2023年8月31日木曜日

司馬遼太郎「覇王の家」3

スイッチインタビュー 坂本龍一&福岡伸一
認識の牢屋で過ごす秋の蛇
全ての者は無の残響である秋意
草の穂や解き放たれた音に酔い
鬼灯や心の呼応思い遣り
盆過ぎて耳傾けんasync(えいしんく)

坂本龍一 福岡伸一 スイッチインタビュー
https://www.nhk.jp/p/switch-int/ts/K7Y4X59JG7/

■司馬遼太郎 覇王の家3 人生最大の戦果はこうして生まれた
信長が死ぬと、
頭痛が一時にとれたように、
別人になった。
家康は別人になったというより、
相手次第で、
自分を変化させるという老獪(ろうかい)さを
身につけてきた。

▪司馬遼太郎の表現
信長 芸術家
秀吉 政治家
家康 高級官僚

羽柴という男は、食えぬ
どうせ羽柴も、ほろぶ
(すると、天下はあの小男のものか)
と思っても、すぐには実感は湧かない。
なんといっても信長から、
猿、猿、とよばれて追いつかわれていた
あの貧相な、五尺にも満たぬ
足軽あがりの男が、
覇王の衣冠を身につけるのである。
が、決めねばならない。
この新事態に応ずる
徳川家の態度をである。
秀吉に属するか。

家康は秀吉をなめていた

(―勝てる)
という自信が、
数日して家康に湧いてきた。
敵陣の旗の動きを遠望するに、
どうも統制がとれていないように思える。
秀吉の軍容は、
いかにも天下軍の華やかさをそなえ、
旌旗(せいぎ)林立して
大いに壮(さか)んではあったが、
しかし奇妙なまでに重圧感はない。
―諸将は、逸(はや)っている。
と、家康はみている。

「―長久手の一戦では」
と、家康が後年、
秀吉の傘下に入ったのちまで
これを諸大名にほのめかし、
自分が秀吉に対する
唯一の勝利者であったということを
つねに世間に記憶させ続けようとしたが、
事実この戦いは、
無形ながら家康のその後の生涯にとって
最大の資産になっている。

司馬遼太郎氏は昭和18年に戦場に出て
昭和20年22歳で終戦を迎えた

司馬遼太郎の戦争への思い(1970年)
日本に家康のような将軍がいたら
あんな惨めな負け方はしなかったんじゃないか
長久手の戦いで討ち死にしたような
無謀な指揮者がいたから
多くの将兵を死に至らしめたんじゃないか

司馬さんは秀吉軍をアメリカ軍のように
感じたんじゃないか
人数の少ない家康軍が実は日本軍…。
だと想像している。   阿部龍太郎氏

敗戦の日の実感は、
なぜこんなばかな戦争をする国にうまれたのか。
ということでした。
むかしの日本人は、
すこしはましだったのではないか。
でなければ、
民族がここまでつづいてきたはずがない。
しかし、私には、
❝むかしの日本人❞
というものが、よくわからなかったのです。
だから、私の作品は、
一九四五年八月の自分自身に対し、
すこしずつ手紙を
出してきたようなものだ。
ということです。
「なぜ小説を書くか」「司馬遼太郎が考えたこと」(15)

2023年8月30日水曜日

司馬遼太郎「覇王の家」1&2

スイッチインタビュー 坂本龍一&福岡伸一
止める日を考えながら秋を生く
身に染むやノイズの中を彷徨わん
あるがまま自然のままに秋の風
秋の夜ロゴスの強さ圧倒す
音楽と命の起源星月夜

□100分de名著
■司馬遼太郎 覇王の家1 「三河かたぎ」が生んだ能力
家康という人間は、どうにも一筋縄では解きあかしにくい。

人よりも猿の方が多い。
と尾張衆から悪口を言われるような後進地帯であった。
ただ国人が素朴で、困苦に耐え、
利害よりも情義を重んずるという点で、
利口者の多い尾張衆とくらべて
きわだって異質であった。
犬の中でもとくに、
三河犬が忠実なように、
人も主に対して忠実であり、
城を守らせれば無類につよく、
戦場では退くことを知らずに戦う。

中世的な情念 中世人という気性
近世は合理の世界 中世は情の世界

「敵がわが効野を踏みつけつつ
 通り過ぎていくのに、
 一矢も酬いずに
 城にかくれているなどは男子ではない」
かれは全軍に出戦の支度をさせた。
豹に睨みすえられた
うさぎのように、身うごきがとれない。
逃げれば豹はえたりと、
跳びかかってくれであろう。
進めば、豹の一撃が、
兔の頭蓋骨を粉砕するかもしれない。
津波に遭ったように
家康は敵のなかにいる自分を発見した。
ただ一撃で逃げた。(略)
背後から敵が迫ってくるし、
このさき浜松へ逃げようにも
その退路がふさがれているかもしれず、
雨のなかの家康の気持ちは絶望に近い。
背後で馬蹄のとどろきが湧きおこり、
ふりかえると、おびただしい松明が
家康のあとを追ってきた。(略)
おもわず、馬の首に顔を伏せながら
鞍壺で糞を洩らしたというのは、
このときであった。
「殿は、いま御寝(ぎょし)じゃ、
 お胆(きも)のふといことよ」
と、すぐ城内のすみずみまで伝わって、
城兵を感嘆させたり、勇気づけたりした。

書いているうちに書いている人物を理解する
広い世界が見えてくる

この自殺的な出戦は、結局は惨憺(さんたん)たる敗北におわるのだが、
しかしかれののちの生涯において
この敗北はむしろかれの重大な栄光になった。

討ち死にした徳川勢が全員前を向いている
逃げようとして仰向けに討たれた者は一人もいない
そういう兵を育てあげた家康はすごい
徳川家の家臣も全員そのことを誇りにしている
徳川家は再編成された

■司馬遼太郎 覇王の家2 「律義さ」が世を動かす
司馬遼太郎は織田信長を語っている。
尾張者であるのに信長は
すべて軽快をよろこぶ男であった。
ところで信長は
人の心に敏感過ぎる男であった。
信長は人間というものを
その機能性で評価する男で、
役に立たぬ連中を
これほど憎む男もめずらしい。

家康は信長の下請け会社の社長にあたる。
下請け会社を維持するためには、
徹底的に律儀であることを必要とする。
信長の生存中の家康は、律儀に徹した。

信長が家康を気に入ったというよりは
家康のほうがに信長に気に入られるように
一生懸命気遣いもし下働きもした

築山殿とは
「気位の高い女」
「かれに対してあれこれと指図をしたがる女」
「政治好き」
「そのことばは、常に甲高かった。
 その甲高さのなかに 訓戒、威圧、要求、厭味、怨嗟が、
 毒焔(どくえん)のようにこもっていた」

常に歴史に対して柔軟でなければ
本質を見誤る恐れがある

家康の遺訓
「己を責めて人を責むるな」

家康という男は、
人のあるじというのは自然人格ではなく
一個の機関であるとおもっていたのかもしれない。

役目や責任はあるが人格はない

家康が我慢強く忍耐強く 前に進んだのは
日本をこう変えていくんだという高い理想があったから

信長は律儀で真面目で頑張る人が好き
家康は信長につぐナンバー2

2023年8月29日火曜日

兼題「七夕」&名言

スイッチインタビュー 坂本龍一&福岡伸一 より
空高し地図なき登山今日もまた
次の山また見えてきた天高し
音楽は一度切り紅葉かつ散る
コピーされ無くなるアウラ秋の声
秋の夢一度きりへの慈しみ

■NHK俳句 兼題「七夕」
選者 高野ムツオ ゲスト カモシダせぶん 司会 柴田英嗣
レギュラー 中西アルノ 黒岩徳将 斉藤志歩
年間テーマは「語ろう!俳句」

▪句合わせ 兼題「七夕」
七夕やインスタントのすまし汁   青山ネモフィラ
七夕やよそいきの夢書いてみる   カモシダセブン
添削(七夕やよそいきの夢書いておく 高野ムツオ)

▪特選三席発表 兼題「七夕」
三席 折鶴の聞こえぬ羽音星祭   浜田敬子
二席 私 七夕や盲導犬の立ち上がる   髙木統
一席 七夕や介護の妻を湯に誘ふ   蛇嶋知誠(へびしまちせい)

コロッケと折紙買って星祭  埼玉県川口市 小川さゆみ
七夕の竹大甕に山の宿  東京都練馬区 徳竹邦夫
四方の嶺分教場の星まつり  愛知県名古屋市 久野豊子
七夕やまた妣看取る夢を見る  大阪府大阪市 赤田浩
連山は深く鎮まり星まつり  奈良県斑鳩町 内田良平
清流のごとき仮名文字星祭  佐賀県伊万里市 萩原豊彦

参照:https://www.nhk.jp/p/ts/6Q6J1ZGX37/blog/bl/pLvva3ZRZL/bp/pgKEkVKNZ2/

▪句合わせ二回戦
七夕の豆腐を買ひに米を買ひに   斉藤志歩
翌(あく)る日の七夕竹の雨の粒   黒岩徳将
(催雷雨=涙を催す雨)
 ひとつは織女と牽牛が会う日に雨が降り川が
 洪水になって会えなかったという悲しい涙
 もうひとつはこの日に二人で会えたので
 うれし涙が雨になったという説がある

■名言
ゲーテ 曰く
「人は、本当に落ちるところまで落ちると
 もはや他人の不幸を喜ぶ以外に
 楽しみがなくなってしまう。」

アルバート・アインシュタイン 曰く
「他人のために生きた人生だけが価値のある人生だ。」

カール・グスタフ・ユング 曰く
「内面で向き合わなかった問題は、いずれ
 運命として出会うことになる。」

2023年8月28日月曜日

テーマ「ライブ」

秋懐や人それぞれの当たり前
秋高し非常識とは紙一重
読み切れぬ消ゆるテロップ長き夜
秋さびし無神経なボディーブロー
秋の蝉わずかな命鳴き続け

■NHK短歌 テーマ「ライブ」
選者 岡野大嗣 ゲスト 宮永愛子 司会 尾崎世界観
年間テーマは「グッとくる瞬間」今月は「ライブ」
そもそも生きていることがライブ!

