台湾を詠む
穿山甲(せんざんこう)我が物顔で闊歩せり
穿山甲静かに地面掘り起し
山娘子育て中の凶暴性
巣より落つ雛の生存春の月
六月や雨に打たれて雛の死す
■「連食テレビエッセー
きみと食べたい」~福島県・いわき編~
吉田羊 平野紗季子
参照:https://www.nhk.jp/g/pr/blog/3hpi0_t2fgl/
その土地の、人に、文化に、歴史に出会うための入り口だ。
常磐線が海沿いを走る。視界がふっと開けて旅が始まる。
お互い、食べ物の事となると超真剣。愛の深さはほぼ互角。
さて、喫茶でぬくぬくになった体で、いよいよレストランへ。
夕日がきれい
美しい夕暮れを背負った小高い丘の住宅地に、ぽつり。
ついに来れた、憧れのお店。煉瓦造りのポーチ、
ステンドグラスの向こうに暖かな灯りの覗くレストラン。
オーナーシェフの萩春朋さん
キッチンには、暖炉のように薪窯。火が、館の中心にある。
それだけで呼吸が深くなる。始まりは人参のお皿だった。
堂々と、雄大なお姿。「今 一番おいしいニンジン ニンジンを
薪窯の上に3日間ぐらい置いて自然と縮めたもの」「甘い」
一口食べると、甘い。甘くて味が濃い。時が素材の力を引き出すのか。
ニンジンのソース 余計なものはいらない 下に敷かれたパウダーは、
雪のようなチーズ。チーズ冷たいんですね うん アイスだった
その冷たさが、いわきに吹く清らかな風と繋がる。なんてピュアな料理。
きっと畑の風景がそのまま皿の上にある。
海から直送されたアワビ 常磐もの:福島県・茨木県に水揚げされる魚介類
郡山の鈴木さんのカリフラワー カリフラワーのソース ちょっとソース
なめたい おいしい え、これ鮑がスターなのは間違いないけど…
カリフラワーも同じくらい主役じゃん Wセンサーで画面が強い
薪火で焼いたカブ 卵のソース+米油とカブの葉っぱ
ちょっと欲張っちゃったな 私もそれぐらいいってますよ
火傷上等1/2サイズでかぶりつくと、ジューシーさが半端ない
ほら見て引き払ったあとが水浸しですよ ホントみずみずしい
ようこそ蕪温泉。ジューシーで甘―い湯気が立ちのぼり、はぁ~。
大地と炎の記憶に包まれて、心までツヤツヤだ。なんて野菜が
輝くレストランなんだろう。萩さんは、どうしてこんな料理が
作れるのか。「昔はこうじゃなかったんですよ」
「もともとフランス料理を作っていたので全部ソースをかけちゃうんですね
ソースをかけるとどれも同じような味になってしまって生産者の
特徴が出にくくなるんで一時ソースを捨てたんですよ ソースを
やめてみたら気づいたことがあってお皿の上からふわっと素材の香りが
したんですよね それが始まりでこういう料理を作っていかないと
ダメだなと思って」
素材を塗りつぶすのではなく、その持ち味を生かす仕事がしたい。
生産者さんが喜んでくれる味に辿り着きたい。自分がやりたいのは、
フランス料理ではなく“畑の味の料理”だと気づいた。
畑で食べる野菜ってエネルギーが100%なんですね そのまま食べて
おいしいんですよ とれたてって 塩すらはじくエネルギーなんです
そうそのままがおいしいんですよ 流通にのって店頭に並ぶ頃には
香りとかエネルギーは80%ぐらいに落ちると思って畑に行かないと
わからなかった 100%のものを保持しつつ調味料を極力抑えて
別な香りで上げていく
萩さんの料理は潔く、まるで野菜の命を、その輪郭を、指で
なぞり直して輝かせるみたいだ。
海の味も福島はおいしいですからね マコガレイの刺身
乳酸発酵させたニンジン あ震えちゃった 振動してしまいました
うまみがすごい カレイとかヒラメって淡白なイメージだけど
こんなに甘味があるんだね
俺がチャンピオンだぜと言わんばかりのムキムキ食感だ!
