慈悲という寫実(しゃじつ)の極致秋の空
庭の隅二輪の桔梗寄り添わん
葉月末十牛之庭(じゅうぎゅうのにわ)染め始む
圓光寺(えんこうじ)水琴窟の響きかな
圓光寺苔と紅葉と禅を知る
■あの本、読みました?詩人・谷川俊太郎特集!
俵万智&高橋源一郎が語る魅力&秘話
高橋源一郎 俵万智 鈴木保奈美 山本倖千恵 林祐輔P
中島みゆきとの対話集
40年来の親交がある作家・高橋源一郎
国民的詩人の知られざる素顔を語る
谷川俊太郎が最期に遺した詩集
「今日は昨日のつづき どこからか言葉が」
魅了された4人の表現者たちが語った 国民的詩人・谷川俊太郎の魅力
朝のリレー 谷川俊太郎
カムチャツカの若者が
きりんの夢を見ているとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は
柱頭を染める朝日にウインクする
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている
ぼくらは朝をリレーするのだ
軽度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚時計のベルが鳴ってる
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ
谷川俊太郎・中島みゆき著/朝日出版社
谷川 じゃ、「うらみ・ます」なんかは、どうなんですか。
あれはアルバムの中では泣き声になっているでしょう。
中島 あ、そうですか。それ、よくボロクソに言われるんですよ。
聞きづらいから、もうちょっとちゃんと声の出てるテイク
のをね、OKにしてレコードとしては出すべきじゃなかったのかって。
だけど残念ながら、あれは一回しか録音しなかったんですよね。
谷川 あの歌は、どんな状態で録音したんですか。
中島 あれはスタジオライヴっていうのかな。
ミュージシャンと大体の流れを合わせておいてから。
谷川 じゃ、マルチチャンネルで録ったんじゃなくて、生演奏で。
中島 ええ。
谷川 あれ、本当に泣いてたの❓
中島 おしえてあげないの。
谷川 そのへんは自分の意識のなかでは分けてたんですか。
これは本当に泣いてるわけじゃない、というふうに。
中島 おしえてあげないの。
谷川 じゃ、本気なんだ。泣きたくはなかったの?
中島 教えてあげない。
谷川 だけど泣かずにはうたえなかったわけですか。
中島 おしえてあげない。
谷川 ありがとう。おしえてくれなくて。
あなたの歌みたいにすてきな答えかただね。
「終わりなき対話―やさしさを教えてほしいー」より
谷川俊太郎・中島みゆき著/朝日出版社
40年ぶりの対話集 出版の経緯 仁藤輝夫
中島みゆきと谷川俊太郎 歌詞と詩のリレーについて
この空を飛べたら 朝のリレー 一期一会 あなた 糸 あい
空と君のあいだに 愛Paul Kleeに 倶(とも)に うそとほんと
ファイト! 信じる 旅人のうた あなたはそこに お月さまほしい
にじ 記憶 詩 時代 生きる 麦の唄 こころの色 心音 世界の約束
糸 中島みゆき
なぜ めぐり逢うのかを
私たちはなにも知らない
いつ めぐり逢うのかを
私たちは いつも知らない
どこにいたの 生きてきたの
遠い空の下 ふたつの物語
縦の糸はあなた 横の糸は私
織りなす布は いつか誰かを
暖めうるかもしれない
あい 谷川俊太郎
あい 口で言うのはかんたんだ
愛 文字で書くのも難しくない
あい 気持ちはだれでも知っている
愛 悲しいくらい好きになること
あい いつでもそばにいたいこと
愛 いつまでも生きていてほしいと願うこと
あい それは愛ということばじゃない
愛 それは気持ちだけでもない
あい はるかな過去を忘れないこと
愛 見えない未来を信じること
あい くりかえしくりかえし考えること
愛 いのちをかけて生きること
「終わりなき対話―やさしさを教えてほしいー」より
谷川俊太郎・中島みゆき著/朝日出版社
