物書きのら抜き言葉や秋湿り
秋黴雨品なき人のファルセット
秋の暮目指しているのはそこじゃない
悲哀ひたりて笑いはじけん夜寒
怒り燃やして赦し溶かさん秋思
■NHK短歌 題「車窓」
選者 吉川宏志 ゲスト 小川哲 司会 尾崎世界観
年間テーマ「実感的 表現力アップ」
今月のテーマ「歌わなくても伝わるもの―省略―」
トランプの切らるる迅(はや)さ鉄橋のすきますきまに冬の海輝(て)る
吉川宏志
▪入選九首 テーマ「車窓」
U形に砕石山(さいせきやま)は掘られゆく通学三年車窓に深く
大野太加し(たかし)
電車から我の勤めし職場見ゆあの窓を開け閉めした日々よ
白浜尚子
三席 右側に三川(さんせん)合流地点見え土産の袋を下ろし始める
小倉るい
一席 きみ以外の世界が窓に溶けていた夕焼け迫るゴンドラの中
仲原佳
隙間なく人を詰め込み走り去る広い車窓に雲ひとつ浮く
糸賀きな
窓の外見慣れた駅が流れてくかつて最寄りと呼んでいた駅が
佐藤橙(だいだい)
車窓より不意に見えたる先頭車大きく曲がり山国(やまぐに)に入る
小坪広
二席 私 またすこし記憶の薄れたる父と車窓より見る帰りゆく雁(かり)
鈴木正芳
百メートル埋め立てられて百メートル夕日が迫る臨海道路
平良凡(ぼん)
▪入選あと一歩
ドア窓に色紙のごとき手形あり朝の苦闘の刻印として
七玻ゑむ(ななはえむ)
添削
ドア窓に色紙のごとき手形あり朝(あした)の群れの刻印として
▪表現の最前線
衆視のなかはばかりもなく嗚咽(おえつ)して君の妻が不幸をみせびらかせり
中城(なかじょう)ふみ子
(葬式の場面が見えてくる。毒だけではなく憐憫(れんびん)がある。
こうあるべきという姿を冷ややかに見ている。)
▪小川哲の表現の最前線
君のクイズ 小川哲著
「問題―」
僕は呼吸を整える。
理不尽な正解をされたあと、
次の問題に平常心で挑めるかどうかが
重要だと経験的に知っているからだ。
頭に血がのぼって、雑な回答を繰り返して
自滅した事なら何度もある。
同じことはもうしない。
「現在は淡路島の保存―」
パァンという音がする。
本庄絆(ほんじょうきずな)のランプが光っている。
途中で自分の対戦相手が回答ボタンを押してしまった
問題は、
現在は淡路島の「保存館」で天然記念物として展示されている
阪神・淡路大震災で出現した活断層を何というでしょう?
答えは、野島断層
人生に関わってくる題材は省力されてもわかる
出題する作り手と回答する受け手の間には共犯関係がある
短歌でも作り手と受け手の関係
想い・景色を伝えたい
クイズの作り手と受け手の関係(作問者と回答者)
問題を解いて欲しい
情報量の少ない表現が伝わった時
より深い感情が喚起される
読めるわけがないのに読めてしまう時
感動がある
歌は言葉としては多分伝わってないけれど
伝わったことにはなる
地図と拳 小川哲著
高木の眠りを妨げたのは、慌ただしい靴音だった。
気がつくと、高木は枕元の小銃を手にとって
部屋の中央に立っていた。
しばらくの間、
自分がどこにいるのか思い出せずにいた。
(日露戦争の戦場を、高木という人物像を
端的に短い言葉で省略して伝えたかった。
この場面では高木が自意識のないうちに
着替えも済ませて銃も持って部屋の中央に
立っているというシーンを描きたかった。
すぐに臨戦態勢に入らなきゃいけないくらい
苛酷な状況を伝えたかった。)
歴史を描くことは省略
▪ことばのバトン
朝目が覚めてもそこにいるサボ
盛岡第一高校 野場希海
⇩
ぷるぷるぷるつれない君の河鹿鳴く
尚学館高等部 花岡杏吏
(月曜日恋も収集して欲しいとうも前から燃えてるけれど
花岡杏吏)
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