2024年5月31日金曜日

お洗濯で一句&鶴瓶ちゃんとサワコちゃん#15吉村真理

備前焼病葉(わくらば)に載る落し鱧
夏の風お腹いっぱいオムライス
夏日蔭火傷しそうなハンバーグ
光る汗シェフ自らのおもてなし
夏痩や逃げていくなり「金の貝」

■プレバト纏め 2024年5月30日
お洗濯で一句

特別永世名人 締めのお手本 梅沢富美男
夜濯ぎや命すくなき星赤く
(夜濯ぎ 送り仮名を省略するタイプの季語 夜濯
 命が尽きそうな星は赤く燃える 俳句は説明ではなく映像)
 夜濯や赤く老いたるひとつ

「名人10段」を目指す試験 皆藤愛子
洗剤の封切る新緑の朝(あした)
(触覚・嗅覚も伝わる 指先の力の触覚
 封を切った時の香り 嗅覚 洗剤と新緑の取り合わせも成立
 緑と洗濯をした後の白 読者の脳の中で響き合う)

1位 蓮見翔
部屋からは洋画の予告夏の雲
添削(「洗濯物」使わないで場面を表現 
   テーマを意識する ベランダも夏雲(強い)も季語
  メカニズムを意識すると良い)
ベランダの夏雲部屋からはニュース(不穏)
ベランダの夏雲部屋からはサザン(空気が変わる)

2位 大友花恋
上京し洗うT シャツ独りぶん
添削(夏シャツの傍題 季語の仲間のようなものに入れられている
   しっかりと切り替える)
上京洗うT シャツ独りぶん

3位 川島如恵留
キャンプの夜乾いたシャツは煙の香
添削(キャンプ場で洗う才能あり 家で洗濯凡人)
Tシャツに昨夜(よべ)のキャンプの煙の香

4位 DAIGO
大中小干したTシャツ4人分
添削(発想が普通 数詞は漢数字にする リズムを出すために小を入れる)
大中小T シャツ風に四人分
大中小T シャツ風に四人分

5位 水川かたまり
春昼に揺れるコートと短肌着
添削(「春昼」春の季語 「コート」冬の季語
   やで詠嘆することで季節も移り変わって来たなと言える)
風や白きスタイと短肌着

次回のお題「初デート」

■鶴瓶ちゃんとサワコちゃん
~昭和の大先輩とおかしな2人~#15吉村真理
吉村真理女史 昭和43年/1968年
カルティエ・ジャパンの社長 大伴昭氏と結婚

トニー・ベネット(1926年~2023年)
グラミー賞を20回エミー賞を2回受賞したレジェンド歌手
BECAUSE OF YOU
君ゆえに心には歌があり
君ゆえに僕は恋を始めることができ
君ゆえに太陽は輝き
月や星が語りかけるのは
あなたは僕のものだということ
いつまでもそして離れることはないと

Because of You - Tony Bennett
https://www.youtube.com/watch?v=i-4zvArJDGg

阿川佐和子女史はこの歌を大伴昭氏が
歌っておられたのを見かけていたとか…。
大伴昭氏はフランク・シナトラとは友達だったとか…。

6年前に50年間連れ添った旦那様が他界されたそうです。
現在は思い出さなようにしておられるとか…。
立ち直っておられないそうです。

カンヌでパブロ・ピカソに会われたとか…。
この話は、ちょっと勘違いされていたみたいな記憶でした。

昭和の大先輩 吉村真理の言葉
一生美しく!!!   吉村真理



2024年5月30日木曜日

よみ旅!In大阪(後編)&偉人・敗北からの教訓第46回&「あるべきようは」&「だし」&「俳句の作りよう」

神山をすだちの花の甘き香
田植え終え水面の眉山と空揺れん
滲みでる本質描く風青し
雲の峰黙し人生肯定す
デッサンは声なき会話麦の秋

■夏井いつきのよみ旅! In大阪(後編)

お誘いに揺れるよ古稀の姥(うば)桜   江島照美
姥桜=春の季語
五百円玉二百六十三個や梅の花   梶谷幸子
梅の花=春の季語
坂登りゆくスーツの背初雲雀(ひばり)   大内秀美
初雲雀=春の季語
山本秀雄 

風車望みをかけてたたく鍋   野田邦雄
考える力にひらく桜かな   夏井いつき

税理士や肩もみ娘風光る   千住きよの
俳句ひとくちMAMO
風光る=春になると風の中に光の分量が増えてくるという春の季語
鳥の恋万博色に夢の島   田附(たづけ)緑

ROLANDさんの名言がなかった…。
寂しい…。

■偉人・敗北からの教訓 第46回「シリーズ家康③家康と嫡男・信康の切腹」
家康の敗北から学ぶ教訓
冷静に勝算を見極め人生の決断をすべし

■こころの時代 明恵上人の❝夢❞「あるべきようは」を生きる
阿留辺畿夜宇和 あるべきやうわ

からす河に猿のききめく音聞くも心澄むには悉曇(しったん)の字母(じぼ)
(インダス川)              (サンスクリット語)

くまもなく澄める心の月思ふらむ

あかあかや あかあかあかや あかあかや あかあかあかや あかあかや月

後ろの竹原の中 小鳥物にけらるゝと覚ゆる 行きて取りさへよ

手水桶に 虫の落ち入りたると覚えぬ 取り上げて放て

建永元年(一二〇六)十一月四日 天女像の夢
建歴元年(一二一一)十二月二十四日 青い重ね衣の女の夢

愛心なきは即ち法器にあらざる人なり

寛喜三年(一二三一)十月十日 虚空が我が身となる夢

毎年1月19日明恵上人命日忌法要が執り行われている

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「だし」

「だし」とだけ言われると料理に使うあの出汁ですか❓
まさかあれって季語ですか❓と思いそうなのですが
この「だし」とは風のことなんです
日本には様々な風の呼び名がありますこの「だし」のその一つ
江戸中期の方言辞書にこの表記があると歳時記には
解説があるのですが微妙に正体のはっきりしない風でして
方位などが今一明確じゃないんです
ただ成立にあたって船を出すのに利する風
船を出すのを手伝ってくれる風という意味はあるそうです
一つの説としては朝方陸から海へ吹く風ともされていますが
海の博士にもっと詳しく教えて欲しいです

■高浜虚子著「俳句の作りよう」
5月20日に楽天ブックスに注文してあったのですが、
遂に届きました。
どこにもないのに楽天ブックスさんが
注文を受けてくださり、探してくださいました。
自力では入手できなかったと思います。
楽天ブックスさんに心より感謝❣
糸井重里さ~ん❣これで勉強いたします❣
お教えありがとうございました。



2024年5月29日水曜日

あの本、読みました?~お金の本・故山崎元の感動の一冊&近藤サト・宇垣おすすめ

迎へ梅雨台無しとなる脚本が
痛みなき未来を信じ夏を行く
夏の空課題の分離できぬ人
薔薇の園見頃迎えん五百本
夏来たる自慢の庭を開放す

■あの本、読みました?
~お金の本・故山崎元の感動の一冊&近藤サト・宇垣おすすめ

▪お金に関するビジネス書 売り上げランキング 3位
経済評論家の父から息子への手紙
お金と人生と幸せについて 
山崎元 GAKKEN

山崎元が残した最後のメッセージ
今年1月に亡くなられた経済評論家・山崎元さんが
お金と人生 幸せについて一番大事なことを
渾身を込めて書き下ろした最後の一冊

▪お金に関するビジネス書 売り上げランキング 2位
転換の時代を生き抜く投資の教科書
後藤達也 日経BP

Xフォロワー68万人を誇る元日経新聞記者・後藤達也
投資を通じて得られたのはお金だけではない
株価は景気や企業だけてなく世界情勢や金融政策
テクノロジーあるいは社会の変化など様々な要素を映し出す鏡

▪お金のプロが教える今読むべき本は?
田内学 作家 
きみのお金は誰のため
田内学 東洋経済新報社
今更聞けない「お金の不安や疑問」を物語で楽しく解説
中学2年生の優斗は女性銀行員の七海と謎めいた屋敷へと入っていく
そこにはボスと呼ばれる大富豪が住んでおり
「この建物の本当の価値がわかる人に屋敷をわたす」と告げる

ボスが最後の1つを山のてっぺんに置いた。
「これで1億や。この屋敷は立てられへんけど、この辺やったら
そこそこの豪邸は建てられるやろな。
この大金を見ると、みんな心拍数が上がるもんや」
彼の言うとおりだった。
自分の鼓動が速くなっているのを優斗は感じていた。
(中略)
「お金の正体…ですか?」七海が整った眉をひそめた。
「簡単なことや。たったの3つの真実や」
ボスが小さな指を立てながら、数え上げる。
「一、お金自体には価値がない。
二、お金で解決できる問題はない。
三、みんなでお金を貯めても意味がない」
(中略)
優斗は両腕をテーブルに乗せて、前のめりになっていた。
お金の正体も気になったし、お金の奴隷にもなりたくないと思った。

▪友沢和子
経済評論家の父から息子への手紙 山崎元 Gakken

大学に入学した息子へ 実際に送った手紙をもとに
闘病の中で新たに書き下ろし書籍化
株式市場との付き合い方 最初の仕事の選び方
リスクとサンクコスト(埋没費用)について自分の人材価値とは
山崎元が考える「小さな幸福論」が満載

息子よ。君に宛てた手紙の中では、
「『自分を磨き、リスクを抑えて、確実に稼ぐ』
ことを目指す古いパターンよりも、
『自分に投資することは同じだが、
失敗しても致命的でない程度のリスクを積極的にとって、
リスクの対価も受け取る』のが、新しい時代の稼ぎ方のコツだ。
リスクに対する働きかけ方が逆方向に変わった」と書いた。
(中略)
さて、新しい働き方の、具体的な手段の要点は
「株式とうまく関わることだ。これに尽きる。

FIRE
「Financil Independence,Retire Early」の頭文字を取った略語
資産運用による経済的自立と早期リタイアを意味する

巻末に掲載されている実際に息子へ送った手紙
貴君はこれからどうしたらいいのか。
こちらから指示したり頼んだりしたいことは何もない。
好きなようになってくれていい。
それがいいと思えば大学を中退してもいいし、
学生結婚して孫でも連れてくるなら大変面白いし、
才能があるかどうかに疑問があるけど詩人だの
アーティストだの目指してもいい。
革命でもいい。かりにやったことが違法でも、
その意図が理解できれば、私は息子の味方だ。

▪お金の超基本(朝日新聞出版刊)
お金って何だろう?から年金・納税・仮想通貨まで
寿命100年時代に対応するお金の教科書最新版

▪田内学 お薦め本
LIFE SHIFT(ライフ・シフト)
100年時代の人生戦略

▪友澤和子のお薦め本
「まんがで読破 資本論」
Teamバンミカス/漫画 マルクス&エンゲルス/原作 Gakken
作品解説は山崎元

▪日本語のプロアナウンサーの「あの本、読みました?」
近藤サト 宇垣美里

私のペンは鳥の翼の一文
イマームが他界したのは、腰の高さまで雪が積もった冬の嵐の日だった。
このときアジャには、自分がこれから悲しみを抱いて生きていくことが、
そして無言で喪失の痛みに耐えていかなければならないことがわかった。
彼女はイマームを愛していた。イマームは孤児になった彼女を救い出し、
結核で亡くなった彼女の両親を埋葬するときにも
かまわず手を貸してくれた、村でたった一人の人物だった。
「おまえは私が持てなかった娘なのだよ」とかつてイマームは言った
「神さまは妻と私に子どもを授けてはくださらなかった」

夜と霧 
わたしたちは、おそらくこれまで、
どの時代の人間もしらなかった「人間」を知った。
では、この人間とがなにものか。
人間とは、人間とはなにかをつねに決定する存在だ。
人間とはガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として
祈りのことばを口にする存在でもあるのだ。

▪近藤サト ダーティホワイトボーイズ
スティーブン・ハンター著 公手成幸訳 扶桑社刊

▪宇垣美里 この世界から出ていくけれど 
キム・チョヨプ/カン・バンファ、ユン・ジョン訳 早川書房

▪角谷曉子アナ 鳥に単は似合わない 阿部智里著 文春文庫

2024年5月28日火曜日

兼題「電車」&テーマ「がんばって/だいじょうぶ」

夏の陽やテレビ画面を直撃す
夏初(なつはじめ)足踏みならし立ち止まり
夏の日や硬くなりゆく我が身体
夏の月自己距離保ち存えて
老鴬(ろうおう)の囀り続く午前二時

■NHK俳句 兼題「電車」
選者 高野ムツオ ゲスト 西生ゆかり 伊藤伊那男 小坂大魔王 
レギュラー 中西アルノ 司会 柴田英嗣
年間テーマ「語ろう!俳句」

香水や電車は人を飼ひならし   西生ゆかり
(電車に乗ってどこにでも行けるはずなのに
 満員電車に乗っている自分が毎日決まりきった電車に
 マナーを守って乗ってだんだん飼いならされている感覚
 「香水」というのは人の汗の匂いを消していい匂いに見せかける
 文明の利器によって人が野生を失い飼いならされていくイメージ
 「香水」をつけた 我にしなかったのは読者を信用した)

母と花電車に揺られ共に咲く   小坂大魔王
(花は俳句では桜 機能性がちょっと弱い 
 桜以外の花にした方が良かった
 伊藤伊那男氏は守旧派 伝統に則って作っていきたい
 各地各国に歳時記が生まれてイメージが作られると良いと高野ムツオ先生)

錆兆すブリキの電車新樹光   伊藤伊那男
(古びていることにネガティブなわけではない 「錆」が思い出の象徴
 子ども時代の記憶をブリキの電車の錆に見だしている
 そこに「新樹光」が射してくる 類想感は拭えない
 「兆す」がこの句の勝負所と考えると魅力的)

天上天下電車がたごと生ビール   高野ムツオ
(最初は「頭上足下ずじょうそっか」にしていた 三段切れになった
 いろんな観点から鑑賞して貰えて良かった)

巣立鳥あれがあなたの乗る電車   中西アルノ

小坂大魔王氏の言葉
人の言葉尻や発言を批判・否定するインターネット
この句会に来ると「真逆」をやっている
誰かが言った「いい部分」を抽出している
とても贅沢な時間 「好きな部分」を探すという
より文明的・文化的なことをやっている
句会は忙しい人ほどやった方がいい
贅沢で建設的・文化的なことだと改めて思った

▪特選三席発表 兼題「電車」
一席 おぼろ月経由ふるさと行き電車   三玉(みたま)一郎
二席 電車なき電車通りや昭和の日   古川晴野
三席 電車って熱帯魚だと思はない?   岡本恵

特選六句発表
エイプリルフールの電車空ぐらい飛べ   夏風かをる
麦秋やここから電車単線に   平山仁彦
春風や電車が電車待つている   山内貞市
葉桜や市電の跡のなくなりぬ   渡辺一成
東京の虹を行き交ふ電車かな   葦屋蛙城
八月の雨を回送電車ゆく   大黒富々

参照:https://www.nhk.jp/p/ts/6Q6J1ZGX37/blog/bl/pLvva3ZRZL/bp/p0O2865JmM/

▪私感
今回のゲスト西生ゆかり女史・伊藤伊那男氏・小坂大魔王氏!
最高でした。勉強になりました。
またの機会が近い日でありますように…。(祈)

■NHK短歌 今月のテーマ「がんばって/だいじょうぶ」
選者 枡野浩一 ゲスト 蓮見翔 司会 世界世界観
年間テーマ「あなたへの手紙 かなたへの手紙」

振り向いてくれたけれども「がんばれ」はたぶん自分に言った言葉だ
枡野浩一

蓮見翔さんが貰ったファンレターより
ただでさえ才能あるのに へらへらしないでプレッシャーと
責任感と共にお仕事しているところ、本当にかっこいいです!

