春の雲勝つて欲しがること勿れ(坂の上の雲最終回)
横たわる潰(つい)えた牛や春の空
牛飼いの向き合う矛盾土匂ふ
朧月市井の女手紙読む
物思う年増の女春の月
■10min.ボックス古文・漢文 曽根崎心中(近松門左衛門)
一七〇三年(元禄十六年)心中事件「曽根崎心中」
夢の夢こそあはれなれ
悲しい愛の物語 徳兵衛と遊女のお初の物語
やあら聞えぬ旦那殿。私合点いたさぬを、
老母をたらし、叩き付け、あんまりななされやう。
口借しや、無念やな。このごとく踏み叩かれ、
男も立たず、身も立たず。エ、最前につかみつき、
食ひついてなりとも死なんものを
町人が共感した物語
頼もしだてが身のひしで、欺(だま)されさんしたものなれども、
証拠なければ、理も立たず、この上は徳様も
死なねばならぬしななるが、死ぬる覚悟が聞きたい
徳様に離れて、片時も生きてゐようか。
わしも一所に死ぬるぞやいの
道行
この世のなごり、夜もなごり、
死に行く身をたとふれば、
あだしが原の道の霜、
一足づゝに消えて行く、
夢の夢こそあはれなれ。
あれ数ふれば、暁の、
七つの時が六つ鳴りて、
残る一つが今生の、
鐘の響きの聞き納め、
■10min.ボックス現代文 たけくらべ(樋口一葉)
主人公の名前は美登利
大黒屋の美登利とて、生国(せうこく)は紀州、
言葉のいさゝか訛れるも可愛(かわゆ)く、
第一は切れ離れよき 気象を喜ばぬ人なし。
子供に似合(にあは)ぬ銀貨入れの重きも道理、
姉なる人が全盛の余波(なごり)、
同級の女生徒二十人に揃ひのごむ鞠(まり)を
与へしはおろかの事、馴染の筆やに店(たな)ざらしの
手遊(てあそび)を買(かひ)しめて、喜ばせし事もあり。
吉原 遊郭
樋口一葉(一八七二―一八九六)
美登利の恋心 相手は一歳年上の藤本信如
「これにてお拭きなされ」と介抱をなしけるに、
友達の中なる嫉妬(やきもち)や見つけて、
「藤本は坊主のくせに女と話をして、
嬉しさうに礼を言ったは可笑しいでは無いか、
大方(おほかた)、美登利さんは藤本の女房(かみさん)に
なるのであらう」などゝ取沙汰(とりざた)しける。
「ゑゝ例(いつも)の通りの心根」
「何を憎んでそのやうに無情(つれなき)そぶりはみせらるゝ。
言ひたい事は此方(こなた)にあるを、余りな人」
信如は今ぞ淋(さび)しう見かへれば、
紅入り友仙(ゆうぜん)の雨にぬれて、紅葉の形(かた)の
うるはしきが我が足ちかく散(ちり)ぼひたる、
子どもから大人へ
次第〱に心細き思ひ、すべて昨日の美登利の身に覚えなかりし
思ひをまうけて、物の恥ずかしさ言ふばかりなく
「ゑゝ厭や〱、大人に成るは厭やな事。
なぜこのやうに年をば取る、
もう七月十月(なゝつきとつき)、一年も以前(もと)へ帰りたいに」
誰れの仕業と知るよしなけれど、
美登利は何ゆゑとなく 懐かしき思ひにて、
違ひ棚の一輪ざしに入れて、淋しく清き姿をめでけるが、
聞くともなしに伝え聞く、その明けの日は、信如が
何がしの学林に袖の色かへぬべき当日なりしとぞ。
0 件のコメント:
コメントを投稿