幸せを遠ざける人秋黴雨(ついり)
釧路湿原のソーラーパネル秋の空
問い多し万年生徒秋の沼
歩いてくぐった夏越しの大祓い
孫の手と茅の輪くぐらん建(たて)神社
■100分de名著 サン=テグジュペリ❝人間の大地❞④人間よ、目覚めよ!
野崎歓 伊集院光 阿部みちこ
第8章 人間たちより
自分の外側にある、共通の目標で仲間と結ばれたとき、
われわれは初めて呼吸することができる。
経験は教えてくれる。愛するとは互いに見つめ合うことではなく、
ともに同じ方向を見つめることなのだと。
同じザイルでつながれ、同じ頂上をめざし、
そこで落ちあうのでなければ、仲間など存在しない。
さもなければ、この快適さの時代にあって、われわれは砂漠で
最後の食糧を分ちあうことに、なぜあれほど
大きな喜びを感じたりするのだろう。
メルモーズがアンデス山脈のチリ側に向かって、
勝利を信じて降下しつつあったときに、それは思い違いだ、
商人の手紙など運ぶのは命を懸けるに値しないだろうと
異議を唱えられたとしても、メルモーズは一笑に付しただろう。
真実、それは彼がアンデスを超えていくときに
彼の内に生まれつつあった人間なのだ。
サン=テグジュペリ作「人間の大地」野崎歓訳
愛する=生きる
自分が何を愛しているのかはわかっている。
それは生きることなのだ。
(第7章 砂漠の中心で)
彼の内に生まれつつあった人間なのだ。
野崎歓訳
サン=テグジュペリ「人間の大地」8人間たちより
飼われているアヒル
頭上を野生のカモが飛ぶのを見てアヒルが羽ばたき始める
スペイン内戦(1936~1939)
人民戦線政府に対してフランコ率いる軍部ファシストが蜂起
労働者や市民は武器を手に取り抵抗した
西洋の支配に抵抗する砂漠の民たちに
サン=テグジュペリは品位や公正さを見ている
立場を超えた様々な場所に「目覚めた人間」はいる
ヨーロッパには、いまだ意味を持たず、生れ出たいと願っている
二億の人間がいる。工業は彼らを農民が代々受け継いできた
言葉から引き離し、黒い貨車の列がひしめく操車場のような
巨大なゲットーに閉じ込めてしまった。
労働者街の奥底にいながら、彼らは目を覚まさせてほしいと願っている。
しかし、人をあざむく解決策というものがある。
制服を着せることで人を動かすことができるのは事実だ。
そうすれば彼らは軍歌を歌い、仲間同士でパンを分けあうだろう。
彼らは自らが求めるもの、普遍的なものの味わいを見出すだろう。
だが、差し出されたパンのせいで、彼らはやがて死んでいく。
木の偶像を掘り出し、かつて多少とも影響力のあった古い神話を
よみがえらせることはできるし、汎(はん)ゲルマン主義や
ローマ帝国の神秘主義を復活させることもできるだろう。
自分がドイツ人でありベートーヴェンの同国人である
という陶酔感で、ドイツ人たちを酔わせることもできる。
だが、そんな偶像は人肉をむさぼり食らう偶像である。
知識の進歩や病気の治療のために死ぬ者は、
死ぬと同時に生命に奉仕する。領土の拡大のために死ぬのは
結構なことかもしれないが、今日の戦争は、助けると言いながら
破壊する。今日ではもはや、少しばかりの血を代償に
民族全体をよみがえらせるなどということはありえない。
航空機と有毒ガス(イペリット)が登場して以来、
戦争は血まみれの外科手術以外の何ものでもなくなった。
各陣営はコンクリートの壁の背後に身を隠しつつ、
仕方なしに夜な夜な戦隊を発進させ、相手の内臓を爆撃し、
生命中枢を吹き飛ばし、生産と流通を麻痺させる。
朽ち果てずに残った側が勝利者となる。だが敵対する双方は
ともに朽ち果てるのだ。
目覚めたい人間を「欺く」解決策
排外主義や人種差別主義が人々を駆り立てていった
フランスでも極右勢力が台頭
移民の排斥を叫ぶファシズムにかぶれる人が増えてきていた
砂漠になってしまった世界で、われわれは
再び仲間を見つけたいと渇望していた。
そして仲間同士で分ちあうパンの味ゆえに、
戦争の価値を認めるようになった。しかし、
同じ目標に向かって競争する中で互いに寄せ合う
肩の温もりを見出すのに、戦争など必要ない。
なぜ憎み合うのか?同じ惑星によって運ばれ、同じ船の
乗組員であるわれわれは運命をともにしている。
諸文明が対立しあうのは、新たな統合を促すためならば
よしとしても、互いをむさぼり食らうなど言語道断だ。
分断を乗り越えようとする思想
1840年フランスはナチスドイツに占領される
サン=テグジュペリはアメリカの亡命
そういう中で書かれたのが「星の王子さま」
「ちいさな王子」との出会い
1935年
彼らは、もはや人間らしさを半ば失っているように見えた
彼らに取りまとめることができたのは台所用具、毛布、カーテンだけで、
ぞんざいに紐をかけた荷物から中身がはみ出していた。
だが、フランスでの四、五年の暮らしで、撫でたり
かわいがったりしたもの、なつかせることのできた
猫や犬やゼラニウムは、すべて手放さなければならず、
炊事用具一式だけを持って出たのだった。
ああ!なんと愛らしい顔だこと!この夫婦から、
一種の黄金の果実が生まれた。
私はそのなめかな額、かわいらしくとがらせた口元を
のぞき込み、こう思った。
これぞ音楽家の顔、これぞ子どものモーツァルト、
すばらしい人生の約束だ。
まさに伝説の中のちいさな王子といったふうではないか。
庭に突然変異で新種のバラが生まれれば、庭師たちはみな
胸を躍らせる。そのバラは隔離され培養され、大切にされる。
だが、人間には庭師はいない。子どものモーツァルトは、
ほかの子どもたちと同じようにプレス機にかけられるだろう。
モーツァルトは死を宣告されている。
ポーランド人労働者の運命 外国人嫌悪 排外主義
フランス政府も帰国を促した
1940年 ナチスドイツがポーランドを併合
「精神」だけが、その息吹が粘土の上に通うならば、
「人間」を創造することができる。
(野崎歓訳サン=テグジュペリ「人間の大地」8人間たちより
神である主は、土の塵で人を形づくり、
その鼻に命の息を吹き込まれた。
(創世記2章7節 聖書教会共同訳)
精神 esprit 語源 spiritus=神の息吹
人間の精神が何を目指すかが人間を目覚めさせる
憎しみの本であると同時に希望の本である 野崎歓氏
アクチュアリティを持っている
「アクチュアリティ」(actuality)とは現実性、現実、実在といった
意味を持つ英単語で、主に個人的な経験や主観的な認識を通して
知覚される現実性を指す言葉。
1944年7月31日偵察飛行中消息を絶つ(44歳)
われわれは夜の闇の中に橋を架ける必要がある。
それに気づいていないのは、身勝手とわかっていながら、
無関心を自らの知恵としている者たちだけだ。
だがすべてはそんな知恵を否定している!
仲間たちよ、わが仲間たちよ、きみたちなら証言してくれるはずだ。
われわれが幸せだと感じたのは、いったいどんな時だったのか?
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