どんな高級魚にも怯(ひる)まぬ刺身のアスリート、突然のリングインだ!
水産加工のスペシャリスト!梅田将一さん
締め方から冷やし込みまで技術を駆使し、市場では価値の付きづらい魚も
最高のの状態に仕立てるスペシャリストだ。
日戻りの常磐ものがピッカピカに光っていたのだ。
「この輝きを、どうやったら落とさずに手渡せるんだろう?」
海から漁師さん、漁師さんから梅田さん、梅田さんから萩さんへ。
全員が、福島の海の眩しさを本気で信じている。
皮目を薪火で炙ったサバ(常磐もの) 完熟ピーマンのソース
米+甘酒のドレッシング
鮮魚店 松田義勝さん
なんかすごい組み合わせですね サバとろっとろ 知らない組み合わせ
なんですけど 完璧に調和してて ピーマンとサバ まさかの握手。
厚切りの濃厚な鯖を、赤い甘みがすーっとさらう。
合わせるのはどぶろく:2022年に誕生した南相馬の醸造蔵のお酒
今、テーブルに広がるのは、萩さんが拾い集めた福島の鮮やかで美しい地図
その多層的な世界に、私たちはただただ夢中だった。「でも」
震災1年目は記憶が全部白黒なんです なんか白黒なんです
2011年3月11日東日本大震災
大変だったのはしばらく1年から2年 お客様がほとんど来ない状態
本当に来ない状態で原発事故もあって野菜が売れなくなって
漁業関係の方は本当に数年間 海がストップしてしまったので
そんな時、足が向いたのは畑だった。自分も大変でしたけど
自分は安全と思われるところの食材を買って店で提供する
事も出来たんですけど 農家の人は代々受け継いだ土地ですよね
離れることができなくて 生産者と共にどうせこの店がだめになる
くらいなら 一緒にやって新しい価値観を生み出したいなと思って
畑の味を生かしてこの土地にあうものをかき集めて料理をする。
震災当時農家の白石さんと野菜の直売会をやって いろんな人が
買ってくれるんですけど 帰りにごみ箱に捨ててあったりとか
そう言うのをたくさん一緒に見てきて美味しい素材が0円以下の
価値になったなっていうのがあって 僕は生産者と共に
戻していかなければいけないと思いました
でも、だからこそ、萩さんは決意した。
この土地を、この土地の食材を、生産者と一緒に背負うのだと。
東京電力 福島第一原発の事故のあと
国は放射性物質が基準値を超えた食品の出荷制限を指示
【いわき市で出荷制限となった主な野菜・果実】
ホウレンソウ カキナ 2011年3月21日出荷制限
カリフラワー 蕪 ブロッコリー キャベツ 白菜 小松菜 アブラナ
2011年3月23日出荷制限 2011年5月4日解除
柚子
2012年1月10日出荷制限 2015年1月29日解除
栗
2012年10月12日出荷制限 2014年11月17日解除
いわき市では現在も野生のきのこなどが出荷制限されている
漁業は原発事故直後の3月15日から沿岸漁業および
沖合底引き網漁業の操業自粛を余儀なくされた
2012年6月 相馬二葉地区で「試験操業」開始
モニタリング調査で安全が確認された魚介類3類が対象
2013年10月 いわき地区でも「試験操業」開始
モニタリング調査で安全が確認された魚介類18種が対象
漁獲できる魚種が徐々に拡大 2021年3月「試験操業」終了
現在は漁獲量・漁獲金額が震災前の状態に戻る
「本格操業」を目指している
最後の料理は、かぼちゃだった。かぼちゃのソース
飯舘村で誕生した品種「いいたて雪っ娘」
味が、濃い。濃すぎる。
「お砂糖を入れて かぼちゃスイーツ作りました」って言われても
