美しく老いを重ねる帰雁かな
切り型や主の手癖覚えけり
冬の景荒れ狂いをり海の音
冬が来し年を重ねん誕生日
紅葉踏む青空仰ぎ誕生日
■あの本、読みました?伊坂幸太郎デビュー25周年記念スペシャル
鈴木保奈美 山本倖千恵 林祐輔P
斉藤和義 朝井リョウ 中村義洋
新井久幸 藤吉亮平 小串環奈 君和田麻子 河合健介
「楽園の楽園」の帯
「人はどんなものにも 物語があると思い込む。きっとあなたもそのひとり。」
「楽園の楽園」の一文 伊坂幸太郎著/中央公論新社
「だから人間は、どんなものにも理由があって、どんなものにも
ストーリーがあると思い込んでいるわけ」
「ストーリー?」
「ストーリーは因果関係の宝庫だから。ウケるよね」
「別にウケない」
「『あんなことやったから、バチがあたった』
『人に親切にしたら、思わぬ幸せを手に入れることができた』
『強い魔法を手に入れたから、恐ろしい敵を撃退した』とか、
ストーリーにはそういう話がたくさん詰まっている。
『あの人とあの人が対立するのは、遠い昔からの因縁のせいだよ』とか、
そういった因果関係を脳は喜ぶの。
人間の頭は、動く記号を見ているだけで、ストーリーをでっちあげる、
という話を知ってる?
三角形や逆三角形が動いていれば、それにストーリーを重ね合わせちゃうんだって。
ウケるよね」
「別にウケない」
「人間の脳は、どんなものにも意味があると思い込んでいる。
だからこそ、脳が発達したんだと思うよ。とりわけ、
理不尽な目に遭った時に、理由を欲しがって、勝手にストーリーを
でっちあげることまでやっちゃうんだから。
結果には理由があるはずだ、ストーリーがあるはずだ、って信じてる。
アダムとイブの原罪も同じだよ」
「重力ピエロ」の一文 伊坂幸太郎著/新潮文庫
「どんな事柄にも意味があると思うのは、人間の悪い癖だよ。
原因を探そうとするんだ。」
作家・朝井リョウが気付いた魅力
伊坂さんはその場で一番弱きものの見方をする
「マイクロスパイ・アンサンブル」の一文 伊坂幸太郎/幻冬舎文庫
そして、だ。僕はとっさに、頭に浮かんだ言葉を口に出していた。
「あの、どこ部屋ですか?」相撲取りと重ねあわせた冗談だ。
おそらく、気の利いたことを言って自分の価値を上げたかったのだろう。
(中略)
「いやあ、稽古がつらくて、逃げ出したんですよ。
って何で相撲取り前提なんですか。どすこい」
と続け、そこでみなが爆笑した。
場は盛り上がったが、その後の僕はつらかった。
どう考えても、僕の発言は良くなかった。
いや、はっきり認めるが最低の部類だった。
一人になるとその時のことが思い出され、自己嫌悪に襲われる。
軽蔑する人間とは付き合わなければいいが、
自分とは疎遠になることはできない。ああ、なかったことにしたい。
ミュージシャン・斉藤和義が語る魅力
ベリーベリーストロング~アイネクライネ~
作詞 斉藤和義 伊坂幸太郎
駅前でアンケート調査 なんで俺ばっかこんな目に
バインダーなんか首から下げ 誰からも目をそらされ
見ず知らずの奴になんか 教えるもんかよ個人情報
もう空は薄い藍色 改札超えたら何色?
まるで進まないアンケート 自信喪失へこんじゃうよ
そんなふうにさげないで
ベリーベリーストロング いつか誰かが言ってた
「重力ピエロ」の一文 伊坂幸太郎著/新潮文庫
「この演奏しているのが盲目だと聞いて、
僕には納得が行ったよ」父が笑った。
「この楽しさはそういう人間だから出せるんだ」「そういう人間?」
「目に見えるものが一番大事だと思っているやつに、
こういうのは作れない」
父の言わんとすることは、薄(うっす)らとではあったが、分かった。
(中略)
「小賢しさの欠片もない」私は呟く。
「この演奏者はきっと、心底ジャズが好きなんだ。音楽が」
父がうなずく。
「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」
春は、誰に言うわけでもなさそうで、噛み締めるように言った。
「重いものを背負いながら、タップを踏むように」
それは詩のようにも聞こえ、「ピエロが空中ブランコから飛ぶ時、
みんな重力の事を忘れているんだ」
と続ける彼の言葉はさらに、印象的だった。
伊坂さんの言葉「泣けないけども良い小説を書きたい…」
映画監督・中村義洋が語る!伊坂幸太郎
「パズルと天気」の一文 伊坂幸太郎著/PHP研究所
「雷雅さんなら誰とでもうまくやっていけそうだけど」
「そんなことないよ。もともと僕は神経質で
人に気を使ってばかりだったんだ。
だけど美花さんが、『あなたは、相手の求めるパズルのピースに
ならないといけない、と思っているのでは?』と言ってきたんだよね」
「はあ、パズルですか」ぴったり当てはまることなんて
あるわけないんだから、大体でいいんですよ、大体で。
ちょっとくらい折り曲げたり、はみ出したりするくらいで
付き合っていくのがいい。相手についても同じ。
自分の理想にぴったり合致するような言動をしてくれる人なんて
いないんだから。ぴったりじゃなくても、大雑把にはめこんだら
パズル完成、くらいに思っていたほうがいいかも。
最新刊「さよならジャバウォック」の一文 伊坂幸太郎著/双葉社
「プログラムだよ。桂さんが言ってた。ヒトだけじゃなく、
ありとあらゆる生き物、動植物にはプログラムがある。
本能と言ってもいい。競い合って、繫栄するためのプログラムだ」
「敵は倒せ、敵には親切にするな、って書いてあるの?
そのプログラムには」
「俺もね、量子さんと同じようなことを桂さんにぶつけたんだ。
いったいどういうプログラムなんですか、って」
敵をやっつけろ、なんて分かりやすいものではないはずです、と
桂凍朗は言ったという。
フランスの思想家はこう言いました。
人間の最も強い欲望の一つは、
「今より落ちぶれたくないという欲求」だ、と。
人間はお金を無駄にすることはあっても、
地位を捨てることは稀だ、とも。
伊坂幸太郎氏より皆さまへ
デビュー作は西暦2000年12月に出ました。
つまり20世紀の最後です。
担当編集者の新井さんは「20世紀の終わりに
『ミステリーの新世紀を告げる』という
宣伝コメントをつけられてよかったです」と
嬉しそうで、僕もまだ若かったので
「新しい時代を作る作家になるぞ」
「この本が出たら、世界が大変なことに
なるぞ」と勇ましいことを思っていました。
ただ、もちろんそんなに甘くはなく、
本はそれほど売れたわけでもなく、
世界もぜんぜん大変なことにはなりませんでした。
ただ、それでも「面白い」と感じてくれる
読者や編集者、書店員のおかげで
25年やってこられて、
本当にありがたいです。
年を重ねて、勇ましさはほぼないですが、
まだアイディアはあるので
がんばりたいです!