▪31音の手紙
入選九首 テーマ「がんばって/だいじょうぶ」
三席 私 友だち?と訊けば小さく「なりたい、と、ぼくの方では思っているけど」
原田冬
がんばってなんて言わなきゃよかったが自分のために言ってしまった
和田康
手の甲にちっちゃく数字が書いてあるいい歳のひと幸せでいて
へそごま
「頑張って」いるねいるよねそうだよね他に言葉が浮かばずごめん
仲川暁美(あきみ)
 土手沿いの桜は今年も満開です頑張らなくてもいいから生きて
野口優菜
 この道はここに出るのかあの時に流した涙はここで晴れるか
三井基史
一席 私 大谷にがんばれを言うカロリーで俺ががんばるべきだと気づく
宮尾大地
二席 その坂を登りきったら振り返り甲府盆地の夜景を見なよ
赤城条治(あかぎじょうじ)
「玉子焼き食べに来て」もうこれ以上頑張れないと思ったときに
芋田智恵子

▪改悪添削
手の甲にちっちゃく数字が書いてあるいい歳のひと幸せでいて
添削(「幸せでいて」という言い方が「がんばって」の代わりに
ピンとくる言い方になっている)
手の甲にちっちゃく数字が書いてあるおじさん強く生きてください
枡野浩一
手の甲にちっちゃく数字が書いてある年甲斐もなくしょうもなく
尾崎世界観
手の甲にちっちゃく数字が書いてある自分で書いた向きだ独りだ
蓮見翔(改悪になっていない)

▪蓮見翔さんの短歌 「がんばって/だいじょうぶ」
救われた実績がある曲を聴く僕にとってはBUMPがそれで
蓮見翔

▪言葉のバトン
舌のうえ炭酸の味うすれつつ
同志社大学短歌会 不凍港(ふとうみなと)

胸が背中がどこまでも向く
神戸大学短歌会 府田確(ふだたしか)
ささなみと呼ばれて青果コーナーのバイトの君は本名でした

▪私感
私の琴線にこんなに触れる句を選んでくださるだなんて…。
枡野浩一先生と内なるもの、秘めたものが似ているのかも…。

2024年5月27日月曜日

知恵泉 織田信雄&名言

恐竜とパン食いリレー夏祭り
恐竜と夏を競わん阿波勝浦
女子旅へ義母と娘とかしましく
背おう娘の手を引く義母の5月晴れ
移ろいゆく人の心と七変化

■知恵泉 悪評なんかぶっ飛ばせ❝自分流❞を見つけ出せ 織田信雄

「不覚人」といえば、旧織田家臣団のなかでの
信雄の異称のようなものであった。
臆病なくせに欲だけは人なみ以上にあるため、
見えすいた餌でも飛びつくところがある。
司馬遼太郎著「覇王の家」(下)新潮文庫

不詳の子とは、信雄のことだ。
あれは、お人よしを通り越して、馬鹿じゃよ。
稀代の馬鹿者じゃよ。
吉川英治著「新書太閤記」

信長の子・御本所(信雄)はふつうより知恵が劣っていたので(後略)
ルイス・フロイス著 松田毅一・川崎桃太訳「完訳フロイス日本史③」

持っていない男だと思われていました。

未来を見据えたイイ仕事はいつか評価される
信雄の場合400年後に評価され始めました

御本所(信雄)はふつうより知恵が劣っていたので、
なんらの理由もなく、彼に邸(やしき)と城を
焼き払うよう命ずることを嘉(よみ)し給うた。
城の上部がすべての炎に包まれると、
彼は市(まち)にも放火したので、その大部分は焼失してしまった。
宣教師ルイス・フロイスの記録より
ルイス・フロイス著 松田毅一・川崎桃太訳「完訳フロイス日本史③」

悪口を言われても命あっての物種

慶長19・20年 大阪の陣 幕府の勝利 豊臣家は滅亡
信雄は大和国(奈良)と上野国(群馬)の合わせて五万石の領地が与えられた
寛永7年(1630)織田信雄 死去(享年73)

のらりくらりと戦国時代を生きた
この生き方も確かにありだな
秀吉も死に家康も死に、孫の家光の時代まで生きていた
長生きということで言えば勝者
戦って潔く負けることが侍の見事さだった
今の時代になると色々な生き方が認められている
こういう生き方が見直されている
時代とともに信雄が評価されるっていうのは面白い

信長は長男である信忠に家督を譲るつもりで帝王学を信忠に授けていた
信雄は次男なので教わっていなかった
信雄の四男 信良が上野国 五男が大和国の所領を受け継いだ
豊臣家は滅んだが織田家は明治維新まで存続した

■名言
ニーチェ 曰く
「怪物と戦う者は、その際
 自分が怪物にならぬように気をつけるがいい
 長い間、深淵をのぞきこんでいると、
 深淵もまた、君をのぞきこむ。」

エレノア・ルーズベルト 曰く
「あなたの心が正しいと思うことをしなさい
 どっちにしたって批判されるのだから。」

ヘミングウェイ 曰く
「釣れないときは
 魚が考える時間を与えてくれたと思えばいい。」

2024年5月26日日曜日

100分de名著 トーマス・マン❝魔の山❞(3)死への共感

草刈らん開花の前の雄躑躅(おんつつじ)
船窪を炎の如く雄躑躅
海浜を弘法麦(こうぼうむぎ)の伸び伸びと
月見ヶ丘を弘法麦の群れ成さん
身をまかす弘法麦や潮風に

■100分de名著 トーマス・マン❝魔の山❞(3)死への共感
小黒康正 九州大学教授

「あなたのユートピアには身の毛がよだつ。
権力が悪であることを我々は知っています。
しかし、善と悪、彼岸と此岸(しがん)、精神と権力、
こうした二元論は神の国が到来すべきものであるならば、
禁欲と支配を結合させる原理において、
一時的に帳消しにされなければなりません。
これが私の言うテロリズムの必然性なのです」

「ハンス!」
ああ、どうしたものだ!こんなにたまらないことが
これまでこの世にあったためしがあったか。
二人がこれまで使い慣れてきた「きみ」とか「おい」ではなく
慎み深さをことごとくかなぐり捨て、やりきれないほど
感極まって、「ハンス」というまさに名前で呼び、
切羽詰まった不安を抱きながら、いとこの手を握り、
握られたほうも、眠れぬ夜を過ごし、出発に興奮し、
動揺していた相手のうなじが、ガクガク
震えていることに気がつかずにおられなかった。
「ハンス、すぐ後から来るんだぜ!」

それから彼は、ヨーアヒムが1年前に
案内してくれた道を、ゆっくりと引き換えした。

ハンス・カストルプ(上流階級出身の青年)
ヨーアヒム・ツィームセン(ハンスのいとこ 軍人志望)
レオ・ナフタ(ラテン語学者) セテムブリーニ(イタリア人の人文学者)

ナフタはナチスの登場を予見するような人物
セテムブリーニのモデルは
作家 ハインリヒ・マン(1871~1950) トーマス・マンのお兄様
マンの政治性の変遷がセテムブリーニの描き方に影響している

変わった結果を反映させることを恐れない

「ああ、そうだ、これだ!」と心の中で叫び声が起きた。
―それはあたかも目の前に拡がっている水面のうららかな太陽を、
ひそかに、自分自身にも秘めたまま、
以前から胸に抱いていたかのように起きたのだ。

死は、自由、放埓(ほうらつ)、不様(ぶざま)、快楽だ。
快楽であって、愛ではない、と自分の夢が言う。
死と愛、―これだと韻の踏み方がまずい、
趣味の悪い、誤った押韻だ。
愛は死に対立するし、理性ではなくて、愛だけが死よりも強い。
このことを記憶のとどめておくぞ。
人間は善意と愛のために思考に対する支配権を死に譲ってはならない。

精神医学
生への奉仕
人間の素晴らしい面を恐ろしい面 明の部分と暗の部分
人間は集団になると簡単に恐ろしいことをしてしまう

想像の中での死はちょっと魅力的 伊集院静

理念の提示で終わらせるのではなく実践に向かわせるため

忘れるメカニズム 伊集院静

「あなたは、いつも事なかれ主義だ、カストルプ君。
厳しさ、これこそまったくもって あなたの関知するところではない。
その点、おいとこさんは違います。できが違うんです。
あの人は、自分が何をして、何に賭けたのか、知っていた」

二人は多くを話さず、話しても「ベルクホーフ」の日常生活で
話題にあがる程度のもので、それ以外は何も話さなかった。
それでも、ハンス・カストルプの市民的な心に
激しく沸き立つものがあり、それが今にもあふれそうに
なることも折に触れてあったのである。

彼にはひげを剃るのが難しくなり、もう8日か10日前から
ひげ剃りをやめたところ、あごひげがかなり甚だしく
なってしまったので、穏やかな目をした蝋のように白い顔は
いまや黒いひげに一面おおわれたのだ。
それは兵士が戦場でのび放題にする戦争ひげで、
もっとも誰もが思ったことだが、
このひげによって彼は、立派で男らしい姿になったのである。

ひげが意味するもの
6章と7章が双子のように展開

ハンス・カストルプ   ヨーアヒム・ツィームセン
忘却 死への共感    想起 生への奉仕

2024年5月25日土曜日

よみ旅!in大阪&「花守会」&俵万智女史短歌&竹久夢二展

フジコ・ヘミングに捧ぐ
一音に魂込めて夏の風
老いてなおショパン奏でん夏の空
逞しくなぞる鍵盤夏の月
確かめるごと鍵盤押さえ夏の星
夏を弾く死する時まで進化せり

■夏井いつきのよみ旅!in大阪 前編
With ROLAND

快復の義母(はは)の便りの若ごぼう   大畑美紀
若ごぼう(葉ごぼう)大阪では2月から4月に収穫される
一般的には夏の季語 大阪では春の季語となる

蛇穴を出でてレシピは抽斗(ひきだし)へ   坂根渉(あゆむ)
季語 蛇穴を出づ

ネクタイの締め方教え春支度   白川圭介

雨あがり道頓堀に花筏   一本松榮(さかえ)

春雨の激しきことも面白き   夏井いつき

末っ子の入学保証人は次女   筒井深雪
季語 入学

癒えし君と観るで奇跡の春の踊り   山本英夫

■夏井いつき俳句チャンネル
【花守会】優秀句を発表!【誰が作った句かな?】
自己紹介で一句企画 優秀作品9句発表

春愁を拾い集めているやうな   きとうじん
魚みづより上がれば花に濡れてゐる   平本魚水
さくらさくら貝殻が好き海が好き   なぎさ
山雀(やまがら)は心配症でおせっかい   瑞木(みずき)
貝殻でできたチョークや春の雲   高尾里甫(りほ)
茶筅(せん)持つ関節太し若桜   山城道霞(どうが)
てふてふやをとこぞろぞろしたがへる   川又夕
ひなたぼここそあど言葉増えてよし   妹のりこ
春愁や星のインキで刷る便箋   座花酔月(ざかすいげつ)

■俵万智女史のXより
言葉から言葉つむがずテーブルにアボカドの種芽吹くのを待つ
(「言葉から言葉をつむぐことならAIにもできるが、
ゼロから言葉を生み出すことは人間にしかできない。
心から言葉をつむぐ時、歌は命を持つ」との思いも込めた一首。)

白い娘と黒い娘がおりましてどちらが出るか日替わりランチ

切り札のように出される死のカード 私も一枚持っているけど
(「黒い歌にも人を励ます力があるのだと気づいたことは大きかった」)

父に出す食後の白湯をかき混ぜて味見してから持ってゆく母

放射線からだに降らすこの春の白湯と桜の日々いつくしむ
(悪性リンパ腫の治療をしていた頃につくった一首。)

牛丼の日にお粥(かゆ)から米飯へ変わる喜び主治医に話す
(「還暦で恋の歌?と意外に思われるかもしれないけれど、
その年齢でしか見えない景色がある。
昔好きだった人に30年ぶりに会った時の気持ちは、
20代では決して味わいようのない感情」)

シャルドネの味を教えてくれたひと今も私はシャルドネが好き

不純物沈殿したるビーカーの上澄みの恋、六十代は

性と愛 分けられなくて青春は飲み干していた朝のスムージー

我が部屋に銀杏は降らず小さめのゴミ箱さがす東急ハンズ

言の葉をついと咥(くわ)えて飛んでゆく小さき青き鳥を忘れず

このままでいいのに異論は届かないマスクの下に唇を嚙む

希土類元素(レアアース)とともに息して来し父はモジリアーニの女を愛す

優しさにひとつ気がつく ✕でなく○で必ず終わる日本語

■5月24日 日記
相生森林美術館「生誕140年 竹久夢二展」へ
ナビにとんでもない道に誘われ行く途中
心臓が止まりそうになりましたが無事辿り着けました。
素晴らしい美術館に感動しました。
また、祖父が大好きだった世界を堪能!
帰路は幹線で帰宅できほっとしました。
道中の景色の美しかったこと…。
次回はゆっくり散策せねば…。
























2024年5月24日金曜日

新茶で一句&俵万智女史の短歌

舟越桂氏へ捧ぐ
夏霞命吹き込むクスノキへ
クスノキと対峙した日々熱き日よ
クスノキと語らいつづけ夏を彫る
夏の風詩的な像を彫りつづけ
夏の空日毎我が身を愛おしく

■プレバト纏め 2024年5月23日
新茶で一句

特別永世名人 梅沢富美男 締めのお手本
新茶汲む所作ぎこちなき左利き
添削(この字面では意図が書けていない 
   急須を入れないとわからない 
   添削後は言った通りの映像が見えてくる)
新茶汲む急須生憎左利き

特待生昇格試験 名人への「試験」 河井ゆずる
ツアー初日の楽屋あいさつ新茶の香
(丁寧なバランス 字余りの定石は踏んでいる
 上五で余らせて中七・下五で調べを取り戻す
 1つの映像を作れるようにバランスを取っている
 季語が新茶 初 あいさつ 新
 言葉のイメージが上手く重ねてある
 華やぎ喜びを表現している 
 香で最後余韻を残し適語を前に押し出している)

1位 丘みどり
青天の富士鼻唄は茶摘唄
(ちょっとした仕掛けがある 茶摘唄は茶畑で歌う労働歌
 「は」が大切 
 たまたま目にした人が気がついたら茶摘唄を歌っていた
 車窓の光景かもしれない 作者が語った場面・光景を
 読み手はゆっくりと理解する)

2位 坂東彌十郎
次郎長も観し富士の山新茶の香
添削(素材にオリジナリティーが無さ過ぎる
   「愛でる」「香り」齟齬がない)
次郎長も愛でし富士山新茶の香

3位 豊ノ島
夏場所へ新緑薫富士を背に
添削(夏場所と新緑の季重なり 
   薫の下にるを入れないと読み方が分からない
   「力士の気分」「堂々」響き合う)
夏場所へ高ぶる心富士堂々

4位 コウメ太夫
立春来る緑鮮やか富士山も
添削(立春 今年は2月4日 理解していない 
   映像化することで一応俳句としては整う)
立春を眠る茶畑富士白し
立春を眠る茶畑富士青し

5位 蝶花楼桃花
高座より富士より高い新茶かな
添削(陳腐な句 新茶が季語 添削しても底の浅い代物)
高座より富士より高値なる新茶

次回のお題は洗濯

■俵万智女史の短歌
▪読売新聞 編集手帳 より
一羽でも宇宙を満たす鳥の声二羽でも宇宙に充満する鳥の静寂
大岡信
言の葉をついと咥えて飛んでゆく小さき青き鳥を忘れず 
俵万智
このままでいいのに異論は届かないマスクの下に唇をかむ
俵万智

俵万智女史 X より
▪はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり
10センチ背丈伸びたる息子いてTシャツみんな新品の夏
ひとことで私を夏に変えるひと白のブラウスほめられている

▪「生まれたよ」と父親の声はずみつつ五月の朝に弟が来た
初恋の人をまだ見ぬ弟と映画観に行く きれいでいたい
軽井沢の空気ひんやり深まりてもうそこにある弟の結婚
ブーケトスおどけてキャッチする我の中で何かが泣きそうになる

▪食パンとビールを買いにつっかけを履いて並んで日曜の朝
ふと思いついた感じのシャンパンの気泡のような口づけが好き
おさなごがビールの缶を抱きしめてぷはっと笑う それは私か
ああ島の飲み会あるある12分遅刻の我が一番乗りだ

▪台風が誰にも等しく迫る夜めくり忘れた暦に気づく
台風はひゅうびゅうと来てマンションを小さな笛のごとく鳴らせり
冷凍庫のハーゲンダッツ思いきり食べねばならぬ停電の夜
駐車場の車つまんで転がして信号機折る台風の指

2024年5月23日木曜日

ヴィクトール・フランクル(2)苦悩を生き抜く

走馬灯夢見た景色違えども
万緑へ差し込む光独りかな
青嵐野暮な筆より強き意思
夏の露零(こぼ)るる涙あたたかき
風青し強き風には回れ右

■こころの時代 ヴィクトール・フランクル(2)苦悩を生き抜く
小野正嗣作家 勝田芽生日本ロゴセラピスト協会会長

「駅の看板があるーアウシュビッツだ!」
この瞬間 だれもかれも、心臓が止まりそうになる。
「夜と霧」を著したヴィクトール・フランクル(1905~1997)

わたしたちは自分が身ぐるみ剝がされたことを思い知った。
今やこの裸の体以外、まさになにひとつ持っていない。
これまでの人生との目に見える絆など、まだ残っているだろうか。
必要なのは生きる意味についての問いを百八十度方向転換することだ。
わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、
むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを
期待しているかが問題なのだ
およそ生きることそのものに意味があるとすれば、
苦しむことにも意味があるはずだ。
「夜と霧」

せっかくの一緒の昼食は台なしだった。
ところが、彼女は私を待っていて、帰ってきた私に
かけた最初の言葉は、「ああ、やっと帰って来たの。
ごはん待っていたのよ」ではなく、「手術はどうだった。
患者さんの具合はどう?」だったのだ。
この瞬間、私はこの娘を妻にしようと決めた。
「フランクル回想録」

フランクルの孫 アレクサンダー・ヴェセリー

私は父に訊いた。
「痛みはまだありますか?」
「いいや」
「なにかしてほしいことは?」
「ない」
私は父に接吻し、立ち去った。
二度と生きている父と会えないのはわかっていた。
「人生があなたを待っている」
父 ガブリエル 母 エルザ 妻 ティリー

アパシー 無関心・無気力

別れるとき、私たちは淡々とお互いを見た。
私は彼女にたとえどんなことがあっても生き抜くようにと言った。
「親衛隊員に体を与えてでも生き抜いてほしいという意味だった…
「人生があなたを待っている」フランクルの伝記 クリングバーグ著

ビルケナウに到着したときに失ったもう一つの宝物は
結婚直前にティリーに贈ったネックレスだった。
そのチャームは小さな地球をかたどっておあり、ぐるぐる回転する。
海はブルーで、「全世界は愛を中心の回る」と書いてあった。
「人生があなたを待っている」フランクルの伝記 クリングバーグ著

わたしの列の男たちがひとりまたひとりと親衛隊将校の前に進み出る。
漢は心ここにあらずという態度で立ち、人差し指をごく控えめに
ほんのわずか こちらから見て、あるときは左に、
またある時は右に、しかしたいていは左にー動かした…。
夜になって、わたしたちは人差し指の動きの意味を知った。
わたしは、収容所暮しの長い被収容者に、
友人のPの行方が分からない、ともらしたのがきっかけだった。
「その人はあなたとは別の側に行かされた?」
「そうだ」
「だったらほら、あそこだ」
あそこってどこだ?手が伸びて、数、百メートル離れた煙突を指さした。
「あそこからお友だちが天に昇っていってるところだ」
「夜と霧」

絶滅収容所

アウシュビッツでの第一夜、わたしは三段「ベッド」で寝た。
一段の、むき出しの板敷きに九人が横になった。
靴は持ちこみ禁止だったが、禁を犯してでも枕にする者たちもいた。
糞にまみれていることなどおかまいなしだ。
こうして、正常な感情の動きはどんどん息の根を止められていった。 
「夜と霧」