二回目で気づく仕草のある映画みたいに一回目を生きたいよ
岡野大嗣

一回しか生きられないので
そのことを強く認識する瞬間は「ライブ」を感じるとき
「一回きり」を強く感じるとき「ライブ」が立ち上がる
気配の痕跡に気づけるように生きられたら

▪入選九首 テーマ「ライブ」
「さいたま」とボーカルが天を指さしてあたし何度もさいたまになる
中村美夏
一席 延長コードを繋げて繋げてステージに変える真夏の視聴覚室
吉村おもち
生配信終えて画面に映り込む私は私を𠮟りたそうに
野点(のだて)さわ
いい席が取れた基準はステージのあなたの白目見えるかどうか
原田智美
商談はない日なんだね?ワイシャツの下に透けてるバンドの名前
藤本真夢(まむ)
体を揺らす裏の拍に合わせて俺だけ世界が違ってみえる
素潜り旬(しゅん)
三席 薄っぺらい君んちの毛布いつだってライブハウスの匂いの毛布
大野恭敬(やすたか)
ほんとうに初めてライブへ行く母の背中のチャックをそっと押し上ぐ
髙原希美
二席 私 キャパ2500の箱の片隅でひとりの部屋とおんなじに泣く
若杉有紀

ライブは独りでいることを確認する場所   尾崎世界観

▪表現者の原点 宮永愛子(ナフタリンで彫刻)
自分で自然に時間をかけて変わっていくっていうものは
ほかの人はやってないんじゃないか
消える彫刻というのが私が素材にハマったきっかけ
丸い型みたいなのが残っているのに中はない
新しい自分の形が作れたら
消えてなくなる形が作れるのではないか
というのが始まり
消える彫刻を作っていると思っていたけど
消えてなかったんだ
変成して結晶になる
結晶がどんどん増えて最初の形は失われていく
質量保存の法則 全体としては変わらない
時計を見るのか❓俯瞰した全体で見るのか❓で
全然違うふうに見える
これは世界のあり方と同じ
変わりながらあり続けている
大事にしていることは展覧会に行った
3日後くらいに洗濯物を干しながら
思い出すような作品がいいなと思っている

民藝みたいに暮らしの中で折に触れて思い出す
生活に根付いたものを作りたい
岡野大嗣

▪宮永愛子さん 創作の裏側
何もしてないときが一番考えているとき
なるべく遠くに石を投げる

真剣に遊んでますね 真剣にぼーっとする 
尾崎世界観

▪それぞれの「ライブ」それぞれの表現
ガラス玉呼気をおさめて留め石に隔てるでなし境界に立つ
宮永愛子

宮永愛子さんの「短歌のたね」
「留め石」普通は石に縄を巻いたもので
これ以上は入れないところなどにおき境界を分けるもの結界
私はガラス玉に呼気を入れて「留め石」という作品を作った
境界を分けるものという留め石に
自分の呼気を入れることで
自分が境界の上に立つことをしたかった
境界とはなんだろう
あるようでないもの
その場所にたつあなた自身の気持ちが
いつも問われているのだとおもう

世界は分かれてないじゃないですか 本当は
そういうことを改めて考える機会になったらいい

息を吹き込めたガラスを留め石にわたしは何を隔てるだろう
岡野大嗣

▪ことばのバトン
触角で穴をあければ雷雨   涌田悠(ダンサー振付家)

闇のなかただとんでみるとんでみる
初瀬勇輔(視覚障害柔道家)
暗闇で掴むぶ厚い奥襟の小さな揺れがお前の心

2023年8月27日日曜日

ロッチと子羊53 ガウスの速算法

不必要なるエロを追求(ビアズリー)秋の声
(オスカー・)ワイルドとビアズリーの不仲無月
(ビアズリー)秋高しホイッスラーをリスペクト
秋湿りサメロと孔雀意味不明
魅かれあう時間短し草の花

■ロッチと子羊53
▪自己ブランディングの方法がわからない
武藤一也 英語講師

人生をブランディングするには
物語的自己同一性こそが必要なのです。
リクール哲学の要約

自己同一性とはアイデンティティー
「自分とは誰か?」

誰❓という問いに答えること
それは人生という物語を語ることである
リクール著「時間と物語」

人生という物語を語れば
自分は誰か❓明らかにできる

人間は時間とともに変化する
人生という物語にしないと全体像が見えてこない

哲学プラクティス
躊躇するな‼英語講師 武藤

▪わかりやすさを求める時代に悩む人へのアラン哲学
住吉千波 数学講師

1+2…+19=190
(1+19)×(19)
    2
(最初の数字+最後の数字)×最初から最後までの数字の個数)
            2
ガウスの速算法

わかりやすさを求めるのは心の悲鳴です
だから救ってあげましょう 
アラン哲学の要約

風が北東から吹いてくる時
両手をこすり合わせることは二重の意味で良い
ここでは本能に生きる事が知恵と同じ意味である
アランの言葉

本能的に手をこすり合わせるのは
寒さにあらがいポジティブに向き合う行為

社会現象や流行現象の根には
社会的な要因に対する本能的抵抗がある

社会現象の要因には本能的な抵抗がある
アラン哲学の要約

わかりやすさを求めるのも
社会的要因に対する本能的な抵抗

わかりやすさを過剰に求める背景に
過剰に複雑化しすぎた社会がある

過剰な複雑さから逃れる本能に合わせている
わかろうとすることを諦めていない

寒さに抵抗する方法はただ一つしかない
寒さをいいものだと考えることだ
アランの言葉

複雑すぎる社会をいいものだと考える
複雑なものは面白いと伝えるのが唯一の手段

2023年8月26日土曜日

ホーキング博士の言葉&アウトドアのカレーで一句

秋の海時間の外にいるような
秋めけりモディリアーニは描かずとも (ポール・ギヨーム)
影響を受くガボンの仮面秋の虹
おけら鳴く人生ずっと(アルコール)依存症(ユトリロ)
秋暁やサロメのっとるビアズリー

■プレバト纏め 2023年8月24日
アウトドアのカレーで一句

永世名人富美男のお手本
梅沢富美男
芋煮ゆる紙の器の頼りなく
(経験値のなせる技。
 率直な書きっぷり読み手にそのまま伝わる。)

永世名人ジュニアのお手本
山雀(やまがら)の高音竹皿のカレー
(季語は山雀。鳴き声が特徴的な留鳥。
 山雀は人に慣れやすい可愛い鳥。澄んだ高温で鳴く。
 書かれていないが読み手の自然な想像として伝わってくる。
 コンパクトで見事。)

特待生昇格試験
北山宏光
秋晴(あきばれ)や焦げ石に米粒一つ
(これが俳句の真髄。
 どうでも良い事を吸いとって詩にする。
 俳句はそういう文芸の一面がある。
 この句は最高に素晴らしかった!)

1位 えなこ
残暑の夜誰も洗わぬカレー鍋
(リアリティーが良い。「誰も」一人でないことが解る。
 時候の季語から時間・人物・動作から
 映像の焦点が絞られているような語順。)

2位 武田真治
青空の炊事遠足しゃばカレー
(炊事遠足とは遠足に出かけて飯ごう炊さんを行う。
 北海道の学校では定番の行事。
 実体験はリアリティーがある。「遠足」は晩春の季語。)

3位 IKKO
寸胴に溶かすカレー粉秋の蝉
添削(カレーと蝉の取り合わせは良い。語順が悪い。)
秋の蝉寸胴鍋へカレールー

4位 荒川
秋涼し銀に口紅底フィルム
添削(17音に盛る材料が多過ぎた。短く1カットずつ映像に。)
秋涼しカレーのための銀の匙

次回のお題は「夏休みの宿題」

■スティーヴン・ウィリアム・ホーキング博士の言葉

障がいについて
「体に障がいを持つ人に対する私のアドバイスは、
 集中すればうまくやれるということ、
 そしてできないことを後悔しないこと。
 体だけではなく、
 精神にまで障がいをもたらしてはいけない。」

3人の子どもたちへ
「1つ、星を見上げること、足元は見るな。
 2つ、仕事を決してあきらめないこと。
 仕事は意味と目的を与えてくれる。
 仕事がなければ人生は空虚。
 3つ、幸運にも愛を見つけることができたら、
 その存在を忘れず、投げ出さないこと。」

健康について
「初めてALSと診断された時、余命は2年だっだ。
 45年後の今、私はかなり元気だ」

神について
「神は存在するかもしれない。
 だが、神の助けがなくても、科学で宇宙を説明できる。」

参照:https://www.businessinsider.jp/post-163902

2023年8月25日金曜日

俵万智女史の短歌&無有好醜&「秋の村雨」

村山槐多へ
唐辛子器用が仇となりにけり
幸か不幸か恵まれすぎて流れ星
月渡る器用が過ぎて見失ひ
秋の水一途がもとで怖がられ
秋の風槐多BL見抜かれん

■俵万智女史の短歌
言の葉をついと咥(くわ)えて飛んでゆく小さき青き鳥を忘れず

このままでいいのに異論は届かないマスクの下に唇をかむ

はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり

10センチ背丈伸びたる息子いてTシャツみんな新品の夏

ひとことで私を夏に変えるひと白のブラウスほめられている

生ビール買い求めいる君の手をふと見るそしてつくづくと見る

RとL聞き分けられぬ耳でよし日本語をまずおまえに贈る

■無有好醜(むうこうじゅ)
「たとい私が仏と成り得ても、浄土においてもろもろの人たちの形が
同じでなく好(よ)き者と醜き者とに別れるなら、私は仏に成らぬ。」
柳宗悦はわれわれの世にある、力のある者・ない者、
才能のある者・ない者、美しい者・醜い者という
二元論的な世界をうち破り、皆が同じでなく、
違っていながら全てが美しいという境地での仕事ぶりをここから説いた。

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク 秋の村雨

「村雨」とはヴィレッジ(むら)に雨だけではなく
「群雨」等とも書いたりします
にわかに群がって降る雨ということで
「群雨」な訳です
この「村雨」を夏の季語として
扱っている歳時記もあります
しかしそれとは別に秋の季語として
「秋の村雨」が歳時記には収録されています
私たちはよくこの講談社版
「カラー版新日本大歳時記」を
使うことが多いのですが
なんとこの大判の歳時記を持ってしても
「秋の村雨」の例句が収録されていないのです
季語の解説をする中で与謝野蕪村の
「みじか夜や村雨わたる板庇」
という句が紹介されていたりしますが
この句の場合「みじか夜」が
主たる季語としてたっています
「秋の村雨」の例句は一体何処にあるのでしょうか
それは現代を生きる我々が作って
この季語を残していく
そういう存在なのかもしれませんね

