2025年1月2日木曜日

100分de名著 有吉佐和子スペシャル(4)

広葉樹針葉樹あり山眠る
凛とした竹林闊歩冬の風
朝倉(文夫氏)は大の猫好き冬陽射し
冬の夜自由気ままな猫が好き
落葉樹照らす灯りや冬の風

■100分de名著 有吉佐和子スペシャル(4) 人生の皮肉を斜めから見つめる
ソコロワ山下聖美 原田ひ香 伊集院光 阿部みちこ

「青い壷」昭和51年から雑誌に連載された連作短編集
壷が映し出す13の人間模様 壷が巡り物語が結びつく
幸福が描かれている心に響く物語

第1話 牧田省造(40代半ば) 父の跡を継いだ陶芸家
京都の自宅で地道に創作活動(デパートから受注)
焼き物に「古色」をつける仕事も請け負う
(新しい器にヴィンテージ加工を施し年代物のような外見にする
ちょっとグレーかもしれない仕事)
久々に丹精を込めて制作した壷の1つが見事な出来栄えだった
そこから物語が動き出す

そっと襖をあけて、治子が背後から入ってきた。
「お父ちゃん、その壷やったら、花挿さんかて良えんと違(ちゃ)う 
落ち着いているし、気品があるやないの」「お前も生意気言うやないか」
「せやし、良えもんは誰が見たかて良えんやと思うし、うちは」
子供用の駄菓子を盆にのせて、明るい日射しを浴びた縁側で、
夫婦は緑茶を啜(すす)った。
「ええ茶ァやな」「その筈やし、玉露やもん」
「おいおい、玉露をふだんに使うてるんか」
「吝(けち)なこと言いな、お父ちゃん。あんな上等の壷が上がったときぐらい、
贅沢なお茶飲みましょうな」「そらそうやな」
道具屋 安原 省造
「これであんた焼酎につけて 床下へ入れとけば、
半年で江戸初期というて通りまんねんで」
「どこから見ても唐物やなあ。日本人のものには見えんがな」
「この壷な、牧田さん、古色つけといてんか」
安原の持ってきた茶碗を誰が作ったとも思い悩まず、
フッ化水素酸で洗っていた罰かと思う。
どの茶碗でも、一つ一つ手造りで高台(こうだい)がこしらえてあった。
どの茶碗にも作者がいたのだ。
「デパートは古色つけなせんで、お父ちゃん。
東京の美術コーナーやって、お父ちゃん。
デパートのケースに入ったとこ見物に行きたいわ。
今日はきっと良えことあると思うてたんよ、うち」
治子の声は弾みながら向うへ行ってしまった。

壷の旅立ちと「普通の幸せ」
省造の妻・治子の機転によって古色付けを免れて長い旅へと出立(いでたち)

累計部数50万部以上
原田さんの推薦文が載った帯がついた2022年以降に18万部以上が売れた
2024年11月時点

原田ひ香「財布は踊る」1つの財布が様々な人間の手に渡る物語
「青い壷」の時代と戦争
私たちが生まれた時 大人は20~30年前に戦争を体験
その時代の大人たちが何を考えていたか見えるのがこの作品

話数 主要人物 
① 牧田修三 葵壷をつくった陶芸家
② 山田千枝 定年退職したサラリーマン寅蔵の妻
③ 原芳江 お見合いの仲人をする副社長の妻
④ 芳江と雅子 遺産相続について話し合う母と娘
⑤ 千代子とキヨ 東京で働くキャリアウーマンと目に障害のある母
⑥ 梶谷洋子 夫と小さなバーを営む初老の「ママ」
⑦ 石田春恵 戦時中の思い出を語る外交官の妻だった老女
⑧ 石田厚子 夫とレストランでディナーを楽しむ女性
⑨ 弓香 女学校の同窓会に参加する70代女性
⑩ 悠子 ミッションスクールで給食栄養士として働く20代女性
⑪ 悠子とシスター・マグダレナ 悠子を小学校のころから知るスペイン人修道女
⑫ 森シメ 還暦を過ぎた病院の掃除婦
⑬ ?