白昼夢と睡眠中の夢だけが、被収容者たちに
わずかのあいだ過酷な現実を忘れさせてくれた。
いい夢をみるときは、熱いお風呂と、ウィーン時代に大好きだった
甘い菓子のシャウムシュニッテンがたびたび登場した。
「人生があなたを待っている」フランクルの伝記 クリングバーグ著

とっくに感情が消滅していたはずのわたしが、それでもなお
苦痛だったのは、なんらかの𠮟責や
覚悟していた棍棒(こんぼう)ではなかった。
監視兵は、わたしというやつを、
わざわざ罵倒する値打ちなどないとふんだ。そして、
たわむれのように地面から石ころを拾い上げ、わたしに投げた。
わたしは感じずにはいられなかった。
こうやって動物の気を引くことがあるな、と。
こうやって、家畜に「働く義務」を思い起こさせるのだ、
罰をあたえるほどの気持ちのつながりなど
「これっぽちも」もたない家畜に、と。
「夜と霧」

わたしはトリックを奔した。突然、私は皓々(こうこう)と
明かりがともり、暖房のきいた豪華な大ホールの演台に立っていた。
そして、わたしは語るのだ。
講演のテーマは、なんと、強制収容所の心理学。
…このトリックのおかげで、それらをまるでもう
過去のもののように見なすことができ、
わたしをわたしの苦しみともども、わたし自身がおこなう
興味深い心理学研究の対象とすることができたのだ。
「夜と霧」

自己距離化

トイレへ行く時間もなかったから、服に小便をするしかなかったが、
凍てつく外気の中で作業をしたあとはその暖かさが嬉しかった。
スープの列に並んでいるときですら、小便をするのが楽しくてね。
ほんの一瞬だが、温かいお茶をすするような気分だったよ。
「人生があなたを待っている」フランクルの伝記 クリングバーグ著

私は、高熱にうなされながら、
その裏面に速記でキーワードを走り書きしていった。それを助けに、
「医師による魂の癒し」を再構成しようと思ったのである。
私自身について言えば、失った原稿を再構成しよう
という決意が、明らかに私を生き残らせたのだと確信している。
「フランクル回想録」

自己超越

誰かが反対の方向からやってきた。外国人の労働者で彼は手の中で
なにかをもてあそんでいたので、私はなにを持っているのかとたずねた。
そしてそれが「全世界は愛を中心に回る」というまったく同じ言葉を
刻んだ例の地球のチャームだとわかったんだ。
そこでいくらでも払うから売ってくれないかともちかけると、
彼は売ってくれた。
私はそれを大切に保管して、ティリーと再会する瞬間を待ち続けた。
私はとても幸せだった。
「人生があなたを待っている」フランクルの伝記 クリングバーグ著

私は友人のパウル・ポラックを訪ね、私の両親、兄、
そしてティリーの死を報告した。
今でも覚えている、私は突然泣き出して、彼に言った。
「パウル、こんなにたくさんのことがいっぺんに起こって、
これほどの試練を受けるのには、何か意味があるはずだよね。
何かが僕に期待している、何かが僕から求めている、
僕は何かのために運命づけられているとしか言いようがないんだ。」
「フランクル回想録」

「医師によるメンタルケア」ヴィクトール・フランクル著

たとえば、こんなことがあった。
現場監督(つまり被収容者ではない)がある日、
小さなパンをそっとくれたのだ。
わたしはそれが、監督が自分の朝食から
取りおいたものだということを知っていた。
あのとき、わたしに何だをぼろぼろこぼさせたのは、
パンというものではなかった。
それは、あのときこの男がわたしにしめした人間らしさだった。
人間とはなにものか。人間とは、ガス室を発明した存在だ。
しかし同時に、ガス室に入っても毅然として
祈りの言葉を口にする存在でもあるのだ。
「夜と霧」

私の戦争中の体験を聞いてください
テュルクハイム収容所の指揮官で
ナチスの親衛隊長であったホフマン氏のことです
私は知っています
ホフマン氏は町の薬局で自腹を切ってユダヤ人の
被収容者のために薬を買っていました
皆さんの言いたいことは分かりますよ 非難でしょう
「フランクルさん それは例外だということを
忘れてはなりません」と その通りこれは例外です
しかし こうした例外こそが人間には必要なのです
理解し許し和解に至るためには 私たちが多くのことを
ないがしろにしてきたのは事実です
しかし 相手を責める前に まずは心から理解しようとし
思いやってください 今 私たち一人一人の良心は
呼びかけを受けています 
誰も家で待っていてはくれませんでした
唯一私を待っていたのは「誰か」ではなく「何か」でした
それはロゴセラピーの本を書くことです
大きな「意味」に応えることや
自分を超えた何かへによって人はより人間らしく 
それが人生の苦境を乗り越える支えとなるのです

ヴィクトール・フランクルの肉声より

これこそが次世代に託せる
最も意味のあるものではないでしょうか❓ ルートヴィヒ・ザイツ氏
自分を守るだけのもので幸せにはなれないのでは…❓ 

2024年5月22日水曜日

あの本、読みました?校閲さんの職人技・高校生直木賞&兼題「鮎」

夏霞見えなきものに動かされ
夏の雲感じる力持ちて生く
夏の夜や忘れられない琴線を
懸命に真面目に生きん夏の潮
夏の朝ぶどうに次いでオレンジも?(不作?)

■あの本、読みました?凪良ゆうも感心 校閲さんの職人技&高校生直木賞

高校生直木賞って直木賞とどう違うの?
伊藤氏貴 石井一成 岡夏希 高野知宙(ちひろ)

「オルタネート」の一文
加藤シゲアキ著 新潮社
「うめえ!やっぱりこれだよな、カルボナーラ」と
途端に表情が明るくなった。
(中略)
ベーコンのいぶされた香りとチーズのふくよかな香り、
そして胡椒とにんにくの無邪気な香りが一体となり、
卵黄とともにパスタに絡み合う。
綴った瞬間にたくさんの匂いが鼻に抜けていった。

C 宇喜多の既成の人物像を変える一冊だと思う。
ミステリー要素が強く、描写は省略している。
人間のやりとりに重点を置いている印象を持ちました。

L みんな繋がっていて、パズルのピースが
はまるように伏線が回収されていく。
一つの無駄もない。
一度目に読んで母子の別れに感動し、
二度目に読むとあえて宇喜多が残虐を演じている
くだりなど、また別のところに感動できた。
「ハリー・ポッター」みたいに、たくさん登場人物が
いるところが物語に厚みを与えているんじゃないかな。

▪出版社の校閲さんって何するの?
宇田川賢人 高城琢磨 宮田愛萌(まなも) 河北壮平

校正:「校べる(くらべる)」比べて誤りを正すこと
校閲:「閲する(けみする)」間違いの有無を調べること

■ギュッと!四国 家藤正人の俳句道場
兼題「鮎」夏の季語
水苔を食べることによって香りがよくなる。「香魚(こうぎょ)」とも呼ばれる。
縄張りを守ろうとする闘争本能を利用した「鮎の友釣り」という漁法があり、
釣人に愛好される魚である。
「鮎」の傍題 香魚・鮎魚解禁・鮎の宿など

友釣りの鮎がゆうげの食卓に   岡田春二
佳作 砥部焼の皿の厚みや鮎の宿   久保田凡
(映像の作り方が上手い)
名人の鮎焼く香り風物詩   むっちゃん
秀作 鶸(ひわ)色の鰭(ひれ)に粗塩鮎を焼く   津島野イリス
(鶸(ひわ)色とは緑がかった黄色 焦点が上手く絞られている)
秀作 鮎揚がる油のまこと碧(あお)くささ   伊藤柚良(ゆら)
若鮎や世界で跳ねるオリンピア   のりりん
(若鮎は春の季語 比喩表現)
鮎取った!黄色い声と青い空   フタバ凛
佳作 鮎解禁ぎゆつと捕らふる父の竿(さお)   佐藤浩章
(リアリティー臨場感がある
佳作 てのひらに殊勝な鮎や息浅し   素々なゆな
(釣り上げたときの皮肉な観察)
四万十にしぶきも踊るおとり鮎   サルだんご
(「も踊る」は凡人ワード)
秀作 パチンコに居(お)らんかったら鮎の川   向原てつ
(口語の愉快さを活かした句)
秀作 なにゆへに鮎か両家の顔合わせ   歯科衛生士
(鮎料理の愉快さ、滑稽さが上手く詠まれている)

▪正人のもったいない
佳作 徳利(とっくり)の指のへこみや鮎づくし   四季彩
(「づくし」が勿体ないワードになっている
3音で句の世界を広げる) 
徳利(とっくり)の指のへこみや鮎の夜
徳利(とっくり)の指のへこみや鮎の宴
(ここまで行くと秀作が見えてくる)

▪ギュッと特選
鮎釣りや膵臓おもき水の中   河合郁(かおる)
選句ポイント 
(釣り人の実感
 釣り人は危険も顧みず入っていく執念を掻き立てる
 鮎の魔力が確りと一句の中で生きている)

参照:https://www.nhk.jp/p/gyuttoshikoku/ts/7MXVZZ52K3/blog/bl/pKyjJXApJB/

▪次回の兼題「紫陽花(あじさい)」夏の季語

2024年5月21日火曜日

ロートレックからの招待状(2002年)

恐竜が松茂町を駆ける夏
眉描けど汗に流れてまぬけ顔
柄長(えなが)群れ首をふりふり場所を変え
鳴海織部へ鱧とオクラと梅肉と
松越しの満月浴びん夏座敷

■プレミアムカフェ ロートレックからの招待状(2002年)
父の言葉
息子よ 日光の下で送る生活だけが本物の健康を
育むのだということを決して忘れるな
自由を奪われたものはやがて委縮し死ぬしかないのだ 
狩りは広大な野原での生活をいかに楽しむかを教えてくれるだろう

友人たちに言った言葉
もし僕の足があと少し長かったら絵など決して描かなかっただろう

人はその人生に耐えなければならない

シュザンヌ・ヴァラドン(1865~1938)と同性
モーリス・ユトリロ2才
画家たち(ルノワール)のモデルをしていた
情熱的な関係は2年で終止符

理想ではなく真実を描こうとした醜いものに、
ぼくの筆でつやをつけ丸みをつけ、
ほんの少し輝かせるのが好きなんだ

歌手 イヴェット・ギルベール(1865~1944)
彼女の大ファンだった

人生は醜い、しかし人生は美しい

モデルなんてたいていは人形みたいなものさ
ところがここの女たちときたら生きているんだ

ぼくはようやく自分と同じ背丈の女を見つけた

醜さの中には必ず美しいものが隠されている
誰も見つけないところにその美しさを見つけるのは、実に感動的だ

1902年 ロートレックの父がジョワイヤンに宛てた手紙
私共の息子がつくり上げたものの中に
遺産となるようなものが少しでもあるのなら
喜んであなたにその権利の一切をお譲りいたします
寛大ぶっているのではありません 
あなたは父親の私にかわって息子をあたたかく見守ってくださいました 
死んだからと言ってその絵をにわかにほめさすつもりはありません
しかしあなたは息子の作品を私以上に信じておられます 
このことに関しておそらくあなたの方が正しいのです 

ロートレックは命の限り描き続けた
その思いは父親にも通じていたと、私は信じています。

1922年 トゥールーズ=ロートレック美術館
アルビに完成
美術館の中に掲げられたプレートには
ジョワイヤンの友情に感謝する言葉が記されています

アンリは一枚の作品として残しました
モーリス・ジョワイヤンの肖像

酒からも孤独からも守ってやれなかった 
それなのにこんなにも逞しく描いてくれた
彼の信頼に応えるために私は何ができるだろうか❓

2024年5月20日月曜日

兼題「穴子」&テーマ「名残」

フェアウェイ弁当抱え夏の風
フェアウェイ箸を運ばん夏陽射し
草茂るタイのお遍路出迎えん
常楽寺ろうそく灯す薄暮かな
短夜や心の屏風閉じられず

■NHK俳句 兼題「穴子」
選者 木暮陶句郎 ゲスト 林家たい平 司会 柴田英嗣
年間テーマ「季語を器に盛る」

まくら…落語で本題に入る前の話・導入部
(まくら)に俳句を入れると落語の格調があがる
「藪入り」という落語で親子の情愛をまくらで話していて
「藪入りや何にも言わず泣き笑い」というと
イントロにもなるし格調が高くなる
落語と俳句は密着している
落語の内容を理解しやすくなる

「穴子でからぬけ」という落語がある
なぞなぞを「与太郎」という人物が出す
「うなぎ」「どじょう」と答えさせておいて
答えは「穴子」だったという小話

穴子はさっぱりしていてうなぎはこってり
穴子は海うなぎは川で住んでいる
うなぎも夏の季語だけど意味合いが違う
「うなぎ」と「穴子」を入れ替えてもいいような句はダメ

▪器に季語を盛る
甘辛のどつちもこの身穴子寿司   行方克巳(なめかたかつみ)
酒を飲む方(辛党)も甘いものすき(甘党)…陶句郎先生解釈
甘いツメ「甘党」をつけるのか
塩と柚子「辛党」で食べるのか…大平師匠解釈
議論の余地あり!

「卯の花」は5月(初夏)の季語
ウツギ(卯の花)をイメージしておからを「卯の花」と呼ぶ
海では「卯波(うなみ)」(初夏の季語)という白波が立つ
それもイメージしていると思うと陶句郎先生
▪特選三席 兼題「穴子」
一席 穴子鍋悪い奴ほどよく眠る   鋤柄郁夫(すきがらいくお)
(黒澤明監督の映画タイトルをそのまま使っている 1960年公開の映画
傑作であり問題作 オマージュとして受け止めた
季語を見て五感を使って俳句は作って欲しい)
二席 穴子釣る娘を嫁に出す人と   岡部正彦
(季語を強調するために倒置法を使っている)
三席 播州の漢(おとこ)に惚れて焼き穴子   伊藤和子
(「漢」筋骨隆々の日に焼けた海の男のイメージ)

▪特選六句発表 兼題「穴子」
大将の声は野太し穴子鮨   槻木(つきぎ)俊彦
宮島に穴子焼く香や日照(ひでり)雨   田中孝子
(日照(ひでり)雨は日照雨(そばえ)ともいう
三音の時は日照雨五音の時は日照り雨を使う)
煤(すす)けたる火伏せの護符や穴子飯   古川(ふるかわ)晴野
月光のぬめる穴子をつかみけり   浅木ノヱ
丹田に締める前垂れ穴子割く   藤澤廸夫(みちお)
 恋ごころとうに忘れて穴子食む   池田君子
(うなぎでは成立しない俳句「恋ごころなんかもう忘れたわ」)

▪俳句やろうぜ
黒岩徳将 帯谷致子(おびたにとうこ)村上智彦先生の結社に入会
元日の畦にみつけし母子草   村上鞆彦
人形の黒髪固し冬座敷   帯谷致子

▪林家たい平の一句
焼台の穴子プクリと香を放つ   林家たい平
添削
焼台の穴子プクリと香を放

▪柴田の歩み
俳句は思いでのアルバム

私感
林家たい平師匠の鑑賞、勉強になりました。
またのご出演を楽しみにしています。

■NHK短歌 テーマ「名残」
選者 大森静佳 ゲスト 中村壱太郎 司会 尾崎世界観
年間テーマ「“ものがたり”の深みへ」

クラシックバレエを辞めた足先が体の前の陽に触れたがる
川上まなみ(主語が足先が良い)

▪入選九首 テーマ「名残」
同窓会半ばを過ぎてユーターン組のいつしか訛り始めぬ
小泉浪士(ろうし)
三席 男女別名簿は春に色褪せて蛍の生まれ変わりがミモザ
常田瑛子
 最後まで残る拍手の一粒を聞き終えてより春は始まる
大津穂波
二席 私 コーヒーの香りがきみを連れてくる今は鞄を置いている席
花林(かりん)なずな
ふらふらと鏡にうつるおばさんは母の名残を宿したわたし
つきひざ
間違って親父の靴を履いた夜は兄が勝手に酒場へ向かう
竹内一二(かつじ)
一席 丁寧に自転車を漕ぐもうここは通り過ぎてもいい場所だから
倉橋駒子
山ちゃんを山ちゃんと呼ぶときいつも六月の旧校舎の匂い
牧野冴
やんわりと絞ったタオルで我がデスク三度目を吹く退職の日
村上秀夫(字足らずが欠落感を表現)

▪ものがたりの深みへ
近松門左衛門作 曽根崎心中
醤油屋の徳兵衛と遊女のお初は愛し合っていたのだけれど
徳兵衛が親友にお金をだまし取られ最終的には
曽根崎の森で心中を果す 道行の段
この世の名残、夜も名残、
死に行く身を譬(たと)ふれば、
仇しが原の道の霜、一足づゝに消えて行く、
夢の夢こそ哀れなれ。

祖母四代目坂田藤十郎が生涯に1400回ほど演じた作品
自分なりに曽根崎心中を一度かみ砕いてみたい
現代作家の角田光代さんの本ならではの解釈があった
徳兵衛が親友にお金をだまし取られたという設定
その場面はお初は見ていない
徳兵衛が「だまし取られた」と
言っているのはうそかもしれない
これしか愛を守る形はなかったというのが答えだと思う
朝日の出る直前、希望を持って死んでいく

義太夫節
物語の情景や人物の心情を「語り」と「三味線」で観客に伝える
歌舞伎俳優はそれに対して身体だけで表現する
壱太郎さんが心情を表すのは指先

頭蓋骨に美しき罅(ひび)うまれよと胸にあなたを抱いていたり
大森静佳

お初が先導して徳兵衛を一緒に死のうという方に持っていく
矛盾した気持ちが複雑に混じり合っている
身体的な表現が有効

▪言葉のバトン
毒をはぐくむ桜木の陰
同志社大学短歌会 三々凪四葩(ささなぎよひら)

舌のうえ炭酸の味うすれつつ
同志社大学短歌会 不凍港(ふとうみなと)
とりあえず我と我が身を浴槽にぶち込み明日は明日のやり方

2024年5月19日日曜日

100分de名著 トーマス・マン❝魔の山❞(2)二つの極のはざまで

夏鶯(なつうぐいす)や声高らかに藪の中
夏鶯や五羽一斉に喉見せん
縄張りのひな守り抜く夏鴬
夏鴬や皮弛むほど鳴き叫び
縄張りに複数の雌夏鴬

■100分de名著 トーマス・マン❝魔の山❞(2)二つの極のはざまで
小黒康正 九州大学教授 朗読 玉置玲央(素晴らし過ぎる)

それはハンス・カストルプにとってどうにも我慢がならず、
前々から嫌っていた騒音だったのだ。
この場合はおまけに小さなガラスがドアに何枚も
はめられていたこともあってショックが増し、
バタン、ガチャン、という音になった。
チェッ、とハンス・カストルプは腹を立てて思った。
何というだらしなさだ!