「そうでしょうね」ってなるぐらい自然な甘み
これはかぼちゃの中のかぼちゃ。マトリョーシカを開けに開けて、
最後に出てきた“一番真ん中のそれ”が、多分このかぼちゃ。
近くで採れたゆずとりんごのアイスクリーム
清潔で真っ白な世界に、果実の香りが祈りのように漂っていた。
川俣朝のししゃも+猪苗代町の米
田村市の渡部さんの小麦で作ったパン
命に大きいも小さいもないし だからこそ日々エネルギーある食材とか
命のある食材を お客様に食べていただく努力をしなくちゃいけない
と思ったんです 食材が高価だからおいしいってことではない
命を伝える料理 それを使っていかなければならない
福島にしかないお料理ですよね そういう意味で言うと
ここでしか食べられない
みんなの結晶ですよね
その日採れた野菜、その日獲れた魚、高級かどうか、価値があるかどうか、
そう言う尺度は関係ない。
命に大きいも小さいもない
目の前の食材を、目の前の時間の中で、最大限に生かす。
萩さんの料理は今を生きる料理だ。命を伝える料理だ。
畑の野菜が、その日の土の匂いをしていること。
日戻りの魚が、目の奥まで澄んだまま光っていること。
その瞬間は、放っておけば すぐにくすんでしまうから。
消えてしまう前に手渡す。そんな切実さが、儚くて
小さな光が、皿を満たすから、私たちの胸の奥にまで届くのだろう。
今日の食材は、どこで生まれ、ここまで来たのだろう。
海だ 輝いてますね 気持ちいい 私たちは冬の海に出かけた
薄磯海岸
平野紗季子エッセー
青くて白くて、波と風の音の中、
砂に埋もれる貝殻のかけらをずっと見ていた。
地元の方って季節をお魚で感じてるんですよ
夏の暑い時にはカツオだよね 秋はサンマだよね
冬はアンコウだよね 干物だよねっていう
そういうふうにもう生活の中にお魚がいたので
やっぱりこの時期になるとこれが食べたいっていうのが
たぶん地域の方たちはそういうふうに思ってくださっているので
この時期のこの風が干物をすごくおいしくしてくれるんです
実はこの干物を作り始めたのが私に息子が生れてから
どうにかして小さい子どもでも食べられないかっていうのを
父がすごく考えて父の作る干物は50代からグッと優しくなった
それで目も取ってあるのです
もちろんめひかりは家族の大好物でもある。
メヒカリも獲れなくなった時期とかあったんですか?
1年以上獲れなかった それが獲れない時期って 冬も寒いだけ
本当だったら干せてたのになっていう やっぱり悔しさっていうか
寂しさっていうかそういうのは感じました
干物を作れるようななったときは何か言葉にならないっていうか
子どもたちの口に入れてあげた時にやっぱりにっこり
笑ってくれるじゃないですか 本当それだけで嬉しかったです
やっと食べれたんねって 一度失いかけているんですよ 私たちは
「もうダメだ」と思っていたと さっき父も言ってたんですけど
なので 守っていきたい すごく大切にしていきたい
日常、というものの尊さを、幸子さんは身をもって知っている。
めひかりの干物は驚くほどジューシーで、噛もうとする側から
溶けて消えてしまった。間違いなく人生一の干物だった。
アンコウの「どぶ汁」
どぶ汁:アンコウの肝に味噌を溶き
アンコウの身と野菜から出た水分のみで調理
どぶ汁も最っっっ高!!!
そして向かったのは白石さんの畑。とにかく、風が、容赦ない。
農家(8代目)白石長利さん
生命力が漲っている。
目の前に、気の私たちの胃袋を沸かした人参の故郷が…!