良い大喜利の題
⑤千代子は東京に住むキャリアウーマン
久しぶりに実家に戻ると母のキヨが緑内障のために目が見えなくなっていた
「じゃあ私が面倒を見る」という
「いい匂いだねぇ。その匂いを嗅ぐと、東京の朝だという気がするよ。」
千代子は土曜日の稽古事はやめて、会社が退(ひ)けると買物をしてさっさと家に帰る。
前には面倒くさくてならなかった食事の支度も、この頃は苦にならず、
野菜の煮つけなどは張切って味をつけ、
キヨがおいしいと褒めてくれるのを待ってみたりする。
耳にはラジオの音楽とニュース、舌には季節の味をと千代子は
キヨを慰めながら、ある日、ふと気がついて花を買って活けたら、
キヨは大層喜んで花の名まで言い当てた。
医者は千代子の顔を見て、明るく言った。
「左は緑内障ですが、右は白内障です。
他に御持病がないようですから手術しましょう」
「千代子、あれは花活けだね。テレビの横に、いつも置いてあった。
匂いのする花を活けてくれたのは分っていたけど、あれは、
まるで青空のような色に見えるけどねえ」
「青磁の壷なんですよ」「綺麗な色だねえ。
そう、青磁だったの。つるつるしているのは分っていたんだけど」

女ふたり暮らしの幸せ

65歳以上の東京居住者は保険で手術費も入院費も
タダになると伝えられたキヨが怒り出す
千代子は例の青い壷を(医者に)届けることを提案
女の人が一人で家を買う時代
時代が進んできたことへの率直な賛歌

⑨弓香(70代) 裕福な「大奥さま」(長男は会社社長)
半世紀前に女学校を卒業
同窓会は三泊四日の京都旅行

その旅のために、弓香は半年も前から準備していた。
三泊四日の旅に、どうしてティッシュペーパーが一箱も必要なのか。
老眼鏡の予備を二つも入れるのか。
総入れ歯なのに草加煎餅を一鑵(かん)持っていくのは何故か。
嫁の明子には分からないことだらけだが、こういう場合は
一切口を挟まない方が得策だと心得て見ないふりをしている。
小遣いは現金30万円 
膳の上の料理は、およそ御馳走と呼べるようなものはでなかった。
茄子を煮たのが半切れ、その横に赤ン坊の拳より小さいがんもどきが一つ。
これが楽しみにしていた京料理だなんて。
三十万円も持ってきているのに
「奥さん。さすがに目ェが高いなあ。上等でっせ、これは。唐物ですさかいな」
「お高いでしょ」
「三千円で、どないです」
古新聞でくるまれた壷の箱を抱いて歩きながら、弓香はしばらく黙って歩いた。
何十軒もの店を過ぎてから、やっと心が落ち着いて、律子の耳許に囁いた。
「私、この旅行に三十万円用意してきたのよ、律ちゃん」
「私もなのよ、弓香ちゃん」
二人は安い買い物を抱えて、元気のない笑い声を立てた。
入れ歯洗浄剤やコルセットの話
「青い壷」は月刊誌「文藝春秋」で連載

⑫森シメ 大病院の掃除婦
息子夫婦と2人の幼い孫と同居
患者から貰った生花で花びら入りの枕を作るのが趣味(最も好きな花はバラ)

眠れない夜にシメのことを考えるとなぜかよく眠れる ソコロワ山下聖美

「婆ちゃんがスパゲッティをおかずにしている」
と言って、孫たちが笑い出した。
「なに、昔はかけそばをおかずにして飯食ったもんだぞ。あれは、うめえから」
シメは機嫌よく「うめえな、このマカロニは」
と言って、また孫たちに笑われた。
孫を先に出し、自分はゆっくり湯に浸かってから、シメは自分の部屋に戻ると、
悠々と、布団を敷き、先刻作った枕をのせ、そこに頭を当てて寝た。
耳の下で、花びらの割れる薄い音がして、
甘い花の香りが、わっとシメの顔におそいかかった。
「極楽だな」シメは呟き、間もなく健康な寝息を立てていた。
シメは寝入りばなに鼾(いびき)をかく。

幸せの価値を問い直す

ウェルビーイング(well-being)
身体的・精神的・社会的に良好な状態
いかに生きるか❓幸せとは何か❓探していかなくてはならない時代に
この作品はヒントを与えてくれている

⑬ はさらっとすっきりするような最終章となっている

青い壷は有吉さん自身 何の先入観もなく色々な人物を眺める
青い壷は有吉さんの象徴ではなかったのだろうか❓

1973年放送ラジオ「文学と私」より 有吉佐和子女史の声
一つ書き終えるごとに もっといいものを書きたいっていう
気持ちがいつも強いですね 私はやっぱり死ぬまでに
何とか一つぐらいはいいものを書きたいっていう気持ちを
一生捨てたくないと思っています

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