「きっとあなたはこちらよりも立派な患者さんに
なられるでしょう。うけあいますよ。
誰であれ、患者としてものになるかならないか、
それは一目で分かるんです。
患者になるのにも才能を要しますからな」

「ご両人はご機嫌ですなーごもっとも、ごもっとも。
見事な朝です!空はすみ、太陽はほほえむー
居場所を忘れてしまうくらいです」

彼女は音も立てずに歩いたが、それは入ってきたときの物音と
奇妙な対照をなし、独特の忍び足で、いくらか頭を前に突き出して、
ベランダに出るドアに対して垂直に置いてある一番左端のテーブル、
すなわち「上流ロシア人席」に向かって歩いて行き、
体にぴったり合ったウールジャケットのポケットに片手を入れていたが
もう一方の手を後頭部に回して、髪を押さえ整えていた。
ハンス・カストルプはその手に目を向けた。

ハンス
「病気は人間を常に繊細で、賢明で、特異な存在にすると考えられています」
セテムブリーニ
「私はその見解に異議ありです。病気は絶対に高貴なものでありません。
絶対に尊厳に値するものではありません-
こんな考えそのものが病気であるか、病気をもたらすのです。」

少年ヒッペとの重ね合わせ
少年時代に憧れた男の子 彼から鉛筆を借りた
結婚も国の役に立つものでなければならない

「私はあなたに目を付けていたんですよ、
カストルプ君、今だから言えることですが」

「ここはアジア的雰囲気にあふれています。
低地にいてはじめて、あなたはヨーロッパ人たりうるわけで、
ご自身の流儀で果敢に病苦と戦い、
進歩を促し、時間を有効に使えるのです。
くどいようですが、しっかりしなさい!誇りを忘れてはなりません、
場違いなところに迷い込んではなりません。
この泥沼、この魔女の島から立ち去るのです」

人生の厄介息子
3人の関係=世界情勢!?
セテムブリーニ ヨーロッパ(合理。進歩と啓蒙、秩序)
ハンス・カストルプ ドイツ
ショーシャ婦人 アジア(東)(非合理、エロス、混沌)
ヨーロッパ中心主義
ドストエフスキー全集

「リーリトは夜の魔物となり、特にその美しい髪によって
若い男たちにとって危険な存在になりました」
「なんだって、美しい髪をした夜の魔物だって。
そんなのに君は我慢がならないはずだ。そうだろう?」
とハンス・カストルプはうわごとを言った。
ワインの混ぜ物をかなり飲んでいたのだ。
「いいですか、エンジニア、そんな言い方はおやめなさい」
とセテムブリーニは眉をひそめて命じた。
「ボクハ君ヲ愛シテイル。イツモ愛シテイタンダ、ナゼカト言うと、
君ハ僕ノ人生ノ「君」デアリ、僕ノ夢、運命、願望、永遠ノ憧憬ダカラダ…
アア、愛トハ…、肉体、愛、死、コノ三ツハ一ツナンダ。
君ノ毛穴ノ八さんヲ感ジサセ、君ノ産毛ヲ触ラセテクレ、
墓デ朽チル運命ニアル水トタンパク質カラナル人間像ヨ、
僕ヲ滅ボシタマエ、君ノ唇ニ僕ノ唇ヲ当テルコトデ!」

「アデュ、謝肉祭ノ私ノ王子サマ。私ノ鉛筆、返スノ忘レナイデネ」
そして彼女は出て行った。

デカダンス(没落)の達成

戦争が書かせた後半部
現実を目の当たりにしたマン
茶番ではない「違う要素を組み込んでいかなければならない」
時の小説としての「魔の山」

上巻
第一章 滞在1日目
第二章 ハンスの少年時代
第三章 滞在2日目
第四章 ~滞在3週間
第五章 ~滞在7か月

下巻
第6章 ~滞在2年半
第7章 ~滞在7年

主人公が経験する時間間隔を小説の分量にうまく当てはめている

2024年5月18日土曜日

花守会&「浦島草」&木暮陶句郎氏の俳句&2024短歌甲子園

桐野(夏生)読み吾と向き合わん雲の峰
弱さ知り強さ語らず夏の月
リビングのダウンベストと扇風機
電線を握りしめたる夏の鳥
夏鴬や雄に守られ子を育て

■夏井いつき俳句チャンネル
【花守会】誰が作った自己紹介句?
2024年4月6日伊月庵にて花守会(はなもりえ)開催
自己紹介で一句
花守会私の名前も桜です   本田桜
俳号に❝桜❞あります花好きです   亜桜みかり
俳句より教はる人ぞ桜餅   桜井教人
こもさんとよく呼ばれます夏の風   小物打楽器
房総の先っちょ暴走花嵐   暴走たまちゃん
俳号の名字は屋号山桜   (さゆり改め)空乃さゆり
心臓が右に有るのだ桜餅   理酔
親馬鹿と呼ばれて満開の桜   若
庵まで歩いて五分春日和   大五郎
風光るバスケがんばる六年生   けしみずちゃん
喉乾く麦茶の場所も分からない   けしみずパパ
大花見ここ数年の不投稿   マイマイ
花より団子だぶだぶのインド服   税悦
おだてたら枳殻(からたち)の木も登ります   小田寺登女
さくらさくらこれからの夢ぜんぶ叶う   天玲

Nice自己紹介でした!

■夏井いつき俳句チャンネル
一分季語ウンチク「 浦島草」

浦島というフレーズを聞けば真っ先に浮かぶのは
「浦島太郎」ですね
この「浦島草」というのも湿った土に生息する植物で
海岸近くにも生えるそうです
どんな形かというと植物の下の方にポットのような
ものが形成されそのポットの中からひょ~と細長い
蔓(つる)のようなものが伸びるそれが浦島太郎が
釣り糸を垂らしているように見えることから
「浦島草」と呼ばれるようになったのだそうです
この「浦島草」育っていく過程において
その土地の栄養が多いか少ないかによって
雄の花になるか雌の花になるか
変化するという特性もあるそうです
見た感じはちょっと暗めな色彩で決して華やかな花では
ないのですがどんなものなのか一度この目で見てみたいものです

■木暮陶句郎@tokuro1021
風よりも雨に柳の散りやすき 木暮陶句郞

■2024短歌甲子園 より
新米と呼ばれてるので将来は砂糖たっぷりポン菓子志望
畠山慎平
発車待つ新幹線の窓越しにさっき別れたあなたの苦笑
中村満里奈
月曜日恋も収集してほしい とうの前から燃えてるけれど
花岡杏吏
恋人が死ぬ夢を見た翌朝は死ぬ恋人がそもそもいない
西昂貴
ドア閉まり君と二人のエレベーター上がりっぱなしの恋エネルギー
東木場葵
始発バス揉まれてゆらぐ足元にまだ真四角のスクールバッグ
児玉りの
恋しいは「miss」であること 間違いのない感情に霧雨が降る
古谷明希歩
束になり泳ぐ魚に憧れる色恋前のルーティンワーク
酒井宏太郎
イチジクの解体新書あなたならきっと食べない部分がわたし
昆野永遠
「おかしも」は押さない駆けないしゃべらないもう戻らない君との時間
川上峻
ワクチンがないから今日も渦巻いて消えない新型コトバウイルス
藤井渚央
ダッシュから競歩に変わる点滅の青信号のあと一歩半
安田湖夏

2024年5月17日金曜日

雨降りのシーンで一句&故長尾幹也氏の短歌

香り立つ菖蒲湯浸かり笑む園児
それぞれの懸命あらん五月かな
夏の空吾の人生を生きてこそ
夏の風同じ景色が見たかった
夏の夜や同じ空気を吸い込まん

■プレバト纏め 2024年5月16日
雨降りのシーンで一句

特別永世名人 梅沢富美男のお手本 締めの一句
本水の髪ざんばらに夏芝居
添削(本水とは舞台で使う「本物の水」一音を粗末にしている
   髪に焦点を絞った判断も的確 「に」が迫力を削いでいる
   詠嘆しないといけない)
本水の髪ざんばら夏芝居

永世名人 横尾渉 傑作50選
断崖は驟雨(しゅうう)三分のノーカット
(季語・驟雨 急に降り出してすぐにやむ雨
 撮影の緊張感が伝わる 「は」断崖は驟雨が押し寄せている
 強調するような意味合い 季語の中にも緊迫感がある
 今まさに撮らなくてはという緊迫感が響き合っている)

1位 津田寛治
雨の森独り空蝉(うつせみ)見る少女
(季語・空蝉=蝉の抜け殻 「独り」が重要 情景が分かる
 濡れた木々の匂い感触が想像できる 空蝉の光 雨の粒の光
 細やかに響き合っている 「見る」映像のためにいる言葉)

2位 結城モエ 
春雨や祖父の先ゆくかえる寺
(かえる寺=如意輪寺(福岡県)
 かえるの置物が1万点以上飾られている)

3位 高島礼子
おもい足夕立晴に笑顔かな
添削(書かないでいいことを書く 才能なしの特徴 
   季語を主役にたてる)
重い足おもい心へ夕立晴

4位 斎藤司
夏雨(かう)のシーンふと子らの着替え手が伸びる
添削(19音の字余り 調べがダラダラ 意味もぶつぶつ切れている
   2音足りない時の「ふと」3音足りない時の「すこし」
   テレビの中の雨では季語の鮮度が落ちる)
夏雨(なつあめ)のシーン子の着替え手

5位 笠松将
靡(なび)けずも龍成る日を見る鯉のぼれ
添削(季語をなくしている)
成る日もあり雨の

次回のお題は「新茶」

■故長尾幹也氏の短歌

妻は泣きわれは視線に文字を打つ午後の病室蝶も鳩も来ず

悲しみとともに開かむ彼の歌載ることのなき日曜の紙面

椅子もろともリフトに吊られ湯船に入る揚げ物の具になりたるここち

デイサービスの小暗き隅に職員はわが車椅子拭(ぬぐ)いくれおり

子の生(あ)れて間もなき彼を解雇せりわれも幼の親なるものを

リストラに人切りしのち自らも降格となり春陽をうとむ

子を寝かす妻の小声の物語われにも狐こんと添い来る

心澄み綺麗な瞳の人だつた長尾幹也といふそのひとは

歩けなくなれるこの日のためにこそ歌詠み来しやありがとう歌

あの朝もあなたの歌を新聞に探していたり逝去を知らず

噴水にたつ虹ほどの淡さにて人の心に棲(す)みたし死後は

01年7月、朝日新聞大阪本社版で長尾さんが
半年間連載したコラム「歌人の時間」に書かれた一首だ。
歌に続く随筆で、こうつづっていた。
「時折ふと懐かしんでもらえるような思い出を何人かの心に残し、
今生を終えられれば私は満足だ」

参照:
https://digital.asahi.com/articles/ASS4B2FDBS4BUCVL06FM.html?ptoken=01HVDF5GQ6D89DS3EDDESW9Z19

2024年5月16日木曜日

理想の本箱「ひとりぼっちの孤独を感じた時に読む本」&稚児俳句「無理ゲー」

夏の山クラブで芝をしばき切る
ジャンボ軍団師匠は何処夏の風
青芝やジャンボ軍団奮闘中
河原鶸(カワラヒワ)エンジン音と夏を飛ぶ
夏の鳥軒から軒へ急ぎをり

■理想的本箱 君だけのブックガイド
「ひとりぼっちの孤独を感じた時に読む本」
主宰 吉岡里穂 司書 太田緑ロランス 選書家 幅允孝(よしたか)

▪ひとりたのしむ 著者 熊谷守一
孤独の果てに辿り着いた画家の純潔な画と言葉
獨楽(どくらく)=ひとりたのしむ
もっと放っておいて長生きさせてくれっていうのが、
正直なわたしの気持ちです。
1932年52歳の時に豊島区に自宅を新築 
そこから1977年亡くなるまでの45年間殆ど家から出ることがなかった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%8A%E8%B0%B7%E5%AE%88%E4%B8%80

▪ここに素敵なものがある 
著者 リチャード・ブローティガン 中上哲夫訳
ビートジェネレーション 
アメリカの物質文明に反抗し既成概念にとらわれない世代
ささやかに吐き出された孤独の言葉が優しく誰かを包む
気づくことは何かを失うことだ
ぼくは考える、恐らく死者を悼むときでさえも、
このことに気づくために失ったものについて。
掘ったばかりの墓穴のように妙に若々しく
一日が独楽のようにくるくると同じ場所を練り歩く、
その影に降る雨と一緒に。
ゆっくりきみをその気にさせよう、
まるで夢の中でピクニックをしているような気持ちに。
蟻なんかいないよ。雨なんか降らないさ。
ぼくらは十一時のニュースだった、
ぼくらが愛し合っている間、僕ら以外の世界は
地獄にころげ落ちていたからだ。
恐怖からきみは一人ぼっちになるだろう、
きみはいろんなことをする、だけどどれも
ぜんぜんきみらしくない。
出来損ないの天使のようにわが身を守りながら
彼女はふたたび恋に落ちる。破局に終わるさだめの恋に。
それがいつも彼女らしいやり方なのだ。
うれしいよ、彼女の恋の相手がぼくでなくて。
ここに素敵なものがある。
きみがはしがるようなものはぼくにはほとんど残っていない。
それはきみの掌(て)のなかで初めて色づく。
それはきみがふれることで初めて形となる。

リチャード・ブローティガンの作風がこうなったのは
俳句の影響を受けているからだとか…。
10代の頃に松尾芭蕉と小林一茶がお気に入りだったとか…。
彼の余白への感じ方が変わってくるかも…。
巻末には日本がすごく好きだった詩人の仲間として
寺山修司氏の葬儀に参加した時の
エピソードや詩のことにも触れられている。
参列に参加した人の靴の下にいた蟻についてだった。
いつも小さくて弱いものに目が向くのだそうです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/リチャード・ブローティガン

▪Sunny 著者 松本大洋
子供たちが孤独や寂しさと折り合いをつける純真さと救いの物語
「時間」というんはホンマ良うできてるてワシは思う…
どんだけ楽しいときも、どんだけ悲しいときも、
ずっとそのままいうわけにはイカン。これは救いやとワシは思う。
(5巻第26話より)
これは負けない孤独はないということを私たちに教えてくれている一言。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E6%9C%AC%E5%A4%A7%E6%B4%8B

■ワルイコあつまれ(86)
辻内京子 髙柳克弘 松尾葉翔
稚児俳句「無理ゲー」
ゲームに限らず達成が困難なときにも使う

小突きあいつつ無理ゲーと芽吹き山   髙柳克弘
(芽吹き山 春の季語 木々が芽吹き始めた山)

無理ゲーと言い眼に涙春夕焼   辻内京子
(春夕焼 はるゆやけ 春の季語 
ポイント 音数を少なくするため独特な読み方をする季語がある
夕立⇨ゆだち 大根⇨だいこ 夕焼は本来夏の季語
春夕焼は春の穏やかな情緒のある夕焼け 希望が感じられる)

犬走る花舞ぜーぜーこりゃ無理ゲー   松尾葉翔

辻内京子先生の添削
無理ゲーと叫び犬追う飛花の中
(飛花 春の季語 桜の花びらが舞い落ちるようす)

高柳克弘先生の添削
犬追うも無理ゲー花の屑舞って
(花の屑 春の季語 散った桜の花びら

松尾葉翔先生の締めの一句
無理ゲーと言ったけれども食らいつけ

2024年5月15日水曜日

浦と兄 小野正嗣

振り返るニホンカモシカ夏の雲
美馬の夏低空飛行オスプレイ
むっくりと沸き上がりくる夏の雲
夏の草背を向けあいて離れあい
夏の露静けさきらり東祖谷

■こころの時代 「浦」と兄 歓待の言葉を求めて 作家 小野正嗣
私たちはずっとこの小さな浦に住んでいます。
このくすんだ緑色をした小さな湾にはりついた
小さなちいさな浦に私たちはもう何代も前から生きているのです。
耕すべき土地などほとんどありませんし、
あったとしてもひどく痩せた土なので、
もっぱら甘藷を栽培するばかり、大した収穫は望めません。
贅沢などできないのは当然ですが、贅沢は生きていくことだけを
考えればそれほど必要なものではありません。
みんな等しく貧乏であるということが、おたがいのあいだに
妬みや嫉みといった感情が生まれ根を張るのを
妨げてくれているのかもしれません。
小野正嗣「ブイになった男」

兄の名は「小野史敬(ふみたか)」さん

昔、夫を亡くした女がいた。時が流れ、老婆になった女は
それでも浜辺に立ち寄ることを忘れない。
ある日、人影が見える。老婆は夫がやっと戻ってきてくれたと
涙を流して喜び、その影に向かってせつせつと
一人生きてきたことの辛さや悲しみを訴える。
それを見ていた漁師たちは老婆を哀れむ。
老婆がわれを忘れて語りかけているのは、
海亀の屍肉(しにく)にたかる無数の蠅と蚋(ぶゆ)から成る
揺れうごめく虫柱にほかならなかったからだ。
でも誰に老婆がおかしくなったとか惚けたとか言えるだろう。
小野正嗣「水死人の帰還」