2023年8月24日木曜日

画商7鉄則&尻文字三角パス&牧野富太郎の言葉

妖しさと生々しさを魅せる秋
託された見えない痛み秋の声
秋の宵ゆらぎを武器とした女
ナレーション心を込めて秋黴雨(ついり)
字幕なきインタビュー色変へぬ松

■歴史に残る画商  
ポールデュランリュエルは印象派を生んだ男
画商7鉄則 山田五郎オトナの教養講座 より
①全てに優先して美術を守るべし
②作家とは独占契約を結ぶべし
③自前で展覧会を比較べし
④画商の国際ネットワークを作るべし
⑤画廊と自宅を出入り自由にすべし
⑥メディアを駆使してプロモートすべし
⑦美術界と金融界を結びつけるべし

■夏井いつき俳句チャンネル
【第7回尻二字三角パス①】視聴者の皆さんの投稿句を紹介!【「くや」】

野犬かなし落葉の路地の焼き肉屋   朗善
「悔やんだら負け」と去る背よ落葉霏霏(ひひ)   芦幸。
悔やみ言操り言あはは女正月   こはく
くやし泣きとぼとぼ帰る冬の道   夏みかん
悔しさを見せず別れて髪洗う   伊藤恵美
悔しまぎれに爪研ぎかジャンプ失敗   南全星びぼ

■偉人の年収 How much? より
牧野富太郎氏の言葉
「世の中には雑草という草はない。
 どんな花だってちゃんと名前がついている。」
「私は草木の精かもしれん。」

「植物一日一題」より
① 食う時に名をば忘れよマグソダケ
② その名をば忘れて食べよマグソダケ
③ 見てみれば毒ありそうなマグソダケ
④ 恐(こ)はゞと食べてみる皿のマグソダケ
⑤ 食てみれば成るほどうまいマグソダケ
⑥ マグソダケ食って皆んなに冷やかされ
⑦ 家内中誰も嫌だとマグソダケ
⑧ 嫌なればおれ一人喰うマグソダケ
⑨ 勇敢に食っては見たがマグソダケ

1928年 妻 壽衛(すえ)が死去 54歳
植物研究雑誌 第五巻 第2号
新種のササに「スエコザサ」と命名
「常に私の植物研究を支えてくれた亡き妻に捧げる」
自宅の庭にスエコザサを植えた。

「植物は人間がいなくても生きていけるが
 人間は植物がなくては生きていけない
 人間の方が植物におじぎをしないといけないんだよ。」

2023年8月23日水曜日

ロッチと子羊52

酒造り、半導体も水次第(無季句)
マイクロアグレッション蜻蛉生れる
夕月夜乱れた着物艶やかに
秋の風憂いを帯びたまなざしと
秋湿り女一人の震えをり

■ロッチと子羊52 
▪面接などフォーマルな場が苦手
ポイントは光と闇の関係を正しく理解する
ヘーゲルは「和解の哲学」
対立する物事を和解へと導くスペシャリスト

世界は「光と闇」でできている
対立するものではありません
両者が和解するには
世界そのものに目を向けましょう
ヘーゲル哲学の要約

ボールが見えない理由
光が均等に当たり影ができなかった
光と闇の加減で見え方は変わりますが
ボールは1ミリも変わらない
世界そのもの=ボール

哲学プラクティス
世界そのものを見ることで
光へのコンプレックスを軽くする
ルール
苦手なものの頭に「単に」とつけ
語尾に「○○なだけ以上!」と言い切る

フォーマルな場の本質
目的のために余分なものを取り除いた場所

▪昔ほど趣味に夢中になれない
われわれの情熱が
どれだけ長続きするかは
われわれの寿命の長さと同じく
自分の力ではどうにもならない
ラ・ロシュフコーの箴言(しんげん)

情熱はコントロールするものではない
ということを認識する

情熱は睡眠と同じ
寝ようと思っても眠れませんがいつのまにか眠っている

老人たる術を心得ている人はめったにいない
ラ・ロシュフコーの箴言

人間の心の中では
情熱の不断の生殖が行われていて
それで一つの情熱の消滅は
すなわちもう一つの情熱の出現と
決まっているのだ
ラ・ロシュフコーの箴言

1不断 絶え間がない
2情熱の生殖 情熱が新たに生まれる
情熱の不断の生殖とは絶えず情熱が生まれ続けている

情熱が消滅すると新しい情熱がやってくる

価値の転換 古い情熱⇨新しい情熱
価値転換が起こる事で新しい情熱がやってくる

集めること⇨情熱のタネ
情熱を捨てた時⇨キャッチする体勢でいる
まさにジャグリング!

2023年8月22日火曜日

題「夏の虫」

台風禍燃やせるゴミや道を這う
台風禍鉢横倒し草の香
(眉山)ひこばえの折り重なりて秋の風
夏野菜鮮やかにして盂蘭盆会(うらぼんえ)
殺気立つスーパーのレジ盆支度

NHK短歌 題「夏の虫」
第3週の年間テーマは「実感的 表現力アップ」
今月は「比喩の冒険」
選者 吉川宏志 ゲスト 金井真紀 司会 尾崎世界観

フィラメントのごとく後肢を光らせてあしなが蜂がひぐれに飛べり
吉川宏志

入選九首 テーマ「夏の虫」
三席 父という樹を両腕で挟み込み吾子はクワガタみたいに眠る
てぃも
二席 虫籠と網をしっかり握る手にもうてつなぎはいらぬと知る夏
蔵石妃織(ひおり)
夏の日の今一瞬を反射してもう消え去っている銀蜻蜒(やんま)
小川拓馬
一席 裏山に日射しも声も吸いとられヤンマの顎が指に食い込む
森岡さや
 箱背負(はこしょ)いと教えてやれど絵日記を見たればミヤマクワガタとあり
原田浩生(ひろお)
 ベランダでわれが毎日見る空が最期の景でよかったのか、蝉
星田美紀
学生に紛れ入りたるカナブンか飛びつつ夜学の黒板を打つ
大多和義(いさお)
熊蝉の鳴く街海が近い街あなたと生きるために来た街
横縞
少しまえへ少しうしろのとんぼうと川土手をゆく白南風(しらはえ)のなか
新納玲子

▪入選あと一歩
青菜喰う青虫を殺し「はらぺこあおむし」を孫に読むうしろめたさ
片伯部りつ子 添削
青菜喰う青虫殺したる夜に孫に読みゆく「はらぺこあおむし」

▪表現の最前線
麻雀(マアヂャン)の牌(ぱい)の象牙(ざうげ)の厚さほど山のつばきの葉につもる雪
与謝野晶子

▪尾崎世界観 表現の最前線
この気持ちもいつか手軽に持ち運べる文庫になって
懐かしくなるからそれまでは待って地面に水をやる
「栞」より

▪金井真紀 表現の最前線
「やりかたはいくらでもある」と、
おばあちゃんは猫で
テーブルを拭きながら言った
フィンランド語/フィンランド
意味は意外なところにも道がある
解決策は一つではない。と、いう諺。

玉子は石とは相撲を取らない
ウォロフ語/セネガル

(言葉には)触ることによって伝わるものがある

草野新平氏の経営していた店のメニュー
卵の味噌漬け⇨満月
ボルシチ⇨夕日
どぶろく⇨白夜
メニューが詩 いい比喩
みんなが知っている言葉しか
使ったいないけどおしゃれ

▪ことばのバトン
上の空グラスホッパーならばただ   
短歌AI&開発者 浦川通

触角で穴をあければ雷雨
ダンサー 振付家 涌田悠
ないことのあること秋のあじさいの遅れて届く声の手触り
短歌とダンスがこう絡まり合いながら
何か一緒に生まれてきている感じ

2023年8月21日月曜日

兼題「新豆腐」

目的を違えた人の秋扇
台風禍月輝きて雨の降る
土手を風ゴルフボールに似たきのこ
アンスリウムを育む女独りぼち
謎多きわたつみのごと天の川

■NHK俳句 兼題「新豆腐(しんどうふ)」
選者 村上鞆彦 ゲスト バービー 司会 柴田英嗣
年間テーマは「人生を詠う」

今月は「仕事」
畔塗るやちちははの顔映るまで   若井信一
畔塗るは春の季語

会社やめたしやめたしやめたし落花飛花
松本てふこ

▪特選六句発表 兼題「新豆腐」
武者震ひして一丁の新豆腐   吉野敬子
切るたびに白新しき新豆腐   花見鳥
天水にたよりし島の新豆腐   曽根新五郎
豆腐屋のゆつくりすくふ新豆腐   鈴木ゆみ
はやばやと皆ゐる夜の新豆腐   古瀬まさあき
新豆腐妻の眼鏡にかなひけり   鈴木蛍之(ほとゆき)
三席 うつしよのひかりあつめし新豆腐   葦屋蛙城(けいじょう)
二席 神棚のほの青き新豆腐かな  辻村善正
一席 透き通る風吹き初めて新豆腐   覺野(かくの)重雄

▪夏井家伝来家藤正人&中西アルノ
0から俳句
一物仕立て発表!
海亀
海亀や太古の名残かその尾ひれ   青山ネモフィラ
海亀を垂るる重たき尻尾かな   家藤正人

一物仕立てになっているか❓
その季語が持っている情報だけで
一物仕立てになっているか❓
0から俳句ポイント
独自性の高い句になっていることが重要

海月
水海月巻き込む青にほどく青   青山ネモフィラ
頂に胃を咲かせたる大海月   家藤正人

▪今日マチ子、今日の一句
アイコ抜き眩しき人にいやされて   バービー
みづからへ買ふ花少し秋灯(あきともし)   村上鞆彦

▪柴田の歩み
アイコ

2023年8月20日日曜日

キューピッド&「めであい月」&名言

地蔵川揺らぐハイヨと梅花藻と
梅花藻や居醒の清水(いさめのしみず)ゆらゆらと
梅花藻や揺らぎ頷き匍匐せり
葛の花かほり漂う秋の朝
葛の花下から上へ咲き始む

■はじめての美術館 より
キューピッドは天使ではない
天使=天の使い 神様のお手伝いをする存在
キューピッドは愛の神様
英語でキューピッド
日本語ではキューピッドで使い慣れていますが
ラテン語ではクピドとアモルという言い方があり
アモルはラテン語で愛を意味します
アモルはいたずら好きで恋をさせたい相手に
矢を射(う)つとその時目に入った人に恋をします