谷川俊太郎の詩の根底には「生きる」こと
ニ十世紀の終わり頃、日本語で書く詩人たちが沢山いた。
わたしたちはその時代を「三人の偉大な詩人の時代」と呼んでいる。
三人の傑出した詩人を除いて、
他の詩人たちの作品はすっかり忘れられてしまった。
一人は「水遊びの観察」の谷川俊太郎だ。
もう一人は「頬を薔薇色に輝かせて」の田村隆一だ。
そしてもう一人は「船を出すのなら九月」を書いた中島みゆきだ。
「さようなら、ギャングたち」の一文
高橋源一郎著/講談社文芸文庫
出会いのきっかけは「さようなら、ギャングたち」
高橋源一郎氏推薦書
谷川俊太郎著「世間知ラズ」&「定義」
70~80年代の現代史について…
水遊びの観察 谷川俊太郎
先ず初めに水に濡れた足跡が消え、次にはかわいいえくぼとつぶらな瞳が消えた。
桃色の爪が消え、黒い捲毛が消え、膝こぞうが消える頃にはあっという間もなく
青空が消え花々が消え、つづいて文字という文字が消えた。
(中略)
次の瞬間には一匹のぴちぴちした鱒が現れた。と思う間もなくつづいて
小川が、そして誰のものか分らぬ革鞄が、六法全書が午後二時十三分が現れ、
一方では恋人たちも現れ始めていた。そうしてまたたく間に水に濡れた
足跡がふたたび現れ、かのS***嬢(五歳五ヶ月)の間裸のお腹とその真中の
渦巻くおへそと上機嫌の笑顔もまた現れたのである。
「定義」より谷川俊太郎著/思潮社
詩壇を驚かせた「水遊びの観察」
父の死 谷川俊太郎
私の父は九十四歳四ヶ月で死んだ。
死ぬ前日に床屋へ行った。
その夜半寝床で腹の中のものをすっかり出した。
明け方付き添いの人に呼ばれて行ってみると、
入歯をはずした口を開け能面の翁そっくりの
顔になってもう死んでいた。
顔は冷たかったが手足はまだ暖かかった。
鼻からも口からも尻の穴からも何も出ず、拭く
必要のないくらいきれいな体だった。
自宅で死ぬのは変死扱いになるというので
救急車を呼んだ。運ぶ途中も病院についてからも
酸素吸入と心臓マッサージをやっていた。
馬鹿々々しくなってこちらからそう言ってやめて貰った。
遺体を病院から家へと連れ帰った。
私の息子と私の同棲している女の息子が
いっしょに部屋を片付けてくれていた。
監察病院から三人来た。死体検案書の死亡時刻は
実際より数時間後の時刻となった。
人が集まってきた。
次々に弔電が来た。
続々花篭が来た。
別居している私の妻が来た。私は二階で女と喧嘩した。
だんだん忙しくなって何がなんだか分からなくなってきた。
夜になって子どもみたいにおうおう泣きながら
男が玄関から飛び込んできた。
「先生死んじゃったァ、先生死んじゃったよォ」と男は叫んだ。
諏訪から来たその男は
「まだ電車あるかな、もうないかな、ぼくもう帰る」
と泣きながら帰っていった。
天皇皇后から祭粢料というのが来た。
袋に金参万円というゴム印が押してあった。
天皇からは勲一等瑞宝章というものが来た。
勲章が三個入っていて略章は小さな干からびた
レモンの輪切りみたいだった。
父はよくレモンの輪切りでかさかさになった脚をこすっていた。
総理大臣からは十三位というのが来た。これには何もついていなかったが、
勲章と勲記位記を飾る額縁を売るダイレクトメールがたくさん来た。
父は美男子だったから勲章がよく似合っただろうと思った。
葬儀屋さんがあらゆる葬式のうちで最高なのは食葬ですと言った。
父はやせていたからスープにするしかないと思った。
「世間知ラズ」より 谷川俊太郎著/
死を客観的に見つめた「父の死」
谷川さんの視点には自分がない 高橋
谷川徹三氏は谷川俊太郎氏のお父様
二十億光年の孤独 谷川俊太郎
人類は小さな球の上で眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
火星人は小さな球の上で何をしているか僕は知らない
(或はネリリしキルルしハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