海の向こうに戦争に行っているときは
心のどこかでいつもびくびく怯えていた。
死への怯え、おののきそのものとしてオジイは生きていたからだ。
自分自身の影を見て驚くということもあるかもしれないが、
破れ目なく均質にどこまでも広がる怯えの暗がりのなかでは
足の先を見つめようが振り返って踵の後ろを
探ろうが影など見えるわけもない。
姿形を失おうとも故郷に帰ってこられただけでもいい。
もちろん、たんに帰ってくることができただけでなく
「生きて」帰ってくることができた自分が
そのような幸運にあずかった自分が
異臭を放つ肉の塊に向かってきいたふうな
口をきける筋合いのものではない。
もちろん、それはオジイにもよくわかっている。
それでもシベリアに永久に残された仲間の兵士たちことを思うと、
強い風が吹くたびにほどけ散る黄色い墓石を見つめながらオジイは、
帰ってこられただけでもいいではないか、と漏らさずにはいられない。
穴を掘ろうとしても突き刺すシャベルがぽきりと
折れてしまいそうなくらい硬いシベリアの凍土に埋められた仲間たちは
いくらアイロンをかけようとしても皺のとれない衣服のような皮膚を
直接骨に張り付け、目に入ってくる土にもかかわらず
凍り付いた瞼を閉じることもできず、今なお死んだときの姿を
そのままとどめているのかもしれない。
小野正嗣「水死人の帰還」

さて今、わたしらの町、わたしらの国に来られたからには、
気の毒な人が救いを求めてくれば、当然してあげねばならぬように、
着るものはもちろん、その他何事であれ不自由はさせません
ホメロス「オデュッセイア」松平千秋訳(小野正嗣「歓待する文学」収録)

いまやあらゆるところにつながりどこまでも自在に伸び広がっていく
道路を使えばどこにでも行けたのに、信男がヨシノ婆を
マイクロバスに乗せて行く場所はふたつしかなかった。
くる日もくる日も、波のような律義さで信男といっしょに
海岸沿いの道路を走るマイクロバスは
いつのまにか海とほとんど同じ色になった。
信男がマイクロバスを走らせているのは、けっして海岸線を
縫い合わせるためではなかったのかもしれなかった。
信男は必死で逃げようとしていたのだ。しかし、入り組んだ海岸線を
行ったり来たりすることしか、そうやって結果的に
海辺の土地を際立たせることしかできないのだから、
そして自分という殻のなかだけではなくこの土地にも
閉じこめられてどこにも行くことができないのだから、
いくら運転がうまくてもどうしようもないのだ。
あたかも新道やら高速やらバイパスで外部に開かれることを
余儀なくされた土地が、信男からどんなささやかな出口であれ
奪うことによって復讐を果そうとしているかのようだった。
小野正嗣「マイクロバス」

文治の目にはこの景色が見えているのだろうか。
文治のまなざしを思い出して、ふと尊は思った。
とぼとぼと歩く文治は、まるで外の世界から、
この土地から拒まれているみたいではないか。
でも、ミツコの話から理解するかぎり、文治は緑の山と濃紺の海に
挟まれたこの土地から一度も出ることなく死んだのだ。
生まれてこの方ずっと暮らしたその場所に、
どうして居場所がないなんてことが、あるのだろうか。
文治さんは知恵が足らん人でかわいそうに学校にも
行かれんかったらしい、とミツコは言った。
現実にどこにもいけないのであれば、
せめて心の中ではよそに行ってみたい。
しかし、かりにそう思ったところで、
人から話を聞いてもわからず読み書きもできなければ、
どうやって、ここではない別の世界を思い描けるのか。
外側からも内側からも拒絶されて文治はどこに行こうとしているのか。
どこにも行けないから、いまもなおここにいるほかないのだろうか。
小野正嗣「獅子渡り鼻」

みっちゃんの息子はな、表情に乏しくて、
喜怒哀楽がようわからん子でなあ…。
学校に行けるようになるんじゃろうかって心配し、
行けたら行けたで今度は人並みのことがでくるんじゃろうかって、
また心配してのお…。心配は尽きん。
運動も勉強も人並み以下じゃけど、病気をせんのだけが
取り柄じゃってみっちゃんが言うから、そうよ、そうよ、
元気が一番じゃねえか、
それだけでいいじゃねえかってわたしらも言うたんよ。
いじめられても誰も恨まん、人の悪口も絶対に言わん、
わたしらを見たらいつも嬉しそうに挨拶をしてくるる、
足の悪い年寄り衆のために代わりに墓参りに行ってやる…
そげな子があんたんところの子のほかにどこにおるんか!
わたしらは本当にそう思うておるから…
元気じゃったらいいじゃねえか、
誰に迷惑をかけるでもなし、って言うたらな、
そうかなあ…そうよなあ、えーこ姉、ってみっちゃんが訊いてくるから、
そうよ、そうじゃねえか、ってわたしも言うたんよ。そうじゃねえかって
そしたら、みっちゃんが泣いてなあ…。
泣かんでもいいじゃねえかって言うわたしも泣いておったてな、
一緒に泣いたんじゃ。
小野正嗣「九年前の祈り」

2024年5月14日火曜日

あの本、読みました?お酒がカギを握る名作…村上春樹&龍&原田マハ

実存は本質に先立つ青田
短夜や自由の刑に処せられて
実存主義は責任と孤独のみ(無季句)
夏の月責任なくば自由なし
サルトルとボーヴォワールや夏木陰

■あの本、読みました?お酒がカギを握る名作…村上春樹&龍&原田マハ
▪なぜ働いていると本が読めなくなるのか 三宅夏帆著 集英社新書
明治時代から日本人は読書を楽しんできました。
さらに読書は、自分の人生を豊かにしたり
楽しくしたりしようとする自己啓発の
感覚とも強く結びついています。
(中略)
だからこそ労働と読書の関係の歴史を追いかけることによって、
「なんで現代人はこんなに労働と
読書が両立しづらくなっているのか?」
という問いの答えが導き出せるはずです。

▪テクノ・リバタリアン世界を変える唯一の思想 橘玲著 文春新書
リバタリアンは「自由原理主義者」のことで、
道徳的・政治的価値の中で 自由をもっとも重要だと考える。
その中できわめて高い論理・数学的知能をもつのが
テクノ・リバタリアンで、現代におけるその代表が
イーロン・マスクとピーター・ティールだ。

▪世界はラテン語で出来ている ラテン語さん著 SB新書
午前午後を、AM PMと表すのはよく目にされることかと思います
(中略)
午前を指すAMはラテン語の「正午の前に(ante meridiem)」、
午後を指すPMはラテン語の「正午の後に(post meridiem)」の略なのです。

▪独特すぎる世界!新書ってなに?
本郷和人 和田秀樹 小倉碧
新書の御三家 岩波新書・中公新書・講談社現代新書

▪平成で一番売れた親書 450万部突破 129刷超!
バカの壁 養老孟司 新潮新書
人間には思考の限界が存在し 特に知りたくないことは
情報を遮断するものであると指摘
著者の養老孟司はそれを「バカの壁」と名付けた
人間同士が理解し合うことの根本的な難しさを説いた新書

▪世界はラテン語でできている ラテン語さん著 SB新書
自動車メーカーのAudi(アウディ)です。
Audiは、ラテン語で「聞け」という意味です。
(中略)
これは、創業者のアウグスト・ホルヒ(August Horch)の姓(Horch)が、
ドイツ語で「聞け」という意味のhorchと
同じ綴りであることが元になっているのです。

▪80歳の壁 和田秀樹著 幻冬舎新書
80歳を超えた人は高齢者ではなく「幸齢者」―。
これなら敬意を表せるし、温かみもあります。運も味方です。
年をとることへの希望も感じられるでしょう。

▪名著に名酒あり
間室道子 七北数人 バーテンダー万代竜一

▪ある男 平野啓一郎著 文藝春秋 「ウォッカ・ギムレット」
美涼は「はーい。」と返事して 家で一人で料理でもしているかのような、
パフォーマンス的なところのまるでない手つきでシェイカーを振った。
ゆったりとした黒いニットに、かなりダメージのあるデニムを穿いていて、
ソウルというより、ロックっぽい格好だった。
カウンターの中のスツールに腰かけて、破れた片膝を抱えながら、
無精髭を生やした黒いパーカーの五十がらみの男と話をしていた。

▪ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー著 村上春樹翻訳 早川書房
「ギムレット」
我々は〈ヴィクターズ〉のバーの隅に腰かけて、ギムレットを飲んだ。
「こっちには本当のギムレットの作り方を知っている人間はいない」と彼は言った。
(中略)
本当のギムレットというのは、ジンを半分と
ローズ社のライム・ジュースを半分混ぜるんだ。それだけ。
こいつを飲むとマティーニなんて味気なく思える。
彼:テリー
「ギムレットは飲むには少し早すぎるね」
(ここでギムレットが表現していることはさよなら
幸福と別れを示唆している)
「ところで、ギムレットはどうだい?」
私はそれには返事をせずに立ち上がり、金庫に行った。
私:マーロウ

▪風の歌を聴け 村上春樹著 講談社文庫
ビールが表現していること それは自由
「ねぇ、俺たち二人でチームを組まないか?
きっと何もかも上手くいくぜ。」
「手始めに何をする?」「ビールを飲もう。」
僕たちは近くの自動販売機で缶ビールを半ダースばかり買って海まで歩き、
砂浜に寝ころんでそれを全部飲んでしまうと海を眺めた。

林祐輔 番組プロデューサー 石原正康氏 登場

▪半島を出よ(上下) 村上龍著 幻冬舎文庫
甘紅露(カムホンロ)が表現していること
「甘い味がする紅色の露」という意味を持つ
朝鮮半島の高級蒸留酒 主な原料は米 うる粟
二人はテーブルに置かれていた酒の瓶を手にとり、
天山と吉岡の背後に回って、それぞれのグラスに甘紅露を注ごうとした。
ところが吉岡という県知事は酒?と驚いたような顔になって、
自分のグラスに手のひらで蓋をした。
県知事:吉岡 市長:天山
こんなときに酒なんか。吉岡が天山に耳打ちする小さな声が聞こえる。
(中略)
いいじゃないですか、酒ぐらい、わたしはいただきます。
天山がそう言って、リ・ギュウヨン特務上士にグラスを示した。
(中略)
「あなたが挙げた例は、みな戦争中のことではないですか。
福岡は戦争状態ではないし、あなた方との共存など望んではいませんよ」
天山がそう言ったが、吉岡の方は怯えきっていた。
二人の高麗遠征軍兵士に両脇を抱えられ、沖山が宴会場に運ばれてきた。
それを見た吉岡は、ヒッという短くて高い声を上げ、
天山は嘔吐しそうになって口にハンカチを当てた。
(中略)
天山は放心したような表情になり、この基本計画書に賛同します、
とほとんど聞き取れないような小さな声で言った。
警察庁の役人:沖山 県知事:吉岡 市長:天山

▪風のマジム 原田マハ著 講談社文庫
ラム酒 を描いた「風のマジム」語りは飲めない原田マハ
そっと口につけると、こくん、こくんと喉を鳴らして、
沖山はラム酒を飲んだ。その喉もとを、
マジムはじっとみつめた。祈りをこめて、
(中略)
ゆっくり目を上げると、沖山は言った。
「いま、風が吹いたような」マジムと沖山の目が合った。
沖山の目は輝いていた。未知の味、けれどどこか
なつかしい味に遭遇した 驚きと高揚感に満ちている。
アグリラムコールを使った「モヒート」

2024年5月13日月曜日

兼題「草笛」&テーマ「家族」

夏の夜や痛みの消える日を待たん
穏やかな心の余裕夏の空
空想と創造の喜び風薫る
空想や夢を抱きて夏の風
万緑や吾の宝石を磨く日々

■NHK俳句 兼題「草笛」
年間テーマ「やさしい手」
選者 西山睦 ゲスト 網野月を 司会 柴田英嗣

バイエルとソナチネハノン風薫る   西山睦
音楽人生×俳句

▪俳句三選「やさしい手」
拍 トレモロのトライアングル雪を呼ぶ   網野月を
  トレモロすると(細かく叩き続けると)音量が維持できる
  歌舞伎では雪を太鼓で湿度が高い日本の雪を表現する
  拍はリズム 俳句もリズムら響きを大切にする
  西洋音楽には12の音がある 
  それをリズムに合わせて音楽を作る
  俳句にも50ほどの音があるが活字だと全部同じ大きさ
  50種類全部違った音の長さ前後にくる音が違うとまた変わる
  五七五の調べはゴムひもみたいに伸びたり縮んだりする
  凡(およ)そ天下に去來(きょらい)程の小さき墓に参りけり 
  高浜虚子 25音と言えども字余りは許される
  リズムきちっと入っていればOK 50音全てが音符
楽 楽聖忌馬鈴は既に超えにけり   網野月を
  音楽の世界では楽聖と言えばベートーベンを指します
  ベートーベンが亡くなったのが3月26日 その日が楽聖忌
  馬齢はぼうっと何もしないで歳を重ねてしまったの意
  益々べートーベンを尊敬している
笛 草笛や祈るかたちとなる親子 網野月を
  私が父に教わった口笛は手を合わせてそこに葉を挟む
  草笛に限らず親から子へ教わっていくもの
  教わらなくても習っていくもの
  網野さんの原点ともいえる句
  個人的な背景を知らなくても親子が祈る
  と言うのは普遍的な命を感じられる句
  音を雪に感じるとか草笛も一説では
  鳥の声を、まねしたと言われる
  自然からいただくという点では俳句をすごく似ている
  どこまで作れば完成するのか?と考えるようになった
  崖っぶちまで作る

▪特選六句発表 兼題「草笛」
草笛やもうすぐ母の帰る道   升水(ますみず)恵美子
遠くまで草笛吹きし喪あけかな   曽根新五郎
草笛のかすれかすれて荷物番   智久薫子(ともひさかおるこ)
草笛の手ほどき子ども食堂で   小田和夫
草笛や明日はバイトの給料日   佐藤慶夫(のぶお)
父よりも母の草笛奔放に   可笑式(おかしき)

▪特選三席発表
一席 草笛の少年あした家を出る   前田憲治
二席 どの牛も草笛聞けば舎に戻り   丹伊田拓(にいたひろお)
三席 戦場の兄の草笛まだ続く   髙野登

▪俳句やろうぜ 若手俳人探査隊長 黒岩徳将
俳句道まっしぐら大学生 垂水文弥(20歳)

垂水文弥氏の尊敬する鳥居真理子女史の句
福助のお辞儀は永遠に雪が降る   鳥居真理子

クロイワ推しの一句
二人食ふちりめんじゃこは夜の粒子   垂水文弥

「フロンティア」をねらっていく俳人だと感じました
クロイワ徳将

▪柴田の歩み
25音もありなんだ やってみよう

■NHK短歌 テーマ「家族」
年間テーマ「光る愛の歌」
選者 俵万智 ゲスト 玉置玲央 司会 ヒコロヒー

▪入選九首 テーマ「家族」
娘待つ駅へと向かう遅い夜無口な父型ロボットとなり
榊原葉二
二席 母ほどに母にはなれず娘ほど娘でもなく芋を煮るなり
横縞
台紙ごと姉と一緒に嫁ぎゆきヤマザキじゃないパンを買う春
くらたか湖春
三席 晩ごはん妻にかわって用意して妻の席から家族ながめる
山田真人
祖父の世話する子を良い子と褒めた日よヤングケアラーの言葉なき頃
髙島和子
守られていた実感はないままに家のかたちの貯金箱割る
高原すいか
冷凍は永遠とする母の目を盗み掘り出す何かの化石
三月とあ
一席  あの傘は父さんが差していったから十年たっても見つからないね
藤田結子(ゆいこ)
 そういえば喪服の場所もわからない教えてくれる君がいないと
松村智裕

▪「光る君へ」で短歌を10倍楽しもう!
これもまた家族のかたち灰色の下着が二枚並ぶベランダ
小佐野彈「メタリック」
家族観が変わりつつあるなかでこういう歌が生まれている
短歌は時代を反映していくもの
短歌づくりのポイント
時代や社会背景をいかした表現を目指そう
親と子の情 変わらないものもある

光る君へより
人の親の心は闇にあらねども子を思う道にまどひぬるかな
(子を思う親の心というものは闇にさまよう迷子のごとし 万智訳)
詠むときに自分の思いをいかにのせるか
一般論で考えてもなかなか良い「家族」の歌はできない
自分の「家族」への思いを具体的にからめていく
経験を具体的に混ぜ込んでいく 俵万智

フックになるような言葉
自分にしか見つけられない表現を入れ込んでいく ヒコロヒー

短歌づくりのポイント
普遍的なテーマを自分にしか見つけられない表現を

玉置玲央さん「家族」の歌
生きていく場所は違えど魂はなんだかんだで繋がっている
藤原家も魂の部分では繋がている
「いく」としたことでこれからの未来をも含めた
素晴らしい表現と俵万智先生絶賛
短歌は芝居みたいだと思った 正解がない
受け取ってくれる方次第

▪私感
玉置玲央さんのファンになってしまいました
素晴らしい感性をお持ちの俳優さんでした
応援しています

▪ことばのバトン
ほこり立つ突風に散る梅の花
枯芝 東京農工大 短歌会

毒をはぐくむ桜木の陰
三々凪四葩(ささなぎよひら)同志社大学短歌会
短歌など詠めないくらい幸せになりたい思い出に石一つ

2024年5月12日日曜日

紫式部 千年の孤独 ~源氏物語の真実~

夏めくや原点回帰立ち返る
(日本)創造的思考なくす五月かな
赫灼(かくしゃく)とレッドパールの気高さよ(無季句)
薪集め村おこしせり夏の空
木野駅ひだか薪を集めて巣立鳥