鳩はつがい(ペア)になると相手を変えないと
言われていて2羽の鳩は愛し合う恋人たちを表しています

キューピッドは天使ではなく神さま
アモルがハート(心臓)を矢で射ると恋をしてしまう
つがい(ペア)の鳩は恋人たちの象徴

アダムとイブ(エバ)
旧約聖書に出てくる神さまが創った最初の人間
禁断の果実を食べてしまい楽園から追放される
林檎は禁断の果実を意味している

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク めであい月

秋には「月」の季語が多いのですが
実はこの「めであい月」というのは
お月様の季語ではなく 月の別称
何月とかの別称ということになります
陰暦七月のことを「文月」と言いますが
この「めであい月」は「文月」の傍題に
含まれていることが多い季語になります
「めであい月」という名前の由来は
陰暦七月七日、七夕ですね
その七夕の織女星と牽牛星がお互い
一年に一度会って互いをめであうことから
「めであい月」という名前がついたとされています
「文月」ではなく「めであい月」ならではの句
作るにはどうしたらいいかいうのも
俳人として挑んでみたいところですねぇ

■名言
山下亀三郎 曰く
「アクの強い、生意気な男こそ役に立つ。
 大いに使いこなせ。」

森信三 曰く
「人間は一生のうち
 逢うべき人には必ず逢える。
 しかも、一瞬早すぎず、
 一瞬遅すぎない時に。」

森信三 曰く
「『死』は人生の総決算である。
 肉体の朽ち果てた後に、なお残るものは
 ただ、肉体が動いている間に為した
 真実のみである。」

2023年8月19日土曜日

サービスエリアで一句&名言

感覚と体験と高きに登る
秋の峰和音が色となりにけり
ポリフォニックに囲まれた白秋の音
(ポリフォニー)音が色色が音へと奏でられ(無季句)
遠回りした母への想い秋の色

■プレバト纏め 2023年8月17日
サービスエリアで一句

永世名人ジュニアのお手本
千原ジュニア
どんぐり七つ饂飩二杯に箸三膳 
(意図的に読者の読みを誘導する企みに拍手。
 「に」以外は名詞と数詞が3つずつの構成。
 映像・人物・会話・心情を想像させている。)

特待生昇格試験
森迫永依
残暑の敗野球帽の白昏(くら)し
添削
(六六五の破調の句。
 「昏し」で負け・沈んでいることを表現。
 季語と「昏し」と描写することで「敗」はやり過ぎ。
 内容全体が重苦しいため短調の調べにするとよい。)
野球帽の白昏く残暑のバスよ

武田鉄矢
空き瓶に草の花ゆれ手を洗う 
(「トイレ」とは記されていないがトイレだと解かる。
 季語「草の花」が良い効果を生んでいる。)

1位 高島礼子
夕空や助手席に捥ぎたての桃


2位 ナダル
ソーダ水大人ぶってもまだ飲めず

3位 佐野岳
天の川車窓の寝顔に夢重なる
添削
夢にまどろめば車窓の天の川

4位 糸井嘉男
甲子園寝ぼけ眼で小休憩
添削(甲子園は季語ではない。よって無季句。)
バス灼けて寝ぼけ眼の応援団

次回のお題は「アウトドアのカレー」

■名言
カーライル 曰く
「一度でも、心から
 全身全霊をもって笑ったことのある人間は
 救いがたいほどの悪人にはなれない。」

W・R・イング 曰く
「最も幸せな人は
 幸せだから幸せというだけで
 他に幸せであるための
 特別な理由を持たない人のように
 思われる。」

ウエイン・W・ダイアー
「こんなはずじゃなかったのに、、」
 という考えは捨てなさい。
 こんなはずなのだから。」

2023年8月18日金曜日

夏井いつきのよみ旅!in函館 前編&後編

甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)へ
長き夜肌香(はだか)の匂い溶けゆかん
流れる匂い温もりまでも秋思
生きているということ灯籠流し
肉体の持つ力富士の初雪
気品なき妖艶な女(ひと)秋さびし

■夏井いつきのよみ旅!In函館 前編

夏の旅カタフッてるぜ異国船   青井達史
(カタフるは船員用語 
 仕事の合間にお茶を飲みながら
 雑談する 語るということ)

違う男の影をちらつかせる   ROLAND 

梅雨晴れの朝市列は四年ぶり   浜塚大輔

啄木より長く生きた日青嵐   八木野創太
(青嵐 夏の季語)

男女の関係って入り口が大事で
わかりやすく言うと卵料理と一緒
ゆで卵は目玉焼きに変えられない
最初の関係が大切   ROLAND

ヤマセ風ゆれるハマナス母の笑み   木村マサ子

母を恋ふ詩よはまなす明日は咲け   夏井いつき

復活のいがーイガー売りに街踊る   末永玲子
(イカの事をイガーと発音する)

函館の夜景を守る七つ星   岡本啓吾
(マイワシの背中に斑点が7つあるのでナナツボシという別名がある)

■夏井いつきのよみ旅!In函館 後編

五稜郭だけに死角がない

HAKODADIやペルリ訛りし皐月晴れ   井上能孝

風薫る吾子抱き歩く五稜郭   藤井綾子

薫風に躍動する大漁旗(はた)の波   永田由紀

蒲生寛之

人間に生まれた以上 地球の1個や2個
幸せにして死んでいきたい   ROLAND

言わないでいってらっしゃいすきまかぜ   下沢杏奈

全荘民に告ぐ薫風を追ひかけろ   夏井いつき

永き夢炎夏彩り靡(なび)く推し   徳原弥彦

母の日のロングコートに跳ねた泥   坂井伶衣
ローファーが向かい合わせで反射する靴越しの君何を見てるの
進んでる私の前をのそのそと早く進めよしわくちゃじじい
坂井伶衣

俳句ひとくちMEMO
俳句:五・七・五
短歌:五・七・五・七・七
短歌の七・七は自分の心情を語りやすい
自分の思いをたっぷり語りたい人は短歌に向いている
恥ずかしくて言えない人はそこまで言いたくないんだよ
パンッ!みたいな人は五・七・五で足りちゃう

2023年8月17日木曜日

丹下健三の言葉&虫めずる日本の人々&格助詞「に」を掘り下げるその④

甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)へ
ざわめきの美学示さん秋の色
秋の日や不協和音のこすれ合い
揺らめきてまた揺らめきて夜長かな
秋の宵妖しき笑みの振り返る
秋の朝生々しさをまざまざと

■新美の巨人 より
丹下健三氏の言葉
(ル・コルビュジエの)作品を見ると
明らかに人の心を揺するような何かがある
この人の心を動かす何か 
それを忘れてしまったら
建築など一体何であろうか

平和は訪れて来るものではなく
闘いとらなければならないものである
平和は自然からも神からも与えられるものではなく
人々が実践的に創り出してゆくものである
平和を祈念するための施設も
平和を創り出すといふ
建設的な意味を
もつものでなければならない

■虫めづる日本の人々 より
おほかたの秋の別れも悲しきに鳴く音(ね)な添へそ野辺の松虫
六条御息所

喜多川歌麿 夏姿美人図
恋し恋しと泣く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす
江戸のどどいつ

■夏井いつき俳句チャンネル
格助詞「に」を掘り下げるその④
【資格を持つ意・変化する結果・動作/状態の行われ方/あり方】

⑧ある資格を持つという意を表す
ごほうび千円もらう

皆勤に賞せられたる花の雨
成人に限る入場花の宵

⑨変化する結果を表す
学者なる
なりたい

六月の風になるてふしのひとつ
犬に出す男の昼のひやそうめん

⑩動作状態の行われ方あり方を表す
左右ゆれる
ぴかぴかに光る

扇風機上下に動く時々飛ぶ
ぴんぴんに届く無心や月涼し
ぐちゃぐちゃに破くテストや熱帯夜

2023年8月16日水曜日

こころの時代 野見山暁治

甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)へ
盆の月女のにほいぷんぷんと
揺らぎある風情哀れ寒蝉(かんせん)鳴く
秋暑し生々しさと醜さと
長き夜溶けゆくにほいこぼれをり
にほい立つ牡丹の花の怪しさよ

■こころの時代 
100年のアトリエ 画家 野見山暁治
僕の中に「これ」というものがあって
それをみんなに引っ張り出して見せたくて
引っ張り出そうとしている
やっぱり美しいものなんだろうけど そういう世界は
「私の中にあるのはこういうものなんだよ」と
それをいろいろ色を塗って試してる
「ああこれなんだ」と言うまでみんなに見せたいな
それが絵を描いていることなんじゃないか

上手くいってるって何でしょうね
上手くいってるっていうのは何のことだろう?という気がする

今は手もあまり動かないし気持ちも画面の中に入って行かない
早く早くという気持ちがあり過ぎる
早くしないといつまでも終わらないよと
内側から急かされている

今にして思えば何かやっぱり
ひとつ大事なものが欠けていたなという気がする

絵描きが絵だけというのはむなしいんだよ

僕は今までこの歳になるまでだいたい人の一生だから
このくらい人間は一生のうちに人と会い人と別れるのか
人間というのはこの世という舞台で
「はいあなたの出番ですよ」と出されて役割が終わるまで
というのは今みんな亡くなってるもんだから
きちんと一個の人が舞台に現れて踊って消えていくまでが
それが非常に面白い
この人は僕を憎んでいたけれどあの人が僕の望みを
(叶えたとして)それは果たして良かったかどうか
だから不幸だと思ってもその時の不幸の役をやって
一幕終わって次の幕の時はもう違うんだから
そうなってみるとあの時困ったことも
嬉しかったことも幸不幸なんて別に作りものだなと

