2023年8月2日水曜日

100分de名著 金子みすゞ ③

(宮本祖豊師)
夏の月向き合う孤独十二年
今生きることに集中夏の朝
滴りや十二年間独りぼち
生と死の間(はざま)を生きん明易し
夏の霧心見つめて籠山行(ろうざんぎょう)

■100分de名著 金子みすゞ ③

ちょいと
渚の貝がら見た間に、
あの帆はどっかへ、
行ってしまった。

夜散る花 金子みすゞ
朝のひかりに
散る花は、
雀もとびくら
してくれよ。
日ぐれの風に
散る花は、
鐘がうたって
くれるだろ。
夜散る花は
誰とあそぶ、
夜散る花は
誰とあそぶ。
「空のかあさま」

杉の木 金子みすゞ
「母さま私は何になる。」
「いまに大きくなるんです。」
杉のこどもは想います。
大きくなったらそうしたら
峠のみち百合のよな
大きな花も咲かせよし
ふもとの藪のうぐいすの
やさしい唄もおぼえよし…。」
「母さま、大きくなりました
そして私は何になる。」
杉の親木はもういない
山が答えていいました
「母さんみたいな杉の木に。」
「童話」大正十四年六月号 「童話」大正十四年七月号で廃刊

光の籠 金子みすゞ
私はいまね、小鳥なの。
夏の木のかげ、光の籠に、
みえない誰かに飼われてて、
知っているだけ唄うたう、
私はかわいい小鳥なの。
光の籠はやぶれるの、
ぱっと翅(はね)さえひろげたら。
だけど私は、おとなしく、
籠に飼われて唄ってる、
心やさしい小鳥なの。
「空のかあさま」

昭和四年 「赤い鳥」休刊 「金の星」廃刊

帆 金子みすゞ
ちょいと
渚の貝がら見た間に、
あの帆はどっかへ
行ってしまった。
こんなふうに
行ってしまった。
誰かがあったー
何かがあったー
三冊目の手書き詩集「さみしい王女」

帆 金子みすゞ
港に着いた舟の帆は、
みんな古びて黒いのに、
はるかの沖をゆく舟は、
光かがやく白い帆ばかり。
はるかの沖の、あの舟は、
いつも、港につかないで、
海とお空のさかいめばかり、
はるかに遠く行くんだよ。
かがやきながら、行くんだよ。
一冊目の手書き詩集「美しい町」

玩具のない子が 金子みすゞ
玩具のない子が
さみしけりゃ、
玩具をやったらなおるでしょう。
母さんのない子が
かなしけりゃ
母さんをあげたら嬉しいでしょう。
母さんはやさしく
髪を撫で、
玩具を箱から
こぼれてて、
それで私の
さみしいは、
何を貰うたらなおるでしょう。
「さみしい女王」

近代人の魂の飢え
満たされない「孤独」

きりぎりすの山登り 金子みすゞ
きりぎつちよん、山のぼり、
朝からとうから、山のぼり。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
山は朝日だ、野は朝露だ、
とても跳ねるぞ、元氣だぞ。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
(中略)
山は月夜だ、野は夜露、
露でものんで、寢ようかな。
アーア、アーア、あくびだ、ねむたい、ナ。

「さみしい王女」巻末手記 金子みすゞ
―できました、
できました、
かわいい詩集ができました。
我とわが身に訓(おし)うれど、
心おどらず
さみしさよ。
夏暮れ
秋もはや更(た)けぬ、
針もつひまのわが手わざ、
ただにむなしき心地する。
誰に美しょうぞ、
我さえも、心足らわず
さみしさよ。
(ああ、ついに、
登り得ずして帰り来(こ)し、
山のすがたは
雲に消ゆ。)
とにかくに
むなしきわざと知りながら、
秋の灯しの更(ふ)くるまを、
ただひたむきに
書きて来し。
明日よりは、
何を書こうぞさみしさよ。
「さみしい王女」

金子みすゞ 
1903年山口県仙崎出身
1930年3月死去(享年26)
自ら命を絶つ前日に下関の写真館で写真を撮った
死後に「詩集」が刊行された時のための写真
死後に夢を託すしかなかった

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