獲れたて0秒で、かじりつく。(テロップの漢字が違っている。)
これが100%の味なのか…。
素材という言葉が追い付かない濃度に、私たちは思わず空を仰いでいた。
大切にしているものは?土ですね。
よく草を抜いてご年配の人って根っこの土を凄く丁寧に落とすんですよね。
作物とか草の根っこのところについている土っていうのが
一番いい土って呼ばれている なのでそれをちゃんと畑の在ったところに
落とすっていうのがじいちゃんからの教えで この土がないと当然
農家っていう職業も成り立たないですし 自分が生れてきたときから
この環境なんで当たり前なことが一日にして当たり前じゃなくなったと
思わされたのが震災だった
この畑の土は、何代も何代も、人の手を通って耕されてきた。
ときには近くの川が氾濫し、震災が襲い、それでもまた、鍬を入れて、
土を立て直してきた。この土があるからこそ、この野菜がある。
土はふかふかで、ほどけるみたいに軽い。指先が、味の秘密に触れている。
そんな気がした。
萩さん 白石さんとも仲良しお店 店主 吉野康平さん
東京に上京してきたときに駅前に屋台があってラーメンの
久しぶりにラーメンが食べたいと思って出てきたのがしょうゆラーメンで
ひっくり返しそうになった 豚骨じゃないんかーい!
醸造家 立川哲之さん
学生時代にボランティアで福島沿岸と関わり2020年に小高へ移住
2024年9月震災以降13年半空き家だった古民家を
改装し酒蔵へと息を吹き込んだ
彼が作るのはクラフトサケ。日本酒の技法をベースに、醪(もろみ)を
漉(こ)さずにどぶろくを作ったり、フルーツやホップを加えたりする
新しいお酒の形だ。
木の香りもします
今朝まで木桶にいたどぶろくなので 杉桶も福島の杉で作って戴いていて
木桶職人 鴫(しぎ)原廣さんに 一番核となっているのがお米で
米農家 根本洸(こう)一さんが 有機農法で作っている米で
酒を造っています
大学時代に震災のボランティアで福島宮城岩手に来てましてボランティアに
行っているというと すごいいいことをしてそうな響きですけど
本当は仲良くなったおじちゃんたちに会いに行ってるだけみたいな
特に農家さんたちだったり 漁師さんたちがめちゃめちゃかっこいいなって
いうのがあって 小高でいうと避難指示区域で5年間人が住めなかった
地域に戻って農業を再開するっていう所に覚悟じゃないですけど
農業をやるとかそれ以上に土地を守るだったり自分たちのプライドを
守っていくみたいなところがあるなっていうのを感じて
「この土地に自分ができることはないか」
酒造りへの関心と共に少しずつ発酵していった。
目標は「お酒を通して福島の沿岸に田畑を増やすこと」
お酒が生れるにはお米が必要で、お米が必要なら田んぼが必要になる。
一本の酒が、農地と人の手を呼ぶ戻す理由になる。
今は自分たちもよそ者が移住してきて造った酒でしかないと思っている
地域の人たちがおらが町の酒じゃないですけど 自分たちの酒
自分たちの町の酒というふうに思っていただけたときが地酒に
なる時なのかなと思っている
地酒になりたい、は、土地の未来に向かって慎重に置かれた一歩だった。
ぷくぷくしゅわしゅわと、この土地の空気の中で居心地よさそうに
弾けるどぶろく。発酵は、待つことだ。手放すことだ。
そして、毎日少しずつ変わっていく。希望のかたちだ。
福島で出会った味はどれも眩しかった。
その眩しさは、きらびやかな演出ではなく、
誰かが必死に続けてきた手つきの結果だった。
だからこそ、眩しいと同時に同じだけの重みがあった。
味の話をしているはずが、時間の話となり、
時間の話をしているはずが、それは命の話だった。
私は福島の旅で、何度も、おいしいを
未来へ向くための言葉として受け取った。
それは同時に、今、自分の両手の中にある日常を、
抱き直すことでもあった。
いつもは、いつまでもじゃない。
だからこそ、大切なことなんだろう、
私はどんな風に生きてゆけるだろう、と考える。
考え続ける。答えはまだない。
どれがまた食べたいですか?
石焼き芋!食べたい!
だから旅は、まだまだ終わらない。
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