秋の空鍛錬を積む空手女子
竹の春猫に似た虎描ききる
梅早し夕陽を隠す香りかな(下村観山)
目の見えぬ女に見える梅の花(下村観山)
何事も生々流転秋の声
■100分de名著 オルダス・ハクスリー❝すばらしい新世界❞④
自発的に隷従する人たち
堤未果 伊集院光 阿部みちこ
ジョン リンダ バーナード ヘルムホルツ
リンダは奴隷だった。リンダは死んだ。だが、ほかの人間たちは
自由に生きるべきだ。世界は美しくあるべきだ。
それが償いになる。それが義務だ。
ふいにジョンは何をなすべきかをはっきり悟った。
日除け窓が開け放たれ、カーテンが開かれたような気分だった。
「やめろ!」ジョンはよく通る大きな声で言った。「やめるんだ!」
「その恐ろしいものを飲んじゃいけない。それは毒だ。毒なんだ」
「きみたちは奴隷でいたいのか」ふたりが病院へ入っていくと、
ジョンはそう説いていた。
「きみたちは自由な、人間らしい人間になりたくないのか。
人間らしさとはどういうものなのか、自由とは何か、わからないのか」
「わからないのか」もう一度くり返したが応答はなかった。
「それじゃあ教えてやる。望んでいようといまいと、
きみたちを自由にしてやる」
「殺されるぞ。あの連中に…」(略)
「フォード様、あの男をお助けください!」バーナードは目をそむけた。
「“フォード様はみずから助くる者を助く”」ヘルムソルトはそう言うと
嬉しそうに笑い、群衆の中を押し進みはじめた。
叫ぶあいまに開いたドアから“毒薬”ひとつかみずつ投げた。
やがてソーマはなくなった。(略)
「きみたちは自由だあっ!」
バーナードは警官隊の方へ駆けていった。(略)
「助けて!」と何度か叫んだ。叫ぶたびに声を大きくして、
ふたりを助けているのだという幻想を持った。
「すばらしい新世界」黒原敏行訳より
ソーマを投げ捨てたジョン
ここでのキーワードは 自由と幸せ 管理
バーナードのヘタレっぷり
ムスタファ・モンド(世界統制官 世界に10人いる統一国家の最高管理職)
バーナード ヘルムホルツ ジョン
「きみはあまり文明が好きではないようだね、ミスター野蛮人(サヴェッジ)」
ジョンは世界統制官を見た。最初は嘘をついたり、怒鳴ったり、
不機嫌に黙って答えなかったりするつもりだったが、相手の知的で
気さくな表情を見て、本音をずばり話すことにした。
「ええ、好きじゃありません」とうなずきながら答えた。
ムスタファ
「(略)古いんだよ。だいいち、みんなには理解できない」
「われわれの世界は『オセロー』の世界と同じではないからだ。
鉄なしで自動車が作れないように、社会的不安なしに悲劇は
作れないんだ。今の世界は安定している。みんなは幸福だ。
欲しいものは手に入る。手に入らないものは欲しがらない。
みんなは豊かだ。安全だ。病気にもならない。死を恐がらない。
幸せなことに激しい感情も知らなければ老いも知らない。(略)」
「それでも『オセロー』は優れた作品です。
あの触感(フィーリー)映画なんかよりいいものです」
「いや、あれはあれなりに意味があるよ。
みんなを気持ちよくしてくれる」
「でもあれは…”白痴のしゃべる物語だ”」
「じっさい白痴的です。
何も言いたいことがないのに書いてあるわけで…」
「まさにそのとおり」とムスタファ・モンド。
「しかしそのためには非常な創意工夫が必要なんだ。
安価な自動車は最小限の鋼鉄でつくるーきみも純粋な
感覚以外の何も素材にせず作品をつくる」
周りで炭疽菌爆弾が炸裂しているとき、
真理や美や知識になんの意味があるうか。
「快適さなんか欲しくない。欲しいのは神です。詩です。
本物の危険です。自由です。美徳です。そして罪悪です」
「要するにきみは」とムスタファ・モンドは言った。
「不幸になる権利を要求しているわけだ」
「ああ、それでけっこう」ジョンは挑むように言った。
理知的!ムスタファ・モンド(元々は優秀な物理学者だった)
「本当のこと知らないほうが幸せだよね」
「むーちうち!むーちうち!」と一部のグループが声を合わせて叫びだす。
ほかの者たちもすぐに参加した。掛け声はオウムが喋るように
何度もくり返され、七回目か八回目でほかの言葉はどの口からも
出なくなった。「むーちうち!」
その若い女を見て、ジョンはぎくりとしてひるみ、顔を青ざめさせた。
「売女(ばいた)め!」女を打ち、自らも打った。
ジョンは翌日命を断ってしまうのです。
これが物語の最後。
15年後、書き直すならこのラストにはしなかった byハクスリー
「すばらしい新世界」著者による新版への前書き(1946)
今この小説を書き直すとすれば、わたしは野蛮人ジョンに
第三の選択肢を与えるだろう。相容れないユートピアと
原始社会のあいだに、正気の道の可能性を提示するのである。
幸福をひとりひとりが追及する 全員の幸せも 地域のことも考える
「すばらしい新世界」著者による新版への前書き(1946)
人生の諸問題においてまず問われ、答えなければならないのは、
“その考えや行動は、わたしを含む最大多数の人たちが
人間の「最終目標」を実現しようとしているときに
どのような貢献または妨害をするか“ということなのだ。
「島」(1962)
ハクスリー最後の小説 ユートピアの島を描いた
「永遠の哲学」(1945)
「知覚の扉」(1954)
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