2023年5月11日木曜日

言葉にできない、そんな夜。

荷風忌や交錯し合う死生観
松蝉や希望に満ちた夜明け前
夏の夕元気に声をうら返し
工夫して心くだかん初夏の宴
風薫る停止は退歩歩くのみ

■言葉にできない、そんな夜。
ゲスト 小野花梨 桐山照史 吉澤嘉代子 永井紗耶子
司会 小沢一敬

▪テーマ 感動した!だけでは表し切れない気持ち
ナサリエルも、他の審査員も
いや、ホールのすべての者が
ブルドーザーのように押し寄せる
音の波に圧倒され、飲み込まれ、
引きずり回されるがままになっていた。
根こそぎ持っていかれる。
遭難するぞ。
ナサニエルは頭の中でそう叫んだ。
が、もう曲は終わっていた。
恩田陸「蜜蜂と遠雷」

ちいさな棘は抜けぬまま肉にめりこみ、
今も胸の奥に刺さったままです。
きっとどこまでも深く深く、
いつか私の一部となるでしょう。
雪舟えま 歌集「たんぽるぽる」の中で
吉澤嘉代子の書いた解説文

それにしても金閣の美しさは
絶える時がなかった!
その美はつねにどこかしらで
鳴り響いていた。
耳鳴りの痼疾(こしつ)を持った人のように、
いたるところで私は
金閣の美が鳴りひびくのを聴き、
それに馴れた。
三島由紀夫「金閣寺」
(痼疾とは長く治らない病気)

目の前に立った時、
しんとして音が、時が止まった。
怖いくらいの真っ白い静けさの中に
取り残された。
私だけが、揺れて動いて息をしている。
同化するように息を繰り返すうちに、
それでも暴れる私の心に気付く。
法隆寺の百済観音像を見た時の感動 永井紗耶子
感動=心の在りかを探す作業
感動を表す昔の言葉 いとおかし(深く感じ入る)≒エモい

▪テーマ ここまで来てるけど思い出せないとき
頭の中が途端に宇宙くらいに大きくなって
その宇宙から小石を見つけるくらい途方も無い
小野花梨

洗濯機よこのくつした
桐山照史

記憶の淵に散らばるカード
爪を立てても息を吹きかけても
めくれない神経衰弱
吉澤嘉代子

記憶のかくれんぼ
永井紗耶子

記憶の小骨
小沢一敬

▪テーマ 腹をくくって立ち向かうときの気持ち
あるいは僕は負けるかもしれない。
僕は失われてしまうかも知れない。
どこにもたどり着けない
かもしれない。
どれだけ死力を尽くしたところで、
既にすべては
取り返しがつかないまでに
損なわれてしまったあと
かもしれない。
(中略)
「かまわない」と僕は小さな、
きっぱりとした声で
そこにいる誰かに向かって言った。
「これだけは言える。
少なくとも僕には
待つべきものがあり、
探し求めるべきものがある」
村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」

私は今度こそは
全く独りで歩かねばならぬと
決心の臍(ほぞ)を堅めた。
有島武郎「生まれ出づる悩み」

「ピアノで食べていこうなんて思ってない」
和音は言った。
「ピアノを食べていくんだよ」
部屋にいる全員が息を飲んで和音を見た。
和音の、静かに微笑んでいるような顔。
でも、黒い瞳が輝いていた。
宮下奈都「羊と鋼の森」

今回の纏めの言葉は「ええじゃないか」でした。

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