「若い時は世の中を自分は寂しいと思った
ああ人生というのはこんなに寂しいのか」
つまり「若い時は世の中を自分は寂しいと思った
ああ人生というのはこんなに寂しいのか」
「俺は寂しいと若かった歳とってきたら寂しさが変わってきた」と
椎名其二(フランス文化研究者)
どう変わってきたんですか❓
「この宇宙は寂しいものだと思うようになった」
違いますか❓って言ったら
「自分が寂しいのと、宇宙が寂しいのとは違う」
と言う
そこまで来たんだからもっと人が長生きするだけ生きて
どのように寂しさが移り変わっていくのかそれを見てみたい
例えば苦しいなら苦しいとか歳をとって体が辛いとか
辛いというのはどういうことかそのものを見極めてみたい
なにもかもそういうふうに
「せっかくうまれてきたんだから
みんな知ってからしにたいと思うんだよね」と
それを聞いてから私もそうなってすぐ真似するから
だからこれからはどんなに辛くても
つまりだけどどんどんどんどん辛くなくなってきた
楽天的になってきたああみんな芝居の脚本通りじゃないかと

絵というのは一番いけないのはうまそうに描こうとすること
絵というのは誰でも描けますよってっを軽蔑するおかしな世界
だから絵というのは特殊なもんだけど

いいですよ こうやってね
絵を描いてて日が暮れて
暮れなずんだところでひとりでこうやって居たら
なんとなく
これから東京へ戻ろうかなとはあんまり思わなくなるね
これぐらいならこのままでいいよと
だって栄光やお金はこの世の物だからね
もうこの世から去る人はそういう物はなにも
ああここはこの世の事だったんだなと思う
例えば僕がこの椅子がとても好きでも
僕の方から消えるから
何ひとつ自分の物はない

僕はケチだから戴いた命容易には離さない

2023年8月15日火曜日

テーマ「怒っていたこと」

秋声やサンドバックにされたよな
父嫌うDNAよ月渡る
秋の朝遮光シートで応戦す
(エゴン・シーレ)悩んでも病んでいないおけら鳴く
分裂から崩壊へと月更(ふ)くる

■NHK短歌 テーマ「怒っていたこと」
選者 山崎聡子 ゲスト 関取花 司会 ヒコロヒー
第二週の年間テーマは「伝えられなかった思い」

そうか、僕は怒りたかったのだ、
ずっと。
樹を切り倒すように話した
田村穂隆

あの子はいいな 作詞・作曲 関取花
あの子はいいな あの子はいいな
高い部屋 高い服 高い飯食って
満たされてんだ 満たされてんだ
なんでそんな金持ってんだ
見てりゃわかるさ 身の丈以上だ
持て余してるから絶妙にダサいな
なんか臭うな 内緒にするから
一杯飲みに行かないか

▪つぶやきを短歌に
sekitorihana
髪を切った時
すぐに「失恋した?」と
聞かれたりすると
なんかイラッとする
痩せた時真っ先に
「好きな人でもできた?」と
聞かれるのとかも
勝手に決めつけるなよ!

すみずみまで私のからだ切りたての髪の手櫛で整えてゆく
山崎聡子

▪テレビ歌会
入選九首 テーマ「怒っていたこと」
「お姉ちゃんでしょ」と言われて奪われたケーキのいちごは心臓の色
君村類
怒っていることを忘れてゆくまでの吾子よ炎のように生まれて
西鎮(しゃぁちん)
いつもより硬く仕上げたリゾットの芯に埋め込むあなたへの違和
奈々帆
大声を制したことのただ一度あって我が身の氷河に気づく
鳥原さみ
二席 私 母にあるウェルニッケ野が火事になりまた兄の名でぼくは呼ばれる
雨雨雨汰(ウェルニッケ野 脳の領域の一部 言語を理解する役割を持つ)
一席 言わないでいる優しさを選んだ日あさりの味噌汁ひどくうるさい
芍薬
 いつもとはちがう食器を洗う音を結界として母の不機嫌
石川真琴
三席 自分への怒りだんだん胃に溜まり反芻動物になっている午后(ごご)
稲山博司
頷いてカウンセラーは抜いてゆく一つまた一つ怒りの破片
藤田晋一

▪関取花さんの「怒っていたこと」
「思ってたよりもお綺麗ですね」って逆に今までどう思ってた?
関取花

▪ことばのバトン
盤駒がある生まれたる家   先﨑学

上の空グラスホッパーならばただ
(短歌AI 朝日新聞社 メディア研究開発センター)浦川通

2023年8月14日月曜日

兼題「鳳仙花」&名言

鰯雲あなたの為と言われても
蚯蚓鳴く一旦穴は塞がねば
畑の秋果手にかけるほど輝けり
秋澄むや未来を拓く可能性
知り合えば知り合うほどに秋日和

■NHK俳句 兼題「鳳仙花(ほうせんか)」
選者 山田佳乃 ゲスト 森公美子 司会 柴田英嗣
第二週の年間テーマは「俳句とエコロジー」

爪紅(鳳仙花の別名 つまべに・つまぐれ・つまくれなゐ などと読む)
沖縄の民謡「てぃんさぐぬ花」は「鳳仙花の花」のこと
鳳仙花の花を爪に染めるように
親の教えも心に染めましょう

▪名句de穴埋めクイズ
鳳仙花小さな▢が干してある   石川須賀子
▢は靴

爪ぐれに爪そめ女囚▢   小島猊歩
▢はあどけなし

▪特選六句発表 兼題「鳳仙花」
鳳仙花遠く筑波に種飛ばし   小田和夫
鳳仙花見知らぬ人の住む生家   藤井孝弘
母の色わたしの色や鳳仙花   関津和子
枝折戸(しおりど)の一歩に弾け鳳仙花   松山牧子
風と風つなげて揺れる鳳仙花   山上陽太郎
つなべにや虫養(やしな)ひのドロップス   関久美子

▪夏井家伝授 家藤正人&中西アルノ
0から俳句
0から俳句ポイント
季語に触れることが大事

▪ゲストが一句披露
雨風や凌いで立ちて鳳仙花   森公美子
添削(この句では切れ字「や」は使わない方がよい。)
雨風凌いで立ちて鳳仙花

▪特選三句発表 
三席 よそゆきの言葉で遊ぶ鳳仙花   永田芳子
二席 鳳仙花眠るようなる母の爪   我妻敬子
一席 女子寮の朝は賑やか鳳仙花   箱石敏子

▪柴田の歩み
今は「や」へのあこがれは捨てましょう

■名言
オグ・マンディーノ 曰く
「嫌々働くことも、
 感謝しながら働くこともできる。
 人間らしく働くことも、
 まるで動物のように働くこともできる。」

ジョセフ・マーフィー 曰く
「人は誰でも
 自分がそうしたいと思わなければ
 本当の意味では動きません。」

スティーブンソン 曰く
「我々のつとめは成功にあらず、
 失敗にたゆまずして
 更に前に進むことにある。」

2023年8月13日日曜日

ロッチと子羊51&名言

完全を目指す心や星月夜
秋の朝謙虚に学び今日を行く
成長し続ける人であれ子規忌
不完全集まり進む秋高し
空澄むや見えない言葉伝えゆく

■ロッチと子羊51
▪テンションのコントロールができない
世界は2本の道でできている
「あるの道」「あらぬの道」
パルメニデス哲学の要約

あるの道(真理の道)不動の現実
あらぬの道(思い込みの道)存在しない

あらぬの道を歩くが故に悩んでいる

いつの時代でもどこの国の人でも
成立する共通の事実

感覚のせいで見えないことがある
感じたテンションも感覚も全く当てにならない
テンションの感覚は人によって違う

スポーツ選手がゾーンに入る
集中と脱力が同時に起きている状態
最高のPerformanceを出しやすい
フロー状態と言う人もいる
コントロールを手放した自然体の状態とも言い換えられる
自然に楽しんでいる姿を見せることにより
もっと自然にできてその結果お客さんに伝わっていくのでは❓

▪自分より他人の楽しさを優先してしまう
自分のネガとポジをどう捉えるか❓

ポジティブとネガティブはそのままで良いのです
ただしレスリングのように構えていれば
ネガとポジのバランスが取れるでしょう
マルクス・アウレリウス哲学の要約

ネガとポジは表裏一体 対の関係
どっちか一方だけだとうまくいくということではない
レスリングは攻めと受けの攻防戦

元気な時に相手を助けてあげるために
疲れている時はあえて断る
そうすることで良いポジを相手に与えられる
常にポジティブである必要はない
良い未来を想像して断る

■名言
開高健 曰く
「上を見て生きる、下を見て暮らすんや。
 ほとんどはその逆なんや。
 要するに志ということ。生活とはそういうこと。」

志賀直哉 曰く
「幸福というものは受けるべきもので
 求めるべき性質のものではない。
 求めて得らるるものは幸福にあらずして
   快楽なり。」

正岡子規 曰く
「禅の悟りとは、いつでもどこでも
 死ぬる覚悟ができることだと思っていたが、
 よく考えてみると、それは大変な誤りで、
 いかなる場合でも、
 平気で生きることであることがわかった。」

2023年8月12日土曜日

にっぽん百低山「眉山・徳島」&吊り橋で一句

茶筅の描く指頭芸術秋の月
秋の空竹見極めて竹活かし
弧を描く茶筅素早く秋点前
茶筅から昔人馳せたり鳥威し(おどし)
秋興や宇宙にひとつの茶筅かな
(表千家)盆点前握る煤竹(すすだけ)秋独り

■にっぽん百低山「眉山・徳島」より
眉のごと雲居(くもい)に見ゆる阿波の山懸けて漕ぐ舟泊り知らずも
船王(ふなのおおきみ)

眉山濃し秘かに灯す寒椿   吉田類

■プレバト纏め 2023年8月10日
吊り橋で一句

永世名人 村上のお手本
村上健志
吊橋に四つの碇鰯雲
(シンプルだが過不足がない)

永世名人への道
横尾渉
秋光の跳ね橋ドローン追うチワワ 

特待生昇格試験
馬場典子
かなかなの遠のいてゆくかずら橋 
(かなかなは夏の季語 蜩の傍題
 祖谷のかずら橋 徳島県三好市 ツタを使った原始的な吊り橋)

