駐車場独りぼっちの花見かな
約2年胃痛と共に春を生く
春の夜や胃痛を止める手立てなし
春惜しむ品切れ多しまた値上げ
■100分de名著 村上春樹❝ねじまき鳥クロニクル❞②大切な存在の喪失
沼野充義 伊集院光 阿部みちこ
間宮中尉をバスの停留所まで見送ったその日の夜、
クミコは家に帰ってこなかった。
猫のことの他に、何か私にお手伝い
できるようなことはございますでしょうか
僕が欲しいのはどんな小さなつまらないこと
でもいいから、具体的な事実なんです。
「電話を待つことです」それからもうひとつ、
そのうちに半分の月が何日か続くことになるでしょう
「半分の月?」と僕は言った。
「最初に君に会ったときから、私は君という人間に対して
何の希望も持っていなかった。
君という人間の中には、何かをきちんとなし遂げたり、
あるいは君自身をまともな人間に育てあげるような
前向きな要素というものがまるで見当たらなかった。
はっきり言ってしまえば、君の頭の中にあるのは、
ほとんどゴミや石ころみたいなものなんだよ。(略)」
「いいですか、僕はあなたが本当は
どういう人間かよく知っています。
僕はあなたのそのつるつるしたテレビ向き、世間向きの
仮面の下にあるもののことを、よく知っている。
そこにある秘密を知っている。
僕は詰まらない人間かもしれないが、少なくとも
サンドバックじゃない。生きた人間です。
叩かれれば叩きかえします。
そのことはちゃんと覚えておいた方がいいですよ」
綿矢ノボルは高学歴の経済学者 超エリート 弁舌も立つ
綿矢ノボルは弱い人に対して共感する能力がまったくない
「やれやれ」と言って引き下がるのではなく これから戦っていく
痛みと快感の中で、私の肉はどんどん大きく裂けていきました。
(略)
そのぱっくりとふたつに裂けた自分の肉の中から、
私がこれまでに見たことも触れたこともなかった何かが、
かきわけるようにして抜け出してくるのを私は感じたのです。
(略)
でもそれはまるで生まれたての赤ん坊のようにぬるぬるしたものでした。
「ねじまき鳥クロニクル」第2部 13加納クレタの話の続き
デイヴィッド・リンチ的なものを感じた
「イレイザーヘッド」(1977年)
父親となった青年が経験する超現実的ホラー
デイヴィッド・リンチ長編映画デビュー作
綿矢ノボルは人間の奥底に潜んでいる
得体のしれないものを引きずり出す
クミコの姉の死にも綿矢ノボルは関係していたらしい
クミコ自身も綿矢ノボルの影響下にあるかもしれない
綿矢ノボルの「悪」を描いた意図
権力を持つ男性が加害の自覚がなく女性を性的に傷つける
権力者の加害性 ポピュリズム的な政治
村上春樹訳 ティム・オブライエン
「虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ」
その淡い闇には淡い闇なりの濃密な暗さがあった。
それはある場合には完全な暗黒よりもかえって
意味の深い闇を含んでいた。
そんな奇妙な含みを持った闇の中で、僕の記憶は
これまでにない強い力を身に帯びはじめていた。
さっきじっとクラゲを見ているうちに、私はふとこう思ったの。
わたしたちがこうして目にしている光景というのは、
世界のほんの一部にすぎないんだってね。
本当の世界はもっと暗くて、深いところにあるし、
その大半がクラゲみたいなもので占められているのよ。
「私が誰か別の人と浮気したとは思わない?
