2025年5月9日金曜日

あの本、読みました?小川糸、湊かなえ、三浦しをん、松永K三蔵

「あんぱん」より
絶望の隣は希望夏の空
雲の峰何するために生まれ来た
何をして生きていくのか❓夏の潮
人生の陽はまた昇る風薫る
女子一人笑顔にできず夏の月

■あの本、読みました?山が舞台の名作
~小川糸、湊かなえ、三浦しをん、松永K三蔵…
鈴木保奈美 角谷暁子 林祐輔P

本日のテーマ 名著に山あり 山に登る 山で暮す 名作を深堀り

・「バリ山行」松永K三蔵著/講談社
「今夜はジビエ」小川糸著/幻冬舎文庫
「神去なあなあ日常」三浦しをん著/徳間文庫
「山女日記」湊かなえ著/幻冬舎文庫

山が舞台の作品 その魅力とは?
サラリーマンが書いた芥川作品
「バリ山行」松永K三蔵著/講談社
オモロイ純文運動 展開中
「バリ山行」の意味
バリとは一般的な登山ではない「バリエーションルート」のこと
山行(さんこう)とは登山に行くこと
「バリ」に注目した理由 松永K三蔵の登山歴

白い陽射しの中、ストックをつきながら登山道を歩く。
繁る青葉の陰に入ると僅かに涼しさを感じた。
山には既に蝉が鳴き頻ってた。平日はハイカーの数は少なく、
私は淡々と登山道を辿って歩いた。山の陰に廻り込むと
木立の中は暗く、どこか寂しげに感じられたが、そんなことが
今の自分の気分には合っていた。何が変わったのか。
山は変わらない。すると変わったのは自分自身で、
自分を取り巻く状況だった。社長はいつも角氏に連れられて
外出して社内のおらず、服部課長は苛々しながらアーヴィンの
事務所に張り付いていた。いつの間にか常務が座っていた
席に移った植村部長は一日中PC画面を覗き込んでいる。

会社勤めの経験から描いたもの 
ベテラン社員 妻鹿(めが)の人物像

「会社がどうなるかとかさ、そういう恐怖とか不安感ってさ、
自分で作りだしているもんだよ。それが増殖して伝染するんだよ。
今、会社でもみんなちょっとおかしくなっているでしょ。
でもそれは予測だし、イメージって言うか、不安感の、感でさ、
それは本物じゃないんだよ。まぼろしだよ。」

実は幻の「不安感」
危機に対することで得るもの

「カメオ」松永K三蔵著/講談社
会社からの理不尽な命令に憤る主人公を描いた松永K三蔵のデビュー作
仕事に翻弄される姿

・山岳小説の最高峰
「孤高の人(上)」新田次郎著/新潮文庫
「孤高の人(下)」新田次郎著/新潮文庫
昭和初期の登山家 加藤文太郎を描いた山岳小説の金字塔
加藤文太郎:妻鹿はオマージュとも言える

・女性が登る理由
「山女日記」湊かなえ著/幻冬舎文庫
菊池朱雅子(すがこ)幻冬舎編集者

「山女日記」執筆のきっかけ
登山時の湊かなえ 自分の記憶にとどめておくだけの登山
風景を焼き付ける特殊な能力がある人

眼下に広がる雪渓は大きい。ここを歩いてきたのか、と見入ってしまう。
雪の白、空の青、山の緑。原色の絵の具を水で薄めずに
カンバスに塗りつけたような、夏のコントラストが美しい。

数ある湊作品 「山」の小説ならではの魅力

山で暮らす人 小川糸
・山へ引っ越し
山暮らしのきっかけ
小川糸さんとゆりねちゃんを綴った作品
「今夜はジビエ」の一文 小川糸著/幻冬舎文庫
雪の結晶 12月28日
夜、酔った勢いで防寒して外に出て、星を見た。すごいすごいすごい、
天然のプラネタリウム。車なんか来ないのでそのままゴロンと道に
寝っ転がり、雪の上に大の字に手足を広げて星を見る。
最高に幸せな時間だった。

山暮らしの「不便」山暮らしの「恩恵」

・鎌倉の山
「ツバキ文具店」の一文 小川糸著/幻冬舎文庫
「今日は、お天気がいいから、ガーデンにしません?」
バーバラ夫人が提案した。
(中略)
ガーデンは、紀ノ国屋の角を曲がったところの、スターバックスの
手前にある。この季節、向こうに広がるのんびりとした山の景色を
眺めながら、外のテラス席で食べるのが気持ちよかった。

海はエネルギーが強いから、そこでいるだけで体が重たくなる。

ハイキング自体はなかなか気持ちのよいものだった。
私の後ろを歩くパンティーが大声で歌うので、なんとなく
他の三人も小声で唱和する。どうやらパンティーは、
スピッツのファンらしい。大の大人がハイキングしながら
歌ったりして、何やっているんだろう。頭では歩きながら
歌うのは、思いのほか爽快で病みつきになる。
パンティーの歌声に一抹の迷いもなかったのも、他のメンバーに
大きな勇気を与えたのかもしれない。下り坂になる度、
少しずつ汗が引いていく。濃厚な土の香りが、普段眠っている
脳みそのどこかを激しく揺さぶっているのを感じた。途中から、
やっぱりこの新年の行事に参加して良かったと思えるまでになっていた。

鎌倉が舞台の小説で山を描く理由
山が人の心情に与える影響

・山で回復
「小鳥とリムジン」小川糸著
「普通に生活してると、つい頭でっかちになって、情報を全て
頭で処理しようとしてしまうから。でも、山に入るとどんどん自分が
なくなっていくというか、体だけになっていくんだよね。
頭で考えようとせずに、体で感じる事だけで生きる、みたいな。
そうやって自然の中に身を置いていると、ほんの一瞬だけど、
自分が無になって、周囲に溶けるんだ。その溶けている状態が、
最高に気持ちよくて、やめられない」
(中略)
「ある日、僕は人里離れた静かな森の中で、一輪のユリの花と
出会ったんだ。そのユリは、人知れず、木陰でひっそりと
咲いていたんだけど。その姿が、ものすごく生命力に溢れていて、
魅力的で、まるで妖精みたいだった。僕はその姿を見て、
号泣しちゃったの。あんまりにも気高くて美しいから。
それで気づいたんだ。花屋さんで売られているユリの花は、
本来の姿ではないんだって。本来ユリの花は、こんなふうに、
大自然の中で人知れず咲くものなんだ、って。」

一輪のユリが表すもの

・山のお仕事小説
「神去(かみさり)なあなあ日常」三浦しをん著/徳間文庫
国田昌子 徳間書店編集者
林業を舞台にした小説を書いたきっかけ
執筆時の三浦しをん

「神去(かみさり)なあなあ日常」の一文 三浦しをん著/徳間文庫
日差しはますますあったかい。気温が上がると、空気にいろんな
においが混じりはじめる。小川を流れる澄んだ水の甘さ。
今まさに土を押しのけようとする草の青さ。どこかで枯れ枝を
焼く焦げくささ。冬のあいだに山深い場所で死んだ獣のかすかな腐臭。
なにもかもがいっせいに動きはじめ、新しい季節を迎えようとしている。

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