1位 田辺智加
吊り橋や覚悟を決める鰯雲

2位 伊藤俊介
夏空の青だけ見てと手を引く君よ
添削(名詞止めにするとよい)
夏空の青だけ見てと手を引く君

3位 河井ゆずる
秋麗や五十鈴の緒の手光射す
添削
秋麗やひかりに揺るる五十鈴の緒

4位 新山
高秋の吊り橋ややにしがみつき
添削(高秋とは秋の季語 秋に空が澄んで高く感じられること
   「やや」は誤読される)
高秋の吊り橋赤子ぎゅっと抱く

次回の兼題は「サービスエリア」

2023年8月11日金曜日

俳句×SDGs&「煙草の花」&名言

語尾延ばす人多かりき団扇置く
(セガンティーニ)秋の空上へ上へと移り住む
ガウディーの与えし希望秋の星
台風禍ボリューム上げど風の音
パナシとの応戦続く盆用意

■夏井いつき俳句チャンネル
【俳句×SDGs】お待たせしました!結果発表!【兼題「牧開」】

牧開 仲春
厩(うまや)出しした牛馬を飼育のために
春の若草萌える牧場へ放つ、放牧地開きのこと

南麻理江さん選
牧開き部族代表留学生   柿司十六
💮飛行機に怯えぬ空や牧開き   藤田ゆきまち

食む風のやがて濁音牧開   加座みつほ
布おむつ叩いて干して牧開   明惟久里

夏井いつき選
糞焚(く)べて湧き水沸かす牧開   メレンゲたこ焼き

家藤正人選
まきびらきうちゅうのはてにあるじゃぐち   銀紙

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク 「煙草の花」

当然煙草も植物ですから花はあるのですが
あまりそれを意識したことはないですね
「煙草の花」は晩夏から初秋にかけて
薄紅色の漏斗(ろうと)状の花をつけると
歳時記には解説があります
「煙草の花」そして葉っぱ全体に
ニコチンが含まれている訳ですが
特に葉っぱに強いニコチンが含まれており
それを採取して煙草を作っていくようです
この「煙草の花」というのは
そのための栽培用煙草ではなく
鑑賞用の花として育てられているものを
「煙草の花」と言うようです

■名言
岡本敏子 曰く
「女には理屈では納得できない、
 独特の脈略というものがあるのよ。」

大原敬子 曰く
「人がなんといおうが、
 自分の人生は、
 自分の歩幅で歩くことが
 大事です。」

本田圭佑 曰く
「人は身体も脳も
 一定以上の負荷をかけないと成長しない。」

2023年8月10日木曜日

おくのほそ道&稚児俳句

文月や繰り返される言葉あり
秋麗歌舞曲音の拍刻む
家光の描く主株待兎(しゅしゅたいと)秋の山
星月夜生きる時間を閉じ込めて
秋の声令和の(渡辺)崋山何処にか

■おくのほそ道 時をめぐる絶景旅 より
松尾芭蕉の句
過ぎゆく月日は永遠の旅人
船を漕ぎ馬を曳く人生も
毎日が旅であり 旅が住まいなのだ

判官贔屓(ほうがんびいき)
源義経への同情 弱者・敗者を声援する感情

夏草や兵どもが夢の跡

五月雨の降残してや光堂

蚤虱(のみしらみ)馬の尿(ばり)する枕元

まゆはきを俤(おもかげ)にして紅粉(べに)の花

閑(すずか)さや岩にしみ入る蝉の声

不易流行
変わらないものを尊び変わることをおそれないという考え

五月雨をあつめてはやし最上川

日々旅にして旅を栖(すみか)とす

雲の峯(みね)幾つ崩れて月の山

暑き日を海にいれたり最上川

荒海や佐渡によこたふ天河(あまのがわ)

■ワルイコあつまれ 
▪稚児俳句 より
辻内京子先生 髙柳克弘先生 松尾葉翔

風に髪ぺちゃんこそれな踊りつつ   京子
(秋の季語 踊り 盆踊りのこと)

まだ遊び足りないそれな揚げ花火   克弘
(夏の季語 揚げ花火 打ち上げ花火)

「でかい皮むけたよ」「それな」夕涼み 松尾葉翔
(夏の季語 夕涼み)

添削
皮むけてそれなと笑う日焼け子(ご)ら   髙柳克弘
(夏の季語 日焼け子 日焼けをした子供)

腕の皮むけたよそれな氷水   辻内京子
(夏の季語 氷水 かき氷)

季語が動かない 最適な季語を使っていること

友だちとそれなといえる最高だ   松尾葉翔

▪解談算数 より
10+🌞+10+🌙=朝

2023年8月9日水曜日

題「ガラス」

下駄の音ぞめき聞こえて秋の風
空より見つむ月下美人の強き香
盆の月思い募りて手を合わせ
秋高し利己主義構え肩で風
盆の月あまねし命愛おしく
(ビゴー)風刺画の無限運動盆波よ

■NHK短歌 題「ガラス」
選者 川野里子 レギュラー 内藤秀一郎 深尾あむ 司会 ヒコロヒー
三十一音の物語 年間テーマ「私に会おう」今回「運命の結句」

ガラス街のあちこちに映りまた消えてわたしが隠して歩む心臓
川野里子                     ⇧結句

▪入選六首 題「ガラス(硝子)」
夏空がフロントガラスにへばりつく補助ブレーキを不意に踏まれて
佐藤研哉
硝子戸をわたし全てで押し開ける目には見えないものほど重い
小金森まき
一席 未来から来ました、みたいな顔をしてレトロガラスの茶店に入る
三浦直子
唐突にガラスの破片現れぬあの日の怒り閉じ込められて
西村愛美
前面にガラスを入れて特急に命吹き込む車両工場
井深靖久
窓ガラスに小さな羽毛ゆれていてまだ温かな雀のむくろ
椎名ろざな (むくろ 死体・なきがら)

▪秀一郎あむのココカラ短歌
運命の結句を探そう
ひとつずつ赤ピーマンを切り分ける夏の盛りの検死の手つき
佐藤弓生

心底と言うとき急に深くなるこころに沈めたし観覧車
大森静佳

ガラスってなんだか少し怖いけど今日も最高な笑顔を見せる
内藤秀一郎 添削(景色を見せる) 
ガラスに映るってなんだか少し怖いけど今日も最高な笑顔を見せる

窓の外ながめるふりしてこっそりとガラスに映る恋愛ドラマ
深尾あむ 添削(こっそり映るは文法的におかしい)
窓の外ながめるふりしてこっそりとガラスに見ている恋愛ドラマ

▪ことばのバトン
もちもちでつつんだ幸せほおばって 小宮山碧生

(夕方に明日は和食と紙に書き袋とじして封じ手気分)
盤駒がある生まれたる家   先崎学

2023年8月8日火曜日

兼題「朝顔」

流れ落つ止められぬ汗目に入りて
(エゴン・)シーレのひたる悲哀大袈裟大暑かな
(ハン・ファン・)メーヘレン怒り燃やさん油照り
(クロード・モネ)風死すや赦し溶かしてともに住む
(クロード・モネ)日傘さすはじける笑いなきままに

■NHK俳句 兼題「朝顔」
選者 夏井いつき レギュラー 家藤正人 中西アルノ 司会 柴田英嗣
年間テーマ 凡人からの脱出 

凡の段
天心へ朝顔蔓(つる)を伸ばしけり   木下風民
朝顔や蔓を伸ばして空を打つ   鈴木マリ子
朝顔の蔓を伸ばして空掴む   磯田凛
朝顔の蔓伸びて青空を掴む   丁鼻トゥエルブ
朝顔や空掴まんと蔓に蔓   木村祐子
朝顔の蔓の手伸びて空仰ぐ   高橋真澄
朝顔のつるを登って大空へ   すずき
朝顔のつるが指差す青空よ   高辺知子
朝顔や蔓巻きながら天めざす   井上幹彦

「つる」「天」「空」へ向かう様子を詠んだ句
動詞は似たものになりがち

半ボンの段
朝顔のつる左巻き天へ天へ   榎並しんさ
朝顔の空へ空へと渋滞中   久保田真理
朝顔や宙(ちゅう)を掴みて在所なき   菊池忠志
朝顔や空をまさぐる淡きつる   岸田朋香

脱ボンの段
空に溺れて朝顔の蔓の浮く   登りびと

▪兼題「朝顔」である技法を学ぶ!
一物仕立て
季語が本来内包する情報だけで句を詠む技法

狭義(きょうぎ) 狭い意味での一物仕立て
朝顔のすがしきはなればなれかな   ひねもす

広義 広い意味での一物仕立て
空に溺れて朝顔の蔓の浮く   登りびと
朝顔の蕾は夜に巻く発条(ぜんまい)   岩のじ

取り合わせ
朝顔や糠へ肘まで突っ込んで   北欧小町

▪夏井家伝来 家藤正人&中西アルノ
0から俳句
一物仕立て
讃美歌や足長くらげ掌にとろけ   三橋鷹女
取り合わせ 
海月が季語 季語に関係のない讃美歌が取り合わされている

沈みゆく海月みづいろとなりて消ゆ   山口青邨
海月のことだけを詠んでいる一物仕立て

灯台が赤くて海月身をしぼる   世古諏訪
取り合わせ
「灯台」というモノは生き物そのものに含まれていない

0から俳句POINT
「季語」を集中して観察する・五感をフル稼働

▪特選六句 発表 兼題「朝顔」
朝顔の骨にこたへるほど青し   綾竹あんどれ
朝顔の蔓シーサーで折りかへす   河添美羽
あさがほの家父親が希臘人(ぎりしゃじん)   はせがわ水素
朝顔の冷えて盲学校の朝   磐田小(いわたしょう)
朝顔や鳴らさぬやうに鉄階段   円堂実花
まだ患者来ぬ朝顔に水をやる   石橋正比古

▪柴田の歩み
動詞使わず取り合わす

2023年8月7日月曜日

炎帝戦 行きつけのお店で一句

中園孔二氏へ
この道の行き先何処(いずこ)夏の潮
夏の浜他者を求めて彷徨いて
夏の夜瀬戸内を迷い込む
夏の星まばゆき色をばらまいて
暑き陽盛り二十五歳を生き抜かん