そういう可能性は考えない?」「考えないね」
「他の誰かと浮気したの?」と僕はふと気になって、
試しに尋ねてみた。クミコは笑って首を何度か横に振った。
「まさか。そんなことするわけがないでしょう。
でもね、正直に言うと、私にはときどきいろんなことが
わからなくなってくるのよ。私の中のどこかに、
何かちょっとしたものが潜んでいるような気がすることがあるの。
ちょうど空き巣が家の中に入ってきて、
そのまま押入れに隠れているみたいにね。
そしてそれがときどき外に出てきて、私自身のいろんな
順序やら倫理やらを乱すの。磁気が機械を狂わせるように」
井戸に下りて見つめるクミコの闇
地下の闇に広がる怖ろしいものに結びついていって
ノボルの心に潜む恐ろしいものを見つけていく
トオルは井戸の底に潜ってクミコが抱える闇を探っていく
「明かりはつけないでおいて」と女の声が僕に告げた。
それが誰の声なのかはすぐにわかった。僕に何度か
あの奇妙な電話をかけてきた謎の女の声だった。
「(略)いったい君は誰なんだ?」「いったい私は誰なのかしら?」
と女はおうむ返しに言った。でもその口調には揶揄の響きはなかった。
「オカダトルさん、私の名前をみつけてちょうだい。
いいえ、わざわざ見つける必要もないのよ。あなたは私の名前を
既にちゃんと知っているの。あなたはそれを思い出すだけでいいのよ。
あなたが私の名前をみつけることさえできれば、
私はここを出ていくことができる。(略)」
部屋の暗闇の中に廊下の光がさっと差し込むのとほとんど同時に、
僕らは壁の中に滑り込んだ。壁はまるで巨大なゼリーのように
冷たく、どろりとしていた。僕は壁を通り抜けているんだ。
僕はどこかからどこかに移るために、壁を通り抜けている。
女の舌が僕の口の中に入ってくるのが感じられた。
腰の奥に射精のだるい欲望を感じた。
でも僕はしっかりと目を閉じてそれに耐えた。
井戸の異界への通路に 「壁抜け」
壁を抜けて現実の世界と異界を行ったり来たりできる
能力がトオルに付与された 性的な描写が入ってくる
現実の世界と異界の境界を通り抜ける決定的な瞬間に性的イメージ
謎の女の「名前」を探す物語
スティグマ(聖痕)
リアリズム的な小説の基盤の上にファンタジー的な要素が強く存在
ラテンアメリカ文学 「マジックリアリズム」
村上春樹をマジックリアリズムに捉えて愛読する読者は海外に多い
このような結果をもたらしたものの存在を、私は強く憎みます。
お願いだから、私のことはこれ以上気にかけないでください。
私の行方を探したりもしないでください。
良いニュースというのは、多くの場合小さな声で語られるのです。
そのときに僕は幻影を見たのだ。あるいは啓示のようなものを。
僕は何かを見逃している。彼女は僕がよく知っているはずの
誰かなのだ。それから何かがさっと裏返るみたいに、
僕はすべてを理解する。間違いない。あの女はクミコだったのだ。
クミコはあの暗黒の部屋の中に閉じこめられ、そこから
救(たす)け出されることを求めていた。
どれだけの時間がかかることになるのかはわからない。
どれだけの力が必要とされるのかわからない。
でも僕は踏みとどまらなくてはならない。
そしてその世界に向けて手を伸ばすための
手だてをみつけなくてはならない。
静かに訪れる「啓示」
ミルチャ・エリアーデ(1907~1986)
ルーマニア出身の宗教学者
すべての宗教的体験の基本は「ヒエロファニー」
ヒエロファニー=聖なるものの顕現(けんげん)
村上春樹は最初は小説をここで終わらせようと考えていた
約2年胃痛と共に春を生く
春の夜や胃痛を止める手立てなし
春惜しむ品切れ多しまた値上げ
■100分de名著 村上春樹❝ねじまき鳥クロニクル❞②大切な存在の喪失
沼野充義 伊集院光 阿部みちこ
間宮中尉をバスの停留所まで見送ったその日の夜、
クミコは家に帰ってこなかった。
猫のことの他に、何か私にお手伝い
できるようなことはございますでしょうか
僕が欲しいのはどんな小さなつまらないこと
でもいいから、具体的な事実なんです。
「電話を待つことです」それからもうひとつ、
そのうちに半分の月が何日か続くことになるでしょう
「半分の月?」と僕は言った。
「最初に君に会ったときから、私は君という人間に対して
何の希望も持っていなかった。
君という人間の中には、何かをきちんとなし遂げたり、
あるいは君自身をまともな人間に育てあげるような
前向きな要素というものがまるで見当たらなかった。
はっきり言ってしまえば、君の頭の中にあるのは、
ほとんどゴミや石ころみたいなものなんだよ。(略)」
「いいですか、僕はあなたが本当は
どういう人間かよく知っています。
僕はあなたのそのつるつるしたテレビ向き、世間向きの
仮面の下にあるもののことを、よく知っている。
そこにある秘密を知っている。
僕は詰まらない人間かもしれないが、少なくとも
サンドバックじゃない。生きた人間です。
叩かれれば叩きかえします。
そのことはちゃんと覚えておいた方がいいですよ」
綿矢ノボルは高学歴の経済学者 超エリート 弁舌も立つ
綿矢ノボルは弱い人に対して共感する能力がまったくない
「やれやれ」と言って引き下がるのではなく これから戦っていく
痛みと快感の中で、私の肉はどんどん大きく裂けていきました。
(略)
そのぱっくりとふたつに裂けた自分の肉の中から、
私がこれまでに見たことも触れたこともなかった何かが、
かきわけるようにして抜け出してくるのを私は感じたのです。
(略)
でもそれはまるで生まれたての赤ん坊のようにぬるぬるしたものでした。
「ねじまき鳥クロニクル」第2部 13加納クレタの話の続き
デイヴィッド・リンチ的なものを感じた
「イレイザーヘッド」(1977年)
父親となった青年が経験する超現実的ホラー
デイヴィッド・リンチ長編映画デビュー作
綿矢ノボルは人間の奥底に潜んでいる
得体のしれないものを引きずり出す
クミコの姉の死にも綿矢ノボルは関係していたらしい
クミコ自身も綿矢ノボルの影響下にあるかもしれない
綿矢ノボルの「悪」を描いた意図
権力を持つ男性が加害の自覚がなく女性を性的に傷つける
権力者の加害性 ポピュリズム的な政治
村上春樹訳 ティム・オブライエン
「虚言の国 アメリカ・ファンタスティカ」
その淡い闇には淡い闇なりの濃密な暗さがあった。
それはある場合には完全な暗黒よりもかえって
意味の深い闇を含んでいた。
そんな奇妙な含みを持った闇の中で、僕の記憶は
これまでにない強い力を身に帯びはじめていた。
さっきじっとクラゲを見ているうちに、私はふとこう思ったの。
わたしたちがこうして目にしている光景というのは、
世界のほんの一部にすぎないんだってね。
本当の世界はもっと暗くて、深いところにあるし、
その大半がクラゲみたいなもので占められているのよ。
「私が誰か別の人と浮気したとは思わない?
