2022年9月29日木曜日

言葉にできない、そんな夜。

朝冷えやら抜きの短歌三席に
吾亦紅帰らぬ主人待ちわびて
南京の天ぷらの香立ち込めん
米株や秋の嵐となりにけり
円安の問題意識秋簾(すだれ)

言葉にできない、そんな夜。
ゲスト 葵わかな 川谷絵音 井之脇海 村田紗耶香
司会 小沢一敬

■テーマ 不安を抱き別れを迎えたときの気持ち
君の口びるが
「さようなら」と動くことが
こわくて 下を向いてた
かぐや姫「名残り雪」

(雨の中、よりを戻したくて
ホテルに誘う彼に対し
主人公が言った言葉)

「この雨の中が、これから私が
生きていく世界なのよ」
その言葉で、ハヤトは、私がもう
彼と生きていく気がないことを
悟ったらしかった。
村田紗耶香「生存」

世界=前後の文章によって意味を変える言葉

(同居していた異母兄弟が
別れて暮らすことに
なった時の気持ち)

どうでもいい言葉ばかりが
口をついた。
もうすぐ離れていく私たちは
ありきたりな会話しか
できなかった。
瀬尾まいこ「7,s blood」

(主人公が幼少の頃から
家に使える女性と
駅で別れる場面)

もう大丈夫だろうと思って、
窓から首を出して、振り向いたら、
やっぱり立っていた。
なんだか大変小さく見えた。
夏目漱石「坊っちゃん」

■楽しみにしていたイベントが終わった時
体中かけめぐっていた電流が
むずむずする、ただの
静電気になってしまった。
葵わかな

幸せが逃げる前に
全部抱きしめて、
自分だけの星座に追加しないと
井之脇海

非日常が死んだ。
日常はまだ死んでいる。
村田紗耶香

脂が乗った瞬間に、溶けていく何かを
見つめることしかできない
自分がもどかしい。
川谷絵音

花は散った後、種を残す
心の庭にまかれた種に
栄養を与えないとね
小沢一敬

■締め切り直前の気持ち
緊張の凪が訪れて、耐え難い静寂にペンを打つ。
そうでもしないと目も心も閉じていく。
「考えろ」そんな言葉も波を立てれず、
私は黒に沈んでいく。
川谷絵音

一億の懸賞金をかけられ、
数多の殺し屋が解き放たれた真っ暗な森で、
ゴールも解らず彷徨い続けるかのごとき、
ブルーライトを浴び続け、
祈りのように雨を噛み砕く孤立無援の夜。
金原ひとみ

しめきりはふみきりよりやかましい
つめきりはきれるけど
しめきりはのばせる
くずきりはあまいのに
しめきりはそんなにあまくなかった
こうしてきょうもひがくれる
金子茂樹

こういうギリギリの瀬戸際に
半ば破壊的な気持ちで怠けるのは、
得もいわれぬ快楽なのだ
五木寛之「古新聞の片隅から」

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