■プレバト纏め 2023年8月3日
炎帝戦 行きつけのお店で一句

1位 梅沢富美男
水貝のさくりと清くまず一献

2位 中田喜子
呼び鈴のはんなり抜けて湯びき鱧

3位 かたせ梨乃
鱧の皮あの娘再婚したらしい

4位 横尾渉
古都眩し夜は酒場の氷店

5位 伊集院光
土用鰻大将すまん小ジョッキ

6位 藤本敏史
土地区画整理末伏のタッカンマリ
添削
地上げの噂末伏のタッカンマリ

7位 村上健志
じゃあそれとガツ刺し夕涼の酒場
添削
じゃあそれとガツ刺し夕涼の屋台
じゃあそれとガツ刺し夕涼の中洲

8位 千原ジュニア
焼酎やけふは店主に辞儀深う

9位 立川志らく
西日溜める店影だけが呑んでる
添削
西日いつも影だけが呑んでる

10位 春風亭昇吉
キープボトル墓碑銘となる夏のBAR
添削
夏なるBAR墓碑銘となるボトル

次回の兼題は「吊り橋」
11位以下はTVerより

11位 森口瑤子
命日を集う紫陽花のレストラン

12位 千賀健永
鰻待つ今日は台本家に置き


13位 森迫永依
風青しカンロ杓子の三拍子


14位 星野真里
混濁のスープ青山椒の蒼

15位 嶋佐和也
夏惜しむキープボトルを一人呑む

2023年8月6日日曜日

言葉にできない、そんな夜。36

中園孔二氏へ
部屋全体をキャンパスとする夏の夜
色と線重ね合わせん夏の空
夏の海多層構造描き切る
単純化した人描く夏の浜
夏の雲寂しい気持ちになりにけり

■言葉にできない、そんな夜。36
ゲスト 松下洸平 美村里江 桐山照史 朝井リョウ
司会 小沢一敬

▪今夜のテーマ 待ち遠しく思うとき
小沢メモ
▢前夜は必ず寝不足楽しみで楽しみで 
宇多田ヒカル「虹色バス」
▢の日の前の様に始まる直前が一番楽しい 
平井堅「片方ずつのイヤフォン」
▢の前の日は妙にむじょうにはしゃいでしまう用意晴れ思い
GreeeeN「少年が故の情熱」
▢の前のようになかなか眠りつけない 嬉し懐かしいこの胸を揺り起こす風
安全地帯「雨のち晴れ」
▢は遠足でした

二月になったばかりの頃は
「1」 から「28」まで
並んだ数字の中から、
えーと…と探していたが、
いまはもう迷うことはない。
カレンダーを振り向くと、
すぐに「14」の数字が
目に飛び込んでくる。
重松清「どきどき」

どんなことがあっても
家に帰るまでは引出物は見まいと
心に誓ったのだが、
芝のプリンスホテルから
六本木まで我慢をしたら、
ご不浄をこらえている時のように
鳥肌が立ってきた。
向田邦子「父の詫び状」

カラスにとってのゴミくらい好き 朝井リョウ

特に三月十九日、
彼を載せた船が
シアトルを出てから、
伸子は圧搾されて来た
待ち遠しさで、
潰れそうに感じだした。
宮本百合子「伸子」

ジリジリ迫ってくる気持ちが表現されている 朝井リョウ

▪携帯をなくした時

すん 美村里江

誰とも連絡が取れないと分かった時
真っ先に浮かんだ君の顔
「あぁ…オレ好きなんだな」って想い
が確信に変わった。 松下洸平

携帯を使ってた!ではなく
携帯「に」使われてた。 桐山照史

たった今私は❝携帯をなくした人❞でしかなくなった。
毎朝有酸素運動をしていようが
シャンプーの底まで掃除していようが
すべての歴史は焼け落ち、私は今
❝携帯をなくした人❞の顔面を生きている。 朝井リョウ

アン ドロン イド 小沢一敬

▪まだ、バイバイしたくない気持ち

バイバイしたくないから倍、倍メガジョッキ 桐山照史


自動販売機 缶コーヒー
温かいの買うの間違え冷たい
でも、二人暖か
君は自転車 私は電車で帰宅
で とりあえず来た電車は見送った
次の電車に 乗らなきゃたぶんヤバい
泣きそうな私を許して
君はどんな気持ちでいるの
作詞 つんく 「君は自転車 私は電車で帰宅」

1ミリの感情の動きが世界と連動している 朝井リョウ

できるだけホームに着くのが
遅くなるように、
ちいさな歩幅でゆっくりと歩くのだ。
豊樹は自分たちだけが、
すごい速度で動いている世界から
取り残されたように感じた。
(中略)
発車時刻まであと十五分。
豊樹の胸の砂時計は、
雪崩の勢いで時を刻み始めた。
石田衣良「1ポンドの悲しみ」

さようならすぎるのは、きらいです。
だから駅までは送りません。
なにげなく、それぞれの暮らしに帰るだけ。
そう決めるのに改札まで行ってしまう。
手を振って、きみが見えなくなった瞬間、
ぼくのすべてが静まり返る。
次に会えるのは、いつでしょう。
凪良ゆう

改札口が決壊
暮らしは時の流れを感じる事が出来る言葉だと思った 朝井リョウ

シーズン3でまた会いましょう 小沢一敬

2023年8月5日土曜日

呼び方&理想的本箱&「田水沸く」

川向いぞめき溢れん阿波の夏
お尻ふりふり忙し子育て通し鴨
電柱へ凌霄花(のうぜんかずら)登り詰む
令和五年飲んで汗してまた飲んで
令和五年氷菓含みて目を閉じて

■まさか!知りませんでした…。
「タンバリン」「pH(ペーハー)」って今は言わないの⁉いつの間にか変わっていた呼び方30選
https://www.walkerplus.com/trend/matome/article/1144355/

■理想的本箱 君だけのブックガイド
選書テーマ 宗教に悩んだ時に読む本

▪「神様」のいる家で育ちました
著者 菊池真理子

信仰と家族のはざまで
悩み抜いた子ども達の声

▪宗教を「信じる」とはどういうことか
著者 石川明人

主教という営みの
曖昧さやわからなさと向き合う

火が燃えている
火が燃えていると信じる(こういう人はいない)
「正しいことは信じる必要がない」
神はいない❓
十分な自信がないから信じると口にしているのか❓
神は善であり全能であり愛である
「苦しみ」「悲しみ」が存在するという矛盾

マザー・テレサの言葉 里見貞代 訳
わたくしの魂のなかで神の場は白紙です
わたくしの内に神は存在されません
神を欲する痛みが非常に強いので
わたくしはただただ神を求めるのですが
わたくしが感じるのは
神がわたくしを望まれないことです
神は不在です

イエス最期の言葉
「わが神、わが神、
 なぜ私をお見捨てになったのですか?」
(マルコによる福音書/マタイによる福音書)

▪ガダラの豚
著者 中島らも

人間は信じたいものを信じる

悲しみ続けるのは生きた人間のすることじゃない

水面というものはない。
それは、ただの境であって
無いけれど有るものだ
「ガダラの豚」本文より

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク「田水沸く」

夏の水の張られた青田
非常に綺麗なものですね
当然ですが田んぼに張られた水は
そのまま内側に留め置かれて
外に流れ出ていくことがない訳です
そうなると直射日光を受けて
田に張ってある水はどんどんと
温度が上がってまいります
その火傷をするくらいに熱くなった
田の水のことを「田水沸く」と言います
僕はずっと愛媛県の田舎の方で
過ごしているものですから
「田水沸く」という季語
非常に実感を伴っております
子どもの頃にちょっと触ってみたら
思わぬ熱さに「ひゃっ」と手を引っ込める
そんな記憶が蘇ってくる季語です
ある程度の年齢の方は
やってみた事あるんじゃないですかね

2023年8月4日金曜日

新宮晋&似て非なる季語「霜」・「霜柱」&「雨休」

自灯明沿って生きたし溽暑かな
灼け砂よたそがれ色の往来よ
空蝉か葉ずれなのかと耳澄ませ
(カワセミ)山女魚獲り骨を砕きて飲み込まん
(カワセミ) 叩きつけ山女魚ぐったり一気飲み

■こころの時代
風が奏でる「いのち」の賛歌 造形作家 新宮晋

風は地球の呼吸で
野山や川や海を渡って 通り過ぎてゆく
生命あるエネルギー
私にとっては不可解な
自然にとっては当然な
そこにはリズムがある
空中を飛び交っている光とか
眼には見えない磁気のようなものも含めて
うまくつかまえることのできる
アンテナを張るのが私のやりたい仕事です

雑誌「美術手帳」1967年10月号

地球のことをもっと知りたい

アートは政治でも経済でもなく利害的なものがない

風には国境がない
風には人種差別の壁もない

ハートからハートへダイレクトに伝える

根源的な人間ならわかりあえる通じ合える
そういうちからがアートだと思う

いつも考えているのは無理なこと
やれないことを考えています
やれないことはやれる
やれることをやったってしょうがないです

哲学者 梅原猛さんの評した言葉
現代人が忘れている風の美を思い起こさせる
世界の人に風の流れの意味を知らせる布教師である

新宮晋さんの作品創りに終わりはありません

これまではウォーミングアップ、これからが本番
引き継いでほしいものがある
それはこれだけ素晴らしい地球を未来へつないでほしい
バトンタッチゾーンを広げ
ゆったりとした気持ちで渡したく思っている

見えないエネルギーの存在として風がある
地球がおもしろいと思っている

■夏井いつき俳句チャンネル
【季語雑学】似て非なる季語「霜」・「霜柱」

季語には6Genreあります。 
時候 天文 地理 人事生活 動物 植物 です。

霜柱は地理 地面の現象
霜は天文 降りる 上からの現象
露は天文 地面が冷えると空気が冷えて水蒸気が水滴になる

季語の本意を勘違いしそうになります
正確に対処しなくてはいけない

■夏井いつきのおウチde俳句
一分季語ウンチク 「雨休(あめやすみ)」

ジャンルでいうと夏の人事の季語になります
「雨休「とは一体何か
単純に雨が降って学校がお休み
みたいな話ではありません
日照りが長いこと続き
雨を待ち望んでいた時に降ると
お休みにして祝うという
風習のことを「雨休」と言います
夏の雨を喜びと言えば「喜雨」と言う
天文の季語もあります
日照りが続いた時に降る喜びの雨で
「喜雨」な訳ですが
「喜雨」を喜んでお休みにする「雨休」
ということにもなってまいります
その他お盆の頃のように
のんびりとした過ごし方になるので
「雨降り盆」とも言うと
そんな傍題もあります
風習って面白いですね