そういう可能性は考えない?」「考えないね」
「他の誰かと浮気したの?」と僕はふと気になって、
試しに尋ねてみた。クミコは笑って首を何度か横に振った。
「まさか。そんなことするわけがないでしょう。
でもね、正直に言うと、私にはときどきいろんなことが
わからなくなってくるのよ。私の中のどこかに、
何かちょっとしたものが潜んでいるような気がすることがあるの。
ちょうど空き巣が家の中に入ってきて、
そのまま押入れに隠れているみたいにね。
そしてそれがときどき外に出てきて、私自身のいろんな
順序やら倫理やらを乱すの。磁気が機械を狂わせるように」
井戸に下りて見つめるクミコの闇
地下の闇に広がる怖ろしいものに結びついていって
ノボルの心に潜む恐ろしいものを見つけていく
トオルは井戸の底に潜ってクミコが抱える闇を探っていく
「明かりはつけないでおいて」と女の声が僕に告げた。
それが誰の声なのかはすぐにわかった。僕に何度か
あの奇妙な電話をかけてきた謎の女の声だった。
「(略)いったい君は誰なんだ?」「いったい私は誰なのかしら?」
と女はおうむ返しに言った。でもその口調には揶揄の響きはなかった。
「オカダトルさん、私の名前をみつけてちょうだい。
いいえ、わざわざ見つける必要もないのよ。あなたは私の名前を
既にちゃんと知っているの。あなたはそれを思い出すだけでいいのよ。
あなたが私の名前をみつけることさえできれば、
私はここを出ていくことができる。(略)」
部屋の暗闇の中に廊下の光がさっと差し込むのとほとんど同時に、
僕らは壁の中に滑り込んだ。壁はまるで巨大なゼリーのように
冷たく、どろりとしていた。僕は壁を通り抜けているんだ。
僕はどこかからどこかに移るために、壁を通り抜けている。
女の舌が僕の口の中に入ってくるのが感じられた。
腰の奥に射精のだるい欲望を感じた。
でも僕はしっかりと目を閉じてそれに耐えた。
井戸の異界への通路に 「壁抜け」
壁を抜けて現実の世界と異界を行ったり来たりできる
能力がトオルに付与された 性的な描写が入ってくる
現実の世界と異界の境界を通り抜ける決定的な瞬間に性的イメージ
謎の女の「名前」を探す物語
スティグマ(聖痕)
リアリズム的な小説の基盤の上にファンタジー的な要素が強く存在
ラテンアメリカ文学 「マジックリアリズム」
村上春樹をマジックリアリズムに捉えて愛読する読者は海外に多い
このような結果をもたらしたものの存在を、私は強く憎みます。
お願いだから、私のことはこれ以上気にかけないでください。
私の行方を探したりもしないでください。
良いニュースというのは、多くの場合小さな声で語られるのです。
そのときに僕は幻影を見たのだ。あるいは啓示のようなものを。
僕は何かを見逃している。彼女は僕がよく知っているはずの
誰かなのだ。それから何かがさっと裏返るみたいに、
僕はすべてを理解する。間違いない。あの女はクミコだったのだ。
クミコはあの暗黒の部屋の中に閉じこめられ、そこから
救(たす)け出されることを求めていた。
どれだけの時間がかかることになるのかはわからない。
どれだけの力が必要とされるのかわからない。
でも僕は踏みとどまらなくてはならない。
そしてその世界に向けて手を伸ばすための
手だてをみつけなくてはならない。
静かに訪れる「啓示」
ミルチャ・エリアーデ(1907~1986)
ルーマニア出身の宗教学者
すべての宗教的体験の基本は「ヒエロファニー」
ヒエロファニー=聖なるものの顕現(けんげん)
村上春樹は最初は小説をここで終わらせようと考えていた
0 件のコメント:
コメントを投稿