■英雄たちの選択 紫式部 千年の孤独 ~源氏物語の真実~
磯田道史 古い日本の幕の内弁当
山本淳子 貧しくてシングルマザー
高橋源一郎 世界で最も古い小説であり世界文学の最高傑作
山口真由 信州大学特任教授 財務官僚
イザベラ・ディオニシオ 伊出身 大学で古典文学をまなび来日
杉浦友紀アナウンサー

天延元年(973)頃 紫式部 生まれる
父は藤原為時

何とも残念だ お前が男でなかったのは 我が家の不運だ
「紫式部日記」より

長徳2年(996) 越前の国司となった父に従って越前へ
そんな彼女に思いを寄せる男が…。藤原宣孝…。
また従兄で年齢差20歳以上上であった
「春は解くるものと いかで知らせたてまつらむ」
「春なれど白嶺のみゆき いや積もり 解くべきほどの いつとなきかな」
「紫式部集」より

長徳4年(998) 紫式部 藤原宣孝と結婚
30歳直前に女の子を授かる
長保3年(1001) 夫 宣孝 伝染病で病死
心の支えは「物語」だった

取るに足りないものでは あるけれど
物語についてだけは 語り合える友がいた
私はこの物語というものを 慰みにして さびしさを紛らわせた
「紫式部日記」より

女目線で紫式部は描き始めた「帚木三畳(ははきぎさんじょう)」
光源氏という名前だけはご立派なものだが
褒められたものではない 恋の過ちが多い
さらにこのような 色恋沙汰が後世に伝わり
軽薄な浮名を 流すことになろうとは

この時相手をした女人は 夕顔 空蝉(うつせみ) 軒端荻(のきばのおぎ)
夕顔の話は「古今著聞集」が元になっているという

寛弘2年(1005) 紫式部 宮中に出仕
駕籠(かご)かきが階段を上がって 苦しそうに這いつくばっている
あれは私の苦しさと同じだ 身分の違いはどうしようもないことを
知ると 安らかな心ではいられない
「紫式部日記」より

左大臣 藤原道長の野望があった
兄の藤原道隆が摂政についていた
道隆の娘 中宮定子を一条天皇に嫁がせていた

長徳元年(995) 定子の父 道隆が死去
定子は出家

長保元年(999) 道長娘 彰子を入内させ正室にする
長保元年(999) 定子 敦康(あつやす)親王を出産
長保2年(1000) 3人目出産後 定子死去

野辺までに 心ばかりは通へども 我が御幸とも 知らずやあるらん

第1帖「桐壺」
いずれの御時にか 女御 更衣 あまたさぶらひ給ひける中に
いとやんごとなき際にはあらぬが すぐれて時めき給ふありけり
桐壺亭 一条天皇
桐壺更衣 中宮定子
光源氏 敦康親王

初仕事 心新たにご挨拶 頑張りますゆえ どうぞよしなに

寛弘3年(1006)5月 紫式部 再び宮中に出仕

あなたがこんな人だなんて 思ってもみませんでしたわ
会ってみたら不思議なほどおっとりとしているんですもの
「紫式部日記」より

第5帖「若紫」に解答が記されている
雀の子を犬君が逃がしつる 
伏籠(ふせご)のうちに籠(こ)めたりつるものを

道長の命令に従い彰子をモデルにし立て上げた(紫の上)
身分も後ろ盾もない申し分ない恋敵を登場させる
朧月夜 六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ) 
藤壺の女御(にょうご) と登場させることで読者を
「源氏の正妻にふさわしいのは若紫しかいない」と思わせていった

第33帖「藤裏葉」
光源氏 娘を東宮に嫁がせ政治の世界で権力を握る
御輦車などゆるされたまひて女御の御ありさまに異ならぬを

寛弘5年(1008) 彰子 敦成親王を出産

ああこの若宮の 御尿(おしと)に濡れるのはうれしいことだ
この濡れたのを火に炙(あぶ)ると
本当に思い通りに なったような気がする
「紫式部日記」より

道長と紫式部日記の関係について噂はあった
後に宣孝に嫁(か)したとあるのは伝説の誤りなり
紫式部日記では主従関係だったが
紫式部集では恋人同士に作り替えられている

試しに物語を手にとってみたが 昔のような感動は
全く湧き起こらず あきれるほど味気ない
「紫式部日記」より

源氏物語をまだ先を書きつづける道を選んだ

源氏は女三宮を正妻として迎える
紫の上は改めて自分が妾(しょう)同然であることを悟る

庭の池で水鳥が遊んでいる のびのび遊んでいるように
見えるけれど 水面の下では とても苦しいのだろうと
つい思い比べてしまう
「紫式部日記」

第1部 1帖~33帖 第2部 34帖~41帖 第3部 42帖~57帖 
第3部後半は「宇治十帖」と呼ばれる
「宇治十帖」のヒロイン 浮舟

誰か世を 永らえて見む 書き留めし 跡は消えせぬ 形見なれども
「紫式部集」より

いづくとも 身をやる方の 知られねば 憂しと見つつも ながらふるかな

何も信じるものがなくても それでも
生きていく それが人というものだ 紫式部の辿り着いた思い 山本淳子

仏教も男も信じられない 女も…。寂しい感じがした。 杉浦友紀

孤独…。 イザベラ・ディオニシオ

紫式部は書くことこれは否定されていない 
自分が思った浮舟のいる世界は希望がある
それを作れるのは自分だけ 高橋源一郎

過去に様々に女性が生きづらさを抱えながら
生きていたことが自分の身を軽くする
物語という虚構空間を通じて私たちは
様々な女性と時空を超えて繋がっている 山口真由

命は苦しく辛く必ず終わるから だから無駄なのか❓
だから良いのか❓紫式部は書いていない
これを読むことで結論は読者に委ねられている 磯田道史

2024年5月11日土曜日

100分de名著 トーマス・マン「魔の山」(1)

状況倫理という逃げ道薄暑
夏きざす水(現実)が空気を作りをり
夏場所や虚構の支配機構あり
閉ざされしテーマパークや夏始(なつはじめ)
夏浅し空気の支配から逃れ

■100分de名著 トーマス・マン「魔の山」(1)「魔の山」とは何か
トーマス・マン(1875~1955)
小黒康正 九州大学教授

独特の語り口が魅力 おしゃべり且大切なところで沈黙
国際結核療養所での恋の茶番劇

私たちが語ろうとしているハンス・カストルプの物語は、
彼のためにするのではなく私たちにとって
かなり話甲斐のありそうな物語のためにする。
物語の過去的性格は物語が「以前」に寄り添えば寄り添うほど、
いっそう深まり、完成され、メールヒェンに近づくのではないか。
したがって、語り手はハンスの物語をさっさと
語り終えてしまうわけにはいかないであろう。
1週7日では十分ではなく、7か月でも十分ではあるまい。
まさか7年はかかるまい!(皮肉、これからのことを予告している)
ということで、物語を始めることにしよう。

ハンス・カストルプ 主人公 上流階級出身の青年

故郷や秩序と未知なるものとの間を漂いながら、
彼は自問した。あそこの上ではどうなるのだろうか。
こんな極端なところにいきなり放り出されるなんて、
賢明でもなければ、体にも良くないんじゃないか。
彼は軽いめまいと吐き気に襲われ、二秒間ほど手で眼を覆った。
もっともことなきを得たのだ。
見たところ、登板が終わっていて、峠もいくつか越している。
汽車はいまや平坦な谷合いをのどかに走っていた。小さな駅に着く。
「やあ、きみ、さあ降りるんだ」

ヨーアヒム・ツィームセン いとこ 軍人志望

「ここの連中ときたら時間の扱いが適当なんだよ。
まさかと思うだろうけどね。
3週間なんて連中にしてみれば1日みたいなもんだ。
いまに分かるよ。何もかものみこめるさ。
ここにいると考えなんて変わってしまうんだ」

昔がいつかは限定しない
病気や戦争で多くの人が亡くなる時代
いつの時代にも通用する
上と下の二項対立

「何といい部屋だ!ここだったら優に数週間は過ごせるよ」
「一昨日、ここでアメリカ人女性が一人死んだよ」
とヨーアヒムが言った。
「そのアメリカ人女性はものすごい喀血を二度もして、
それでおだぶつさ。
でも昨日の朝にはもう運び出されて、それから、
ここはむろん徹底的に消毒されたんだ。
ホルマリンを使ってのことだけど、
これがまた使い勝手がいいって話なんだ」
紛れもなく、それは咳だったーそれは男の咳だったのだ。
しかし、ハンス・カストルプがかつて聞いたことのある
他のどんな席にも似ておらず、いやそれどころか、
この咳に比べれば、彼の知っている他のどんな咳も
すばらしく健康的な生命の表れだった。

ドクトル・クロコフスキー 医師

「しかし、そうだとしますと、あなたは大いに研究に値する現象です。
つまり、私はまったく健康な人間になんか
いまだお目にかかったことがありません。
―申し分のない健康を満喫されてください。
おやすみなさい、ではまた!」

深刻な話を淡々と話す

結核療養所での暮らし 優雅な暮し 自堕落な生活の始まり
1日に5度の食事(昼食・夕食はフルコース)
食事の合間は散歩や寝椅子での安静時間
隔週日曜日はテラスで音楽の演奏会

デカダンス(没落)の時空=結核療養所
産業革命を経て都市化が進んだ時代
領土を拡大しようとして領土を巡る対立が出てくる
ヨーロッパの流れに遅れをとったのがドイツだった
国民は国家に役立つ存在でなければならない
世の中の価値規範に背を向ける
そうした生き方が「デカダンス」と呼ばれた
自称「デカダンスの年代記作家」
「ヴェニスに死す」初老の作家が少年にほれ込み没落していく物語
デカダンス(没落)の克服?小説
自覚することが克服の始まり

洗礼盤とめまい

それは、進行しながら同時に止まり、
変転しながら停止することで、
めまいを起こす単調な繰り返しとなった、
夢見心地が半分、不安が半分の奇妙な感情だった。

ハンス・カストルプは、天才でもなければ愚か者でもなかった。
スイッチバックする汽車に乗っている感じ
「ハンス・カストルプ」が意味するもの
時代の閉塞感を個人を通じて描いている

2024年5月10日金曜日

文房具で一句&「緑陰」

神光寺天を目指してのぼり藤
のぼり藤柵に巻きつきよじ登り
深呼吸甘き香りをのぼり藤
天空へ鬼籠野(おろの)で見頃のぼり藤
青き空藤房揺れて芳香かな

■プレバト纏め 2024年5月9日
文房具で一句

特別永世名人 梅沢富美男のお手本 締めの一句
初夏の光のインクガラスペン
添削(初夏は夏の季語 夏の初め 5月の頭のすがすがしい気候の時期
   透明感のある美しい言葉で纏めている 推敲が完璧でない
   問題は表記 表記を含めての表現)
初夏のひかりのインクガラスペン

永世名人 千原ジュニア 傑作50選
密やかに鉛筆登るてんと虫
(密やかにが成功している 詩を作り出している
 てんとう虫と人の息が密やかにに入ってくる
 小さな場面を捉えるのが上手)

1位 山本里菜
迎え梅雨紙端(したん)に滲む友の文字
添削(滲むが季語の迎え梅雨を補強している 
   具体的な情報を入れるとより映像がはっきりする
   書かないでもわかる より具体的にする)
迎え梅雨借りたノートに滲む文字

2位 内藤剛志
虹の下クレヨンの箱踊り出す
添削(踊り出すは擬人化 
   擬人化が虹という季語とクレヨンと箱に溶け込んでいる)

3位 雲丹うに
天王山黒ずむ袖に薄暑光
添削(中七の表現が良い 天王山は受験の説明の言葉になっている
   天王山の代わりに晩夏光を入れると
   受験がもう終わりという意味になる)
鉛筆に黒ずむ袖や夏休み
鉛筆に黒ずむ袖や晩夏光

4位 河野純喜
薫風や隣の君と教科書を
添削(詠もうとした内容があまりにもありきたり)
教科書を忘れた君と風薫

5位 ゆりやんレトリィバァ
消しゴムが白き水面にボウフラを
添削(俳句としても日本語としても腹立たしい)
消しかすはボウフラみたい子どもの日

次回のお題「雨降りのシーン」

■一分季語ウンチク「緑陰」
夏井いつきのおウチde俳句

非常に気持ちのいい夏の季語
植物の緑の木陰を指す季語ではありますが
似て非なる季語として「木下闇(こしたやみ)」と
比較される場合が多い季語です
「木下闇」はよりちょっと暗さに軸がある
それに対して「緑陰」は緑の影といいつつも
その「緑陰」を作り出している周りの光も含めての「緑陰」
そんな捉え方の差があるでしょうか
比較的新しい季語でもあるようで成立としては
大正時代位に成立したのではないかと言われております
様々な名句も歳時記にたくさん載っている有名な季語です

2024年5月9日木曜日

いいね!光源氏君&「苗代」&信長と足利義昭 教訓

夏の風甘き香りや藤の花
藤棚やのれんの如く童学寺
阿波藩の(宮本)武蔵の弟子や夏の日を
道沿いのさつきはまだか躑躅咲く
椎宮(八幡神社)三千本のつつじ咲く

■いいね!光源氏君 より
若草のにほへる春や抹茶てふ恋しきものぞ我はけふ知る
たをやめの細き手指に乱れ咲く散ることもなき爪紅の花
封じられ板の隔てに遠き君叶はぬ恋となほも恋しき
袖濡らす我に遣わされし白き紙
濃き色にしのびあまるる君が香を人知らなくばなほもいとほし
モンブラン ゼリーマカロン チョコレート 焼きたてスフレどれも美味しい
かりそめの夢の旅路をさすらひて月なき今宵うつつは帰らむ
うるはしき乙女と遊ぶ今の世におぼるるものはこの身なりけり
隠れてもまた満つやうに巡りゆき逢ひまほしきは見初めたる君
イケメンと油断するなよ目の前の彼は平安貴族のニート
去りし友を一目見むとておもひきや千代に八千代に
玉しきのひと夜は夢のきらめきと
思ひでも手折るもならぬ咲く花のみやこを思ふもどかしさかな
めぐり逢ひて見しやそれともわかぬ間に雲がくれにも夜半の月かな
懐かしき花の都にいざゆかむ心惹かるるかの抹茶パフェ
夢に見し甘き香りの抹茶パフェ心も君とともに溶けゆく

■いいね!光源氏くん し~ずん2
ひとひらに香りゆかしきくれなゐをよそひてよその風の過ぐらむ
色もなくそっけないふりしていてもピリッと効いてる君と鷹の爪
あけ色の心に染みてかうつつよりおぼろに見ゆる夢にまどろむ
グリーンの葉に包まれてさっぱりとカルパッチョだけに軽いノリなり
花に似せ色のちぐさにならべどもひと花ごとに心まどひぬ
しのびつつささらぐみづに梳かれれば我が身のみこそさはやかならむ
マジヤバイ風強い日に見た君にぃまた会いたいな今度飯どう?
君のそのすぐな心こそ光なれともにあらなむ命のかぎり
いづれの御時にか働く女のあまたあるなかにふつと優ならぬ
つぼみさへいとしきものを君笑めば光こぼれて花のほころぶ 4まで

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「 苗代」

日本はお米大国でもあります
この米作りに関する季語は沢山あるんですが
「苗代」もその一つです
米作りにおいて苗というのは非常に重要でありまして
苗代半作 米作りのうち「苗代」が
半分に匹敵するという言葉もあるようです
注意したいのはこの「苗代」は地理の季語ということです
現在は安全で強い苗を作るためにビニールハウスの中で
管理されて苗が作られることが多いらしいのですが
現在の「苗代」の環境と元々季語としてあった「苗代」は
姿形を変えつつあると言えるかもしれません
稲を元気に育てるために昔は青空の下に
育つ前の「苗代」が蒼くそよいでいたんですね

■偉人・敗北からの教訓 
第43回「シリーズ信長③信長と足利義昭・将軍の追放」

信長と足利義昭 敗北の伏線
理想的な相手を見つけるのは困難
パートナー選びは運命を左右する

信長と足利義昭 敗北の瞬間
制御不能な相手にルールを押し付けても無駄
早めに腹を割って話し合いを

本能寺の変 天正10年(1582)信長49歳

教訓
人間性の批判までは踏み込まない

信長の敗北から学ぶ教訓
たとえどんなトラブルになろうとも人格の否定にまで踏み込むべからず

2024年5月8日水曜日

あの本、読みました?~芥川賞作家・九段理江、三島由紀夫に恋して

憐みの心を持ちて夏の海
夏点前無駄なき営為雅趣に富み
雲の峰恥の教育施せり
「武士道」の道徳規範雲の峰
夏の月嘘ごまかしのなき心

■あの本、読みました?~芥川賞作家・九段理江、三島由紀夫に恋して…
▪芥川賞「東京都同情塔」九段理江
「犯罪者は同情されるべき人々」
という考えが主流になりつつある近未来の日本
犯罪者に寛容になれない建築家の牧名沙羅は「シンパシータワートーキョウ」
という名称の高層タワーの刑務所をデザインする
曖昧な言葉と実のない正義の関わりが独特のリズム感を伴って描かれます

平野啓一郎が語る九段理江の魅力
二人共三島由紀夫ファンなのでシンパシーを感じているとか…。
「三島由紀夫の再来」と言われて文壇Debutした平野啓一郎に嫉妬。
創作に対する美意識が近い方から評価を受けることは嬉しい

杉山達哉(九段理江の担当編集者)
芥川賞の候補に落ちて「作家を引退する」宣言
UNBUILT 実現しなかった未建築のことを話したとき
「東京都同情塔」誕生の瞬間
それまでは好きなものばかりを書いていたということに気付く
主人公は建築家の牧名沙羅 本文ではSara Machinaと表記
Machinaはポルトガル語で機械の意味
Sara Machinaはサイボーグの意味 機械に侵食されている
Saraはラテン語で王女の意味もある

