2023年4月13日木曜日

俵万智女史の短歌 ①

死後十二年崋山を描いた椿山(ちんざん)(無季句)
ブレイクの蚤の幽霊春の怪
テリビリタ!ミケランジェロの仕事量(無季句)
(ミケランジェロ)養花天疲れ現る天井画
春の野や猪の群れ猛進す

■俵万智女史の短歌

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

「頃あいがいいね」とぼくが言ったから5月8日はコロナ記念日 佐藤正明

肉声を知らない人のつぶやきを目で読んでいる冬の片隅

これからの二ヶ月のこと何もかも思い出として始まる二月

居酒屋の一つハンガーにかけられた我のコートと君のオーバー

如月(きさらぎ)の雨から雪に変わる午後「オレがなんとかする」って何を

チューリップの花咲くような明るさであなた私を拉致せよ二月

青色のちひさき鳥のかたちして言葉ちるなり凍結の岡

テンプレで片づけてきた質問に向き合う秋のドキュメンタリー

梅津貴司君へ捧ぐ

七夕の夜に言葉を交わせども織姫よりも遠いよ君は

(七夕の夜に言葉を交わせども織姫よりも君は遠くて)

(それ以上近づけないけど傷つかない「ありがとう」とは便利な言葉)

千億の星の一つになりたくて心が空を舞いあがる夜

一瞬の君の微笑み永遠にするため僕は歌い続ける

舞ちゃんに捧ぐ

デラシネでうめづで夜の公園で好きって君に伝えたかった

舞ちゃんに捧ぐ

君にだけ見える昼間の星のように一生かけてそばにおりたい

くるみちゃんに捧ぐ

大切な友と友とが結ばれて嬉しくて泣く、寂しくて泣く

つかうほど増えてゆくものかけるほど子が育つもの答えは言葉

心配をさせてくれない人だから救急箱のように見守る

色づいてはじめて気づく木のようにいつも静かにそこにいる人

心配をさせてくれない人だから救急箱のように見守る

四時間の単位でものを考えるミルク時計となりたる我は

初めての春の空気に子をひたすアワユキエリカけぶり咲く道

とりかえしつかないことの第一歩名付ければその名になるおまえ

初めての春の空気に子をひたす飛行機高くゆく空の下

天気予報はずれて晴れの公園に桜と人とふくらんで見ゆ

開花宣言聞いて桜が咲くものかシングルマザーらしくだなんて

散るという飛翔のかたち花びらはふと微笑んで枝を離れる

さくらさくらさくら咲き初め咲き終わりなにもなかったような公園

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