景変われども流るる水は冬野
吾を持たず群れ成す人よ寒気
表向きなど知りたくもなく凍る
虚像など見たくもないわ寒夜かな
笑われる人生目指す冬の月
■スイッチインタビュー
佐野史郎 桜木紫乃(直木賞作家)
家じまいとは家族とは
廃品遺品の整理 処分したのは20トン余り
買う時より手放す時のほうが大変
実母は施設に入所していた 2024年2月艶子92歳で他界
160年の歴史 医家の歴史に幕を閉じることになりましたと
守ることができず申し訳ございませんが
5代目として告げなかったことを詫びて守れなかったことが
じくちたる思いがある 佐野
長男が継いでいた医業を継いだのは次男の和也さんだった ナレーション
ずっと長男でつながって 桜木
継げというふうに枕元で 曾祖父に言われたので
どうしても継がなければいけないと思ったと
父は言っていました 代々佐野家は長男が継ぐものだと
父もそのバトンを自分の責務として子どもに渡すのが
自分の役割だと 佐野
呪縛ですね 桜木
悪く言えば不幸の手紙 佐野
プレッシャー 重たくはなかったですか 桜木
そこは僕は相当ずるいですよね 長男であることを 親の愛情とか
ずいぶん受けて育ったから 受けるだけ受けて
裏切ったみたいなところが 佐野
家を継がなかったことを裏切ったって思う気持ち
嫁に出たあと今もそうなんですけど
かすかな罪悪感と共に生きているんです
親が思うように生きなかった自分 桜木
一緒ですかね 佐野
佐野さんの罪悪感と私の罪悪感は何となく似てるんじゃないかと
父が経営していたラブホテル HOTELローヤル
私が15歳のときにラブホテルを父がいきなり始めたんですけど
ある日突然1億の借金をしてくるわけです
父の手形というんですかね ハンコを押すのが私の役目で
2人で流れ作業 桜木
重い 加担していたわけですね 佐野
全部お前のものになるんだからと言われてそだつわけですよ 桜木
その時は本当に信じて 佐野
家を継ぐというのをずっと小さいときから言われ続けていたので 桜木
そこは一緒ですね 佐野
床屋って言われていたら継ぎます頑張りますみたいな
そういうと親は喜ぶんです 桜木
正反対のところもあるけど環境として 家というものを継ぐ
家業を継ぐとか 医者であろうが 佐野
床屋ラブホテルであろうが 桜木
重くかかっていたという意味では 男女問わず 佐野
周りに育てられたようなところも いつの他人が出入りしていて
お弟子さんが何人もいたので 桜木
祖母と母が厳しく看護師さんたちに当たると そのはね返り
ツケが陰で「おまえの母親は」ってゴリゴリ 佐野
同じ同じ よくストーブの上で北海道ですから 火あぶりの刑ってされて 桜木
継ぐ家を出たい 俳優になりたいって思ったきっかけは 桜木
医者にはなれないっていうのもあるし 弟は医者の道を進んでいるし
当然弟が…継いで欲しい お兄ちゃんの勝手ですよね
マザコンの話だったけど お父さんがいないっていう話で いきなり
過保護に育てられてきた冬彦君に 親の代祖父の代曾祖父の代のツケが
彼に突きつけられた というふうな解釈で 佐野
重たい荷物ですよね 桜木
男って何という 佐野
食べられるようになって知られるようになってから
父も家族も親族も初めて認めてくれた
そのときには子どもが生まれて 医者にしたいという物語では
なかったでしょうね 父はバイオリンをたしなんでいたり
趣味の写真があったり音楽好きで 母は文学少女だったので
ゲーテ「若きウェルテルの悩み」とか好きだった
だから根っこではそういう僕の気持ちが 分からなくは
なかったと思います 父も でも父は長男としての物語を
生きたかったんだろうと思いますよ
この医者の物語の4代目ということを みずから望んで飛び込んだ 佐野
お父様を支えていたお母さまが医者を継ぐことは同で見良いじゃないか
と言えない立場から 医者を継ぐことはどうでもいいじゃないかと
言えない立場から お母さまの壮大にたくらみではと
佐野さんをお医者さんにしなかったのは 桜木
だから子どもが生まれてきたときに
そういう思いがなくはなかったようですよ
写真が残っているけど 胎教で音楽を聞かせたり 佐野
「1人で住みやすいようにしたら」と母に言っても
「私は家を守るために生きてきた」とその思いを佐野家の長男として
父は亡くなったけれども母の思いは そんなのはやめてくれとは
言えなかった
母親は晩年 幻聴幻覚が激しく盗聴されているとか 1人になってから
そういうものを見るようになったことは事実 この家を
どうしたらいいんだろう 守り続けなきゃ 後ろめたく思っているのに
孤独にさせてしまったこと やっぱり大きいですよね
申し訳なさはあるけど
2021年4月 多発整骨随腫に罹患 5年生存率は約40%
過酷な入生活を経て復帰
ご病気されて大変なときとかぶっているんですよね 桜木
かぶってるけど母はよく分かってなかった それは責められないですけど
特に敗血症のときは本当に危なかった時期があったので
そういう時期 母が亡くなっていく 死に対する感覚が近いですよね
だから家の物語を自分が生きている間に どう落とし前をつけるか 佐野
ここはすごく浄化された場所なんだと すごくいい家だったんだなって
誰かが守って 傷つけないように傷つけないように
大切にされた家だったんだなって そうじゃない所に行くと
体調が悪くなるんですよ 桜木
1番の家じまいのご褒美 しまう 供養のような気がします
家じまいの廃品遺品の整理をした直後に 佐野家の歴史を振り返ると
それぞれの代のことも考えながら 供養 祖先に対して
なかったことにするのではなく この人たちがこの家の物語を
続けようとしたから 自分もその家の物語の末端に 存在することが
できたんだという感謝 今までやったことのない 大きな供養の儀式 佐野
全員ビバ人生 みんなよく生きた よく生きたって好きな言葉なので
だからよく自分も生きていこう 現在進行形だったり過去形だったり
1人1人しまって よい形でしまっていけたら
家じまいはよく生きること 桜木
そこに立ち会っている 生きている子孫が行うのが 家じまい
供養なんじゃないかと 祖先に対して失礼のないように感謝を込めて
ありがとうございました これからもお守りください 佐野
家 家族とか もう一度考えてみる必要があるんだなと
こんなに家をしまうご両親のこと
家の歴史をこんなに考えている人がいるんだ
ここを舞台にして自由に使えるセットなので 桜木
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