冬の夜心を込めた十五分(ショートムービー)
冬銀河日々死を描き生き行かん
落葉焚(だき)色とりどりに爆ぜし音
駐車場陽射し溢れた冬の朝
水たまりまたぎて飛ばん冬の雲
■100分de名著 古今和歌集(4)
女の歌は「強くない」のか?
あわれてふ言(こと)こそうたて世の中をおもひはなれぬほだしなりけれ
小野小町
国文学者 渡部泰明
紀貫之が記した仮名序の中に小野小町についての批評がある
「強くない」という言葉が出てくるので異論を呈したい
紀貫之による小野小町批評
あはれなるやうにて、
つよからず。
いはば、よき女の
なやめるところあるに似たり。
強からぬは、
女の歌なればなるべし
この場合の「強くない」は心情表現に重点を置き過ぎて
がっちりとした構成をとっていない ひと括りにしている
弱々しようで実は強い歌もある
久方の中に生(お)ひたる里なれば光をのみぞたのむべらなる
伊勢(宇多天皇の中宮である温子の女房)
久方は月にかかる枕詞
女ともだちと物がたりして別れてのちにつかはしける
あかざりし袖の中にや入りけむわが魂のなき心地する
陸奥(みものく)
女同士の強い絆
官能的イメージもある
法華経を踏まえた言葉でもある
法華経の説法「衣の裏の珠の譬(たと)え」
悟りに導く仏と親友の思いやりを重ねた説法
宝珠(玉)と衣(袖)がキーワード
ゲスト 髙樹のぶ子 「小説 小野小町 百夜」
百夜通い
小野小町に恋した深草少将が小町のもとへ
100日通い続けたが望み叶わず失命したという伝説
小町のイメージが悪くなっちゃった
小町の晩年にまつわる伝説
老いて容色が衰え生活に困り巷をさまようなど
不遇なものが多い
これだけの歌を作った人がひどい生涯を送っているはずはない
という想いを記しました。と髙樹のぶ子女史。
和歌を詠み込むことで生まれる世界を大事にされている 渡部泰明先生
確実に小野小町が詠んだとされる和歌は「古今和歌集」に収められた18首。
(「後撰和歌集」の4首も本人作とされることも)
ただひたすら、
皆が哀れにございます。
哀れに変わる思いは、
小町に見つかりませぬ。
空が白む中に、筆をとりました。
髙樹のぶ子著「小説小野小町 百夜」より
あはれてふ言こそうたて世の中を
おもひはなれぬほだしなりけれ
言の葉にすれば、哀れという
ただのひと言でございますのに
このひと言ゆえ、もの思いのおい
この世を捨てることもならず、
牛馬をつなぎ留めるほだしのごとく
人をつなぎ留め、解き放つことも
許さぬのでございます。
哀れとはなんと深き強き
言の葉でありましょう。
小町が発見した「あはれ」の中に
許しという思いがここに入ってくる
根本的に強い人間でないとできない
人間の愚かな姿を哀れむ力 髙樹のぶ子
物事に感動・共感すると自分の殻が壊れる
自分を壊すことで人と繋がることができる 渡部泰明先生
あはれてふ言こそうたて世の中をおもひはなれぬほだしなりけれ
文屋康秀から送られた文への返歌
わびぬれば身をうき草の根を絶えてさそふ水あらばいなむとぞ思ふ
(三河に赴任することになった文屋康秀の同行を誘う文に対する小町の返歌)
戯れ・演技のやりとりができている
表現者として自分の思いから離れて作品を作る力が小町にあった
虚実皮膜
事実と虚構の微妙な境界に芸術の真実がある
という近松門左衛門が唱えた芸術論
「あわい」を表現する。相反するものが境界を超えて同居する。
藤原高子(二条后)清和天皇の后(きさき) 陽成天皇の母
二条后の春のはじめの御歌
雪の内に春はきにけり鶯のこほれる涙今やとくらむ
(初々しいうちは初々しさを表現できない 渡部泰明)
業平朝臣(在原業平ありわら)
ちはやぶる神代(かみよ)もきかず竜田河韓紅(からくれなゐ)に水くくるとは
(括り染めとは絞り染め)
別れを演出する女たち
常陸(ひたち)へまかりける時に藤原のきみとしによみてつかはしける 寵うつく(ちょう)
朝なけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり
物名(もののな)
「隠し題」とも呼ばれる読み方
与えられた題を歌の中に隠し詠む
源実(みなもとのさね)が筑紫(つくし)へ湯浴(ゆあ)みむとてまかりけるに、
山崎にて別れ惜しみける所にてよめる 白女
命だに心にかなふ物ならばなにか別れのかなしからまし
白女(しろね)は大阪・江口の遊女
遊女とは芸能人で芸達者な女
永遠の別れのように送り出し「お達者で」という気持ちを伝える
女の中に別れへの覚悟はできている
女の強さは諦めの強さ 髙樹のぶ子
「強からぬ女の歌」という言い方は勇み足
運命を甘受しながら心を育てていく強さがある
寺山修司(1950年代に前衛短歌の歌人として活躍)曰く
「定型という枷(かせ)があるから言葉の自由を得た」
短歌は改変しようがない。そのまま残っていく。
物語は時の為政者によって作り変えられるが可能。歌は強い。 髙樹のぶ子
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