2023年11月26日日曜日

古今和歌集(3) 100分de名著

万歳とこぼれる笑顔ヤッコソウ
しない人できない人の冬の朝
剣山二十日遅れの初冠雪
冬空へ植木職人鋏の音
冬ぬくし舌禍転じて福となす

■100分de名著 古今和歌集(3) 歌は世につれ、世は歌につれ
国文学者 国文学研究資料館館長 渡部泰明

しかりとてそむかれなくに事しあれば
まづ嘆かれぬあな憂世の中

和歌はボヤキ愚痴の文学
雑歌(ぞうのうた)
喜怒哀楽の全てが雑歌にはある
雑と言うより萬

五節の舞姫を見てよめる   良峯宗貞(よしみねのむねさだ)
僧正遍照(そうじょうへんじょう)の俗名
良峯宗貞(後の僧正遍照)仁明天皇の腹心の部下として蔵人頭(くろうどのとう)を務めた宮廷人
天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ乙女の姿しばしとどめむ
(五節の舞姫とは大嘗会だいじょうえ・新嘗会 宮中の伝統行事)

よみ人しらず
わが心なぐさめかめつ更級(さらしな)や姨(をば)捨山に照る月を見て
(棄老きろう伝説に基づいた歌)
冠着山(かむりきやま)
現在の長野県千曲市と東筑紫群筑豊村にまたがる山
美しいものが蓋をしたい心の奥底を開けてしまう

尼敬信(きょうしん)
大空を照りゆく月し清ければ雲かくせども光消なくに
皇女彗子(あきらけいこ)が母の不祥事に連座し斎院を解任されかけるが
辞めずに済んだことを受けて尼敬信が詠んだ
和歌で政治を抗う
社会的関係を超越する和歌の機能が発揮された歌
大空は宮廷社会 月は彗子・母 雲は罪に問われたこと

小野篁(たかむら)伝説多き歌人
しかりとてとてそむかれなくに事しあればまず嘆かれぬあな憂世の中
嘆かれぬ とは嘆息する 溜め息をつく こと
昼は朝廷に出仕し夜は閻魔庁につとめていたという伝承がある
遣唐副使に任じられるがトラブルを起こし乗船を拒否
その後漢詩で遣唐使を批判したため流罪となる
この世の憂いを一身に集めたような歌
しかりとて とは だからといって

よみ人しらず
山里はもののわびしきことこそあれ世の憂きよりは住みよかりけり

素性法師
いづこにか世をばいとはむ心こそ野にも山にもまどふべらなれ

和歌は愚痴・ぼやきの文学
和歌の一大テーマが愚痴や悩み事になる
述懐(じゅっかい)
愚痴は理想と対になっている
マイナス思考が歌心を育む
祈る 和歌は祈りの言葉

賀歌(がのうた)
よみ人しらず
わが君は千代に八千代にさざれ石の巖(いはほ)となりて苔のむすまで
さざれ石とは小石の意

哀傷歌(死者を悼む歌)
上野岑雄(かみつけのみねお)
深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染めに咲け
擬人法で表す生死のドラマ
人の死さえも新たな表現を生む大きな原動力となる

旅先で郷愁を詠む
唐土(もろこし)にて月を見てよみける 安倍仲麿(あべのなかまろ)
天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山にいでし月かも
安倍仲麿 奈良時代の遣唐留学生 717年入唐し玄宗皇帝に仕える
左注 歌の左に書かれた伝承的な情報
帰国に際し唐の浜で詠んだ歌だが船が難破し生涯日本に戻れなかった
宇宙感覚の距離感

本当は楽しい古今和歌集
物名(もののな)
「隠し題」とも呼ばれる読み方 与えられた題を歌の中に隠し詠む

をがたまの木 紀友則
みよしのの吉野の滝に浮かびいづる泡をかたまのきゆと見つらむ

よみ人しらず
枕よりあとより恋のせめくればせむ方なみぞ床中にをる
あととは足許のこと
優雅ならざる身体を詠む
あえてルールから外れた詠み方をしている
巻19「雑体」には俳諧歌(はいかいのうた)が58首収められている
俳とはそしる 諧とはととのっている ボケと突っ込み
その場を盛り上げるニュアンスがあるのでは?
俳諧歌と言う括りを設けて優雅ならざる歌も意図的に取り組んだ
俗と雅の境界を詠む 古今和歌集の懐の深いところ 柔軟なところ

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