草刈らん開花の前の雄躑躅(おんつつじ)
船窪を炎の如く雄躑躅
海浜を弘法麦(こうぼうむぎ)の伸び伸びと
月見ヶ丘を弘法麦の群れ成さん
身をまかす弘法麦や潮風に
■100分de名著 トーマス・マン❝魔の山❞(3)死への共感
小黒康正 九州大学教授
「あなたのユートピアには身の毛がよだつ。
権力が悪であることを我々は知っています。
しかし、善と悪、彼岸と此岸(しがん)、精神と権力、
こうした二元論は神の国が到来すべきものであるならば、
禁欲と支配を結合させる原理において、
一時的に帳消しにされなければなりません。
これが私の言うテロリズムの必然性なのです」
「ハンス!」
ああ、どうしたものだ!こんなにたまらないことが
これまでこの世にあったためしがあったか。
二人がこれまで使い慣れてきた「きみ」とか「おい」ではなく
慎み深さをことごとくかなぐり捨て、やりきれないほど
感極まって、「ハンス」というまさに名前で呼び、
切羽詰まった不安を抱きながら、いとこの手を握り、
握られたほうも、眠れぬ夜を過ごし、出発に興奮し、
動揺していた相手のうなじが、ガクガク
震えていることに気がつかずにおられなかった。
「ハンス、すぐ後から来るんだぜ!」
それから彼は、ヨーアヒムが1年前に
案内してくれた道を、ゆっくりと引き換えした。
ハンス・カストルプ(上流階級出身の青年)
ヨーアヒム・ツィームセン(ハンスのいとこ 軍人志望)
レオ・ナフタ(ラテン語学者) セテムブリーニ(イタリア人の人文学者)
ナフタはナチスの登場を予見するような人物
セテムブリーニのモデルは
作家 ハインリヒ・マン(1871~1950) トーマス・マンのお兄様
マンの政治性の変遷がセテムブリーニの描き方に影響している
変わった結果を反映させることを恐れない
「ああ、そうだ、これだ!」と心の中で叫び声が起きた。
―それはあたかも目の前に拡がっている水面のうららかな太陽を、
ひそかに、自分自身にも秘めたまま、
以前から胸に抱いていたかのように起きたのだ。
死は、自由、放埓(ほうらつ)、不様(ぶざま)、快楽だ。
快楽であって、愛ではない、と自分の夢が言う。
死と愛、―これだと韻の踏み方がまずい、
趣味の悪い、誤った押韻だ。
愛は死に対立するし、理性ではなくて、愛だけが死よりも強い。
このことを記憶のとどめておくぞ。
人間は善意と愛のために思考に対する支配権を死に譲ってはならない。
精神医学
生への奉仕
人間の素晴らしい面を恐ろしい面 明の部分と暗の部分
人間は集団になると簡単に恐ろしいことをしてしまう
想像の中での死はちょっと魅力的 伊集院静
理念の提示で終わらせるのではなく実践に向かわせるため
忘れるメカニズム 伊集院静
「あなたは、いつも事なかれ主義だ、カストルプ君。
厳しさ、これこそまったくもって あなたの関知するところではない。
その点、おいとこさんは違います。できが違うんです。
あの人は、自分が何をして、何に賭けたのか、知っていた」
二人は多くを話さず、話しても「ベルクホーフ」の日常生活で
話題にあがる程度のもので、それ以外は何も話さなかった。
それでも、ハンス・カストルプの市民的な心に
激しく沸き立つものがあり、それが今にもあふれそうに
なることも折に触れてあったのである。
彼にはひげを剃るのが難しくなり、もう8日か10日前から
ひげ剃りをやめたところ、あごひげがかなり甚だしく
なってしまったので、穏やかな目をした蝋のように白い顔は
いまや黒いひげに一面おおわれたのだ。
それは兵士が戦場でのび放題にする戦争ひげで、
もっとも誰もが思ったことだが、
このひげによって彼は、立派で男らしい姿になったのである。
ひげが意味するもの
6章と7章が双子のように展開
ハンス・カストルプ ヨーアヒム・ツィームセン
忘却 死への共感 想起 生への奉仕
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