。誕生だって同じこと…。
生まれてくる赤ちゃんって、だから、
みんな泣いているんですね。生まれたくなかたって…」

作家・田内学 理系作家のオススメ本は?
作家 星新一 東京大学農学部農芸化学科出身
声の網 星新一著 角川文庫
50年後の世界を的確に予言している

秋月透馬 理系作家のオススメ本は?
あの光 香月夕花著 集英社
香月夕花は京都大学工学部卒業
愛を語る理系小説

「ねえ唯さん?あなたは愛に飢えることで、その価値を知ったでしょう?」
奈津子はこれ以上ないくらい優しく、
大切なことを教え諭す調子で、その女性に話しかけた。
「そこらの凡庸な子供は愛情をただでもらうから、大人になっても、
ボーッと待ってればそのうち誰かがくれるだろうって思い込む。
でもそうじゃない。愛情ってね、ただではもらえないのよ。
誰かに愛してもらいたければ、自分の中に、価値を
作り出すことが必要だわ。あなたは生まれながらにして、
その訓練に身を投じて、立派に成し遂げたの」
唯ちゃんはすっかり心を掴まれた様子で聞いている。
「だからこそそんなに魅力的なのよ。寂しさを隠し持った人間にはね、
他人を強烈に惹きつける力が備わるの。あなたの表情を見れば分かるわ。
それは素晴らしいことじゃないかしら?」
奈津子はとびきり華やかな笑顔で話を諦めた。酔っぱらって騒がしかった
お姉さんたちが黙り込み、じっと感じ入っている。

河北壮平 理系作家のオススメ本は?
眼球堂の殺人~The Book~ 周木律著 講談社文庫
周木律は国立大学 建築学部卒業
物理的ギミックのトリックが満載

▪理系作家 伊与原新が語る理系小説の書き方
神戸大学理学部卒 
東京大学大学院で地球惑星科学を専攻博士課程を修了
研究者時代にトリックを思いつき作家に

お台場アイランドベイビー 伊与原新著 角川文庫
科学知識の表現の仕方
「子育てって、月に似てると思うんですよ。親が地球で、子どもが月」
「ああ」「知ってました?実際、
月は地球から生まれたようなもんなんですよ。
原始地球に火星サイズの小天体が衝突しましてね、
飛び散った破片が集まってできたのが、月」
(中略)
「幼いころは、無邪気にくるくる回って、いろんな顔を見せてくれる。
うれしい顔。悲しい顔、すねた顔、楽しい顔、さびしい顔、全部です。
でも、時が経つにつれて、だんだん地球から離れていって、
あんまり回ってくれなくなって、とうとう地球には
見せない顔を持つようになる。」
(中略)
自分は、どうだっただろう。十やそこらのころから、
自分の思いや感情を父に伝えようとはしなくなった。
父のほうでも、息子の気持ちを知ろうとはしなかった。
こちらはただ乱暴に要求をつきつけ、
向こうは有無を言わさずはねつける。その繰り返しだ。
「まあ、それが成長するってことなんでしょうけど、
やっぱり、悲しいですよね」

「ジョン・キーツ」「美しきものはとこしえに歓びである」
という言葉で知られるイギリス・ロマン派の詩人
「リチャード・ドーキンス」
原因が分かるからこそ楽しめる理系小説

小説のテーマも探し方

「宙わたる教室」伊与原新著 文藝春秋
「八月の銀の雪」伊与原新著 新潮社刊
「内核は、地球の中にある、もう、一つの星です。
(中略)
この星の表面、びっしり全部、銀色の森です。
高さ百メートルもある、鉄の木の森。
正体は、樹枝状に伸びた鉄の結晶です。
そして、その森には、銀色の雪が降っているかもしれない。
これも、鉄の結晶の小さなかけらです。
外核の底で、液体の鉄が凍って生まれる。
それが、内核の表面に落ちていきます。
ゆっくり、静かに、雪みたいに」

中学入試の国語問題に使われている

理系作家伊与原信がオススメする理系小説
プロジェクト・ヘイル・メアリー アンディ・ウィアー著 翻訳/早川書房

理系小説以外に楽しめる本
日本に現れたオーロラの謎 片岡龍峰著 DOJIN選書

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