主人公の牧名沙羅は人間のように会話ができる
生成AIとの対話の中で軽い言葉の氾濫が
社会の分断を生んでいることに気付いていく

小説の中に出てくるAIが作る文章
AIは人間の平均値で文章を作る AIにも性格がある
小説を書く準備期間は❓
2,3か月で100冊くらい読む
準備期間と作品の出来に関係なし

担当編集者から見た九段理江は❓
九段理江の作品には複数の文体を書き分けている

Schoolgirl 九段理江著 文藝春秋
お母さんは若いころに小説を読み過ぎたせいなのか
空想好きなところがあって、お金を女の人だと思っていたり、
変な比喩を使ったりして、私やお父さんを困らせる。
お金が女の人っていうのは、実はついこのあいだ
偶然にわかったことなんだけど、
太宰治の小説が元ネタになっているんです。
(中略)
お母さんは「変わっている」というより、
小説に思考を侵されたかわいそうな人なんです。

女生徒 太宰治 角川文庫
5月1日の起床から就寝までの少女の一日を
少女の心理の移り行く様を丹念に写し取っている

「Schoolgirl」は太宰治の「女生徒」をリメイクした

斜陽 太宰治 角川文庫
没落していくある貴族の家庭を描いた太宰治の代表作の一つ

太宰治がいいなって思っていたら三島由紀夫が出てきて少女時代恋した
世界観を打ち崩された
三島由紀夫を知ったのはYou-Tubeだった 中学3年生の時

九段理江 ペンネームの意味
筋肉と作家人生がリンク
ジムDebutと小説家Debutが一緒

九段理江のオススメ本
闇の中の男 ポールオースター著 柴田元幸翻訳 新潮社
東京都同情塔にも実現しなかった
ザハ・ハディド設計の国立競技場が建った世界が描かれている
九段理江も鈴木保奈美も翻訳家 柴田元幸が好き 意外な共通点
最も好きな本は「幻影の書」

幻影の書 ポールオースター著 柴田元幸翻訳 新潮文庫
その男は死んでいたはずだった
何十年も前 忽然と映画界から姿を消した
監督にして俳優のヘクター・マン
その妻からの手紙に「私」はとまどう
果たしてヘクターは生きているのか?
ヘクター・マンのついて書かれた唯一の書物の著者である私が、
ヘクターがまだ生きていると信じるチャンスに飛びつくものと
誰かが考えたとしても、別に不思議はあるまい。
だが私としてはとうてい飛びつく気分ではなかった。
(中略)
私の結婚十周年記念日のわずか一週間前に、私の妻と息子二人が
飛行機事故で死んだことなど、彼女にわかるわけがない。

次回作の構想はこの番組から!?

▪GWに読みたいオススメ本の紹介
凪良ゆう
冷静と情熱のあいだ Rosso 江國香織著 角川文庫
冷静と情熱のあいだ Blu 辻仁成著 角川文庫
恋愛中毒 山本文緒著 角川文庫
平場の月 朝倉かすみ 著 光文社文庫

宮田愛萌
ラザロの迷宮 神永学 著 新潮社

大森望
親愛なる八本脚の友だち シェルビー・ヴァン・ベルト著 東野さやか翻訳 扶桑社

2024年5月7日火曜日

第25回NHK全国俳句大会

吾のどこが我儘ですか夏の潮
夏の雲積んだ経験生かせずに
夏の風うつらうつらの駐車場
ゴルフ場送り届けて夏を伸ぶ
くしゃみして攣る腹筋や夏の月

■NHK俳句 第25回NHK全国俳句大会
これまでの題詠
初 餅 水 海 土 光 波 声 空 人 明 立 
新 母 和 一 風 山 天 大 生 行 千 平

▪特選俳人を深堀り! 進行 小澤康喬アナウンサー
西村和子 村上鞆彦 夏井いつき

▪特選 題詠「平」
西村和子選
胸起こし見張る地平や稚児の春   うーみん
山田佳乃選
平がなで話す幼子小鳥来る   清水綾乃
夏井いつき選
水平器の気泡のやうに春眠す   溝口トポル
高野ムツオ選
平凡な暮しに蚯蚓鳴きにけり   横田青天子(せいてんし)
星野高士選
手の平の力抜け出す暑さかな   島田文代
小林貴子選
平時とは重き言葉や蝉しぐれ   能田孝昌
村上鞆彦選
肘枕源平桃(げんぺいもも)の花の下   田中久幸
小澤實選
平家滅びし海の青さよ時鳥(ほととぎす)   坂本たか子
小川軽舟 神野紗季選
太陽は平凡な星ふきのたう   佐藤直哉
(第24回大会自由題特選 
孤独死にあたたかな死後二日かな 佐藤直哉)

▪NHK全国俳句大会25年の歴史
第1回(1999年)NHK教育テレビ40周年として開催
題詠が始まったのは第2回以降 第1回は自由題のみで実施

鷲谷七菜子の教え
・俳句は沈黙の詩 沈黙の中に思いを響かせること
・自然と一体になること

清崎敏郎の教え
・俳句は平明
・深みや広がりがあることが大事

▪大会の名場面を大公開
黒田杏子選
墓になる一坪ほどの草を引く   越川三朝
炎昼の骨壷土に還(かえ)しけり
長生きといふ淋しさを昼の虫

この三選に異を唱えたのが藤田湘子
夏井いつきの俳句を始めるきっかけを作った人が黒田杏子だった

黒田杏子の教え
・季語の現場に立つこと
・季語と交信をすること

黒田杏子の三つの教え(花瀬玲さん) 
常に歳時記を読みなさい
過去の優れた句を書き写しなさい
できるだけ季語の現場へ赴きなさい

第1回以降見所になったのが
伝統派 稲畑汀子 と 前衛派 金子兜太 の熱い議論
第1回
金子兜太選
百段の上に炎帝座(おわ)しけり   塩田良一
(本歌取りならぬ本句取りを提案 
類型だ盗作だと野暮なことを言う人がいますが…。
炎帝を大根にしてはどうかと 金子兜太
季題が動くということをご存じか❓と怒ったのが稲畑汀子
季題を重く大切に扱おうとする稲畑汀子
季題を動かすおもしろさっていうのもあると金子兜太
私は金子兜太先生に拍手喝采してしまいました。)

第2回
稲畑汀子選
木登りを教へて帰す夏休   平田隆

稲畑汀子が特選句 金子兜太が秀作に選んだ
これでまたまた熱い闘いとなりました。
「季題季題という人は嫌い」と金子兜太で打ち切りとなりました
西村和子と夏井いつきと村上鞆彦はこんなディペートがやりたいとか…。
私には理解できない世界…。

現在は待ち時間1分ほどで選者が選評などを話す

2004年開催 第5回大会
類句・類想について議論がなされました
伊丹三樹彦 どちらが先に発表したか❓作者は取り消すべき
岡本眸 作るべきではない
藤田湘子 心ある人は避けるべき 力がついたら止めるべき

2007年開催 第8回大会
特選作品に選ばれるためには
有馬朗人 定型の良さをスパッと使った時 その切れた俳句はとる
後藤比奈夫 だれの隣に座るか
宇多喜代子 断定 言い切るくらいがいい
稲畑汀子 季題が生きているか いかに上手に使うか
金子兜太 選者の横に並ぶ方法はないと思う 
季語に拘っている内は選ばれない

▪龍太賞
自由題や題詠とは違い15句1組での作品として審査
「蘇る」岡田眞利子
遠嶺より雲湧き出づるお花畑
老鴬や石切り出せる谷深く
縁下や風渡り行く蟻地獄
暮れ始めぬ小鳥葬(はぶ)りし花野より
雁渡し卓に白磁の皿重ね
柿吊るす山に飢ゑたる獣どち
曼殊沙華釜の炎の透き通り
箸立に隙間なく箸昼の虫
冬濤(ふゆなみ)のどうと崩るる岬馬

巖頭の羚羊(かもしか)に靄(もや)流れけり
枯葦の根方(ねかた)おびただしき羽毛
冬の蜂磔刑(たっけい)像の足元に
凍蝶(いてちょう)の死と見れば翅(はね)ゆると立て
抱き上ぐる兎の汚れ冬ぬくし
凍鶴(いてづる)に山河はるかとなりゆけり

まとめ方と題のつけ方がとても興味深い
連作のアドバイス 緩やかなテーマが必要 西村和子
前の句の世界を土台にして次の句を詠む 夏井いつき
最初の句と最後の句は注意深く考える 村上鞆彦

▪特選 自由題
西村和子選
葉桜や静かに人を歩ませて   行澤(ゆきざわ)直子
星野高士選
夕虹を見知らぬ人に教へられ   印出井(いんでい)慶子
山田佳乃選
溜息をかたちにからすうりの花   石川理恵
高野ムツオ選
鳥渡る石筍(せきじゅん)にまたひと雫(しずく)   古賀睦子
夏井いつき選
鉾立(ほこたて)の横夕刊のバイク押す   花瀬玲
(先生からの教えが自分たちの心柱となり培われている 夏井いつき)
小澤實選
柿が好き子規も青畝(せいほ)も我が夫(つま)も   高田みづ杞(き)
神野紗希選
晩夏光(ばんかこう)砂浜で聴く子の本音   柏原恵美子
小川軽舟選
寒明の解放弦の響きかな   堀瞳子
村上鞆彦選
大海に溶けゆく雨を泳ぐかな   木下美奈子
(船焼捨てし船長は泳ぐかな 高柳重信 先行作品との響き合い
固有名詞は季語に匹敵する)

▪大会大賞
題詠
太陽は平凡な星ふきのたう   佐藤直哉
自由題
大海に溶けゆく雨を泳ぐかな   木下美奈子
(先行作品があることが判明したため、作者本人より辞退)

▪次回の題「出」
詳細:https://www.n-gaku.jp/public/life/zenkokutaikai_25th/#grandprize-haiku

2024年5月6日月曜日

兼題「風薫る」&テーマ「オノマトぺを入れる」

夏草やパノプティコンという施設
支配するパノプティコンの暑き夜
すべてを見張るパノプティコンや旱(ひでり)
空気と倫理判断基準明早し
夏怒涛空気が支配する日本

■NHK俳句 兼題「風薫る」
年間テーマ「俳句の凝りをほぐします」
選者 堀田季何 レギュラー 庄司浩平 司会 柴田英嗣

今回のテーマは取り合わせ
白(はく)牡丹といふといへども紅(こう)ほのか   高浜虚子
夕風や牡丹崩るゝ石の上   正岡子規

俳句には一物仕立てと取り合わせがある
一物仕立てとは一句全体がその季語についての話
取り合わせとはふたつの要素で組み合わせた句

どういう形で組み合わせると句が生き生きするか
取り合わせのパターン
① 同じ情景
② 物と心
③ 二物衝撃

パターン①同じ情景
① 遠火事や玻璃(はり)にひとすぢ鳥の糞(まり)   相子智恵
② 閲覧の先師の蔵書風薫る   松崎鉄之助

五感で同時に感じられる ①
風は触覚 嗅覚にも来る 蔵書は視覚 同時に感じられる ②
視覚 聴覚 嗅覚 味覚 触覚の五感 いずれかで同時に感じられる

「同じ情景」凝りのある句は❓
同時に感じられない
スリッパを横切り蟻や海に波
「同じ情景」ツボポイント
2つの要素が同時に感じられる

パターン②「物と心」
① さま〲の事おもひ出す桜かな   松尾芭蕉
② 先生はふるさとの山風薫る   日野草城

物と心で響き合っている ポイント
近すぎる/遠すぎる

人の世はみな儚くて桜かな 二つの要素がめちゃくちゃ近い
先生はふるさとの山冷蔵庫 距離が遠すぎる

「物と心」ツボポイント
当たり前すぎないけど説得力がある ちょうどいい距離

物と心
A海老味の濃きラーメンや春愁   遠すぎる
Bテレビ画面端に時刻や春愁   成功している句
C何となく流るる涙春愁   近すぎる
D友はもう一人の自分春愁   心と心「物と心」ではない 漠然としている
               雰囲気に流される 片方は物にする

春愁(はるうれひ 春になって理由もなく気分を落ちたり物憂げになること)
「春愁」は(物理的に感じられない)心の季語

▪特選六句 兼題「風薫る」
風薫る森に犇(ひしめ)くオノマトペ   田上邦雄
象の鼻よく動く日や風薫る   荒田苔石(たいせき)
朴直(ぼくちょく)の君はAI風薫る   井上三哉(さんや)
ヴルストの弾ける皮や風薫る   コンフィ
私 薫風はこのときめきを甲斐とする   南方日午(みなかたひうま)
月よりも白き馬乳酒(ばにゅうしゅ)風薫る   広木登一

▪柴田の歩み
良い距離間のライバル登場
庄司の歩み
人も物も心もイイ距離間で。

■NHK短歌 テーマ「オノマトぺを入れる」
年間テーマ「“私”に出会おう ~2年目の飛躍~」
選者 川野里子 レギュラー 内藤秀一郎 深尾あむ 司会 ヒコロヒー

オノマトぺ
擬態語 もぞもぞ ピカピカ
擬音語(擬声語) ガシャン わんわん

オノマトぺ 特に擬態語は日本語に豊かにあり表現を広げてくれる

▪飛躍の扉
擬態語の短歌
鯉のぼりほうとふくらみくたと降るこの緩慢なる力見よとぞ
川野里子「五月の王」

擬音語の短歌
打楽器はごんぼごんぼと闇を打ちアフリカの月膨張しはじむ
永井陽子「不思議な楽器」

音で風景 雰囲気 気持ちも伝えることができる

▪入選六首 テーマ「オノマトぺを入れる」
城門をズドーンズドーンと閉めていく笑顔のままで独りになりたい
川口真(しん)
ぶんぶんと自分のことを振り回すどっちが未来かわからないほど
中森菜穂子
私 すうーっと透けることなどなく逝きし祖母の重さにシーツは沈む
葉村直
前世は獣か母はわが腕をガシッと掴み厠(かわや)へ歩く
浦上紀子
ギイイーット正倉院の扉あき千年前の何かが動く
呰上(あざかみ)洋子
一席 約束の地へ駆け出す前による「たられば」と鳴るファミリーマート
やまぐちわたる

みつけた!キラリポイント
秀一郎 獣か母は
あむ 自分のことを振り回す

▪秀一郎あむの飛躍のカギ
「オノマトペを創作する」
金平糖をかむ音に作者自身が映り込む

□金平糖を踏むような会話の□□
ざらりおん金平糖を踏むような会話のざらりおん ざらり、おん
田丸まひる「ピース降る」

オノマトぺは心の中をじかに表現してくれる言葉

あれ程に待ちわびていた開花でもひとたび咲けば心ヒリヒリ
深尾あむ 添削(語順と「桜」を入れる)
ひとたび咲けば心ヒリヒリあれ程に待ちわびていた桜が咲いても

フワフワと東京にも雪が降る僕も無理矢理はしゃいでみる
内藤秀一郎 添削(字足らずを添削 
キラキラと東京に淡い雪が降る僕も無理矢理はしゃいでみるか

オノマトぺを入れ替えるだけで微妙に表現できる心理が変わってくる
オノマトペは音を表現しているようで心の動きや自分の感情を表現している

▪ことばのバトン
エグい花粉も聴こえない庭
東京農工大学 短歌会会長 ほきゅみ

ほこり立つ突風に散る梅の花
東京農工大学 短歌会 枯芝
さようなら君の幸せが、この街に、僕に、ないと言うのであれば、

2024年5月5日日曜日

俳句×SDGsの未来教室

亀鳴くや否定されない努力せり
利己的な言葉連発春かなし
中立を意識しつつも春の潮
風車(かざぐるま)心の中で問いかけん
良心にいつも従ひ暮れぬかる

■俳句×SDGsの未来教室
【プレバト夏井先生の出張授業1年★回転寿司の魚が】
夕桜学ラン捲り1on1   横尾渉

▪兵庫県神戸市滝川第二高等学校1年1組
テーマ 回転寿司
鉄紺の背びれよ王者たる鮪   みづちみわ
鼻奥に鉄の香ざらり本鮪   岸来夢
大鮪揚がる港の下北弁   竹田むべ
ミサイルのごとき鮪や競りの声   川越羽流
(下北弁 「大間のまぐろ」で有名な青森県下北半島の方言)

授業の流れ
① 鮪の六角形を作る
② 夏井先生の俳句トークで六角形が変化
③ SDGsの話で六角形がさらに変化

2014年太平洋黒鮪が絶滅危惧種に指定されていた
今後、回転寿司では魚がネタとして食べられなくなるかもしれない
アジア市場での需要が急増
未成魚の乱獲が続いた事で漁獲量が激減した

一皿目は鮪二皿目もまた   根ぼっけ
母に似て鯖の味噌煮の甘きこと   藍創千悠子
大きめの鰯のような鯖ばかり   イサク

鯖も乱獲が原因でピンチ
乱獲が原因で日本の鯖はノルウェーの鯖の半分の大きさになっている
ノルウェーでは科学的根拠に基づいた資源管理がなされている
国・業界にきちんとルールを作って欲しい

二つ目の原因が気候変動
地球温暖化で海水温が上昇すると魚類の
生態系が変わったり餌となるプランクトンが減少
大気中の二酸化炭素が増えて海に溶け出すことで
海が酸性化してしまうかもしれない 海洋酸性化
海の水質が酸性化することで貝類や甲殻類などの成長が妨げられる
牛のゲップに含まれるメタンガスはCO2は約25倍の温室効果がある
牛や豚などの家畜は太らせるために多くの餌を必要とする
牛肉1Kgを作るのにトウモロコシ11Kgが必要

