2025年4月16日水曜日

100分de名著 村上春樹 ねじまき鳥クロニクル①

早春を早緑纏い歩く母
山肌を走る炎や春の山
塩塚の炎の帯の暴走よ
迫り来る野焼きの熱よ春の風
頑なな思いと共に朧月

■100分de名著 村上春樹 ねじまき鳥クロニクル①
日常のすぐ隣にある闇
沼野充義(ロシア・東欧文学研究者) 伊集院光 阿部みちこ

アメリカ ヨーロッパ 中国 韓国 ロシアでも大人気
世界的現象 日本らしいファンタスティックなフレーバー
ブレンドが絶妙の作家 

村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」
8作目の長編小説 1991年~95年アメリカ滞在中に執筆
短編から大長編へ「ねじまき鳥と火曜日の女たち」(1986年)発展
構成
1994年4月刊行 第Ⅰ部 泥棒かささぎ編 ロッシーニの歌劇
         第2部 予言する鳥編 シューマンのピアノ曲
1995年8月刊行 第3部 鳥刺し男編 モーツァルト「魔笛」に登場

主人公岡田亨(トオル) 妻クミコ 綿矢昇(妻の兄) ワタヤ・ノボル(猫)

台所でスパゲティーをゆでているときに、電話がかかってきた。
僕はFM放送にあわせてロッシーニの
「泥棒かささぎ」の序曲を口笛で吹いていた。
スパゲティーをゆでるにはまずうってつけの音楽だった。
「十分間、時間が欲しいの」、唐突に女が言った。
僕は人の音声(こわいろ)の記憶にはかなり自信を持っている。
それは知らない声だった。「失礼ですが、どちらにおかけですか❓」
と僕は礼儀正しく尋ねてみた。「あなたにかけているのよ。
十分だけでいいから時間をほしいの。そうすればお互いよくわかりあう
ことができるわ」と女は言った。「わかりあえる?」
私は青いティッシュペーパーと、柄のついたトイレットペーパーが
嫌いなの。知らなかった?「それからもうひとつ 
ついでに言わせてもらえるなら」と彼女は言った。
「私は牛肉とピーマンんを一緒に炒めるのが大嫌いなの。
それは知ってた?」「知らなかった」あなたは私と一緒に
暮していても、本当は私のことなんか ほとんど気にとめても
いなかったんじゃないの?やれやれ、と僕は思った。
いったいどうなっているんだ。たかがティッシュペーパーと
トイレットペーパーとピーマンじゃないか。

日本の小説を変えた!村上春樹の文体 ポップな感覚
アメリカ現代小説の影響 カート・ヴォネガット
リチャード・ブローティガン 軽快 理知的 ユーモア アイロニー
当時は革命的だった 村上春樹の文体を追いかけて世の中が動いてきた
「やれやれ」村上文学の決まり文句
ものごとに直接向かっていくのではなく ちょっと引いて見る構え
デタッチメント(超然とした態度 無関心)

16歳の少女 笠原メイ
「人が死ぬのって、素敵よね」
「そういうのをメスで切り開いてみたいって思うの」
「あなたの名前はなんていうの。名前がわかんないと、呼びにくいから」
「オカダ・トオル」と僕は言った。
「あまりぱっとしない名前じゃない、それ?」(中略)
「ない」と僕は答えた。
「たとえばクマさんとか、蛙くんとか?」「ない」
「やれやれ」と彼女は言った。「何かひとつ考えてよ」
「ねじまき鳥」と僕は言った。「なあに、それ?」
「ねじを巻く鳥だよ」と僕は言った。
「毎朝木の上で世界のねじを巻くんだ。ギイイイイイって」
「ねじまき鳥さん」と呼ぶようになります。
こんなところに、こんな昼間に、こんな深い暗闇がある、と僕は思った。(中略)
咳払いは暗闇の中で、誰かべつの人間の咳払いのように響いた。

トオルを井戸に導く笠原メイ

「風の歌を聴け」(1979年デビュー作)
「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか。」
「ねじまき鳥クロニクル」は井戸のモチーフが大きく発展
非常に大きな役割を果たす

ねじまき鳥はその辺の木の枝にとまって 
ちょっとずつ世界のねじを巻くんだ。
ぎりぎりという音を立ててねじを巻くんだよ。
ねじまき鳥がねじを巻かないと、世界が動かないんだ。
「ねじまき鳥クリニクル」第2部

世界が回っているのは不思議な力を持つねじまき鳥のおかげかもしれない
鳥の鳴き声が予言的な意味を持つ という神話が世界にある
神話的イメージ あだ名として「ねじまき鳥」を自分につける
小説の中で象徴的なこと

加納クレタ(妹) 加納マルタ(姉) 笠原メイ 
岡田トオル クミコ 綿矢ノボル 間宮中尉 本田さん(占い師)

兵隊たちは手と膝で山本の体を押さえつけ、将校がナイフを使って
皮を丁寧に剥いでいきました。本当に、彼は桃の皮でも剥ぐように、
山本の皮を剥いでいきました。彼は両方の脚の皮を剥ぎ、
性器と睾丸を切り取り、耳を削ぎ落としました。
それから頭の皮を剥ぎ、顔を剥ぎ、やがて全部削いでしまいました。
あとには、皮をすっかりはぎ取られ、赤い血だらけの肉のかたまりに
なってしまった山本の死体が、ころんと転がっているだけでした。

間宮中尉
私はその光の中でぼろぼろ涙を流しました。
この見事な光の至福の中でなら死んでもいいと思いました。
いや、死にたいとさえ私は思いました。
そこにあるのは、今何かが ここで見事にひとつになったという感覚でした。
そうだ、人生の真の意義とはこの数十秒かだけ続く光の中に存在するのだ、
ここで自分はこのまま死んでしまうべきなのだと私は思いました。(中略)
そのようにして私の恩寵(おんちょう)は失われてしまったのです

「井戸」がつなぐ現代の東京と戦中のノモンハン

村上春樹氏は客員研究員として招かれた
プリンストン大学でノモンハン事件の資料と出会う

それらのことは、ずっと昔に遠くで起こった我々とは無関係な出来事じゃない
「メイキング・オブ・『ねじまき鳥クロニクル』」より

主人公の岡田トオルが東京の井戸で特別な体験をしていくことにつながる

日常的なもの
ホラー・オカルト・ファンタジー
「羊をめぐる冒険」(1982年)3作目の長編小説
歴史的なもの

総合小説
「カラマーゾフの兄弟」も念頭に置いていた
村上の書いた作品の中では「ねじまき鳥クロニクル」は一番凄い作品である

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