冬の靄悪き都合は予想外
完璧な雲を作らん冬の空
轟の滝掛け声かけて冬山路
冬の空神輿担ぎて滝つぼへ
白装束太鼓響かせ滝に入る(無季句)
■NHK短歌 テーマ「動詞の工夫」
選者 吉川宏志 ゲスト ピーター・マクミラン 司会 尾崎世界観
▪動詞を工夫することによって歌をさらに活き活きとさせられる
実感的 表現力アップ「切る」
夏の暮ガスの青火のかたわらに豆腐を切りて豆腐を増やす
吉川宏志
「切る」を肯定的に使っているのが新鮮
▪入選九首 題「切る」
二席 帝切の創口(そうこう)に汗疹できぬよう優しく洗う夏が過ぎゆく
絹真絹子(帝切とは帝王切開の意 時間の流れを感じる)
ステッチを終えた静かな母の手がほつりと切った鳶(とび)色の糸
水沢わさび
木箱には箸箱、眼鏡、千人針ニ十歳で叔父の時は途切れて
鈴木綾子
ざんばらで初めて手刀(てがたな)切る二十歳土俵の土を顔に残して
渡部晃大(臨場感が出ている)
切り花を買い求めてく人たちのそれぞれが待つ盆の迎え火
春ひより
ニワトリも風切羽(かざきりばね)持っていて手紙を開ける頻度で羽ばたく
楢原もか
三席 御社とか慣れないことを書いた手で証明写真を真四角に切る
中山あゆみ(リアリティーがあって良い表現)
一席 私 もう切れぬところまで切る足の爪手で確かめてトゥシューズ履く
玉響雷子
チョコを切り刻んで鍋に重ねたらそこがじわりと消える日曜
金城ひろ子
和歌は「型」を詠む
現代短歌は「自分の事」を詠む
型がありつつ自分の個性も入ってくる
▪入選あと一歩
切ることでようやっと生きてきた子の腕の横線白く浮き立つ
永岡桐子(添削⇩)
切ることでようやっと子は生きてきた腕の横線白く浮き立つ
広告会社(のつくるコピー)はわりと七五調を使っている
日本人の魂の音
▪表現の最前線
晩夏光(ばんかこう)おとろへし夕酢は立てり一本の壜(びん)の中にて
葛原妙子
寺山修司の「立つ」を使った素晴らしい詩がある
「一本の木にも流れている血がある
そこでは血は立ったまま眠っている」
ピーター・J・マクミラン 表現の最前線
心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどわせる白菊の花
凡河内躬恒(おおしこうしのみつね)
To pluck a stem (茎を摘み取る)
I shall have to guess
For I cannot tell apart
White chrysanthemums
from the frost.
「初霜」と「白菊」は
誰でも区別できるんじゃないかという批判がある
見立て 対象を他のものになぞらえて表現すること
日本的な美意識の大事な軸
はじめから沖縄は沖縄のものなるを順(したが)わせ従わせ殉(したが)わせ来ぬ
吉川宏志
この動詞は使い方は英語にはない
このまま英訳すると元々の歌の魂が消える
大海の磯もとどろによする波われて砕けて裂けて散るかも
源実朝
日本の和歌の中では異例
当時の美意識だとはかない感じが多い
別の動詞を使う工夫が大事(舞う・輝く)
予測変換みたいに出てくる言葉に
どこかであらがわないと「作品」にならない
▪ことばのバトン
仰いだ空に光彩の舞う
富山県立伏木高等学校 如意が丘 高田響楓
⇩
黒板に「・」(てん)だけ残る昼休み
岐阜県立飛騨神岡高等学校 文芸部
級友のマスク外した口元に笑窪(えくぼ)発見高三の春
中島彩音
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