太平洋鮪
2014年以降持続可能な漁業の取り組みが進み
2021年絶滅危惧のカテゴリーから1ランク緩和された

完全受注魚
注文を受けた魚だけを捕獲し注文以外の魚は海へ逃す漁法

乱獲・地球温暖化の問題は人々の生活 経済活動が原因で
自然にしわ寄せがいっている

▪北海道東川高校
テーマは洋服

授業の流れ
① 白シャツの六角形を作る
② 夏井先生の俳句トークで六角形が変化
③SDGsの話で六角形がさらに変化

白シャツの目にきりきりと痛むほど   佐藤香珠
にわか雨だらり白シャツ獣臭   正念亭若知古
「また買えばいいレベル」の白シャツだった   背番号7
受験会場フリースの白眩し   特待生575級

全世界の温室効果ガスの8%~10%を排出
洋服が地球温暖化の要因の一つ
ジーパン1本を作るのに一人の人間が7年で飲む水
世界の排水の20%がファッション産業
日本の洋服98%が海外製
海外で作るのは安くて大量に作れるから
衣料繊維産業は世界の温室効果ガスの8~10%を排出
洗濯でも環境に悪影響 マイクロプラスチック年間50万トン排出
マイクロプラスチックとは直径5mm以下のプラスチック
海に流出したマイクロプラスチックは堆積
海洋生物が摂取したり、それを人間が食べる恐れも
Laundry Wash Bag EARTH FRIENDLY SHOP
マイクロプラスチックの流出を防ぐフィルター付きの洗濯ネッ
作る 使う 捨てる日本の家庭から焼却・埋め立てられる服の量
1日あたり大型トラック120台分
日本では平均一人当たり1年間で洋服を18枚購入し15枚手放す
それをもう1年長く着るだけでゴミを削減できる
カポック ダウンに代わる未来の洋服として注目
ダウン1着に羽毛30羽分使う 食物は排出量が劇的に下がる
無印良品もカポックに注目 サステナビリティに配慮した材料選び

言葉の探求を1つずつやっていくことで
君たちは明日から違う世界を見る
そういう眼を持つ人間になっていくかもしれない

2024年5月4日土曜日

富岡鉄斎&田丸雅智杯結果発表&桐野夏生の世界

(テオ・ヤンセン)風を食べ歩くアートや春の浜
(ストランドビースト)春の風のっしのっしと歩き出す
春の月共感力のなき人と
情念の強き人をり春思かな
春の夜や理解しようと吾を抑え

■日曜美術館 老いるほどに輝く~最後の文人画家・富岡鉄斎
万巻の書を読み 万里の道を行く
没100年

私の画を見て下さるなら画賛から読んでもらいたい   富岡鉄斎

自娯(ご)の精神 自らが楽しむ精神 文人家の精神
詩・書・画一致が大前提
富岡鉄斎こそが日本の文人家の最高峰 過分ではない

心のままに生きてきて年齢なんか忘れてる
自由へ逃れブラブラと我が天性に任せてる
本を枕にのんびりと寝るのは至福の一時だ
長生きしたよ米寿まで仙人なんかうらやまず
河野元昭 戯訳

指頭画を使っている 日本絵図 
万巻の書を読み 万里の道を行くを文字通り実践

鉄斎 曰く
私は読書が好きで心に適するところがあると
殆ど寝食を忘れるほどでついにはそれを
絵に描いて娯楽としている
人格で絵を描くのじゃ 根本は学問にあるのじゃ
人格を磨かなけりゃ描いた絵は三文の値打ちもない

蘇東坡(そとうば)を鉄斎は一番心酔していた
二人共12月19日が誕生日 印を東坡同日生とし愛用していた
「願書万本涌万遍」万願の書を読み万里の道を行くをモットーにする
鉄斎は嬉しくなってこの絵を描きこの印を押したという

今年は富岡鉄斎の没後100年。
西洋画が流入し新たな潮流が巻き起こった明治大正時代、
孤高を貫いた“最後の文人画家”、鉄斎の姿が紹介されていました。

■夏井いつき俳句チャンネル
田丸雅智杯結果発表!【後編】
上位句発表
いつき賞
傘立のどれもどか雪浴びた傘   めろ
正人賞
枇杷の花棺に傘をさすかかり   ナノコタス
田丸雅智賞
第3位 日傘科のくせに日焼けの研修医   古賀
第2位 入学や傘にトミカの絆創膏   深町宏
第1位 春三日月待合所の床の染み   秋野しら露

■作家・桐野夏生の世界 ~ドラマ「燕は戻ってこない」の魅力~
生きづらさを抱える女性
悔しさ
桐野夏生の見つめる先―
「燕は戻ってこない」の着想 女性の貧困 代理出産
主人公リキの魅力 リキは怒っている
桐野小説の魅力
グロテスク エリートの顔を持つ女性はなぜ夜の町で殺されたのか
現実に起きた事件をモチーフとした犯罪小説
今を生きる女性の悩みや痛み
今まで考えたことのない問題に直面する人間
現実は何が起きるか分からない
規範や道徳を打ち破る 読者の予想を超える主人公たち
一線を超える人 一線を越えた主人公の「変化」
追い詰められた夫婦
悩みながらそこ(代理出産)に手を出すというか
自分の遺伝子を残したい
バレエダンサーという設定
悠子自身が関与しない子作り 苦悩する悠子
いちばん おう脳する人物

2024年5月3日金曜日

連休の混雑で一句&映画「サイダーのように湧き上がる」&「海胆(うに)」

愛されることに拘り星朧
憎まれることを恐れて春の星
石鹸玉(しゃぼんだま)目的もなくただ生きて
春の風時間つぶしの駐車場
今日もまた奉仕で終えん春意かな

■プレバト纏め 2024年5月2日
連休の混雑で一句

永世名人 村上健志 傑作50選
黄金週間の原宿四つ折りの紙幣
添削(合わせて21音の破調の句 的が絞り切れていない)
春休の原宿四つ折りの紙幣

立川志らくの昇格試験
色も無き渋滞にふと桜雨
添削(桜雨 春の季語 桜の花が咲く頃に降る雨
  2音足りない時の「ふと」 3音足りない時の「少し」
  「ふと」がなければ季語がもう少し際立つ
  季語が際立てば詩の言葉がさらに際立つ 語順を変える
   一瞬フロントガラスを桜雨が通り過ぎた
   背後にある色のない渋滞との対比を出すことで
   季語が主役としてより鮮やかになる)
桜雨走れりなき渋滞

1位 村田秀亮
停滞の柩車(きゅうしゃ)に妣(はは)と春深し
添削(「に」と「と」の助詞でうまく状況を伝えた
   時間と空間を季語が満たしていく)
渋滞柩(ひつぎ)の母ゐる深

2位 長野智子
静寂の官庁街や落椿
添削(視線の誘導が上手い 静寂と詠まず静寂を想像させる)
祝日の官庁街や落椿
連休の官庁街や落椿
日曜の官庁街や落椿

3位 呂布カルマ
二時間を惜しむくちびる桜色
添削(桜色では季語にならない 子を入れる
   「子ども」という人物「むくれる」という表情を入れれば 
   何を待ったか書かなくても読者は想像してくれる
   これが俳句のメカニズム)
二時間を惜しむくちびる桜
二時間を惜しみむくれる子と
二時間を待ってむくれる子と

4位 宮田俊哉
パレードかファンキャップ飛ばす春疾風
添削(「か」が訳わからなくしている) 
パレードみたい春風飛ばすファンキャップ

5位 関水渚
青嵐海の上での人違い
添削(青嵐とは青葉を揺らして吹きわたるやや強い風 
   本人にしかわからない句)
連休の水着とりどり人違い

次回のお題は「文房具」

■映画「サイダーのように言葉が湧き上がる」

上を向くものの多さよ夏来たる
初明けや老いこそ人生爆発
群青に垂直に立つ大瑠璃や
マネキンが浴衣をまとうモールかな
ショッピングモール夕焼けに溶けてゆく
夕暮れのフライングめく夏灯し
聞き辛い声の持ち主夏深し
十七回目の七月君と会う
向日葵や「可愛い」の意を辞書に聞く
青葉闇理由を知りたいだけなんだ
サイダーのように言葉が湧き上がる
さよならは言わぬものなりさくら舞う
1人では来なかっただろう草矢射る
やなざくらかくしたその葉ぼくはすき
雷鳴や伝えるためにこそ言葉
夕虹や君に言いたいことがある
接吻のかけらを君の手の中へ
全霊で叫ぶよ夏あての君に
山桜隠したその葉僕は好き
山桜可愛いその葉僕は好き
金魚鉢割れて流れるもののあり
青蔦の団地僕らは三○五
山桜可愛い花火僕も好き
山桜可愛い笑顔僕は好き
山桜Smileのこと僕は好き
君が好き

以上、映画の中の俳句を書きとりました。

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「海胆(うに)」

本日の季語は海胆。
「海胆」と聞いたら涎が止まらんと言う方も
いらっしゃるかもしれません
寿司ネタとかでも有名ですね
「海胆」は春の動物の季語になります
よくこうやって食べられる物が季語である場合
その旬であることが多いのですが「海胆」は
夏が旬だろうと思う方もいらっしゃるかもしれません
実は「海胆」は全国に分布しておりその土地によって
春先の物から夏頃の物まで非常に幅広いそうですね
かなり北方では春のうちから旬を迎えるようです
「海胆」の棘が刺さった時に私子供の頃泳いでいて
刺された時 母親であるいつきさんからオシッコを
かけておいたら棘が溶けるから安全だよと言われましたが
実はあれ ガセらしいです
「海胆」の棘が刺さってもおしっこをかけたり
しないように皆さんしましょうね

2024年5月2日木曜日

生き延びるための物語 小松原織香

経験を意味なくつなぐ蠅生る(はえうまる)
春深し緊張緩和繰り返し
春の夜や緩い視点で笑わされ
春日和知識の共有ありてこそ
朧月バーンアウトとなりにけり

■こころの時代 生き延びるための物語 哲学研究者・小松原織香
いつもより落ち着いた様子の私に、
医師は「なにかあったのではないか」と問いただした。
私は暴力について話すつもりはなかったので拒もうとしたが、
彼は「ちゃんと話さないと治らない」と言った。
私は「そういうものかと」と思い、性暴力の経験と、
彼と電話で話したことを正直に話した。
医師は途中で私の話をさえぎり、笑いながらこう言った。
「ああ、そんなことはどうでもよいですよ。よくあることだから」
そのときの医師の顔もまた、私の記憶に焼き付いている。
彼は続けて「早く忘れてしまいなさい」と言った。
当時の私が一番に考えたことは「話すべきではなかった」だった。
小松原織香「当事者は嘘をつく」

赦すことができないとしか思えないものを赦すことこそが<赦し>
壊れやすさ、私はそれをみずから要求しましょう。
赦しの壊れやすさは、赦しの経験の大事な要素ですから。
私は、もし赦しがあるならば、それは人知れず、保留された、
ありそうでもないはずのものであって、したがって壊れやすいものに
ちがいない、というところまで考えを押し進めようとしました。
被害者たちの脆弱さ、その脆弱さにに結びつけられる
傷つきやすさは言うまでもありません。
私は、このような壊れやすさを考えようとしている訳です。
言葉にのって ジャック・デリダ 著

「これは私の話だ」と思った。
赦さなければ、自分が壊れてしまいそうだった。
「すべて赦す」
彼は私の赦すという言葉に対して、「うん、わかった」と答え、
続けてこう言った。
「ところで、お前さあ」私の真剣な<赦し>に対し、
彼はやすやすと話題を変え、久し振りに会った懐かしい友人に
語りかけるように話を続けた。
私の<赦し>は形だけのもので、あまりうまくいかなかった。
私の経験から考えると、自助グループの活動は、
「自分の経験を語ることで、自己を形作る」というよりは、
「他者の語りを、自己の経験に重ねていく」ことに近い。
「私はそれを知っている」その強烈な感覚が自分を揺さぶり、
「あのひとは仲間だ」という想いが体の奥から突き上げてくる。
私は自助グループでは積極的に共振し、同一化していく中で、
孤独だった自己から解放されていった。
トラウマに苦しんでいる渦中の私が、喉から手が出るほど
欲しかったのがこのような「回復の物語」である。
小松原織香「当事者は嘘をつく」

心的外傷と回復 ジュディス・L・ハーマン 著

当事者は加害者を赦す必要はなく、トラウマが癒されていくと、
「加害者がまったく興味のない存在に
なってしまう(略)」と書いてあったから
しかしながら、回復するだけがサバイバーの人生だろうか。
私(たち)は、「心の傷が癒されるべき存在」
として、矮小化されていないだろうか。
赦すに値しない加害者の前で、<赦し>を与えるしかなかった、あの日。
「あれはなんだったのか」一瞬垣間見た<赦し>の影を追って、
私は研究者になる道を進んでいく。
小松原織香「当事者は嘘をつく」

最大の仮想敵 被害者と加害者の対話

知人が「修復的正義」の視点から水俣について考えている
浜元さんは白装束に身を包み、両手に両親の位牌を持ち、
それを社長の胸に突きつけて、「私の心がわかるか!」と怒鳴っていた。
私はその場面を見ながら両目から涙が噴き出してきて、
まともに画面を見ることもできなかった。
それは、被害の内容は違えども、加害者と対話を求め、
加害者に自らの痛みをわからせたいという被害者の声だったからだろう。
小松原織香「当事者は嘘をつく」

この本が公刊されることは、新しい語りの型を、
次に生き延びる人のために提供することでもある。
それは、もっと自由で流動的な誰かの自己を、
狭い型にはめてしまうことかもしれない。
でも、その窮屈な型を破って、
新しい型を生み出すサバイバーがきっと出てくる。
私の語りの型は、誰かの生き延びるための道具となり、
破壊され、新しい型の創造の糧になる日を待っている。
小松原織香「当事者は嘘をつく」

2024年5月1日水曜日

あの本、読みました?~平野啓一郎&ミリオンセラーの作り方

山笑う何かをしない自由とは
役割と必然性を持ちて春
石鹸玉(しゃぼんだま)現在だけに集中す
現在を完全燃焼晩春
(福田)恆在(つねあり)に見る強き信念穀雨

■あの本、読みました?~平野啓一郎&ミリオンセラーの作り方
鈴木保奈美女史 角谷焼子さん

▪編集者だけが知っている内部事情 ミリオンセラーの作り方
石原正康氏 土江英明氏 三木一馬氏

ビッグファットキャットの世界一簡単な英語の本
13歳のハローワーク 村上龍

▪芥川賞作家で選考委員も務める平野啓一郎が語る&受賞の裏側
1998年京都大学法学部在学中に「日蝕」で第120回芥川賞を受賞

東京都同情塔 九段理江著 新潮社 芥川賞受賞
母子家庭の母親=シングルマザー
配偶者=パートナー
第三の性=ノンバイナリー
外国人労働者=フォーリンワーカーズ
障害者=ディファレントリー・エイブルド
(中略)
…ずさんなプレハブ小屋みたいな その文字たちを
冷やしたミネラルウォーターに浮かべて 口の中で転がしてみる

生成AIと小説の関係

2030年の東京 人間のように会話ができる
生成AIの存在登場人物のように喋る

九段理江「全体の5%くらいは生成AIの文章をそのまま使っている」

印象に残っている芥川賞作品は❓
破局 遠野遥 河出書房新社
ラグビー、筋トレ、恋とセックス。
ふたりの女を行き来するいびつなキャンパスライフを描いた問題作

ハンチバック 市川沙央著 文藝春秋
重度障害者の主人公が、グループホームの一室から言葉を
送り出す様を、ユーモアを交えながらも鋭い言葉で描く

日蝕・一月物語 平野啓一郎 新潮社
15世紀末 ペストによって 荒廃した南仏の小さな村を舞台に
旅の途上の若き学僧の聖性体験を漢語を多用した華麗で清新な文体で描く
「三島由紀夫の再来」と文壇に衝撃を与えたデビュー作

大学生で芥川賞を受賞
受賞後は取材が楽になった
親が喜んでくれた

マチネの終わりに 平野啓一郎 著 文春文庫
たった三度出会った人が誰よりも深く愛した人だった
天才ギタリスト・薪野聡史
国際ジャーナリスト・小峰洋子
四十代という「人生の暗い森」を前に
出会った二人の切なすぎる恋の行方を軸に
芸術と生活 父と娘 グローバリズム
生と死など 現代的テーマが重層的に描かれる

金閣寺 三島由紀夫 新潮文庫
吃音の悩み、身も心の奪われた金閣の美しさ-
昭和25年の金閣寺焼失事件を題材として、放火犯である
若い学僧の破滅に至る過程を抉(えぐ)る問題作

ポケットをさぐると、小刀と手巾(はんかち)に包んだ
カルモチンの瓶とが出て来た。それを谷底めがけて投げ捨てた。
別のポケットの煙草が手に触れた。私は煙草を喫(の)んだ。
一ト(ひと)仕事終えて一服している人が良くそう思うように、
生きようと私は思った。

平野啓一郎氏も「金閣寺」を14才の時に読んで作家になった。

ある男 平野啓一郎 著 文春文庫

この物語の主人公は、私がここしばらく、親しみを込めて
「城戸さん」と呼んできた人物である。
苗字に「さん」をつけただけなので、親しみも何も、
一般的な呼び方だが、私の引っかかりは、
すぐに理解してもらえると思う。

認知科学や文化人類学を参考にする
夢日記から情景描写を考えた

本心 平野啓一郎 著 文春文庫
「母を作って欲しいんです」
AIで、急逝した最愛の母を蘇らせた朔也
孤独で純粋な少年は幸福の最中で〈自由死〉を
願った母の「本心」を探ろうとAIの〈母〉との対話を重ね
やがて思いがけない事実に直面する

誰もが、なにがしかの欠落を、それと
「実質的に同じ」もので埋め合わせながら生きている。
その時にどうして、それはニセモノなんだ、などと
傲慢にも言うべきだろうか。

次回作の構想は❓
2024年秋に短編集を出す予定
最後の一編を書いている途中