万有引力とは ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨らんでいく それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に僕は思わずくしゃみをした
「二十億光年の孤独」谷川俊太郎著/集英社文庫
デビュー作であり原点 「二十億光年の孤独」
谷川俊太郎氏は宇宙からものを見ている
谷川徹三(1895~1989)哲学者・翻訳家・谷川俊太郎氏の父
「二十億光年の孤独」出版秘話
三好達治(1900~1964)詩人・翻訳家・文藝評論家 代表作「測量船」
三好達治の推薦で書籍化された
俵万智女史の谷川俊太郎氏との出会い
初対面で言われた衝撃の一言
「あなたは現代詩の敵です」と言われた。
阿部公彦(1966~)英文学者・文芸評論家・東京大学教授
谷川俊太郎さんのこと
ところで、対談の数日前に谷川俊太郎さんの訃報が伝えられ、
冒頭はその話から始まった。「詩的思考のめざめ」という著書の中で
阿部先生は谷川さんにつて「困った存在」として、
次のように書いておられる。
「中でも大きな問題は、彼が詩を信じていないことです。
もっと言えば言葉を信じてない。こんな詩人いるでしょうか」
「生きる言葉」の一文 俵万智著/新潮新書
谷川俊太郎が言葉を疑う理由
言葉に対する誠実さの裏返し
谷川俊太郎以外の詩人は死に頼っている 詩がないといけていけない
詩に裏切られても詩についていく 谷川さんは詩に頼ってない
ただ生きてる 詩との付き合いがフラット 谷川さんは詩から離れられる
離れられるから戻れる それは信じてないから出来る 高橋
言葉は疑うに値する そこが谷川さんの素敵なところ 俵
子どもたちに愛された詩人
おならうた 谷川俊太郎
いもくって ぶ
くりくって ぼ
すかして へ
ごめんよ ば
おふろで ぽ
こっそり す
あわてて ぷ
ふたりで ぴょ
「パタポン」の一文 谷川俊太郎著/童話屋
ひろい うみの どこかに、
ちいさな さかなの きょうだいたちが
たのしく くらしてた。みんな、あかいのに、
一ぴきだけは からすがいよりも まっくろ、
でも およぐのはだれよりも はやかった。
なまえは スイミー。
(中略)
スイミーは かんがえた。
いろいろ かんがえた。
うんと かんがえた。
それから とつぜん スイミーは さけんだ。
「そうだ!」
「みんな いっしょに およぐんだ。
うみで いちばん
おおきな さかなの ふりして!」
「スイミー」の一文 レオ=レオニ作 谷川俊太郎訳/好学社
翻訳の魅力とは…
晩年の詩集 言葉数が必要最小限に抑えられている
最期に遺した詩のすごさ
「今日は昨日のつづき どこからが言葉が」谷川俊太郎著/朝日新聞出版
卒寿 麻 谷川俊太郎
目が覚める
まだ生きている
世界もまだあるらしい
目を開ける
昨日は五月だったと思い出す
なら多分今日も五月
予定はない
ベッドでモゾモゾしている
体は椅子に座ったまま
昨日は心が忙しかった
詳細ははぶくが
何十年も昔に悩んだこと
形を変えて今もそのまま
私に構わず
世界は未来を見ている
私はもう夢見ない
世界はこのままで十分だ
世界は初めから
人間には過ぎたものだったから
「今日は昨日のつづき どこからが言葉が」より
谷川俊太郎著/朝日新聞出版
感謝 谷川俊太郎
目が覚める
庭の紅葉が見える
昨日を思い出す
まだ生きてるんだ
今日は昨日のつづき
だけでいいと思う
何かをする気はない
どこも痛くない
痒くもないのに感謝
いったい誰に?
神に?
世界に? 宇宙に?
分からないが
感謝の念だけは残る
「今日は昨日のつづき どこからが言葉が」より
谷川俊太郎著/朝日新聞出版
マイナスではない所に感謝 俵
体はなくなっちゃたけど、いつでも谷川さんの言葉には会える…。俵
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