ガラパゴスを詠む
秋の海命を繋ぐ技を持ち
秋の島人とアシカの軋轢よ
秋の波(アシカ)内臓だけを食べにけり
秋の潮アシカの狙う鮪かな
秋の空地球の変化速過ぎる
■NHK俳句 兼題「今朝の秋」
選者:高野ムツオ 司会 柴田英嗣
ゲスト 古坂大魔王 関取花 関灯之介(とものすけ) 原雅子
年間テーマ「語ろう!俳句」
今朝の秋:立秋の子季語という形で載っていることが多い
①
風は君ただ会いたくて今朝の秋 関取花
三段切れに近くなっている
五七五の分かれ目でみんな切れてしまうとダメ 高野
「会いたくて」も「めぐり逢う」の方か迷った 関取
「会う」が良かった 「逢う」だと恋人になってしまう 高野
②
今朝の秋なにか忘れてゐるやうな 原雅子
五七五でない方がもっとかっこいいなと思った
「今朝の秋に何か忘れてゐるやうな」という
一個(のまとまり)でもいい 古坂
俳句を形にする時に「物で抑えなさい」と言われた
気分だけで終わってしまっていいのかな 原
「春愁や何か忘れてゐさうな日 稲畑汀子」灯之介
③
青信号まだ青である今朝の秋 古坂大魔王
青であることが安心ではない 高野
青信号と最初に言うことでその信号が青の状態で映像として見える
これのおかげでその色が移ろっていく部分にも
想像が及ぶやすくなる 灯之介
④
水中の河馬(かば)の眼(まなこ)も今朝の秋 高野ムツオ
今朝の秋は昔から使われている 歴史性のある言葉なので
過去の今朝の秋の質感や情感みたいなものが
その眼にどんどん堆積していってそれを見つめているような感じがする
「眼も」の「も」が上手い 灯之介
「河馬の眼も」の「も」が説明的 高野
⑤
そしてまた生き延び今朝の秋に逢ふ 関灯之介
秋という時間に会うのか 秋に誰かと会うのかがあいまい
「生き延び今朝の秋」で十分じゃないかと思った
「今朝の秋」に出会えたという意味であれば
「に逢ふ」というのはどこまで効果があるか気になった 高野
関灯之介「人と会う」つもりで詠んでいる
立秋の爽やかになった日に誰か大切な人と逢う
人で初めて「に逢ふ」が生きる 高野
関灯之介さんは21歳 東京大学4年生 大ファンになってしまいました。
才能の塊に圧倒されました。
・特選三席発表 兼題「今朝の秋」
一席 爆弾の止(や)まぬ地球に今朝の秋 濱岡学
二席 めざめよしそらよしかぜよし今朝の秋 原芳夫
三席 窓開けて空ごと吸うや今朝の秋 リコピン
・特選 兼題「今朝の秋」
吸ふ息も吐く息もまた今朝の秋 須田真弓
日めくりの俳句を声に今朝の秋 竹内白熊
天窓に雲の訪(と)ひ来る今朝の秋 関久美子
筑波嶺の二峰寄りそう今朝の秋 矢部重夫
剣道着大股で来る今朝の秋 翠簾屋信子
川風を包む投網や今朝の秋 臼井重之
■NHK短歌 テーマ「舌」
選者:平岡直子 ゲスト:魚乃目三太 司会:尾崎世界観
年間テーマ「私の宮沢賢治」
宮沢賢治の作品には身体感覚に独自なものがある
目や舌などの部位のナイーブさが印象的
口の中で普段しまわれているけど ちょっと別の生き物みたい
この坂は霧のなかよりおほいなる舌のごとくにあらはれにけり
宮沢賢治
この歌に出てくる舌は奇妙な神聖さが感じられる 平岡
賢さんが過ごした花巻はちょっとした坂がぽつぽつとある 魚乃目
坂に自分が食べられているみたいなイメージがある 平岡
・入選九首 テーマ「舌」
口蓋(こうがい)の骨のない場所探る舌やさしいよこれから起きること
ニイナ
ツルツルとザラザラがいてああこれは犬の方だと思いつつ寝る
葉月ままこ
千人の政治家集う議会には二千の舌が在ると思しき
極北(きょくほく)のヤマダ
岬まで23㎞ にんげんの舌なら苦みを感じるところ
岩下葛(かずま)
一度だけ力士の舌を見たことがあるのに肘をピザと言っちゃう
岸寅(とら)太郎
一席 手術後の父を見舞えば舌鮃みたいに薄く横たわりおり
弓立悦(ゆみたてえつ)
二席 蛇の舌みたいに裂けたY字路に私の髪を切る理髪店
稲葉ゆい
ビジュアルを気にして舌は悲しんで舌の舌を噛み切って死ぬだろう
中村雨
三席 白い服着て白っぽいことを言う舌の置き場に決まりがあると
大岩摩利
・私の宮沢賢治
景色や風景に生々しい身体性を感じている作家
雲ひくき峠越ゆれば(いもうとのつめたきなきがほ)丘と野原と
宮沢賢治
風景の中に妹の泣き顔が発見されている
妹の顔が景色とオーバーラップした歌 平岡
賢さんは妹のトシさんのことが大好きなお兄ちゃん
亡くなったあとの歌なのか 魚乃目
まだトシが生きている時に作られた歌 字面的に亡骸感がある
一段階 抽象的になってしまった存在 平岡
うしろより にらむものあり うしろより われをにらむ 青きものあり
宮沢賢治
後ろに何者かがいるが正体がわからない
およそ人間らしからぬ色彩をした存在がいる
この一首だけ読むとちょっと怖い ホラーみたいな歌
青きものというのは湖
具体的な情報を削ぎ落すことで強い普遍性を獲得した歌
湖だということがわかっても歌の怖さが減らない
ちゃんとわたし顔を見ながらねじこんでアインシュタインの舌の複製
平岡直子
私たちはみんなコピペされた存在である
舌というモチーフに新たなニュアンスを吐く加えた舌
・いちご摘み
うまれかわってなお揺りもどる藤の花咲き揃(そろ)うことのない追想へ
湯島はじめ(好きな歌人 杉﨑恒夫)
⇩
ドア引けばはずみに揺れるカーテンの、その一瞬をかたき布地は
福山ろか(好きな歌人 薮内亮輔)
東京大学Q短歌会に参加
短歌道場in郡山2025 優勝
イヤホンは真っ白に垂れ青年の鎖骨からしばらくをなぞった
物語からは抜け落ちてしまうような一瞬とか日常のかけがえのなさ
普段やわらかいものであるカーテンがかたい別の表情を見せた
この一首にしようとなっていかかったら 見過ごしてしまっていた
摘んだのは「揺れる」日常の中の静かな揺らぎ
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