2023年8月3日木曜日

100分de名著 金子みすゞ ④

(宮本祖豊師)
吾をなくし自然と一体化蒿雀(アオジ)
全ては我の中に夏の暁
利他願い日々を暮らさん夏終わる
己輝き一隅照らす花氷
我なくし自然そのまま秋を待つ

■100分de名著 金子みすゞ ④

「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」という。
(中略)
こだまでしょうか、
いいえ、誰でも。
金子みすゞ「こだまでしょうか」より

1930年3月死去
1935年雑誌「少女倶楽部」に西城八十がみすゞの詩を掲載
1957年「日本童謡集」にみすゞの「大漁」が掲載される
1970年ガリ版刷り詩集「繭と墓」刊行
1982年弟・雅輔がみすゞの詩の手帳3冊を矢崎節夫氏に渡す
    「童話」全75冊の復刻版が刊行
1984年「金子みすゞ全集」刊行
1996年小学校国語教科書にみすゞの詩が掲載される

不思議 金子みすゞ
私は不思議でたまらない、
黒い雲からふる雨が、
銀に光っていることが。
私は不思議でたまらない、
青い桑の葉食べている、
蚕が白くなることが。
私は不思議でたまらない、
だれもいじらぬ夕顔が、
ひとりでぱらりと開くのが。
私は不思議でたまらない、
誰に聞いても笑ってて
あたりまえだ、ということが。
「さみしい王女」

私と小鳥と鈴と 金子みすゞ
私が両手をひろげても
お空はちっとも飛べないが
飛べる小鳥は私のように
地面を速くは走れない
私がからだをゆすっても
きれいな音は出ないけど
あの鳴る鈴は私のように
たくさんな唄は知らないよ
鈴と、小鳥と、それから私
みんなちがって、みんないい
「さみしい王女」

こだまでしょうか 金子みすゞ
「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。
「ばか」っていうと
「ばか」っていう。
「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。
そうして、あとで
さみしくなって、
「ごめんね」っていうと
「ごめんね」っていう。
こだまでしょうか、
いいえ、誰でも。

言葉には力がある

明るい方へ 金子みすゞ
明るい方へ
明るい方へ。
一つの葉でも
陽の洩(も)るとこへ。
薮かげの草は。
明るい方へ
明るい方へ。
翅(はね)は焦(こ)げよと
灯(ひ)のあるとこへ。
夜飛ぶ虫は。
明るい方へ
明るい方へ。
一分(いちぶ)もひろく
日の射(さ)すとこへ。
都会(まち)に住む子等は。
「愛誦」昭和二年一月号

童謡は歌になったことで100年を超えて歌い継がれた

このみち 金子みすゞ
このみちのさきには、
大きな森があろうよ。
ひとりぼっちの榎(えのき)よ、
このみちをゆこうよ。
このみちのさきには、
大きな海があろうよ。
蓮池(はすいけ)のかえろ(蛙)よ、
このみちをゆこうよ。
このみちのさきには、
大きな都があろうよ。
さびしそうな案山子(かかし)よ、
このみちをゆこうよ。
このみちのさきには、
なにかなにかあろうよ。
みんなでみんなでゆこうよ、
このみちをゆこうよ。
「空のかあさま」

心に響くみすゞの詩を見つけてほしい

2023年8月2日水曜日

100分de名著 金子みすゞ ③

(宮本祖豊師)
夏の月向き合う孤独十二年
今生きることに集中夏の朝
滴りや十二年間独りぼち
生と死の間(はざま)を生きん明易し
夏の霧心見つめて籠山行(ろうざんぎょう)

■100分de名著 金子みすゞ ③

ちょいと
渚の貝がら見た間に、
あの帆はどっかへ、
行ってしまった。

夜散る花 金子みすゞ
朝のひかりに
散る花は、
雀もとびくら
してくれよ。
日ぐれの風に
散る花は、
鐘がうたって
くれるだろ。
夜散る花は
誰とあそぶ、
夜散る花は
誰とあそぶ。
「空のかあさま」

杉の木 金子みすゞ
「母さま私は何になる。」
「いまに大きくなるんです。」
杉のこどもは想います。
大きくなったらそうしたら
峠のみち百合のよな
大きな花も咲かせよし
ふもとの藪のうぐいすの
やさしい唄もおぼえよし…。」
「母さま、大きくなりました
そして私は何になる。」
杉の親木はもういない
山が答えていいました
「母さんみたいな杉の木に。」
「童話」大正十四年六月号 「童話」大正十四年七月号で廃刊

光の籠 金子みすゞ
私はいまね、小鳥なの。
夏の木のかげ、光の籠に、
みえない誰かに飼われてて、
知っているだけ唄うたう、
私はかわいい小鳥なの。
光の籠はやぶれるの、
ぱっと翅(はね)さえひろげたら。
だけど私は、おとなしく、
籠に飼われて唄ってる、
心やさしい小鳥なの。
「空のかあさま」

昭和四年 「赤い鳥」休刊 「金の星」廃刊

帆 金子みすゞ
ちょいと
渚の貝がら見た間に、
あの帆はどっかへ
行ってしまった。
こんなふうに
行ってしまった。
誰かがあったー
何かがあったー
三冊目の手書き詩集「さみしい王女」

帆 金子みすゞ
港に着いた舟の帆は、
みんな古びて黒いのに、
はるかの沖をゆく舟は、
光かがやく白い帆ばかり。
はるかの沖の、あの舟は、
いつも、港につかないで、
海とお空のさかいめばかり、
はるかに遠く行くんだよ。
かがやきながら、行くんだよ。
一冊目の手書き詩集「美しい町」

玩具のない子が 金子みすゞ
玩具のない子が
さみしけりゃ、
玩具をやったらなおるでしょう。
母さんのない子が
かなしけりゃ
母さんをあげたら嬉しいでしょう。
母さんはやさしく
髪を撫で、
玩具を箱から
こぼれてて、
それで私の
さみしいは、
何を貰うたらなおるでしょう。
「さみしい女王」

近代人の魂の飢え
満たされない「孤独」

きりぎりすの山登り 金子みすゞ
きりぎつちよん、山のぼり、
朝からとうから、山のぼり。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
山は朝日だ、野は朝露だ、
とても跳ねるぞ、元氣だぞ。
ヤ、ピントコ、ドッコイ、ピントコ、ナ。
(中略)
山は月夜だ、野は夜露、
露でものんで、寢ようかな。
アーア、アーア、あくびだ、ねむたい、ナ。

「さみしい王女」巻末手記 金子みすゞ
―できました、
できました、
かわいい詩集ができました。
我とわが身に訓(おし)うれど、
心おどらず
さみしさよ。
夏暮れ
秋もはや更(た)けぬ、
針もつひまのわが手わざ、
ただにむなしき心地する。
誰に美しょうぞ、
我さえも、心足らわず
さみしさよ。
(ああ、ついに、
登り得ずして帰り来(こ)し、
山のすがたは
雲に消ゆ。)
とにかくに
むなしきわざと知りながら、
秋の灯しの更(ふ)くるまを、
ただひたむきに
書きて来し。
明日よりは、
何を書こうぞさみしさよ。
「さみしい王女」

金子みすゞ 
1903年山口県仙崎出身
1930年3月死去(享年26)
自ら命を絶つ前日に下関の写真館で写真を撮った
死後に「詩集」が刊行された時のための写真
死後に夢を託すしかなかった

2023年8月1日火曜日

100分de名著 金子みすゞ ②

ヤマセミや山女魚(やまめ)捕らえる夏の山
2秒でゲット名手ヤマセミ夏の川
生くるため夏山今日もハンティング
限界を日々生き抜かん夏の鳥
大瑠璃(おおるり)や青をまといてピカソめく

■100分de名著 金子みすゞ ②

「金子みすゞ詩集」
そうして、そうして、神さまは、
小ちゃな蜂のなかに。

視点の逆転

轍(わだち)と子供 金子みすゞ
轍は轢(ひ)くよ、
すみれの花を、
石を轢くように。
田舎のみちで。
子供はひろう、
ちいさな石を、
花を摘みように。
都のまちで。
「空のかあさま」

おとむらい 金子みすゞ
ふみがらの、おとむらい、
鐘もならない、お伴もいない、
ほんに、さみしいおとむらい。
うす桃色のなつかしさ、
憎い、大きな、状ぶくろ、
涙ににじんだインクのあとも
封じこめた花びらも、
めらめらと、わけなく燃える、
焔(ほのお)が文字になりもせで、
すぎた、日のおもい出は、
ゆるやかに、いま
夕ぐれの空へ立ちのぼる、
「婦人画報」大正十二年九月号

上山雅輔(1905~1989)金子みすゞ(本名テル)の弟
昭和の喜劇王・古川ロッパ一座の脚本家
歌謡曲の多数作詞

さよなら 金子みすゞ
降りる子は海に、
乗る子は山に。
船はさんばしに、
さんばしは船に。
鐘の音は鐘に、
けむりは町に。
町は昼間に、
夕日は空に。
私もしましょ、
さよならしましょ。
きょうの私に
さよならしましょ。
「美しい町」

蜂と神さま 金子みすゞ
鉢はお花のなかに、
お花はお庭のなかに、
お庭は土塀のなかに、
土塀は町のなかに、
町は日本のなかに、
日本は世界のなかに、
世界は神さまのなかに。
そうして、そうして、神さまは、
小ちゃな蜂のなかに。
「空のかあさま」

もういいの 金子みすゞ
―もういいの。     現実の世界
―まあだだよ。
枇杷の木の下と、
牡丹のかげで、
かくれん坊の子供。
―もういいの。     比喩・ファンタジー
―まあだだよ。
枇杷の木の枝と、
青い実のなかで、
小鳥と枇杷と。
―もういいの。     夏と春のかくれん坊
―まあだだよ。
お空のそとと、
黒い土のなかで、
夏と、春と。
「童話」大正十五年五月号

キネマの街 金子みすゞ
あおいキネマの
月が出て
キネマの街に
なりました。

屋根に 
黒猫
居やせぬか。
こわい
マドルス
来やせぬか。
キネマがえりに
月が出て
見知らぬ街に
なりました。
「空のかあさま」

女の子 金子みすゞ
女の子って
ものは、
木のぼりしない
ものなのよ。
竹馬乗ったら
おてんばで、
打(ぶ)ち独楽するのは
お馬鹿なの。
私はこいだけ
知ってるの、
だって一ぺんずつ
叱られたから。
「空のかあさま」